第二百八十九話 vsオナミス帝国、十一
今回はルルンがメインになります!
もしかするとルルンがメンバーの中で一番成長しているかもしれません(笑)
では第二百八十九話です!
時を同じくしてエリアと同じ場所で戦ってるルルンはというと。
かつて自分を追いつめていた勇者を相手取りながら高速でレイピアを振るっていた。その攻撃は全てが正確で、攻撃精度だけならばハクと同等かそれ以上の領域に足を踏み入れている。
その攻撃を受けている勇者はエルヴィニアで里の正面から侵入しようとした者で、キラが予め仕掛けておいた根源によって打ち倒されている。さらにその性格は可愛い女性を見かけると声をかけてしまう性質で同じ勇者たちであっても手をこまねいている人間だった。
しかし今はそんな余裕など与えないほどの攻撃が勇者に放たれていた。
「うん?どうしたのかな?エルヴィニアで見た君の威勢はこんなものじゃなかったはずだけど?」
「チッ!可愛い顔してるから手を抜いていやってるのに、いい気になるんじゃねえ!」
「へえ、でもその割にはすごく焦っているね?」
ルルンはそう言うと、体を回転させながら舞踏姫特有のステップを刻んでいくと、勇者の体に合計十発の突き技を放っていく。それは学園王国で開かれた競技祭でハクの動きを真似て使用したものだが、今回のそれはさらにスピードが上がっており勇者といえど反応できずに攻撃をくらってしまう。
「く、くそが!攻撃が細かいんだよ!」
その勇者は必死に大剣を振り回してその動きに順応しようとするが、常にルルンが先を行っているので対処することができない。レイピアは片手剣や大剣のように重たい攻撃を受けるような武器ではないが、それをかなぐり捨てることで圧倒的なスピードを得ている。それはいくらリーチで勝っている大剣であろうとそう簡単に追い付くことはできないのだ。
ルルンはエリアやアリエスのように魔術や魔法をあまり得意としていない。エルフの名に恥じないレベルくらいは使用することが出来るのだが、それでもアリエスたちの超高火力の一撃を見てしまうとどうしても霞んでしまう。
ゆえにルルンはこの場においても長年付き添ってきたお気に入りのレイピアを選択したのだ。
「さあ、早く使ったらどうだい?屈折境界だっけ?あれを使えば私に攻撃を食らわせることができるかもよ?どうやら君のその力は他の勇者とは違って消費魔力も少ないようだし」
「うるせえ!そう簡単に安売りできる技じゃねえんだよ!」
その勇者はそう呟くと体を大きく回転させるように大剣を振り回すと無理矢理ルルンとの距離をとり息を整えた。
するとその場所から大剣を大きく地面に叩きつけ強力な斬撃をルルンに向けて放ってくる。
「おっと」
しかしルルンはそれを履いているブーツの踵を打ち付けるように見事なステップでかわすと、さらに続けて打ち出される攻撃を全てレイピアを振るわずに回避していく。
「おらおらおらおら!逃げてんじゃねえ!正々堂々と戦いやがれ!!!」
ルルンはその言葉を聞いた瞬間、一瞬だけ目を大きく見開き軽く下を俯くと放たれてきた斬撃を空いている左手をかざすことで防御する。しかしそれはルルンの左腕から大量の血を噴出させ大きなダメージになってしまう。
だがそれでもルルンはビクともせずゆっくりと顔を上げると、明らかに憎悪が滲んだ声を呟いていく。
「正々堂々?よくそんな言葉が言えるね。エルヴィニアを取り囲むようにやってきてエルフを拉致しようとしていた君たちが今さら正々堂々なんて言葉を口にするんじゃない!!!あの出来事で一体どれだけのエルフが悲しく辛い思いをしたと思ってる!君たちに悪意がなかったとしても過去はそう簡単に消えないんだよ!!!」
その声はいつものルルンらしくない強気な声で明確な殺気を滲ませていた。
エルヴィニアが勇者たちを引き連れてきた帝国軍に襲われた時、ハクという超破格のイレギュラーがいたからなんとかなったが、もしハクがその場に駆け付けられていなければ今頃ルルンは既に死んでいるし、同じ仲間であるエルフだって大量に帝国に連れて行かれていただろう。
ルルンはそれを許したわけではないし、そもそも許す気もない。だからこそルルンは一人で密かに自分の実力を高めてきた。学園王国にいるときはアリエスたちに気が付かれないように日課であったトレーニングに励み、ハクがいるときには積極的に模擬戦に付き合ってもらった。ゆえに今のルルンはいつも以上に真剣なのだ。
「な、何マジになってるんだよ………。あの時は結局被害が出なかったじゃねえか!それを蒸し返してるんじゃねえ!」
「…………被害ならでたよ。主に………あの場にいた全員が悲しんだ!!!」
ルルンはそう言うと血が噴き出している左腕を気づかうことなく右手に構えたレイピアを先程よりも高速に動かし攻撃を再開する。
一撃一撃がまるで岩石でもぶつけられているのかと錯覚してしまうほど重たい攻撃で、レイピアでは出せないほどの重量を帯びた剣撃が勇者に放たれる。それは大剣という大きな武器を持っている勇者の鎧をどんどん破壊していき、体の至る所に傷を作っていく。
「ぐっ!?がああああああああ!?」
「エルフのみんなが受けた痛みはこんなものじゃない!勇者君、君はあのエルヴィニアでの一件で私を怒らせたんだ!!!」
ついにルルンは今までこらえていた感情を爆発させて大きな声を上げる。
ルルンは仮にもあのエルヴィニアで五百年も生きてきたのだ。その場所がいくら帝国軍といえど侵略されて仲間を傷つけられたのだ。そう簡単に怒りが収まるはずがない。
するとここでようやく勇者がお得意の能力を発動してきた。
「てめえの勝手なんざ知ったことか!これで沈んどけ!屈折境界!!!」
その瞬間、ルルンの動きにすらついてこられなかった勇者の大剣が急に複数の件に化けたかと思うと大量の虚像をルルンの目に投影させながら迫ってきた。
しかしこれはシラとの作戦でも報告があり、すでに対策は考えてある。
「そんな技が私に通用すると思ってるの?私もその力を使えとは言ったけど、鵜呑みにしすぎだよ」
ルルンはそう呟くと、かつて自分の弟子に教えた舞踏姫オリジナルの剣技を放っていく。
「虚像剣、鬼」
それは瞬間的にレイピアが赤く光を帯びた姿に変化し屈折境界で投影された大剣を全て打ち払っていく。さらにその攻撃は鬼神のような殺気を全身から放出させており、ルルンの体を急激に加速させる。
そしてその攻撃は呆気なく勇者の体を穿っていく。
「ぎゃあああああああああああああ!?」
ルルンが使用した虚像剣はシーナが使用することができるものとはまた違う。技名にもある通りルルンが使用したのはその動きを鬼という存在に近づけたものだ。
鬼というのはこの世界において古代種の魔物より珍しいとされており、キラでさえ数回しか目撃したことがないと言われている魔物だ。しかしその代わりその力は絶大で噂によれば土地神とも同等に渡り合える力を持っているらしい。
また虚像剣は基本的に残像というよりはまったく違う別のものを空間に出現させることで可能にしている技なので、ルルンはこれを応用して自分の攻撃に鬼のオーラを纏わせて攻撃しているのだ。
それは人間が本来出すことのできる威圧を超えており、まさに鬼そのもののような雰囲気を醸し出すことができる。それゆえこの技を使用するたびにルルンはかつて冒険者ギルドで「鬼の舞踏姫」という別名も持っていたのだ。
しかし本人的には舞踏姫だけで気に入っているので、当時はその名で呼んだ冒険者に対して嫌悪の視線を送っていたらしい。
とまあ、その別名に命名されてしまうくらい強力なその技は勇者の体を切り裂き大量の血を噴出させた。
それは既にルルンの攻撃を受け続けてきたこともあり、かなり大きなダメージに繋がり勇者はその場に倒れ伏してしまう。
「君の屈折境界は確かに強力だけど、種が割れてしまえば攻略は難しくない。いくら虚像を相手に見せていても結局は相手に攻撃を当てなければ意味がないからね。それが私の虚像剣に惑わされているようじゃ、まだ君は私に勝てないよ」
ルルンはその勇者に近寄りながらそう呟くと、血の付いたレイピアをくるくると回し逆手に持ち替えて、勇者の首元に添える。
「降参するかな?だったら一応命だけは助けてあげるよ。殺しから生まれるものは何もないからね」
するとその瞬間、勇者はルルンの台詞に一瞬だけ微笑むとその姿を何重にもぼやかし、ルルンの焦点をずらしてくる。
「な!?」
それはおそらく屈折境界を大剣ではなく自分自身の体に使用した結果だろう。キラの報告には武器以外にその力を使用できるということは上がってなかったし、ルルンは完全に油断していた。
「馬鹿が!俺がこの程度でくたばるわけがねえだろ!!!」
勇者はルルンの脳天めがけて大剣を勢いよく振り下ろす。その剣にも屈折境界は働いているようで簡単には反撃できそうにない。
さらにルルンの虚像剣を使用するには時間が足りないし、そもそも回避できるタイミングではなかった。
レイピアは勇者の首に突きつけていたため地面に刺さっておりすぐには取り出すことは出来ない。
だがそれでもルルンは冷静だった。いくら不意を突かれようともルルンの表情は変わらなかった。例えそれが自分の身に危険が迫っていたとしても。
ルルンはその瞬間、勇者と同じく軽く微笑むと自分の奥の手を発動する文言を口から吐き出した。
「転移」
その瞬間、ルルンの体はレイピアごと勇者の前から消え去り跡形もなく消滅してしまう。
勇者は既に攻撃のモーションに入っているため自分でわかっていても攻撃を中断することは出来ず、思いっきり大剣を地面に打ち付けてしまう。
「ど、どこに行きやがった!?」
「ここだよ」
ルルンは今まで誰にも向けたことがないほど歪んだ笑顔を浮かべながら勇者の背後から声をかける。
その右手に握られていたレイピアは既に赤く光り輝いており、間違いなくルルンの攻撃が発動される寸前であった。
「悪いね、私はこれでもハクのパーティーメンバーなんだ。原理を理解するのに時間はかかったけれど今の私ならハク君の転移も多少は使えるんだよ?」
「くそがあああああああああ!」
勇者はそのルルンの意思に気が付くと既にその攻撃が避けられないことを悟り絶叫する。
そしてそんな勇者に対してルルンは静かに踏み出すと合計十連続、レイピアを打ち放った。
それは完全に勇者の体力と意識を奪い去り、勝利を引き寄せる。
ルルンはその姿を見届けると、大きく息を吐き額に浮かんでいる汗を右手でぬぐう。
「な、なんとかなったかな?まだ習得したばっかりだからさすがに転移はちょっときついね………」
ルルンの転移はハクから直々に教えられたものだ。初めてハクがルルンに対して転移を見せたときからルルンはその力に引かれており、ずっとハクに修練を頼み込んでいたのだ。結果的にそれは成功し、ハクほど簡単にではないがある程度物にすることが出来た。しかし消費魔力は大きいし、移動できる距離もまだまだ短いのでルルン自身は納得がいっていない。
とはいえ今回の戦いはその力のおかげで勝つことが出来たので、とりあえずルルンは心を落ち着かせるのだった。
「イタッ………。そういえば私、避けれる攻撃を腕で受けちゃったんだっけ。これはちょっと痕になっちゃうかもな………」
ルルンは先程の自分の行動に後悔しつつ苦笑を浮かべると、近くで空気を振動させるほど強力な力を放っているサシリの戦闘に目を向けていったのだった。
次回はついにイレギュラーの一角、サシリの戦いです!
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