第二百八十七話 vsオナミス帝国、九
今回はクビロの戦闘がメインとなります!
では第二百八十七話です!
シラとシルが戦闘を開始した直後、同じ場所にていつも小さくアリエスの髪の中に入っているクビロは、元の巨大な体に戻り自分の担当する勇者と対峙していた。
その勇者は一度エルヴィニア秘境にて戦っており顔も戦い方もある程度把握している。しかしその勇者から溢れ出ている力は以前よりも遥かに大きなものに変わっていた。
クビロはそんな勇者の目の前に立つと、自分の力を解放しながら冷めた声で話しかける。
『おぬしとはエルヴィニアの秘境以来じゃな。それなりに力をつけたようじゃが、いかほどかのう?』
するとその女勇者はクビロに対して憎悪を含んだ目でジッと睨みつけてきた。
「出たわね!陰険巨大毒蛇!私はあなたにされたこと忘れてないわよ!」
『陰険でもないし、毒ももっておらんのじゃが、どちらかと言えばこちらがエルヴィニアでの鬱憤を晴らしたいところじゃ。おぬしらがエルヴィニアでエルフたちにしてきたことを忘れたとは言わせんぞ?』
クビロはそう言いながら土地神に相応しい圧倒的な殺気を迸らせていく。以前ならばこの殺気を受けた時点で勇者は震え上がっていたのだが、どうやらある程度肝も据わったようで今は冷や汗どころか表情も硬くはない。
『ふん!あれは私たちだって帝国の命令で動いていたんだからしょうがないじゃない。そんな私たちに暴力を振るってきたあなた達の方が危険で陰湿よ!』
実際、命令されたからと言ってその事実が消えることはないし、正当化されることはないのだが、どうやらこの勇者は自分の言っていることが常に正しいと考える思考パターンもっている人間のようで話をいくらしても納得はしそうにない。
そう理解したクビロは大きくなった体でため息を吐きだすと、会話の必要性はないと判断し戦闘態勢に入る。
『ならばそれをわしに勝って証明してみせるといい。力なき者に思想を語る権利はないぞ?』
「言われなくてもそうするわよ!」
するとその勇者は自らが腰にさしていた剣を勢いよく抜き放ち攻撃を開始する。その動きはやはり以前よりも洗礼されておりスピードも格段に上がっていた。
勇者はクビロの黒く輝く体の横に接近すると、そのまま全力でその剣を振り下ろす。
「だああああああああ!!!」
『むん!』
しかしクビロはその攻撃を回避するように体をくねらせ尻尾を上手く使い、勇者めがけて打ち放った。
それは間違いなく勇者の攻撃と拮抗するはずだったのだが、何故だが勇者その攻撃は体格差を覆しクビロの尻尾を大きく弾き飛ばした。
『なに!?』
「甘いのよ!私だってこの数か月間何もしてこなかったわけじゃないんだから!」
驚いているクビロに対してその勇者は体の流れを止めずに、綺麗な剣線を描きながらクビロの体を傷つけていく。大きな体を持っているクビロにとって人間との戦いというのは死角に入られてしまうと、なかなか面倒なことになってしまうのだ。
というのもいくら戦いの中で気配を探りながら戦っていてもハクの気配探知のような正確な位置情報は読み取れない。するとクビロは体の大きさゆえ必然的にその体が邪魔になって相手の動きを読み取ることができなくなるのだ。
今までは基本的に力技でどうにかなる相手が多かったからいいものの、今回のように人間のサイズでそれもそこそこ強力な相手と戦う場合にはどうしても動きが遅くなってしまう。
だが同時にそれはメリットとして働くこともある。
『ぐっ。確かにおぬしも強くなっているようじゃが、その程度でわしが攻略されているなら今頃土地神などとは言われておらんのじゃ!』
クビロはそう呟くと大きな体を渦を巻くように動かし勇者が立っている地面を包囲する形で取り囲む。そしてそのままその中央に行き場をなくして佇んでいる勇者を巻き上げた。
「きゃあ!?」
『ほれ、巨大な体でも使いようによってはこのようなことも出来るのじゃぞ?』
そしてクビロはその捕まえた女勇者に向かって影の城を発動し、無数の影の触手を高質化させ、それを全て勇者に打ち放った。
だがここでまたしてもクビロの体は勇者のよくわからない力によって弾き飛ばされてしまう。
「だから、私を舐めるんじゃないわよ!」
『ば、馬鹿な!?』
全身に流れている力を込めてクビロは勇者を拘束していたのだが、それは何故か内側から引き裂かれるように脱出されてしまった。
だがそれは同時にクビロの中でその原因を解明するヒントを与えてしまう。
(むう、あの力どこかで感じたことがあると思えば、エルヴィニアで使用していた障壁と同じ波長じゃな。ということはまさか………)
『もしやおぬし、あの大きな障壁をコントロールして自らの体に纏わせておるのか?』
「ようやく気が付いたの?確かに私は天界壁を自分の体を覆うように薄く展開している。でもそれがわかったところで簡単に攻略できると思わないことね!」
勇者は勝利を確信したような笑みをクビロに向けながら攻撃を仕掛けてくる。どうやら普段ならば攻撃をはじき返す目的で使用されるはずの天界壁は何故かその勇者の動きも加速させており、まるでハクの気配創造のような働きを実現していた。
(主の気配創造ほど強力なものではないが、防御だけでなく攻撃にも転換させられるというのは少し厄介じゃな。ならばわしもそろそろ本腰をいれるかのう)
クビロは心の中でそのような発想に思い至ると影の城を先程よりも出力を上げて発動すると、そのまま黒い影の球体を作り出しそれを勢いよく投げつけていく。
「そんな攻撃効かないんだから!」
勇者は依然として笑みを崩さずその球体をどんどん切り裂いていくが、その中に紛れこんでいた魔力の帯びた球体を両断してしまう。
するとそれは勇者の剣が触れた瞬間、黒い煙幕を放ちながら爆発し勇者の視界を完全にふさいだ。
「ケホ、ケホ。な、なに、これ………。体が動かない………」
そんな勇者の反応を確認したクビロはすぐさまその背後に忍び寄り、影の刃を無数に連続して勇者に放っていく。
『自分の実力を信じるというのは悪くないが、それでも周囲には警戒せんと命取りになってしまうぞ?』
「きゃあああああああああああああ!?」
クビロは今の煙幕の中に強力な神経麻痺毒系の魔術を仕込んでおいたのだ。それはいかに勇者であろうとも抵抗できるものではなく、ハクであってもまともに直撃すればそれなりの隙を作ってしまうほどだ。
元々神経麻痺毒系の魔術は闇魔術に分類させ、幸いなことにクビロの力である影の城の色と発動色がよく似ている。そのためクビロはその点を利用して勇者の体を物理的ではなく魔術による間接的な方法で拘束したのだ。
見るとその勇者はクビロの力を直撃したことによって至る所から血を流し、鎧もほぼすべての個所がひび割れてきている。
しかしその意識と力だけはまだ健在のようでよろよろと立ち上げると、傷口を抑えながらクビロに言葉を発してくる。
「な、なんてせこい真似をしてくるのよ………。魔術による拘束なんて卑怯じゃない!あなたはその気味の悪い影の力しか使えないんじゃなかったの!?」
『誰が魔術を使えないと言ったのじゃ?魔物であっても魔術を使用できるものは大勢いる。ましてその中でも土地神と呼ばれておるわしがこの程度の魔術を使えんはずがなかろう』
魔物のであってもそれなりの知能を持っている者は人間の魔術を取得して使用することが出来る。その中でも人間と会話できるレベルになってくると魔術だけでなく魔法まで使うことが出来る魔物まで現れているのだ。
そんな中でその頂点に君臨するクビロが魔術を使用できないなんて道理は通用しない。
クビロはそんなボロボロな勇者を見つめながらまだ余力を残しつつ挑発するような言葉を発していく。
『勇者と呼ばれ、多少の修練は積んだかもしれないが所詮は赤子のお遊びのようなものじゃ。戦略的発想すらなくわしに挑んでくるというのは無謀にも程がある。本気でわしに勝ちたいのならば死に物狂いでかかってくるのじゃな』
するとそんな言葉を聞いていた勇者は、肩をわなわなと震わせながら剣を力強く握りしめ、クビロに完全な憎しみを帯びた視線をぶつけるとそのまま今まで以上に速い動きで攻撃を再開した。
「いい加減、その上から目線な発言は聞き飽きたわ!!!今すぐ殺してあげる!」
その勇者はクビロの死角に回り込み、剣を振るっていく。それはクビロの体を大きくえぐるような攻撃でいくら分厚い鱗に覆われているクビロであってもかなりのダメージが飛んできていた。
『わしもおぬしのようなちょこまかと動き回る相手はもう沢山じゃ。一気に蹴りをつけさせてもらおう』
クビロは再び体を回転させ勇者の体を吹き飛ばし、一度大きく距離を取ると今までハクに対しても使用したことがない自身の最強技をその勇者に向かって打ち放った。
『影の荒天球!!!』
それはクビロが扱うことが出来る影を上空に集めていき、巨大な黒い球体を作り出すとなぜか全てを吸い込むような引力が生まれ周囲の風を巻き取っていく。
だがそれはそんな姿をしておりながら徐々に勇者に対して落ちてきており、まるで物理法則を全て引き裂くような攻撃になっていた。
勇者はその力を目撃すると、今度は冷や汗を滲ませながら自身の体を覆っている力を全て解除し全力であの光輝く障壁を展開する。
「天界壁!!!」
その両者は勢いよく空中で激突し莫大すぎる力の渦を作り出した。どうやら勇者も障壁もその力自体が上昇していることもあってクビロの攻撃に対して拮抗するような動きを見せている。
しかしクビロの力も負けてはおらず、徐々にではあるが天界壁を落ち潰していっていた。
「ぐっ………。あ、相変わらず、とんでもない力ね………。で、でも今の私ならこんな攻撃いくらでもはじき返せるんだから………!」
『…………』
女勇者は力強くそう叫びながら自分の体に流れている力を全て放出し、クビロの攻撃を迎え撃っていく。
しかしそんな勇者とは対照的にクビロはジッと視線を勇者に集め身動き一つせずに佇んでいた。
そしてついに勇者の天界壁はその障壁とともにクビロの一撃を打ち砕き、空間を圧縮するような風を周囲にまき散らした。その風は二人が立っている地面を中心にその大地を破壊し瓦礫を空中に巻き上げていく。
勇者は息を荒げながらもその結界に満足しているようで、顔に再び笑みを浮かべるとクビロに向かって剣を構えて走り出す。
「こ、これであなたの攻撃は全て見切ったわ!私の勝ちよ!」
しかしその瞬間、その勇者の腹を穿つように鈍い衝撃が体に走る。
「な!?が、がは………。こ、これは………」
『今この攻撃がわしの全力だと思っている時点でおぬしの負けは変わらんよ。そもそも影を使えるわしにとって不意を突いた攻撃など朝飯前じゃ。おぬしら勇者全員にいえることじゃが、油断、慢心、それらを戦いに持ち込んでいる以上、おぬしらに勝利はない。精々地面に這いつくばっているといい』
クビロが勇者に対して放った攻撃は以前ハクと戦った時に不意を突いて勝負を終わらせようとした技だ。あの時はハクの驚異的な回復力によって再起されてしまったが、そのような力を持っていない限り一度この技をくらってしまえば間違いなく致命傷となる。
現に勇者は自分の腹に大きな風穴を開けながら口をパクパクさせて倒れてしまっていた。
影の力を操れるということは常に相手の足元にできる影すらも支配対象になるということだ。それは不意を突く最強の一撃となり相手を穿つ。
それに気が付けなかった勇者はそもそもどれだけ足掻いてもクビロには敵わなかったということだ。
すると、そんな勇者の体が急に光始めどんどんと薄くなっていく。そして空中に浮きあがるように光の粒子に変わってしまうと完全に気配ごと姿を消してしまった。
クビロは当然、その光景を不思議に思ったのだが、近くで戦っていたシラとシルが既に戦いを終えていることに気が付くと、その二人の下に駆け寄っていく。
どうやら最後まで残っているキラの戦闘もそろそろ終わりが見えてきているようで、クビロはそんな光景を見ながら勝利の余韻に浸るのだった。
次回はエリアの戦闘です!
誤字、脱字がありましたらお教えください!




