第二百八十四話 vsオナミス帝国、六
今回はハクと拓馬の戦いの続きになります!
では第二百八十四話です!
拓馬がアリスのことを知らないということは驚きだったが、俺はその後も拓馬に対して攻撃を続けていった。
拓馬は事あるごとに勇者の力を発揮し自らの身体能力を何倍にも増幅させる「覇力」とよばれる力を使用しており、俺の攻撃についてきていたのだがやはり拓馬も他の勇者の力と同じようでかなり魔力の燃費が悪いようだ。
まだ魔力切れまでは行っていないが、それでも肩で息をするようなどうさをしており、次第に反応が鈍くなってきている。体には先程よりも多い切り傷ができ、鎧の内側から血が滲み始めていた。
だが俺はそんな拓馬に対しても手は緩めず剣を振るっていく。
「はあああああああ!!」
「くっ!はあああああああ!」
拓馬も遅れながら俺の攻撃についてくるがやはり神妃化している俺の力には届かないようでエルテナの刃を受けた瞬間、体ごと吹き飛んでしまう。
「限界だな。戦闘を開始したころのお前ならまだよかったが、今は完全に遅れてきている。勇者の力で何とか対抗出来ていたがそれも使えなければ俺に勝つなんて不可能だぞ?」
俺はエルテナとリーザグラムの両方の剣を無造作に構えながらそう呟いた。
拓馬は確かにこの短期間で驚くほどの実力を身に着けただろう。それこそ学園王国で戦った拓馬とは大違いだ。しかしまだあの巨大化したときの力には届いておらず、俺に気配殺しを発動させるほどではない。まして今回は俺が力の消費を抑えながら戦っているため、魔力消費でいったら明らかに俺の方が少ない。
今の戦況から考えれば拓馬は完全に不利なのだ。
しかし拓馬はそれでも剣を何とか中段に構え、俺を睨みつけてくる。
「う、うるさい。僕はまだ戦える。僕がここで負けたら結衣は一生この帝国に捕まって、さらにいつあの醜い姿に変貌するかわからない恐怖を背負うんだ。そんな現実を結衣に押し付けたくない!」
拓馬はそう言うと再び残っている魔力と力を振り絞るように身体能力を上昇させ俺に剣を振るってくる。
だがその動きはもはや神妃化していない俺でも対処できるほど柔いものになっており、俺はため息をつきながらその攻撃をはじき返す。
しかしその瞬間、俺の視界に何やら白く高速で動いてくる物体を捉えた。
「やあああああああ!!!」
「なに!?」
俺は咄嗟に剣を引き戻しその迫ってくる細身の剣を受け止めようとするのだが、なぜかすり抜けるように放たれた攻撃は俺の脇腹を抉った。
「がっ!?」
いきなりの状況に何が何だかわからない俺はとりあえず転移を複数回使用し後方に距離を取る。
い、今のはなんだ?というか俺は一体誰から攻撃された?
俺は神妃の力に加え言霊で傷を治しながらそう考えていると、俺が先程までいた場所に白い鎧に身を包んだ一人の少女が立っていた。その少女が持っている剣には俺の血がしっかりとついており、今の攻撃を繰り出した張本人だということが見て取れる。
「ゆ、結衣………?」
拓馬はその少女の参戦に対して驚いた顔を向けるが、その言葉を受け取った少女は巫女やカニ微笑みながら返答する。
「ごめん、前に出るなって言われたのに攻撃しちゃった。でも私やっぱり拓馬の隣で戦いたい。だからこれからは二人であいつを倒すわよ」
結衣はそう呟くとそのまま俺に対して闘志が沸き上がった目を向けてくる。
………。
まさか本当に参戦してくるとはな。
しかもいくら不意打ちとはいえ、俺が反応できない攻撃を仕掛けてこられる時点でこいうつも常識外れの力をもっているらしい。
俺は頭の中でそう結論付けると腰を低くしエルテナを前にリーザグラムを後ろに構えると少しだけ神妃化の出力を上げ、戦闘が再開されるのを待つ。
拓馬はそんな結衣の姿を見てしばらくは茫然と立ち尽くしていたのだが、やがて呆れたような笑みを浮かべると結衣の隣に立ち剣を力強く握りしめる。
「………わかった。本当なら僕一人で蹴りをつけたかったけどどうやらそう言ってられないみたいだし、結衣の力を借りる。だけど無理はするなよ?」
「うん、任せて!」
二人はお互いに見つめ合った後大きく頷くと、空気に掻き消えるようなスピードで俺に接近してくる。
くそ、またスピードが上がっている!
俺はエルテナで結衣をリーザグラムで拓馬の動きを対処しようとするのだが、初撃である結衣の剣がまたしても俺の剣を掻い潜るようにすり抜けてきた。
だがさすがにその攻撃を直撃するわけにもいかないので、転移で背後に回り込むと後ろについてきている消耗した拓馬をリーザグラムで弾き飛ばす。そしてその後もう一度結衣に向き直り両手の剣を勢いよく振り下ろした。
「はあああああああ!!!」
「甘いわ!」
しかしその攻撃も何故だか結衣に当たることはなく簡単に回避されると、カウンターのような鋭い剣が俺の体に迫ってきた。
「くっ!?」
俺はわざとエルテナを思いっきり地面に叩きつけその反動で体を後方に飛ばしてその攻撃を変則的に避けるが、その得体の知れない結衣の動きに舌を巻く。
おいおいおい、意味が分からないぞ、あの攻撃。
俺がどんな動きをしようと的確にそれを読んでくるような動作をしてくる。一体どうなっているんだ?
するとそんな俺の疑問に答えてくるようにリアがその力について解説してくれた。
『おそらくじゃが、あの女には剣を振るうべき道が見えとるののじゃ』
「どういうことだ?」
『つまり未来予知ほどではないが、感覚的に主様の攻撃を予測し次の一手の最善を常に見ている。剣線をどこに描けば主様の攻撃を防ぎ、攻撃に転じれるか、それが視認できるのじゃろう』
ってことは、俺がどんな攻撃をしても基本的に結衣に通用しないってわけか。
それはまた厄介な………。
どこに剣を振るっても対処されてしまうなら、それこそ無敵と言っても過言ではない。
だが俺はそのリアの説明を聞いて一つ思いついたことがあった。
そしてそれを実行に移すべく剣をもう一度構える。
すると結衣は吹き飛ばされた拓馬を立たせ、またしてもっ攻撃を二人同時に放ってきた。
「はああああああ!!!」
「やああああああ!!!」
やはり何度見ても拓馬の剣は予測できても結衣の攻撃だけは次にどのような動きを見せるか想像できない。
だがそんな状況であっても。
「ようはあの二人が対応できないレベルの速さで動けば問題ないってことだ」
俺はその瞬間、一番初めに拓馬を脅すために作り出した気配創造の刃を分解し、その力を自分の体に流し込んだ。
気配創造は周りのあらゆるものから気配を吸い取って新たな物体を作り出す力だ。だが同時にその集めた気配で自分の身体能力を上げることもできる。神妃化の出力を上げることは体に相当負担をかけるが、気配創造であればそれほど問題にはならない。
ゆえに俺は気配創造の力で通常の数倍の速度で結衣と拓馬の攻撃に対応していった。
まず初めに切りかかってきた湯の剣をエルテナで受け流し、咄嗟に書かみこんで結衣の足を払う。
「きゃあ!?」
そしてそのまま体を回転させるように、残された左足を勢いよく蹴りぬき結衣の体を後方まで吹き飛ばした。
「ゆ、結衣!」
拓馬は一瞬で動きを崩された結衣に心配の声を上げるが、俺に対してそんな隙を見せること自体が間違っている。
「よそ見しすぎだ」
「な、なに!?」
俺は一瞬で拓馬の背後に転移を実行すると、そのままエルテナとリーザグラムを拓馬の両肩に突き刺した。
「があああああああああああああああああああ!?」
その傷口からは大量の血が溢れ出ており地面を赤く濡らしてしまう。拓馬たち勇者に回復手段があるのかどうかはわからないがこれで確実に剣は握れないはずだ。
「拓馬!!!」
俺に吹き飛ばされた結衣はなんとか体を起こして拓馬の身を案じるような声を上げるが、今の拓馬にその声は届いていない。
エルテナとリーザグラムが刺さっていた場所からはとめどなく血液が流れ、拓馬の意識を急速に奪っていく。
とはいえ命まで奪うほどの一撃ではないので放っておいても問題はないが、痛々しい姿であるのは変わりない。
俺は残っている結衣もある程度の攻撃を与え倒してしまおうと考えたのだが、ここで衝撃の事態が発生する。
結衣を片づけるためエルテナとリーザグラムを拓馬から抜き、背を向けて歩き出していたのだが、その背中から拓馬が俺の動きを拘束するように体を押さえつけてくる。
「お前!い、一体何を!?」
「油断したな、ハク=リアスリオン………。僕に一撃を与えて終わりだなんて考えているから足元をすくわれるんだ……。結衣!今なら絶対に当てられる!やれ!」
く、くそ!
致命傷ではないとはいえ完全に拓馬を無力化したと思い込んでいた。だがこいつにはまだこんな力が残っていたのか。
だがこんなことで俺を足止めできるはずがない。
俺は咄嗟に転移でその場から抜け出そうとするが、なぜか転移が発動しないことに気が付く。
するとそんな俺を見ながら拓馬は言葉を呟いていく。
「む、無駄だ。お前が俺に背を向けている間に移動無効化魔術を発動しておいた……。転移だかなんだかしらないが、お前はもう動けない」
よく見れば俺の足元に紫色の魔法陣がいつの間にか発動されている。
そしてついに立ち上がった結衣が俺を殺すべくその剣を勢いよく振りぬいてきた。
「これで終わりよ!!!」
結衣の剣が目の前に迫り、あとほんの一瞬で俺が切られようとしていたその時、俺の両目が赤から青色に変色した。
それはこの空間全体にとてつもない爆風を呼び寄せ結衣と拓馬を吹き飛ばしてしまう。
「があああああああ!?」
「きゃああああああ!?」
魔眼。
いや、正確に言えばこれは魔眼の範疇に収まらない。
俺が魔武道祭にてエリアに魔法に対して使用した力。
それを一瞬だけ結衣と拓馬に向けて放ったのだ。
その一瞬の力の解放によってこの威力。はっきり言ってチートすぎる力だ。だからこそ俺は今までこの力を積極的に使用しようとは思わなかったし、戦闘に組み込むこともほとんどなかった。
しかし今のように全身を拘束されていた以上、四の五の言ってられない。ゆえに魔眼の領域を超えたその力を発動してその拘束から逃れたのだ。
俺は自分の下に展開された魔法陣をリーザグラムで破壊すると、そのまま拓馬の下に移動し今度は立てないように足を剣で穿っていく。
「ぎゃああああああああああ!?」
「拓馬!!!」
「悪いな。俺の勝ちだ」
俺は今度こそ無力化した拓馬を背に結衣を倒すべく足を向ける。
だが、ここで俺はまたしても判断を誤った。
最初に言いを無力化しておけば、この後に起こる事態には繋がらなかっただろう。
そしてそれはあの学園王国での災厄を再び顕現させる。
俺が結衣に対して剣を向け攻撃を開始しようとした瞬間、結衣はいきなり頭を押さえて蹲り暴力的とも言えるような力を放出しながら叫び始めた。
「う、うううううぅぅぅぅぅぅぅ、があああああああぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「な、なに!?」
それは学園王国で拓馬が俺に見せた姿そのもので、ありえないほどの力の渦がここに再現されていく。
つまり、勇者たちに埋め込まれた暴走の種が芽吹いてしまったのだ。
次回もこのお話の続きとなります!
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