第二百八十一話 vsオナミス帝国、三
今回はシーナとギルがメインとなります!
では第二百八十一話です!
「よし、イロアたちが戦いを始めた。私たちも行くぞ!」
シーナは勢いよく喉から大きな声を吐きだすと、自分の乗っている真っ白な馬の手綱を握り軍隊を動かし戦場へ足を踏み入れた。
その隣には綺麗な毛並みを携えている茶色の馬に跨っているギルの姿もある。冒険者であるギルは本来イロア側の陣営にいるべきなのだが、シーナが直々に自分の部隊にほしいと言い出して隣に据えているのだ。ギルは既に軽く魔眼である観察勘を使用し戦場の様子を観察していた。
「おい、シーナ。このまま突っ切るとイロアさんたちの邪魔になってしまう。もう少し右にずれた方がいい」
「了解だ。それと他に妙な動きをしている奴はいないか?今回私たちの役目はイロアたちを無事に帝都内まで送り届け、有象無象の帝国兵を蹴散らすことだ。そこに面倒な障害があるとその役目を遂行しずらい。何かあれば教えてくれ」
「うーん、今のところは見当たらないぜ。だが頭には入れておこう」
赤く綺麗な髪を揺らしながらシーナはギルに背中を預けて戦場を走り回る。魔武道祭以来シーナとギルはそこそこ友好的な関係を築いている。特段恋人というわけではないのだが、お互いに職場の愚痴を言いあったり悩みを相談し合っているのだ。
それゆえこの戦場という場においてもお互いを信用して動くことが出来る。
するとそこへ光り輝く無数の光弾がシーナたち軍隊に向かって打ちあがった。それは空中でさらに分解し避ける場所もないほど大量に降り注いでくる。
「あれは…………帝国兵の魔術か」
「だろうな。今の私たちにとってはそこまで大きなダメージにはならないが、放っておけば後ろの仲間が被弾してしまう」
「ならどうする?障壁でも張るか?」
ギルは自分の右手に魔力を集めながらそう呟いたのだが、シーナは馬に跨りながら首を横に振ると、何やら自分の髪の中からよくわからない丸い物体を取り出すと、それを肩の上にのせる。
「これは魔武道祭では使わなかった、というより使えなかったのだが、私にはこういう戦い方もできるんだよ」
シーナはそう言うと肩の上に乗っているそれを軽くつつくと魔力を流しながら膨大な力と共に魔法を発動した。
「炎の爆散」
それは一瞬にして空間を埋め尽くすほどの火の粉をまき散らし、発動されていた光弾を全て打ち落とした。
本来であればこれほど強力な魔法を使用すると魔力切れを起こしてしまう恐れがあるのだが、何故だかシーナはまったく疲弊していない。
むしろ戦いを楽しむような顔を浮かべており、余裕の雰囲気さえ滲ませている。
「まさかと思うが、その肩に乗っているのは精霊か?」
シーナはそのギルの問いに大きく頷くともう一度自分の頬に寄り添ってくる小さな生き物を手に取り優しく撫でていく。
「この子は私が幼い時に拾った精霊だ。どうも私になついてしまったらしく、片時も離れようとしないのだ。それゆえたまにこのような形で力を貸してもらっている」
精霊とはキラのような例外を除けば基本的に人間の魔法や魔術のサポートをする場合が多い。使用魔力を減らしたり威力を上げたりと、その汎用は様々だが定説として懐いていれば懐いているほど大きな力を貸してくれるとされている。
つまり今のシーナもその精霊の力を借りて帝国兵が使用した魔術を魔法で粉砕したのだろう。
「とんだ隠し玉だな、そいつは」
「私はあまりこの子を表に出したくないのだが、今日ばかりは仕方がない。少しだけ助けてもらう」
するとその精霊はシーナの言葉に嬉しそうな反応を示し、シーナの方にピッタリとくっ付いている。見た目的には丸い綿のような形状をしているので一見するとどこに精霊がいるのかわからなくなってしまうくらいだ。
精霊の見た目はアリエスが従えているオカリナのように小さな妖精のような姿を取ることもあればシーナの精霊のようにまた違った形で生まれることもある。精霊という存在は人間が生まれる前から生きているのでその姿も多種多様のようだ。
シーナは自分の精霊を最後に軽く撫でると、表情を引き締めて馬車から飛び降りると目の前に接近していた帝国兵をレイピアを使いなぎ倒していく。
「手は緩めるなよ!私たちは出来るだけ戦力を減らすことが役目だ!わかったら全員私に続けー!!!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「おーーーーーーー!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」
シーナの声は後ろに続いている各国の軍隊の面子全員に伝わり戦闘が本格的に開始された。
ギルも同じくその掛け声に続くように身体強化の魔術を施して戦場を駆ける。ギルの武器は大剣という比較的大きな得物だ。この武器は対人戦というよりは今のような多人数を相手にするときに最もその力を発揮する。リーチも刃の幅も大きな大剣は一撃で何人もの戦力を無力化することが出来るのだ。
「おらよ!」
ギルが放つ攻撃はその一撃で多くの帝国兵をなぎ倒し気絶させていく。慣れない者であれば刃が体に当たっている時点で切り裂いてしまうのだが、ギルは絶妙な力加減で大剣を振るっているので体を傷つけることはない。そのあたりはさすがと言うべきところである。
一方シーナは精霊の炎をレイピアに纏わせながらこちらも同じく帝国兵の意識だけを刈り取っていく。はっきり言ってシーナの実力を考えればこの程度の相手は問題にすらならないのだが、今回はその数が多い。
それは結果的にシーナの体に傷を走らせ少しずつダメージを与えていった。
(ここまで敵の数が多いとこちらの消耗も避けられないな。とはいえイロアたちが帝都に入るまでは絶対に持たせなければいけない。最悪虚像剣も使うことを覚悟しないといけないかもしれないな)
今はまだただのかすり傷程度のダメージで済んでいるが、この後どのようなことが起こるかわからない以上、油断をすることはできない。ましてシーナはこの軍隊の司令塔を担っている。その中心に立っているシーナが折れると全体の士気が下がるのは否めない。ゆえにシーナは出来るだけ攻撃を回避しつつ戦闘を進めていく。
するとそこにまたしても莫大な魔力が集まり始めた。
「お、おい………。あれ、なんだよ?」
ギルが声を震わせながらそう呟いてくる。目の前に展開されているのは先程とは明らかに火力の違う、別次元の魔法であった。それは色から察するに光魔法のようで人間一人では到底放つことのできない魔力が込められていた。
「………おそらく複数人で同時に同じ魔法を使用したのだろう。あまり好まれる手法ではないが、戦場では結果が出せればそれでいいという考えを持っているようだな」
「だが、あれは確実に帝国兵も巻き込むぞ?仲間を殺す気なのか?」
ギルの言う通りその魔法が放たれればシーナたちはもちろん同じ帝国の仲間にまでダメージが入ってしまう。本来ならば絶対に取らない攻撃方法なのだが今の帝国兵には勝利という二文字しか見えていないようだ。
「さあな。どっちにしろまともな思考回路ではなさそうだ。…………ギル、あの魔法陣の中で一番脆そうな場所はどこだ?監察勘で確かめてくれ」
「はあ?何を言ってるんだよ。そんな意味不明なことできるわけないだろ!そもそも観察勘っていうのは人間の動きを予測するものだ。それを魔法陣なんかに使ったところで効果なんてでねえよ!」
「そこを何とかしろ!でなければここにいる全員あの魔法で焼かれて死ぬぞ!いいか、お前の観察勘であの魔法陣の綻びを見つけ、私が全力でそこを叩き切る。それしかこの状況を打破することは出来ない!」
当然シーナにはその光魔法を超える魔法を放つことが出来る。だがこれから長期戦になることを考えれば魔力消費は極力抑えておきたい。
魔法とは本来精霊の力があってもそれなりに魔力を消費する。シーナは比較的魔力が多い方だが、アリエスのように最上位魔法や魔術を何発も打てるほどではない。ゆえに魔力量は常時計算しながら戦う必要があるのだ。
「ぐっ!で、できなくても知らねえぞ!」
ギルはそう叫びながら魔眼の出力を一瞬だけ限界まで引き上げその魔法陣を観察する。それは見事シーナの予想通り魔法陣相手にも効果を示したようでその綻びを発見することに成功した。
しかしこれの魔眼も魔法と同じく消費魔力が大きいため、積極的には使えない。よってギルは今見えた綻びをすぐさまシーナに伝える。
「円環の二周目、それも手前側だ!そこが一番弱い!」
「でかした!」
シーナはその言葉を聞いた途端、風魔術で軽く空に浮かび上がるとそのまま炎が纏われたレイピアを全力で魔法陣に突き立てる。
「はあああああああああああ!!!」
それは見事その魔法陣を打ち砕き、光の粒子になって形もなく消滅した。
またシーナはその飛び上がった状態を生かしながら地面に向けてレイピアを何度か穿ち、衝撃波を飛ばしていく。
「今だ、ギル!できるだけ無力化しろ!」
「おうよ!」
シーナの衝撃波は地面の砂を巻き上げその場にいる全員の視界を塞いでしまう。しかし観察勘を使用できるギルにとってその環境はまったく行動に影響を与えない。よってギルは一人だけその砂煙の中を動き回り帝国兵の意識を刈り取っていく。
意識を刈り取るといっても、単純に気絶させただけでは目覚めたときに復活してしまう恐れがあるので腕や足の骨を折ることでその可能性も潰していった。
シーナはそのまま地面に着地すると、大剣を振るっているギルを見ながら自分たちの後ろに控えている軍隊をさらに引き連れて戦場を駆け抜けていく。
その先にはイロアたちSSSランク冒険者とそのパーティー、さらに冒険者たちが戦っている姿が映し出されている。
シーナたちはその軍勢の外から回り込む形で移動し帝国兵を板挟みにするような動きを取った。
「これで少しはまともな戦況になるだろう」
「だな。ハクたちも戦ってるみたいだし俺たちも頑張らないといけねえぜ」
二人はそう言うと数百メートルほど離れた場所で、もはや人間の戦いとは思えない戦闘を繰り広げているハクたちパーティーの姿を目に移した。地面はひび割れ暴力的な魔力が吹き荒れているその場所はシーナやギルであっても近づくことが出来ないほどの戦場になっている。
その中でもハクが戦っているであろう場所からは空気を振動させる爆音が鳴り響いておりその戦いの激しさを物語っていた。
「戦いはまだ始まったばかりだ。少なくともイロアたちが魔導師団を潰すまでは持ちこたえるぞ!」
「ああ!」
シーナとギルはお互い煤だらけになった体を再び動かし始めると、激化している戦場にその身を躍らせていくのだった。
次回はハクと拓馬の対決を描きます!
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