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第二百七十九話 vsオナミス帝国、一

今回から本格的な戦闘が始まります!

では第二百七十九話です!

「ハクにぃ!これどうなってるの!?」


 アリエスが俺たちの目の前に展開されている光景を見ながらそう問いかけてくる。

 その光景は大量の帝国軍がまるで俺たちを待ち構えているかのように待機しているものだった。

 念話で一応イロアにはそのことを伝えたが、だからといって今さら作戦を変更することなどできない。

 ………今考えてみれば、アリスが開戦の日付を述べたのはあくまで目安だ。俺たちが開戦日を前倒しにしたように帝国軍とてその考えに至ってもおかしくない。

 つまり完全に裏をかかれたというわけだ。


「多分、読まれていたんだ、俺たちの動きは。だがそれでも奴らは学園王国に攻めてこなかった。ということはおそらく帝国も」


「あそこを戦場にしたいということか」


 キラが俺の言葉の続きを受け取り言葉を紡ぐ。

 もし仮に俺たちの行動をどこからか監視していたとすれば俺たちが準備している間に攻めてくることもできただろう。だが帝国はあえてそれをしていない。ならばそれ相応の理由が絶対にあるはずだ。

 俺はそう考えながら気配探知を使用し、勇者とアリスの気配を探っていく。

 そしてその気配は帝国軍の先頭に十一人全てが集まっているようだ。ちなみにアリスの気配はまだ感じられず帝国の中にもいない。

 であればまずは勇者から片づけるしかないな。

 俺は心の中でそう呟くと翼の布(テンジカ)を旋回させながらイロアたちの到着を待つ。

 俺たちは帝国の様子を窺うため若干イロアたちよりも先行して帝国に到着していた。ゆえにこのまま俺たちだけで攻め込んでもいいのだが、不意を突けなくなった以上軽率な行動は出来ない。

 俺たちは装備の確認をしながらただひたすらイロアたちの到着を待った。


 早くこい、イロア。状況は芳しくないぞ………。

 俺は心の声をそう響かせながら翼の布(テンジカ)の上でエルテナに手を当てるのだった。









「なに!?帝国が既に待ち構えているだと!?」


 イロアはハクからの念話を受け取ると眉間に皺を寄せながらそう呟いた。


「ああん?どうした?なんか問題でもあったのか?」


 隣を黒い馬に跨りながら追いかけてきているSSSランク冒険者のザッハーがそのイロアに対して怪訝な声を投げかけてくる。


「なになに?なんかあったの、イロアっち?」


「あまり嬉しそうな顔はしてないね。これはよからぬ報告かな?」


 イナアとジュナスもその隣を走行しながらイロアの表情を窺った。

 イロアは奥歯を噛みしめながら険しい表情で同じSSSランク冒険者の仲間に現状を伝えていく。


「どうやら、帝国の目の前には既に帝国兵全員が待ち構えているらしい。つまり我々の不意を打つ作戦は早くも失敗というわけだ」


 本来の作戦であればわざわざ開戦日を前倒しにすることで相手の不意を突き一気に形勢を傾かせるはずだったのだが、相手も準備が出来ている以上そんな策は通用するはずがなく、真正面からぶつかるしかなくなってしまったのだ。

 しかしそんなイロアの表情とは対照的にザッハーはその言葉を笑い飛ばすとザッハー特有の好戦的な笑みを浮かべ話し始める。


「ハッ!今さらそんなことどうでもいい!ようは全員ぶっ潰せばいいだけだ。それ以上でも以下でもねえ。どのみち最終的にはぶつかることに変わりねえんだ。だったらむしろ最初から暴れてやるよ」


 さらにイナアとジュナスがそれに続けて言葉を発する。


「そうだねー。私たちは相手がどんな作戦を取ってきてもやることは変わらないわけだし、帝国の方からやってきてくれるなら移動する無駄が省けて私的には嬉しいかな」


「僕はイロアの言う通り作戦通りに進めたいところだけど、こうなった以上四の五の言ってられない。初めから全力でいくよ」


 そんな三人の姿を見て一瞬だけ呆けてしまったイロアだったがすぐに表情を同じように笑みに変えるとため息をつきながら言葉に力を乗せていく。


「ふっ、まったくお前たちといると本当に呆れてくる。だが今回ばかりはその意見に同意だ。何が来ようとも私たちは捻りつぶす。今はそれだけを考えるとしよう」


 イロアは予想外の事態に直面しながらもそのまま馬を走らせ目的地であるオナミス帝国を目指す。

 オナミス帝国はこの世界の最北端に位置する国だ。周りは基本的に荒野が多く自然的な光景はあまり見られない。というのもここから数百キロ東に進んだ場所に精霊の住処と呼ばれている生活環境が桁違いに高い魔の森があるため、そこに全て自然は吸い取られていっていることが原因と考えられている。

 だが今はこの環境が逆に幸いしていた。

 特に凹凸がない道は馬も走りやすく人間も移動しやすい。これは戦闘を行うにあたってかなり大きなことだろう。慣れない地での戦いは出来るだけ不利な点を潰すことで有利に進めることが出来る。それを考えると今の状況はイロアたちにとって悪くないシチュエーションなのだ。


「おい、あれが帝国じゃねえか?」


 すると急にザッハーが声を上げ、目の前に大きく表れてきたものを指し示してきた。それは赤く天に届きそうなほど高く伸びている宮殿で、それを取り囲むように巨大な街が姿を現してくる。


「だねー。で、あれがその帝国軍かな?」


 そしてその前に蠢いている無数の人影。ざっと見たところ二万五千人ほどはいるだろう。イロアは率直にその数の兵力を集めたことに感心していたのだが、その集団の前に立っている圧倒的な気配を感じ取って身を強張らせてしまう。


「なるほどな、あれが勇者か。確かに化け物揃いらしい」


「だけどあれはハク君たちが倒してくれるのだろう?噂通りの実力っぽいけどハク君ほどの力は感じないよ」


「そうれもそうだな。彼ならば負けることなんてありえない」


 イロアはジュナスの言葉に軽く微笑むとそのまま後ろについてきている大量の兵士と冒険者たちに大きな声で叫んだ。


「よし、全員進めー!!!」


「「「「「「「「「「「「「「「「「「おーーーーーー!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」


 こうして地上でも開戦の合図が上がり、ついに全戦力が戦場で激突する。









「イロアたちが動き出した。俺たちも行くぞ!」


 俺は視界にイロア率いる部隊を捉えるとその言葉と同時にメンバーを転移で移動させ、一瞬で地上に降り立つ。


「では妾達も行くとしよう。ではなマスター、派手に暴れさせてもらう」


 キラは誰よりも早く進み出るとシラとシル、そして元の大きさに戻ったクビロを引き連れて勇者たちに向かっていく。


「私たちも行くわ。ハクも気を付けてね」


 同じくサシリもアリエス、エリア、ルルンを引き連れて前へ歩き始めた。

 俺はそんなメンバーの姿に笑いかけることで返答を済ませると、エルテナを抜き放ち右手に構え神妃化を実行する。

 既に拓馬の気配は捉えてあるので位置はわかっているし、どうやら向こうも俺を狙っているようだ。

 まだ数百メートルほど離れているが、それでも放たれている殺気は相当なもので、以前よりも力が増しているように感じる。

 俺たちの後ろからはイロアたちの軍隊が徐々に迫ってきており、もう数十秒もあれば完全に激突するだろう。

 見たところ相手の軍隊の数はこちらの半分ほどなので数で押し負けるということはないだろうが、それでも油断はできない。イロアたちSSSランク冒険者が騎士団とも同師団をいかに俊敏に落とせるかが鍵になってくる。

 俺はその活躍を祈りながら静かに拓馬たちに接近していく。

 その足取りは決して重たいものではなく、しっかりと地面を踏みしめ距離を縮める。

 そしてついに俺と拓馬、それに結衣という女性勇者の距離が間近に迫り、真っ直ぐ対峙した。


「よう。学園王国以来だな。今回は悪いがこちらも本気だ。手加減なんて甘いことはできないぞ?」


 俺は威圧が含んだ声でそう呟くと拓馬に向かってエルテナを突き出す。それと同時に神妃化の出力も上昇させ地面を揺らしていく。

 すると拓馬はしばらくジッと俺を眺めていたのだが、しばらくして殺気を一度収めるとそのまま頭を下げなにやら言葉を呟いてくる。


「一つ頼みがある。お前の力で結衣を助けてやってくれ」


「は?」


「結衣にはおそらく僕と同じ力を暴走させる核が仕込まれている。僕はお前にそれを破壊されることで一命を取り留めた。だから、虫のいい話だと思うが結衣の体の中にあるそれも破壊してくれないだろうか?」


 拓馬の表情は以前会ったときのように狂気に染まってはおらず、真剣に俺を頼みにしているようだった。

 確かに普通ならば見えない力を切るなんてことは誰もできることではない。俺の気配殺しという力があってこそ初めて実現可能な話なのだ。

 学園王国では拓馬の暴走を沈めなおかつ命を消さないようにするためにあの力を使ったのだが、今回はその力を同じ勇者である結衣に使用してほしいということなのだろう。

 その気持ちはすごくわかるし、仲間を助けたい意思は認める。

 だが。


「断る」


「な、なに!?」


「何故俺がお前らの意見をくみ取らないといけないんだ。お前らはエルヴィニアでもそうやって命乞いをする連中に手をかけてきただろう。そんな奴らがいざ自分たちの都合の悪い時に限って手のひらを反すなど、認められるわけがないだろう」


「そ、それは………」


 実際ルルンはエルフの民たちを守るために勇者たちに立ち向かいその命の灯が消えそうになるまで痛めつけられたのだ。おそらくその時のルルンは命の危機に震えていたはずだ。叫べるものなら叫んで命乞いだってしたかったかもしれない。

 だがそんなルルンをこいつらは容赦なく殺そうとした。

 そんな光景を見せつけられておいてこいつらを助けようなんて気持ちになるはずがない。


「言っておくぞ。ここは戦場だ。もし仮に俺にその核とやらを破壊してほしいならこの場で俺を倒してから強制させればいい。戦争の火ぶたは切って落とされた。こうなった以上、俺たちは敵同士で戦うべき相手だ。現にお前たちの仲間は俺のパーティーメンバーと戦っているし、殺気だってむき出しにしている。この場に出てきてそんな甘い考えを持っているようなら、お前の首を斬り飛ばして一瞬で片を付けさせてもらう」


 俺はそう言うとそのまま気配創造で大量の刃を作り出し、上空に待機させる。


「さあどうする?ここで何もせず俺に殺されるか、それとも自分の望みをかけて俺と戦うか。好きな方を選ぶんだな」


「た、拓馬………」


 結衣は俺の言葉を聞き、背中を見せている拓馬に心配そうな表情を向ける。

 しかし拓馬はそれに振り返ることはせず、言葉だけを結衣に向けて放った。


「大丈夫。結衣は俺が助けるから」


 …………ほう、少しは成長したみたいだな。俺はそう考えを巡らせると気配創造の刃はそのままにエルテナを振り上げ拓馬に切りかかった。

 しかしその攻撃は拓馬が瞬間的に抜いた長剣によって阻まれてしまう。


「……………わかった。だったら僕はお前を倒して結衣の命を救う!」


「なら全力で来い。仮にも俺が相手をするんだ。気を抜くと死ぬぞ?」


 そしてその言葉を合図に俺と拓馬の戦いが始まったのだった。


次回は一度イロアたちに視点を移します!

誤字、脱字がありましたらお教えください!


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