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第二百七十六話 進んでいく時間

今回は戦争に関しての具体的な詳細が明かされます!

では第二百七十六話です!

 俺たちが学園王国に到着して一週間が経過した。

 この一週間は王国全体が戦争の雰囲気を高めていっており、中央広場や外の空き地では常に訓練や自己強化の類が開催されていた。というのもそれは主にイロアやシーナといった実力者たちがそれを率いており冒険者や各国の軍隊は積極的に参加していたようだ。

 当然その中にはジュナスやイナアの姿もあり高レベルな戦闘が繰り広げられる場面も見受けられた。中でもジュナスとイロアの戦闘はもはや災害レベルで、模擬戦とはいえ空き地の地形が大きく変形するほどの被害をもたらすという、もはやこれが戦争なのではないか?と聞きたくなる出来事になったのだ。

 で、俺たちは何をしていたかと言うとグラスやギランといった学園にいたころの面々と顔を合わせ話に花を咲かせた後、案の定アリエスたちの観光に振り回される日々を送っていた。とはいえさすがに町全体が戦争ムードなのである程度楽しむと、シンフォガリア学園の校庭を貸し切って俺たちも戦闘訓練を実施していたのだ。

 さすがに一般の冒険者や騎士の連中と一緒にやるわけにもいかないので学園長に無理を言って校庭を貸してもらったのだが、それでも高火力の魔術やら根源が飛び交う俺たちの訓練は人の目を集めたようで特に学園の生徒たちからの賞賛の声が沸くという事態も起きた。

 そして今。

 俺たちは宿屋の中に設けられた軽い喫茶店のような場所にいる。

 アリエスたちはどうやら今日は冒険者たちの様子を見に行くらしく、目を輝かせながら朝早くから宿を開けていた。一応フレイヤをアリエスたちの監視用につけているので暴走することはないだろうが、イロアにああ言われた以上このくらいはしておかなければいけないだろう。

 まあキラが冒険者たちをいびりったりアリエスがはしゃいだりと色々と問題が浮上しそうな気はしなくもないが、それくらいは目を瞑ってもらおう。

 俺はそんなことを考えながら喫茶店のカウンターに座りアイスコーヒーを啜っている。そしてそんな俺の隣にいる大柄な男に対して視線すら向けずに言葉を放つ。


「で、お前はなんで訓練もしないで俺に泣きついているんだ?」


「泣きついてはないぞ!そもそもあのちんちくりんが俺ばっかりに戦闘を仕掛けてくるんだ。そんなものにいつまでも付き合ってられるか」


 そう、今俺の隣で愚痴をこぼしているのはかつてエリアの護衛を務めていたギルである。獣国に向かう際に一度イナアと共に顔を合わせているが、どうやらそれからイナアとは仲がいい……じゃなくて犬猿の仲のようで、事ある度に衝突しているらしい。


「だから、それは逆に相性がいいんじゃないか?イナアも満更でもなさそうだし」


 俺がそう呟いた瞬間、ギルは俺に対して物凄い形相で接近し睨みつけてくる。


「おい、ハク。それ本気で言ってるのか?」


「近い!わかったわかった、今のは俺が悪かったよ。だから離れろ!」


 俺はそう言うとギルの肩を掴み距離を取らせる。

 ギルはシーナたちよりも遅れて学園王国に到着したようで、俺たちがこの王国に着いた次の日に入国したそうだ。なんでも受注していたクエストが長引いたそうで駆け付けるのに時間がかかったのだという。

 シルヴィニクス王国ではBランク冒険者といえどギルの知名度は高く冒険者としても人気が高い。何度もAランク昇格の話が回ってきているらしいが、動きにくくなるからという理由で全て断っているようだ。

 確かにSSSランクほどずば抜けている場合は別だが、このような緊急事態が発生すると冒険者基本的にギルドの意思に従わなければならない。もちろん断ることもできるのだが、それはランクが高くなればなるほど難しくなるのだ。

 今回は俺やシーナが参戦するということで自らも身を躍らせたらしいが、普段なら参加していないと語っていた。

 するとギルは急に真面目な表情を作ると目の前にあるジンジャーエールを喉に流しながら言葉を呟いていく。


「この国に来てみて思ったことだが、この状況で本当に勝てるのか?」


「どういう意味だ?」


「いや、確かに戦力的にはおそらく今集められる最強の力が集結している。だがこの連中をまとめられるのかってことだ。外でやっている戦闘訓練も参加していない連中は大勢いる。そんな中で戦争なんてやってもただ犠牲者が増えるだけなんじゃないか?」


 ギルの言っていることは一理ある。

 ザッハーはああ言ったもののやはり冒険者という連中は基本的に自由な性格を持っている奴が多い。七割ほどはその統制が取れているが残り三割はまだ戦闘訓練にさえ参加していないのだ。

 この状況のまま戦争が開始されてしまえば内部崩壊も起こしかねない。


「それは俺も思っていたことなんだが、どうやら詳しい話をしてくれる人物が近づいてきてるみたいだ」


「は?それってどういうことだよ?」


 俺はそんなギルに対してカウンターの後ろにある出口の方角を指さすと、丁度そこに現れた黄金色の鎧を身に纏っている女性をギルに示す。

 その女性は静かに来店するとそのまま空いていた俺の素なりの席に腰を下ろした。


「待たせたな。こちらも色々と長引いてしまったのだ。ん?おや、そちらの男性は?」


「ああ、紹介するよ。Bランク冒険者のギルだ。戦闘訓練でよくイナアにいじめられてるやつだ」


「いじめられてはないぞ!っと、その前に、えーとハクから紹介があったように俺はギルっていう冒険者だ。一応この戦争に参加しようと思っている」


「そうか。私はイロア。知っているかもしれないがSSSランク冒険者だ。イナアが迷惑をかけているようですまない。彼女も決して悪気があるわけじゃないんだ。許してやってほしい」


「あ、い、いえ、こちらこそ……」


 ギルはどういうわけかそのイロアの言葉に顔を赤くしてしまい恥ずかしそうな表情を浮かべている。

 ははーん、こいつイロアに見とれてたな?

 まあむさ苦しい冒険者ギルドに入り浸っていれば必然的に清涼剤はほしくなるところだが、生憎とこのイロアはそう簡単に落とせない。

 俺は内心ギルに祈りを捧げながら話を進めていく。


「ここに来たってことは会合とやらは終わったのか?」


「ああ、まあな。はっきり言って君だけでもいてほしかったというのが本音だ。あのシーナも会合が終わった後はうなだれていたぐらいだからな。面倒に面倒を塗ったような連中ばかりだったよ」


 いや、むしろそれを終えてなお俺に話をする気力があるあなたはどうなってるんですか?と問いかけたくなる衝動を抑えその話に耳を傾けていく。

 一週間前に話していた各国の代表を集めた会合は今日開かれていたのだ。そしてそれが終わり次第イロアにはその内容を報告してほしいと伝えておいた。よって今こうやって喫茶店で待ち合わせしているのだ。


「開戦は今日から五日後の朝。帝国領土に限りなく接近した場所で開催する。前々から話していたように君たちパーティーが勇者たちを担当し私たちSSSランク冒険者は騎士団と魔導師団を相手にすることになった。一応他の国々はシルヴィニクス王国の代表のシーナの指示に従うように決まったし、各国の部隊と冒険者は残りの戦力を潰すことになるだろう」


 五日後か。

 まあ妥当なラインだろう。

 あらかじめ伝えられてる開戦日は今から一週間後だ。だが必ずしもそれに則って動かなければいけない決まりはない。ゆえに早めに奇襲のごとく攻め込んでおいて先制攻撃を仕掛けるということなのだろう。


「おい、ハク。さっきの繰り返しになるがそれだと冒険者たちの手綱は取れないぞ?そのあたりはどうなっているんだ?」


 ギルがもう一度その質問を投げかけてくるとそれにはイロアが解答した。


「それは問題ない。先程の会合ではギルド会長も出席していた。そのギルド会長からギルド本部を伝い、集まっている冒険者に対して勅命を出す。これで冒険者たちの統制は取れるはずだ」


「というわけだ」


「さらっとえげつないこと言うな……。ギルド会長とか見たこともねえよ……」


 今回の会合は学園王国で開かれていることもあり冒険者ギルドの本部を取り仕切っているギルド会長なる人物も参加していたのだ。その権限を用いて半ば強制的に勅令を出したという流れだ。


「そして我々SSSランク冒険者が騎士団と魔導師団を突破したら最後、我々はそのまま皇帝の首を頂戴しに行く。まあ別に命までは奪いはしないが、帝国のトップである皇帝を沈めない限りは戦争は終わらないからな。こればかりは仕方がない」


 確かに戦争を始める以上、どこかで終わりを設けないと収拾がつかない。今回も俺たちは出来るだけ被害を出さない方向で進む。つまり帝国兵を全滅させての勝利という可能性はゼロに等しい。こうなると運動会の騎馬戦のように大将を刈り取ることでの勝利しかありえないのだ。


「ん?まてよ、それって別にイロアさんたちSSSランク冒険者じゃなくてもいいんじゃないか?それこそハクたちのほうが機動力はあるだろ?」


「それは不可能だ。今回ハク君たちが相手にする奴はどうやらかなり厄介らしい。下手をすれば戦争が終わってもその戦いだけは終わらないかもしれないというレベルだ」


「ま、まじかよ……」


 ギルはイロアの口から発せられた言葉に表情を凍り付かせ冷や汗を流している。

 俺と第二神核の戦いを目撃しているギルにとってあれ以上の戦闘が繰り広げられると聞けば怯えてしまうのも無理はない。

 つまり今回俺が戦う相手、アリスはそれだけの実力を有している相手なのだ。

 するとここでイロアがその話題を膨らませるかのように俺に対して質問を投げかけてくる。


「で、君の感覚からしてどうなのだ、そのアリスという少女の実力は?」


「戦った限りではおそらく第四神核よりも強い。しかもあまり詳しくは言えないが今の俺はあいつに対して全力を出せない状況にある。はっきり言って周りを気にして戦っていられるほど余裕はない」


「ふむ、なるほど。では我々は出来るだけ離れた場所で戦うとしよう。シーナにもそう伝えておく」


「ああ、頼んだ」


 俺はそう頷くと残り少なくなっていたアイスコーヒーを飲みほして体を冷やしていく。もうとっくに夏は終わっているはずなのにこの世界の気候上、気温の高い日が連続して続いている。

 同じように顔に汗を流しているイロアはそれを手で軽くぬぐうとそのまま立ち上がり、ギルの首根っこを掴む。


「では報告はこれくらいだ。私ももう少しゆっくり話をしたいのだが。生憎かなり忙しいのでな、私はもう行くよ」


「そうか。あんまり根を詰めすぎるなよ。戦争前に体を壊したなんて洒落にならないからな」


「わかっている。よし、ではギル、我々は戦闘訓練に向かうぞ!」


「え!ま、まじかよ!ちょ、ちょっと待って、まだ俺は休みたいんだが……」


「冒険者に休息などない!ほら、しっかり歩け!」


 とまあ、何やらにぎやかに過ぎ去っていく二人を眺めながら俺はもう一度アイスコーヒーを注文し、それが運ばれてくるのを待つ。


 アリスか………。

 結局もう一人の俺もアリスについては深く語ってくれることはなかったな。

 俺は今回の戦争でおそらく一番の問題になるであろうかつての戦友の顔を思い浮かべながら座っているカウンターに肘を突く。

 今はまだどのように戦うか決めていないが、それもそろそろ考えなければいけないかもしれない。

 

 しかしそうしている間にも刻々と開戦の時は近づいていくのだった。


次回はアリエスにスポットが当たります!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

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