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第二百七十一話 集結、一

今回から第七章が始まります!

では第二百七十一話です!


 学園王国に向かうまでの一週間。

 本来であればゆっくりと翼の布(テンジカ)を走らせながら各地を回って時間を潰そうとしていたのだが、結果的にそうはならなかった。

 獣国ジェレラート王城の近くにあったとある海港に立ち寄ることになったのだ。それは何やらどこで仕入れてきたのかわからない情報だったが、アリエスがそこにリゾート地があるとのことで結局その場所で一週間滞在するという事態に発展した。

 その海港は「ハリアキナ海港」という場所でこの世界の住民からするとそれなりに有名なスポットらしく、確かに快適な時間を過ごさせてもらったのだが、そこでは俺の精神的な気苦労が絶えなかったというのは言うまでもない。

 その話はまた別の機会に話すとするが、この話は完全にお気楽ムード満載なので、いずれ機会があれば語ってもいいかな、という程度である。

 しかし俺の反応とは裏腹にアリエスたちは非常に楽しんでいたので俺は何も言えず、メンバーの意思に逆らえなかったというのは余談である。


 そしてそのハリアキナ海港で一週間過ごしてしまったので結局俺たちは転移で学園王国に移動することになった。

 いざ学園王国に戻ってきてみると、学生の姿は依然として多いもののそれ以外に鎧や武器を構えた兵士のような者たちが大量に見かけられた。


「こ、これって全員今回の戦争に参加する人たちかな?」


 アリエスがその光景を半ば茫然と眺めながらそう呟いてきた。


「まあそうだろうな。俺たちの見たことのない国の紋章もあるし、周辺の国々からも戦力を募ったんだろう」


 この世界には学園王国、シルヴィニクス王国、獣国ジェレラート、オナミス帝国以外にもたくさんの国が存在している。とはいえその規模はこの四国ほど大きいものではなく影響力も小さい。

 しかしその国々の力を借りている以上この戦いは本気で勝ちにいっているようだ。

 学園自体は今も運営がなされているようで、耳をすませば周囲にある学園から生徒たちの声が聞こえてきている。


「で、これからどうするの?」


 するとその光景をしばらく見つめていた俺に対してサシリが顔をのぞかせながらそう声を上げた。

 気配探知で既にイロアたちや他のSSSランク冒険者がこの街にいることはわかっているのだが、今すぐに会いにいくことはないだろう。俺たちは既にシンフォガリア学園を卒業している身であるがゆえに寮に泊まることはできない。であれば宿を見つけることのほうが先決だろう。


「とりあえずは宿だ。それを見つけたらその部屋の中でこれからのことを話し合おう」


 俺はそう言うとそのまま以前も宿泊した宿を目指し歩き出した。


「ほう、宿か。そういえばあの時はマスターが宿の中で必死に勉強していたな。あれはなかなか初々しい光景だった」


 キラが何か思い出に浸るような表情を浮かべながらそう呟いてくる。

 ま、まあ、あのときは色々ありましたからね………。

 俺もその時の記憶を呼び起こして当時の感覚を思い出していく。なぜ異世界に来てまで勉強をしなければいけないのか、ひたすらに理解不能だったがそれでもなんとか食らいついていた記憶がある。

 今思えば二度とあんな思いは御免だと叫びたくなってしまう。


「そうだねー。いっつも負けなしのハク君があの時だけは泣き言言ってたのが印象的だよー。でもあれも随分前に感じちゃうけどほんの数か月前のことだもんね。懐かしいなぁ」


「俺は、ルルンのライブのほうが衝撃的だったけどな」


「あ、あれは仕方ないの!昔の血が騒いだというかなんというか……」


 俺はこのまま恥ずかしい思い出を引っ張り出されるのは嫌だったのでルルンに対して違う話を振りかけて切り返す。


「確か学園でも話題になってましたね。歌姫とかなんか言われて」


 さらにシルが笑いながらルルンに対して攻撃力の含んだ台詞を呟いていく。それは見事にルルンの胸に突き刺さり顔を真っ赤に染めた。

 以前のルルンであればライブをやっていたことに何の躊躇いも感じられなかったのだが、ここ最近そのことを自分の黒歴史として認識し始めたようで、パーティー内ではこの話題が今一番盛り上がっているのである。

 俺たちはそんな話を繰り広げながら学園王国の街を踏みしめながら歩いていく。

 やはり俺たちがこの街を離れてからここは大分変わっているようで、至る所に冒険者やごっつい鎧を着た連中が蔓延っている。

 戦争が始まる時間がわかっていればこの学園王国が戦火を被ることはない。なぜなら予め戦場を設定できるからだ。これが帝国のタイミングで戦いが始まってしまうとそのまま責められた場所が戦場となるが、今回は違う。むしろ奴らが攻めてくるのが三週間後というだけでこちらが仕掛けるタイミングは自由に変更できるのだ。であれば戦場の設定も自由自在である。

 ということもあってかそのような武装集団たちを覗けば、変わっていると言っても街全体の変化はそれほど見られなかった。

 そんな連中と何度もすれ違いながら依然と同じ宿に到着すると、そこには大量の冒険者たちの姿があり、なにやら受付で揉めているようだ。


「あれは何をやっているんでしょうか?」


 シラがその連中を見ながら首を傾げそう問いかけてくる。


「さ、さあ?」


 俺も同じように首を傾げるのだが、立ち止まっていても拉致が明かないのでとりあえずその中に入ってみることにする。

 するとその受付の前にあるちょっとしたフロアにも多くの人間が集まっており、みんな不満そうな表情を浮かべながらそこに佇んでいる。

 その視線は全て受付に向けられているようで、その中にいる女将さんのような人は大量の冒険者に囲まれて冷汗を流しながら対応しているようだ。

 その会話によく耳を澄ましてみるとこのような声が聞こえてきた。


「おい!どういうことだよ!なんで部屋がねぇんだ!俺たちはこの戦争に快く参加してやってる冒険者なんだぞ?それを敬おうっていう気持ちはないのか?」


「そうだそうだ!そもそもこの学園王国に招集してるんだから部屋だって大量に用意しなきゃいけないはずだろうが!」


「まったくそんなこともわからないなんて、この宿はだめね。少しは気が利くかと思ったらこの調子なんですもの。がっかりだわ」


 おいおいおい、これはなんなんだ?

 はっきり言って恐喝じゃないか。

 その冒険者たちの対応に追われている女将は今にも泣きだしそうだ。

 聞いたところおそらくこの冒険者たちは急な招集に駆け付けたことで泊る宿がなく、ここでそれをぼやいているようだ。

 確かに今回の戦争は冒険者たちもたくさん集まってきている。それによって学園王国の宿がパンク寸前になっているということなのだろう。

 ってことは俺たちも泊まれないかもな。今もこれだけの数の冒険者が待ってるわけだし、最悪翼の布(テンジカ)の中で生活することも考えねばならないかも。


「なんだ、あのゴミのような連中は。おいマスター、一発かましてくるから周囲の安全を頼む」


「まてまてまて!そんな殺気立たなくてもいいだろ!確かにあいつらだって言いすぎている部分はあるが困っているのは確かなんだ。少しは落ち着け」


 俺はそう言いながらその冒険者たちに根源を放とうとしているキラを必死に押さえつけ、声を上げる。ここでキラにその事態を解決させたら冒険者はおろかこの宿まで吹き飛ばしてしまう。それは何としてでも避けなければならない。

 キラは精霊女王ゆえにかつてのリアよろしくかなり自由な部分が多い。それは戦闘では比較的いい方向に傾くことが多いのだが、このような場合ははっきりって火薬庫同然だ。


「むむむ!離すのだマスター!あの女将が不憫だと思わないのか!」


「いやだから、とりあえず落ち着けって!今ここで力なんて使ったら俺たちが悪者になるぞ!」


 というかやっぱりこいつ力強っ!

 何とかその肩を両手で掴んで押さえつけている俺だったが油断すればすぐに引き離されてしまう。

 こんなところで精霊女王の力を使うなよ………。

 と内心思っているとそんな俺たちの前にサシリよりも彩度の高い赤髪をなびかせた女性がその冒険者たちの中に入っていった。


「おい、何をもめているんだ。大の大人がこんな観衆の目が犇めく場所で痴話喧嘩などみっともないぞ」


 しかしその女性の言葉はそこにいる冒険者たちには届いていないようで、さらに状況は悪化していく。


「あん?なんだてめえ?ひ弱そうな体しやがって、女はすっこんでろ!それともお俺たちと遊んでほしいのか?」


「おい、よく見たらこいつめちゃくちゃ可愛いぞ!ちょっと連れて行ってイタズラしようぜ!」


 するとそんな光景を見ていたその女性は一度大きなため息をついて目つきを変化させるとすぐさま行動に出た。


「はあ………。まったく男というのは見境がなくて困る。悪いが少しだけ痛い目にあってもらうぞ」


 その女性はそう呟くと真っ先に声をかけてきた男の胸倉を一瞬でつかみ取り、地面に向けて投げ飛ばす。そしてさらに近くにいたもう一人の男の首元に持っていたレイピアを突きつけると殺気を滲ませながら言葉を呟いていく。


「別に宿屋に対して文句を言うなとは言わないが、それでも節度は守れ。貴様らが廃れれば世の中にいる冒険者全員が汚名を被るのだ」


 するとその突きつけられたレイピアを見た冒険者たちが口々に何か発見したような口ぶりでざわつき始めた。


「お、おい……。あ、あれってシルヴィニクス王国の紋章だよな………。それで赤毛っていったら………」


「あ、ああ、間違いねぇ、騎士団長だ………」


「なんだと!?な、なら俺たちはその騎士団長にちょっかいかけてたのか!?」


 どうやらその冒険者たちはようやくことの重大性に気が付いたらしく、すぐさま立ち上がると全員が九十度に頭を下げ宿屋を立ち去っていった。

 俺たちは半ば茫然とそれをみていたのだが、その女性が俺たちの知る友好の深い人物だと気が付くと出来るだけ陽気に話しかけてみる。


「よう。こんなときもお勤めご苦労だな、シーナ」


「まったくだ。君たちの気配を感じてきてみればこの騒ぎだ。騎士団長というのも疲れてしまう」


 そう、この女性というのはシルヴィニクス王国近衛隊騎士団長シーナその人である。俺たちは一目見た瞬間それが誰なのかわかっていたので、その活躍を見守っていたがどうやら学園王国に場所を移してもその清廉さは変わっていないようだ。


「うー、シーナ!!!」


 俺とシーナが挨拶を交わすといつぞかの光景のようにルルンがシーナの胸に勢いよく飛びついていく。

 さすがに今回はシーナもそれを予測していたらしく身構えながらルルンを受け止めると、困ったような顔で自分の師匠との再会を味わう。


「師匠……。いい加減いきなり飛び掛かってくるのは止めてください。まして観衆の目がある中では誤解されます……」


「えー、いいじゃん!私とシーナの仲なんだし!」


 とまあ、仲良く師弟二人が再会したところで誰もいなくなった宿屋の受付に入り、念のため空き部屋がないか確認を取る。


「あ、あの、もしかしてもう一つも空いてる部屋ってないんですか?」


「あ、あなたは!SSSランク冒険者のハク様ですよね!」


「え、ええ、まあそうですけど」


「でしたらスイートルームをお使いください。通常のお部屋は満室ですがスイートルームは空いていますので」


 ああ、なるほど。

 おそらくスイートルームは通常の部屋の何倍もの値段が取られるのであの冒険者たちも手が出せなかったんだろう。実際書かれている値段も恐ろしい値段表記だし。

 しかし今回もSSSランク冒険者ということで例によって通常価格での入室となるという冒険者ランク様様な現象が起きた。

 はっきり言ってここまでご都合展開が進まれると若干、あの冒険者たちに悪い気がしてしまう。

 一応今回はスイートルームということなので一部屋で大量の個室が設けられている関係上、一室だけの契約となった。

 するとここでルルンとじゃれているシーナが俺の後ろから顔を出し思いがけない一言を呟いてくる。


「す、すまない。できればその部屋に私も入れてくれないだろうか?」


「は?それはどういうことだよ?そもそもお前。こういう時って護衛とかつけるもんじゃないのか?一応騎士団長だろう」


 普通の冒険者パーティーであるイロアでさえ常に副リーダーであるごっつい男を連れていたのだ。シルヴィニクス王国の騎士団長様であれば護衛の一つや二つぐらいついていなければむしろおかしい。

 しかしその考えとは裏腹にシーナが発した言葉は俺の予想を完膚なきまでに破壊してくるものだった。


「そ、それは……。め、面倒だから置いてきた………」


「「「「「「「「え?」」」」」」」」


 シーナが発した言葉に俺たちパーティーは一瞬呆けてしまう。


「た、確かに私たち正規の軍隊は王城の中に部屋だって設けられているし、特段宿を使う必要はないのだが、あそこは男ばかりだし正直言ってむさ苦しい」


 おいおい、こいつついにぶっちゃけたぞ。

 できることなら近衛たちにこの言葉を聞かせてやりたいくらいだ。


「だから頼むハク君!私も君たちの部屋に入れてくれ!」




 てなわけで学園王国に着いて早々に出会った騎士団長様は、何故だか俺に泣きついてくるところから会話を始めたのだった。


冒頭でハクが言っているように第六章と第七章の間には一週間ほどの空白の期間があります。

それは「番外 ハリアキナ海港編」というお話としてプロットも出来上がっているのですが、それはこの作品が完結し余裕があれば書きたいと思っています。このお話は完全なギャグになってしまうので、少し雰囲気を崩すのではないかと思い省略させていただきます。

次回はいよいよ色々な面々が集まってきます!

誤字、脱字がありましたらお教えください!


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