第二百七十話 戦の前兆
今回で第六章は終了です!
では第二百七十話です!
結局俺たちは三十分ほど玉座の前にて昨日の出来事を国王とその家臣たちにつらつらと話していた。さすがにアリスと俺の過去や元の世界の話をするわけにもいかないのでその分は伏せたが、これから巻き起こるであろう戦争の話や勇者という戦力につては一通り話すことになったのだ。
その話を聞いたときは今まで必要以上に獣人族を差別してきた帝国が動き出すということで、獣国の面々は相当警戒を滲ませていたが事態には納得してようで落ち着いて話を進めていった。
さすがに距離や差別問題もあるので戦力を貸してくれることにはつながらなかったが、それでも応援はしているとのことだ。
で、俺たちはその部屋から立ち去るとシラとラミオがいるであるろう応接間に移動を開始していた。
「にしてもあの獣国の王、最後までマスターに対して無礼な態度を取っていたな。事態が事態なだけに見逃しているが、本来であれば血祭だぞ」
キラは眉間に皺を寄せながら先程の光景について口をとがらせて声を上げている。
いや、多分あれが普通だと思うよ……。
そもそも平民である俺がこうやって王城に入れていること自体がおかしいんだし……。
国王は俺たちがSSSランク冒険者やカリデラ君主、精霊女王だと認識しても一切その態度を変えることはせず接してきていた。国王であるためそれが当たり前で俺も特段気にしていないのだが、キラはどうやらそれに納得がいっていないようだ。
「まあまあ。別にいいんだよ。俺は確かに元の世界じゃ神に近い存在だったけど、そもそもまだ俺は人間で平民だ。威張り散らせるほど偉くはない」
「むう………。不服だ………」
それでもキラはどうにかして俺を立てようとしているようで、少しだけその姿を嬉しく思いながらさらに足を進めていく。
すると応接間の前には既にシラとラミオが俺たちを待っていたようでドアの前に立っていた。
「よう、そっちは終わったのか?」
「はい、お手数をおかけしました。私はもう大丈夫です」
一体何が大丈夫なのかは特段聞かなかったが、おそらくシラに中で気持ちの整理がついたのだろう。何と言っても一度は主従関係結び、婚約話にまで発展した騎士との別れだ。エリアたちの妄想を支援するわけではないが、つもる話もあっただろう。
とはいえ本人がこれで大丈夫と言っている以上俺はその言葉に頷いておくことにした。
「よし、なら少し早いがここで俺たちは帰らせてもらう。色々と世話になったな」
俺はそう呟くとラミオの方を振り向きながらそう呟いた。
話を聞けば王選の期間中シラの身の回りの世話をしていたのはこのラミオなのだとか。であればパーティーのリーダーとしてお礼の一つくらいは言わねばならない。
「いえ、私たちこそ本当にご迷惑をおかけしました。個人的にはハク殿と一度手合わせさせていただきたかったというが本音ですが」
「まあ、それはそのうちな。もっと暇なときに受けてやるさ。今はわかっていると思うがかなり事情が立て込んでいる」
「はい、承知しています。ですので体には気を付けてこれからの活躍をお祈りしております」
「ああ。それじゃあ、お前も頑張れよ」
俺はラミオに最後そう呟くとシラにもういいのか?という視線を流す。するとシラは俺の方を向きながら軽く頷いてきたので、そのまま転移を実行しこの王城から俺たちは立ち去った。
そして俺たちが転移で消えた後にラミオは一人でこう呟いていたのだという。
「私もいずれシラ様に認めてもらえるように強くなって見せます。それまでどうかお気をつけて」
俺たちが転移で移動してきたのはまたしても宿屋の部屋だった。
シラの一件が完全に決着したので俺の思考は完全に次への目的地に対して切り替わっている。
俺はそのまま無言で魔力を練り始めると念話でイロアに対して連絡を取り始めた。これからの動きを計画するためにはイロアたちとの打ち合わせは必要不可欠だ。一体どの程度の戦力が集まっていて俺たちは一体どこに向かえばいいのか。詳細な情報を知っておく必要がある。
この念話は一応みんなにも聞こえるような形で展開し魔力を流している。この戦いはもはや俺だけのもではない。つまりみんなの知恵を集めなければ突破できないだろうと思いこのような形態をとってるのだ。
するとすぐにイロアから念話の返答がかえってきた。
『ん?この魔力の波は、ハク君か。一体どうした?』
流れてくるイロアの魔力はかなり乱れているようで念話といえど馬の蹄が地面を蹴る音も聞こえてくる。
念話は基本的に心の声を使ってやり取りするものだが、それでも多少は外の環境の影響を受けてしまう。つまり平常心でいられる場合は別だが、そうでない場合は多少の雑音が混ざってしまうのだ。
で、その音から察するにどうやら馬車で移動している最中らしい。
「悪いな、移動中に。獣国で言っていた帝国との戦争の件に関してだ」
『ああ、なるほど、そういうことか。………こうやって連絡してくるということはやはり参加したくはない、ということか?』
イロアは俺の声に対して若干だが声のトーンを落としてそう呟いてくる。確かに俺は獣国を出る前にイロアに対して戦争に参加する気はない、と伝えてある。
だが今回はその意見を裏返した回答を持ってきているのだ。
「いや、その逆だ。俺たちもその戦争に参加しよう」
『ほ、本当か!』
その言葉を聞いた瞬間、イロアは今まで聞いたことがないくらい明るい声を俺に放ってきて嬉しそうな雰囲気を滲めせてくる。
おそらくイロアは今回の戦争に関して相当不安だったのだろう。俺たちによって勇者たちの強さは知らしめられている中で、その戦力と一戦やろうというのだ。いくらSSSランク冒険者といえど俺たちが苦戦してきている姿を見ていれば不安になるのもわからなくはない。
「で、その詳しい情報を教えろ。一体いつ、どの場所に俺たちは行けばいい?まさかと思うが帝国に現地集合なんて冗談は止めてくれよ?」
『そんなわけないだろう。一応だが既に他の国々の舞台は学園王国に集結し始めている。おそらく私たちが一番最後になるはずだ。とはいえ日時までは決まっていない。いつ帝国が動き出すかわからない以上、私たちも攻めるタイミングを決められていないのだ』
ああ、そうか。
イロア達は三週間後に帝国が攻めてくることを知らないのか。であればとりあえずこちらが新たに入手した情報を伝えるのがいいかもしれない。
そう判断した俺はその言葉を引き継ぐ形で話を続けていく。
「あー、それに関してなんだが、おそらくほぼ確定的と言っていい情報が流れてきたんだ」
『なんだと!?そ、それは本当か?』
「ではそれに関しては私が説明します」
するとここでシラがおもむろに声を上げてこの数日間で起きた出来事をイロアに話していった。それは帝国軍の動きや勇者たち、さらには騎士団と魔導師団の情報が含まれたものだった。移動しているイロアには申し訳ないがこのタイミングで話しておかないともう話す時間がないので、シラはそんな俺に意思に従うように情報を伝えていく。
一通りシラの話を聞き終えたイロアはそれを受けて重い口調で話を再開した。
『であれば帝国が攻めてくるのは今から三週間後ということか』
「そういうことだ。つまりその間に戦力と物資を完全に配備してしまう必要がある。その点は大丈夫なのか?」
『まあそれは問題ないだろう。さっきも言ったように私たちが最後に到着する形になる。そうだな、今から一週間後というところだろう。物資に関してもそれほど問題にはならない。今回我々が拠点とするのは学園王国だ。今まで帝国を抑止してきただけあって、その蓄えも十分だ。だから君たちもできれば私と同じタイミングくらいには学園王国に到着しておいてほしい』
この世界において戦争というのはあまり長続きするものではない。基本的に一日、ないし二日で幕を下ろす。その一番の理由は魔法と魔術だ。これらは大量の兵力を一瞬で奪っていく力がある。もちろん俺やSSSランク冒険者のように武器の扱いを人外クラスまで引き上げている場合は別だが、そうでない限り大抵の兵士はこの魔法と魔術によって沈んでしまうのだ。
よって物資というものも基本的に武器や防具、回復薬や魔力回復薬の類が多く食料というものは比率的に少ない。それは必然的に夜戦というものが行われないことを示しており、日中の戦いがメインとなってくることを意味している。
また今回は俺たちという一騎当千の集団が参加する。それは余計に戦争の終結を早めるはずだ。
「了解だ。ならばそれくらいの時期に着くようにしておく。ただ俺たちはあくまで勇者たちとアリスの相手をすることになる。それは理解しておいてほしい」
俺がアリスと戦うことを考えると、他のメンバーはその次に強力な勇者たちを相手にしなければならなくなる。すると必然的に騎士団や魔導師団には手が回らないのだ。
もちろん戦闘が早く終われば助太刀できるのだが、そう上手く話が進むとは限らない。
『わかっている。むしろ他の戦力は私たちに任せてほしい。それくらいやれなければSSSランク冒険者の名が廃る』
「よし、ならばまた一週間後に会おう」
『ああ。ではな』
そう言って俺とイロアの念話は途絶えた。
「ってことはもう出発するの?」
アリエスがその念話の終了と同時に問いかけてくる。正直言って転移を使えば一週間と言わずものの数秒で学園王国に行くことが出来るだろう。
しかし特段準備というものがない俺たちはそこまで急いでいく必要はない。まして戦争ムードで満々の学園王国に行けば間違いなくSSSランク冒険者の俺ははやし立てられるだろう。
それはあまり好ましい状況じゃない。
「まあ、今日中には出発するけど転移は使わずゆっくり行こう。さすがにここ数日忙しすぎたからな。翼の布の中で疲れを取りながら進めばいい」
「でしたら、さっそく出発の準備ですね!さあ、皆さん張り切っていきますよー!」
「だ、だから、そんなに急がなくても……」
「「「「「「「おー!!!」」」」」」」
何故だかエリアの元気はつらつな掛け声にパーティーメンバーのみんなは同じテンションで答えると、すぐさま宿の片づけを開始した。
どうやらメンバーのみんなは早く今までのような旅を始めたいようで、その顔は全て楽しそうなものに変わっていた。
まあこういうのもいいのかな、と思った俺は同じように部屋の片づけを開始しみんなの雰囲気に混ざる。
そしてそれが終了した俺たちは蔵の中から勢いよく飛び出した翼の布に乗って学園王国を目指し移動し始めたのだった。
だが今思えばここで引き返しておけばよかったのかもしれない。
この戦争は俺たちパーティーにとってとてつもなく大きなダメージを与えることになるのだが、このときの俺たちはそんなことを考えてもいなかったのだ。
とある時空の狭間。
そこに佇んでいる星神は自分の後ろに控えているアリスに対して問いかけるように口を開くと目線は前を向きながらこう呟いた。
「さて、ここまででお膳立ては終了だ。これからは僕も動くよ。なにせようやく『鍵』の場所がわかったんだ。あれさえ僕の手の中に入れば確実に全てが僕に味方する。ふふふ、次の戦はオナミス帝国だ。そこで僕も君の到来を待っているよ」
そして今、全ての陣営が激突する戦いが始まろうとしていた。
ようやく第六章が終了しました!この章は思っていたより長くなってしまい、もしかすると読者の皆様を退屈させてしまったかもしれません。ですがシラとシルという獣人族の二人にスポットを当てることができたお話で個人的には書いていてとても楽しかったです(笑)
そして次回からはついに第七章に突入します!
誤字、脱字がありましたらお教えください!




