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第二百六十九話 騎士とは

今回はシラとラミオがメインです!

では第二百六十九話です!

 アリス襲撃から一夜明け、翌日。

 俺たちは軽めの朝食を済ませすぐさま獣国ジェレラート王城に向かっていた。

 理由は昨日も話した通りシラの直属騎士であったラミオに会いに行くためだ。当然だがシラは王選から抜けたためラミオの直属騎士という称号は剥奪された。本来ならば直属騎士というのは一度任命されると生涯その主に付き従うものなのだが、シラに限っては今回の騒動が原因で例外的な措置が取られたのだ。

 ちなみに他の立候補者に関しては来年もう一度開催される正式な王選のために今から準備を始めているようで直属騎士と共に動き回っているようだ。

 まあ、今回は統制の檻というチート能力の合戦になってしまったので来年新たに王選を開催するというのは悪くない考えだろう。でなければ今年の立候補者の努力が浮かばれない。

 というわけで俺たちは昨日と同じように王城に向かっているわけだが、そこで俺はシラに一つ気になったことがあったので問いかけてみることにした。


「よくよく考えてみればラミオや国王ってこの国の相当高い地位にいる連中だよな?そんな奴らに会うのにアポなしで乗り込んで大丈夫なのか?」


「え、いまさらなの、ハクにぃ………」


 そこ声に真っ先に反応したのはアリエスであり、呆れた表情でこちらを見つめてくる。

 確かに今回の王選である程度俺たちの顔は割れているとはいえ相手は国王とトップ騎士だ。言い換えればシルヴィニクス王国のアトラス国王とシーナ騎士団長に会うことと同じ意味を持ってしまう。

 あちらは色々と打ち解けているのであまり問題はないが、この国に関してはシラの王選を妨害した張本人である俺たちを快くは思っていないはずだ。

 ゆえにアポなしで突撃するのはさすがにまずいのではと思っていたのだが。


「いえ、一度念話で声はかけてあります。いつ来ても問題ないそうです」


 あ、そ、そう………。

 シラからの直接念話であれば断ることなどできないだろうが、それでもアポが取れているなら万事どうにでもなるだろう。

 俺は自分の心配が杞憂に終わったことに胸を撫で下ろすと、そのまま昨日アリスが降り立った中央広場を抜け一直線に王城へ進む。

 やはりこの獣国という町は獣人族が活き活きと生活している場所のようだ。今までの旅の中でも獣人族の奴隷や難民たちには少なからず遭遇してきたが、そのどれもがこのような表情は浮かべていなかった。

 とはいえ奴隷で買われていればさすがにそれは俺たちが手を差し伸べられる領域を超えているし、難民たちにあっても多少の食糧を分けてやることしかできなかった。本音で言えば全員助けてやりたい気分なのだが、さすがに俺たちでもそこまでの余力はない。

 ゆえにこのように幸せそうな獣人族の姿を見てしまうと、この国の外にいる獣人族が妙に可哀想になってしまうのだ。

 するとそんな俺の心を見透かすようにシラがさらに言葉を紡いできた。


「それは仕方のないことです。私も救えるならば自分の同胞の方たちを救いたいですが、これは獣人族の差別問題がなくならないことにはどうしようもないことなんですよ。助けても助けても救援を求める声はなくなりません。完全な鼬ごっこです。ですから、私の統制の檻を使用して獣国を拡大させ差別問題を消してしまおうという国王の考えもわからなくはないんです。ですが、私は私の人生を優先しました。それがいいのか悪いのかはまだわかっていませんが、それでも自分の気持ちに正直になれたと思っています」


「……………そうか」


 俺はシラの言葉に短くそう答えると、俺はそれ以上そのことについては考えないようにした。

 おそらくこれ以上踏み込んでしまうとそれこそ思考の渦に浸かってしまう。恒久的平和というものは絶対にありえない。生物が存在している限り何かしらのいがみ合いは起きてしまうものだ。

 であれば自分の幸せは自分でつかめばいいのかもしれない、俺は少しだけそう思ってしまった。

 と、そのようなことを考えているうちに王城の前に俺たちはたどり着いていた。

 王門の前には数日前にも目撃したラミオが俺たちの来訪を今か今かと持っているようだ。

 ラミオは俺たちの姿を発見するとすぐさま頭を九十度に曲げ、美しすぎるお辞儀を慣行してくる。


「お待ちしておりました、シラ様。皆さまお揃いで何よりです」


 がはっー!やっぱりイケメンは違うねー!俺がこんなセリフはいたら気持ち悪すぎて全員吐いちゃうよ。いや、まじで。

 それはキラキラと輝いている騎士様の姿をこれでもかというくらい眺めていたのだが、そこに元主であるシラが一歩前に進み出た。


「ええ。あなたも元気そうで何よりです。一応連絡はしておいたはずですが、部屋の用意はできていますか?」


 シラは以前とは違いラミオに対して丁寧な言葉遣いで話しかけていく。おそらくシラ自身もラミオを自分の騎士とは見ていないのだろう。王選が終了したことへの一種のけじめなのかもしれない。


「はい、それは問題ありません。ですがそれに移る前に、ハク殿。できれば昨日の広場での件を説明してほしいと陛下が仰られているのですが………」


「わかった。なら俺たちは今すぐに国王のところに行こう。二人はゆっくり話しているといい」


 するとそんな俺の言葉に続くようにメンバーたちが次々に声を上げていった。


「シラ!ファイトですよ!私たちがいない間に決めてしまうんです!」


「ふふんー、シラちゃんも熱いねー。私たちは大人しく退散するから羽目を外さないように頑張るんだよー」


「結果報告楽しみにしているぞ、シラ」


「頑張ってきないさい、シラ。私たちも応援してるわよ」


 しかしその言葉は何故だか俺とシラの考えからはずれているようで、冷静を保っていたシラの顔を真っ赤に染め上げた。


「ちょっとおおお!?何を言ってるんですかあなた達は!!!いい加減そのくだらない妄想を捨てないさい!」


 そしてさらにアリエスとシルがよく事情を理解していない表情を浮かべたままシラに声をかける。


「よ、よくわからないけど頑張って、シラ姉!」


「そうです!何事にも全力で、ですよ姉さん!」


「だがら違っうううううううううううう!!!」


 というわけでシラの珍しい絶叫が轟いたところで俺たちとシラは一度別れ別々の部屋へと進んでいくのだった。









 場所は変わり、王城何の応接間。

 そこには二つの紅茶を囲むようにシラとラミオが向かい合っていた。


「まったくあの人たちは、人をからかいすぎよ………」


「ははは、いいではありませんか。先程のシラ様は王選が開かれていたときよりもいい笑顔をしていましたよ?」


「ま、まあそれは確かにそうかもしれないけど……」


 ラミオは普段は見ることが出来ないシラの反応を眺め見ながら紅茶を一口すすると、シラに向き直り話を進めていく。


「で、私に何か御用とのことでしたが何かございましたか?」


 その言葉にシラも一度紅茶を口に含むと、今までラミオに当てていた口調で口を動かしていく。


「そうね。初めに一つ謝らせてほしいわ。ラミオ、本当にごめんなさい。私は自分の身勝手な願望のためにあなたに酷なことを押し付けたわ。謝って済む問題じゃないけど、一度頭を下げてさせて」


 シラはそう言うと紅茶を一度テーブルの上に置き、座ったまま頭を静かに下げる。ラミオはその光景を見た瞬間、慌てて止めようとしたのだが、シラから発せられている真剣な雰囲気に当てられると黙ってそれを見つめることにした。

 仮にも元主が頭を下げるというのは誠実なラミオにとって受け入れられることではなかったが、それがシラの望みなんだとすれば納得することも自分の責務だろうと無理矢理飲み込んだ。

 シラは十秒ほどしっかりと頭を下げた後、普段と変わらない表情で顔を上げ元の態勢に戻る。


「とまあ、私がここに来た目的はこれが全てよ。後はハク様たちが戻ってくるまで話でもしていましょう。王選の時はろくに会話なんてできなかったから」


「そうですね。あの時のシラ様は本当に怖かったです」


「それ、女性に言う言葉じゃないわよ?」


「シラ様だから言ってるんですよ。他の女性には言いません」


 その返答に最初はムッとしたシラだったが、削ぐにその顔を笑顔に変えると自然な笑い声をあげ話を続けていく。


「ふふふ、あなた本当に女たらしね。将来が心配だわ」


「な!?そ、それはシラ様にだけは言われたくありません!いくら王選のためとはいえ私との婚約を作戦に組み込むなど正気の沙汰じゃありませんよ」


 ラミオも笑いながらそう呟くとシラの言葉に対して優しい声で反論していく。

 おそらくまだこの二人の間には主従関係というものがかすかに残っている。ゆえに敬語も使うしお互いを認めている。だからこそこのような初々しい会話が展開されるのだ。


「でも、あなたも私との婚約がなくなったんだから早く新しい相手を見つけなさい?あなたの容姿と性格なら問題はなさそうだけど」


「そ、そうですね。確かに私も結婚はしたいと思っていますし、早めに見つける努力はしていきたいです」


「あら、なんだか不満そうね。もしかして私と本当に結婚したかった?」


「な!?そ、そんなことは……。シラ様は私の主ですしそんなシラ様と結婚など……」


「それは逆に傷ついちゃうわね。私ってそんなに魅力ないかしら?」


 シラいたずらっぽくラミオにそう笑いかけると、メイド服ながらもできるだけ色っぽさを出しながらそう呟いた。


「い、いえ!そういうことではなくて……」


 慌てふためくラミオはいつもとは正反対の弱弱しい声を上げながらシラの言葉に反応を示していく。

 しかしシラはそんなラミオを一瞥すると柔和な表情を浮かべ切り返すような台詞を呟いていく。


「冗談よ。からかって悪かったわ」


「本当にやめてください……。心臓が何個あっても足りませんよ……」


「ふーん、ってことはあなた、多少は私のこと意識してたみたいね」


「し、シラ様!?」


 顔を真っ赤に染めてしまうラミオをシラは手で制して一度落ち着ける。パーティーの中では舵を握られっぱなしのシラだが、ラミオ相手では逆に主導権を奪うことが出来るらしい。


「そうねー。あなたもおそらく気づいているだろうけど、今の私はハク様しか見えていないわ。それこそメイドとしては許されないことだけど恋愛対象として考えている。だから、ラミオ。もし私を娶りたいんだったらもっと強くなりなさい。そして私を見返してみること。それが条件ね」


「シラ様………」


 シラは柔らかな声でそう呟くともう一度紅茶を口に含み、口の中に茶葉の香りを香らせる。

 今の言葉がラミオにどう響いたのかはわからないが、それでもシラの言葉にも嘘はない。ラミオがハクを超える男になればシラはラミオに付いていってもいいと思っているのだ。はたしてそれが何年先になるのかはわからないが、少しでもラミオの目標になればいいとシラは考えていた。

 シラはその後ラミオを自分の傍に手を使って呼び寄せると、その耳元に口を引き寄せ小さな声でこう呟いた。


「国王に私の意思を尊重するように進言したときのあなた、格好よかったわよ」


「ッ!」


 シラはラミオにそう問いかけるとそのままラミオの頬に軽く唇をつけ、いたずらな笑みを浮かべる。


「まあ、これは今まで私に尽くしてくれたご褒美ってことで」


 そんなシラの動きにしどろもどろになっているラミオは顔をさらに赤く染めるとそのままぼやくように言葉を呟く。


「本当に困ったお方ですね、シラ様は………」




 こうして一時的に主従関係を結んだ獣人族の二人の物語はここで幕を下ろした。

 はたしてラミオがシラを見返す日が来るのかは、まだ誰も知らない。

 ただ間違いなくラミオにとって今後の大きな目標になったことは確かだろう。


メンバーの前では動揺しっぱなしのシラですがラミオを前にすると途端に大胆になりましたね(笑)

もしかすればそれこそがあの二人の主従関係というものなのかもしれません。

次回はついに第六章最終話です!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

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