第二百六十四話 仲間
今回はハクが少し脆い部分を見せます!
ハクが抱えてきたものの一端が垣間見える回です!
では第二百六十四話です!
体の気怠さとよくわからない重さから俺は目を覚ました。
どうやら俺が寝ていたのは今まで止まっていた宿のようでその天井は何度も見かけたことがある。差し込んでくる光は既に赤く染まっており、気温もむせ返るような暑さではなく肌寒くなってきていた。
なぜ俺はこの部屋で寝ていたのか。
その理由は何となくわかっている。
アリスが俺の前に現れたとき、俺は碌にアリスと戦うことが出来なかった。当然それは妃の器の影響もあるのだが、俺の意思がアリスを攻撃したがらなかったのだ。
結局そんな俺を見かねたリアがもう一人の俺を表層に引きずり出しアリスを撃退したのだ。その中で話されていた会話は俺にも聞こえていたし、これからどうしなければいけないかということも大体頭に入っている。
俺はそれを出来るだけはやく頭の中にまとめると、半開きだった目を大きく開けベッドから体を起こす。
するとそんな俺に向かって耳によく響いてくる声が聞こえてきた。
「あ!ハクにぃ!気が付いたの?」
そこにはアリエスをはじめとする俺のパーティーメンバーの姿があり、全員が心配そうな顔で俺を見ていた。
アリスの登場によってみんな気を失って相当なダメージを受けていたはずだが、どうやら無事のようだ。
俺は真っ先に俺に駆け寄ってきたアリエスの頭をいつも通り撫でると、出来るだけ小さな声で語り掛けた。
「ごめん、情けないところみせちゃったな」
アリエスたちは気絶していたため俺がアリスに対して動揺している姿は見られていないが、それでも俺が寝ている間にリアが一通りの説明はしているはずだ。ゆえに俺はそれを見越してこのような言葉をかけたのである。
「ううん。そんなことないよ。だって、あの人は………アリスさんは、ハクにぃの世界にいた人なんでしょ?」
「え!?な、なんでそれを………」
確かにリアはアリエスたちが気を失っていた時間のことは話したと考えていたが、元の世界のことなんて言っていないはずだ。
そもそも俺とリアは元の世界のことは極力伏せておこうという約束になっていたのだ。神核や星神は俺が違う世界からやってきたことを知っているがアリエスたちは当然ながらそんなことは思いもしていない。それにいきなりこことは違う世界があるなんて話したところで信じてもらえるわけがない。
というわけで俺とリアはアリエスたちパーティーメンバーであってもその話はしないようにしていたのだ。
しかしどういうわけかアリエスの今の口ぶりは俺たちの世界のことを理解しているような発言だ。
これ一体どういうことだ?
するとその答えは俺をアリスとの戦闘から無理矢理引き離したリアが回答してくる。
『私が話したのじゃ。仮にもあのアリスがこの世界で主様を襲ってきたのだ。私たちの世界のことを抜きにして話せるわけがなかろう。まあ、主様との約束を破ってしまったわけじゃし、申し訳ないとは思っているが……』
なるほど、そういうことか。
であればアリエスたちは俺たちの世界、さらには真話大戦のことも知っているのだろう。
俺は声が段々小さくなっていくリアに向かって話しかける。
「別に気にすることじゃないさ。いずれ話さないといけないと思ってたことだ。それがアリスの訪れた今日だったというだけだよ」
ただ俺はその事実が明るみになった以上、確認しておかなければいけないことがあった。
「ってことはみんな俺とリアの過去を知っているわけだが、それを聞いてどう思った?軽蔑するか?」
リアがアリス絡みの話をしたということは当然俺がアリスを殺した話も伝わっているはずだ。あれだけ人を殺すなと言ってきた人間が自分は殺していましたなんて事実を聞けば嫌悪を抱かれてもおかしくはない。最悪パーティーを抜けることだってあるだろう。
俺が発した言葉にはなぜかみんなしばらく無言のままで返答を返してくる気配はない。
ああ、やっぱりか。
こうなることがわかってたから今まで話したくなかったんだ。まあ隠しようのない過去だから今さら後悔もなにもないのだが、やはりこのような反応をされてしまうとさすがにきつい。
俺は最悪パーティーの解散も考えながら自分の手を見るように俯く。
しかしその瞬間、俺の予想をかき消すように一人の少女の声が部屋の中に響き渡った。
「ハク様。さすがにそれは私たちを見くびりすぎです。勝手にハク様の下を離れた私が言えることではありませんが、その程度のことでハク様を軽蔑したりすることはありません」
シラは立ち上がりながらそう言うと、その言葉を受け渡すかのようにシルに視線を向ける。
「その通りです!ハク様がハク様の世界で何をやってきたのか、というのは私たちもさすがに驚きましたがそれで私たちがハク様の下を離れることなんてありません。むしろ尊敬します。ハク様はそのアリスさんという方を必死に救おうと戦い続けたんです。褒められることはあっても貶されることなんてありません」
「シラ………。シル………」
さらに続けてエリアとルルンが口を開く。
「というか、ハク様もシラのことは言えませんよ?自分の過去に囚われて一人で悩んで、挙句の果てにアリスさんに出会ったら一人で空回りしてるんです。少しくらい私たちに相談してくれてもいいじゃないですか!」
「そうそう、君は何でも一人で抱え込みすぎなんだよー。パーティーのリーダーだから仕方がないけど、それで回りが見えなくなるのは絶対にダメだ。私たちはその真話大戦?でハク君がしてきたことを責めはしないし、咎めもしない。君は常に正しい道を歩いてる。だけどそれがその時はアリスちゃんを殺すという選択肢を導き出したんだ。そうせざるを得ない状況に追い込まれた以上、私たちに君を侮辱する権限はないよー」
「エリア………。ルルン………」
そして俺と同じく世界のイレギュラーと呼ばれている最強の二人もその言葉に続いた。
「まあ実を言うと妾は一度マスターの記憶を覗いているがゆえに、その過去は大体知っていた。だから今さら軽蔑だの愚行などするつもりはない。妾のマスターはマスターだけだ。その事実は何があっても変わらんさ」
「私を外の世界に連れ出してくれたのはハク、あなたよ。そのハクに何があっても私はずっとそばにいるわ。だからそんな悲しいことは言わないでね」
「キラ………。サシリ………」
最後は俺の撫でていた手をしっかりと両手で包み込んでくるアリエスが声を上げる。
「だから私たちはずっとハクにぃの近くにいるから!困ったときはいつでも頼ってね!」
アリエスは俺の戸惑っている顔を夕日と同じくらい明るい笑顔を浮かべてながらそう呟いた。
その顔はどこか真話大戦最後のアリスの表情に似ていてすごく胸を締め付けられてしまう。
いや、今のアリエスだけではない。仲間全員の気持ちが今の俺の心に突き刺さっている。今までずっとひた隠しにしてきた過去は、俺の中では絶対に口にできない穢れたものだった。アリスを助けようとして参戦した真話大戦そのアリスの死によって幕を下ろす。しかもそのアリスを消し去ったのは紛れもないこの俺だ。
そんなことを話せるはずもない、そう思っていた。
だがそれが伝えられた今、アリエスたちは俺を囲むように温かい笑顔を向けてくれている。
ああ、これが仲間なのか。
俺は率直にそう思ってしまった。このことは俺とリア、さらに実の妹しか知らない。しかしそれは今こうやってアリエスたちに伝えられ仲間として温かい言葉をかけてくれている。
そのぬくもりを知った瞬間、俺の両目から何やら生暖かい液体が零れ落ちた。
「あ!ハク様、泣いてますね?これは貴重な場面です!なんとしてでも記憶に留めておかなければ!」
エリアはそんな俺の姿を発見するとすぐさま俺の下に接近してくる。俺は空いている左手でそのエリアの顔を押し返すように掴み言葉を吐きだす。
「ば、馬鹿か。な、泣いてるわけないだろ………。こ、これは何かの間違いだ……」
しかしそんな言葉とは裏腹に洪水のごとく俺の目からは涙が溢れ出てくる。
それは今まで俺がため込んでいた感情であり後悔であり人生でもあった。そんなリーダーとして情けない姿をメンバーたちは俺が落ち着くまで見守ってくれてたのであった。
こうして俺がアリエスたちにひた隠しにしてきた元の世界の出来事はパーティー内で共有された。それは俺の後悔が滲んだものであったが、メンバーは温かくそれを受け入れ俺を包み込んでくれたのだった。
それから約十分ほど経過し、俺たちは今後について話し合いを始めていた。
俺の目はまだ赤く腫れあがっているが、それでも会話に支障はない。ゆえに少しだけ重たい頭を振りながら話し合いを開始した。
のだが。
ここでアリエスからとんでもない一言が飛び出してきた。
「そ、それでねハクにぃ。ハクにぃは…………アリスさんの、こと………好きなの?」
「ブッーーーーーーーーーーーー!?」
「「「「「「え?」」」」」」
俺はそのいきなりすぎる質問に対してシラが差し出してくれた水を吐き出してしまう。どうやら驚いているのは他のメンバー全員のようで目を丸くして固まってしまっている。
「いやいやいや!どうしてそんな言葉が出てくるんだよ!?」
「だって、ハクにぃは真話大戦の時ずっとアリスさんと一緒にいたんでしょ?そういう感情もあってもおかしくないなあーって」
アリエスは俺に対して赤い顔を向けながらそう呟いてくる。
おいおいおい!これは一体どういう状況だ!?
確かに俺はアリスにもう一度会いたいという感情はあっても恋愛感情は抱いていない。アリスは女性として色っぽいしスタイルもいいし、刺激されないわけではないが好きかと言われるとまた微妙なところだ。
もちろん人間的には好ましいと思っているし、友達として好感は抱いている。
とはいえそれが恋愛感情かというと少し違う気がするのだ。
するとそんなアリエスの爆弾発言を聞いていた他のメンバーがこそこそと小さな声で話し始める。
『な、なかなか思い切った質問をしますね、アリエスも……』
『そ、そうだね。さすがに私もそれは思ってても口にしなかったのに……』
『むう……。妾も気になっていたが、アリエスほどの勇気はなかった……』
『で、でも単純に気になるわよね……』
『え、ええ。しかしハク様のあの顔はまんざらでもなさそうな顔をしてるわ………』
『姉さん………。顔が赤いですよ?』
「おい、お前ら聞こえてるぞ」
俺は冷静にその妄想連中に声を放つ。しかしアリエスはそんな言葉など聞こえていないようで、さらに俺に詰め寄ってくると真剣な表情で問いただしてくる。
「で、どうなのハクにぃ!」
「いやだから、アリスに対して友達としての好感はあるけど、恋愛対象としては見てない!そもそも昨日まで死んだと思ってたんだぞ。それを好きになんかなれるか」
するとアリエスは何故だか、妙に嬉しそうな表情をしながら俺の体から自分の体を離す。
「そ、そっか……。なら、別にいいの……。だったら私もまだゴニョニョ………」
「うん?なんだって?」
俺はアリエスが話している声が聞こえなくなってしまい思わず聞き直してしまう。
「な、何でもないよ!そうそう、これからの動きについて話し合うんだよね!そうしよう、そうしよう!」
とりあえずよくわからない反応をするアリエスの言葉に頷くように俺は話し合いを進めていく。
「てなわけで、これからのことを決めていくわけだが」
俺がそう呟くとそのタイミングを窺っていたかのようにリアが再び口を開いてくる。
『主様、わかっていると思うが、あやつが主様に話があると言っておったぞ?』
「ああ。だからそれからけりをつけようと思う」
もう一人の俺は俺に人格を譲る際に話があると残して消えていったのだ。思えば数日前に見たアリスの夢でも近いうちにアリスが現れると予言していた。
そしてそれは完全に現実のものとなり今日、そのアリスが姿を現した。
であればその夢にてもう一つ語られていたもう一人の人格との対話もやったほうがいいのかもしれないと思ったのだ。
このタイミングでそのような夢を見ること自体なにかあるのかもしれないし、俺もそろそろあいつとは決着をつけないといけないと思っていたところでもある。
「え、ハクにぃ、あの人に会うの?」
アリエスはそんな俺の言葉に反応するようにそう呟いてくる。アリエスはエルヴィニア秘境での一件以来もう一人の俺を毛嫌いしている。ゆえに今は俺のことを心配しているのだろう。
俺はアリエスの顔に出来るだけ優しく微笑むとそのまま喋りだす。
「まあ、あいつとはいずれ話さないといけないと思っていたし、そのタイミングが今というなら受け入れるしかないだろう」
「本当に大丈夫なのか?」
さらにキラが怪訝そうな表情を向けて言葉を放ってくる。
「どうにかなるさ。仮に俺が消えそうになってもリアがどうにかしてくれる」
『うむ、任せておくのじゃ!』
俺はそのリアの声を聞き届けると、中にいるであろうあいつの下へ行くために目を閉じ意識を集中していく。
「じゃあ、少し話してくるよ」
その言葉は部屋に響き渡り俺の意識を置く深くへ沈めていくのだった。
たどり着いたその場所はいつもの夢のような空間で辺り全てが黒色の世界で、上も下もわからない空間だった。
だが今回は足をつける地面がある。
ゆえに空間の上下は設定されているようで、足の裏に確かな硬い感触をはじき返してきているようだ。
するとその空間の中心に自分とまったく同じ容姿の青年が俺を到来を待っていた。
「ふん、さっきよりはマシな顔になったみたいだな」
そしてこれより、俺という人間の過去が紐解かれていくのだった。
ハクが真話大戦を経て抱え込んでしまった感情というのは、今までのハクを苦しめてきたのだと考えています。それが今回打ち明けられることによって少しだけその肩の荷が軽くなり、また前に進んでいくのです。
主人公は葛藤し時に悩み成長する。実力が最強であるハクもそれには当てはまると思って今回のお話を書かせていただけました。
次回はついに凶暴なハクの正体が判明します!
誤字、脱字がありましたらお教えください!




