第二百六十一話 ありえない再会、二
今回はアリスがなぜこの世界に生きているのか、ということが語られます!
では第二百六十一話です!
体を二つに両断された痛みを何とかこらえながら俺はそのフードの下に隠された顔を凝視していた。誰もが見とれてしまうであろうその顔は俺の心に衝撃と爆弾の二つを置き空間に漂っている。
「信じられないって顔しているね。無理もないか。ハクは私を気配殺しで完全に消滅させたんだもの。その絶対が覆れば誰だって目をまるくちゃう」
俺はそんなありえない言葉を吐きだすアリスの姿を見ながらとりあえず自分の傷を塞ぐために神妃化を実行し事象の生成を使おうとする。
だが。
「あー、ダメだよ。せっかくハクの苦しんでる姿を見られるんだから、動かないでね?」
「な、何を………ガハァッ!?」
アリスはそう言うと神妃化した俺の体の中に自分の腕を突っ込み、内臓をえぐっていく。
「ぎゃああああああああああああああああ!?」
足がない以上、その攻撃を逃れる手段は俺にはない。
まるで熱湯でも被ったかのような熱さと痛みが俺の体を駆け巡った。
「ふふ、私が受けた痛みはこんなもんじゃないんだから、もっと苦しませてあげるね?」
な、なにが起きているんだ………。
アリスがなぜこの世界にいる?そもそも何で生きて俺の前に立っている?
気配殺しで俺は確かにアリスを殺した。それは間違いない。なのにどうして………。
すると思考の渦に入り込もうとしていた俺を相棒のリアが叩き起こした。
『馬鹿者!さっさと傷を治さんか!!!このままだと本当に死んでしまうぞ!』
「ぐっ!」
俺はその言葉に意識を取り戻すと、そのまま事象の生成を使用し体を完全回復させた。体さえ復活してしまえば如何様にも対抗はできる。できるのだが……。
「へえー。私の力も奪って完全な神妃になったらそういうことも出来るんだ。本当に強いんだね、今のハクは」
「お、お前は………、本当にアリスなのか……?」
俺はアリスが発生させた力によって気を失ってしまっているメンバーたちを見ながらそう呟く。先程のアリスが生じさせた力は戦闘態勢に入ったキラやサシリさえも無力化させてしまうほどの力のようで、パーティーメンバー全員が動けなくなってしまっている。
「ええ。それはハクの気配探知が証明しているでしょう?」
俺はそう言われたので咄嗟に気配探知を使用してみる。するとその言葉通り、真話大戦で何度も感じたことのあるアリスの気配が俺の目の前にはあった。
だがそれでも俺はその光景を信じることができない。
「な、なんでお前が生きている…………?俺はお前を消したはずだ………」
「うん、消されたよ。それこそ跡形もなく粉々にね。でも私は今こうやってハクの前に立っている。それは何があっても揺るがないでしょ?」
キラと戦ったときもアリスは俺の前に姿を現した。だがあれはあくまでも俺の記憶をキラが具現化しただけにすぎない。
だが、今俺の前に立っているこのアリスは気配も姿も全てが完璧なアリスだ。もはや疑う余地などない。
しかし俺の中にいるリアは俺とはまた違う見解を示していた。
『確かに気配と肉体はどういうわけかアリスのようじゃ。だが、中に入っているものは若干だが違う雰囲気が混ざっておる。主様、わかっていると思うがここは非情になれよ?』
「あ、ああ」
するとその声を聞いていたアリスが何かに感心したような声を上げてリアに話しかけてきた。
「なるほど。諸悪の根源である神妃さんはハクの中にいるのね。私はあなたにも色々と恨みがあるんだけど」
『ぬかせ。確かに本物のアリスには恨まれることはあっても貴様のような得体の知れない偽物に恨まれる筋合いはない。いい加減正体を現したらどうじゃ?』
「ふふ、馬鹿ねえ。私はアリス本人だもの。どうしても信じることができないっていうなら、見せてあげる」
「な、何を……」
俺がその言葉に問いかけようとした瞬間、アリスの体からこの世界には存在しない力が浮かび上がった。それはアリスの体を取り巻くように拡大していき、青い光を発していく。
「ま、まさか……これは!」
「姫の嘲笑」
『二妃の力か!』
瞬間、中央広場を一瞬にして瓦解させる規模の攻撃が放たれた。それはかつてアリスが真話大戦の時に何度も十二階神に放った技であり、神妃の力を受け継いでいる二妃にしか使用が許されていない攻撃だった。
俺は咄嗟に気配創造で作り出した刃を大量に用意し、その攻撃にぶつける。するとさすがに神妃の力をフルで使える俺の方に分があるようでアリスが使った二妃の力は呆気なく消滅した。
「やっぱり私の力を奪っただけあってこの程度じゃ効かないか。でもこれならどうかな?」
「まて!お、俺は別にお前と戦いたいわけじゃ………」
「姫の談笑」
その力は巨大なオーロラのようなものを獣国の空に広げるように展開され、そこから大量の鎌鼬と稲妻が俺に向かって落とされてきた。これもアリスが使っていたものだが、威力がはっきり言って桁違いに強い。
しかし今の俺に通用する攻撃ではない。
俺は絶離剣を引き抜きそのすべてを打ち落としていく。
だがここまで戦って一つ分かったことがある。こいつは間違いなくアリスだ。この力の波動といい力の遣い方といい、その全てがあの時と同じなのだ。
だがそう考えるとおかしな点が大量に出てくる。そもそも気配殺しで消したはずのアリスがなぜ生き返っているのかという点は既におかしいのだが、その他にもこの二妃の力を扱えるということがもっとおかしい。
元々俺の中にはアリスではない二妃の力が宿っていた。それこそが神妃であるリアの意識を覚醒させ、俺の力の根源となっている。さらに俺が真話大戦の最後にアリスを殺したことによってアリスの中に宿っていた二妃の力も俺の中に入ったのだ。
これにより俺は完全な神妃の力を扱えるわけである。
なのに今俺の目の前にいるアリスはその二妃を力を使ってきているのだ。
俺は震える声でアリスに向かって自分の疑問を呟いていく。
「ど、どうして、お前は俺を襲うんだ…………?」
「どうして?何をいまさら。そんなこと決まってるでしょ?ハクが私を殺したからよ。今はこうして生きているけど、あの時私は間違いなくハクに殺された。それを恨むのは人間として当然じゃない」
それは俺も恨まれて仕方のないことだと思っていた。
いくら世界を救うためとはいえ俺は自分の力でアリスという少女の人生を潰したのだ。それこそ今回王選で国王がシラの人生を贄にしようとしていたように。
だからこそ俺はこの世界に来ても人間を極力殺さないようにしてきた。最初こそ盗賊たちを殺そうとしたことはあったが、それでも極力命を奪わないように心掛けてきたのだ。
それは俺の中でのアリスに対しての償いでありケジメだった。
いかに強力な力を持っていても俺はアリスという一人の少女を救うことが出来なかった。それは神妃の力をもってしても覆らなかったもので、命の尊さをその一件で思い知ってしまったのだ。
「だ、だから、俺を、殺すのか………?」
「そうかな。でもまあ、オルナミリス様に命じられたのもあるけどね」
「お、オルナミリスだと!?」
ここで唐突に飛んできた一人の神の名前に俺は思考が完全に追い付かなくなった。
なぜこのタイミングで星神が出てくる?
元の世界の住民であるはずのアリスが異世界の神である星神と繋がっているはずがない!
だがその解答はリアの口から語られることとなる。
『なるほどな。アリス、お前は星神によって肉体を作り直されたのだな。主様の気配殺しを受けてしまえば私であっても再生できない。ゆえに一からその肉体を作り直したということなのじゃろう?さらに言えばお前ほど主様を殺すのに最適な人物はいない。ゆえに星神は私の世界の記憶を覗いた。そして二妃の力までもを再現し、お前に宿した。違うか?』
「さすがは神妃というところかな。まったくの正解だよ。私はオルナミリス様によってもう一度生を受けた。だからこの命もオルナミリス様に使うの。だから手始めにハク、あなたを殺すのよ」
瞬間、アリスの姿が掻き消えたと思うと俺の転移よりも速いスピードで背後に移動し二妃の力が纏わりついた手刀を繰り出してきた。
「ぐっ!?」
俺はその攻撃をただ受けることしかできない。反撃という文字は今の俺には浮かんでこなかった。
あれほど恋焦がれた存在が目の前にいるのだ。そんな存在に攻撃など出来るはずがない。
だがそれでもアリスの攻撃は止むことがなく続いていく。
確実に俺の肉と骨を削り体力を奪っていった。
『主様!わかっておるな!主様は妃の器である以上、アリスに攻撃するには相当重たいリミッターを打ち破らなければいけない!長引かせるとこちらが不利になっていくぞ!』
わかってる、わかってるさ!
でもあのアリスが目の前にいるんだ!傷けられるはずがないだろう!
俺は何度あの気配殺しを使用したことを後悔したと思ってるんだ!今の俺なら他の手段だって考えられるかもしれない。仮にそうでなかったとしてもアリスをまた殺すことなんて俺にはできない!
「ふふふ、ハク、あなたやっぱりまだまだ甘いね」
「な、なに?」
「今、ハクは私を殺さずに無力化しようと考えている。妃の器のせいで満足に動かせない体を使いながら」
妃の器は俺に気配探知、気配創造、気配殺しの三つの能力を宿させる代わりに二妃という存在を傷つけられない制限が掛かっているのだ。当然今の俺は完全な神妃と同じ力を持っているのでその制限も大分軽くなっているが、それでも全力は出すことが出来ない。
「だけど、今はそれが命取りだよ」
アリスはそう呟くと俺の鳩尾に向かってかつて受けたことのないほど重い拳を打ち込んできた。
「がああっっっ!?」
胃の中に入っている胃液をすべて吐き出すかのように口から血と胃酸をこぼしてしまう。
星神に二妃の力を再現されているとはいえ、この力ははっきり言って異常だ。仮にも神妃化している俺をここまで圧倒してくるというのは元の世界にいたころのアリスでは不可能なレベルに到達している。
俺はその後も出来るだけアリスに対して攻撃を加えないようにしながら、体力を削っていく。
しかしそんなときその光景を見かねたリアが俺の中で暴れまわるように力を発動すると、いきなり俺の意識を乗っ取り何かをやり始めた。
いや、この感覚は俺も知っている。
第一ダンジョン、エルヴィニア秘境で感じたあの感覚だ。
「おい、待て!リア、勝手なことをするんじゃ………」
『すまんのう、主様。今の主様は見ておれんかった………』
その言葉と同時に俺は体の主導権を失い、意識は完全な闇へと沈んでいった。
そして俺の代わりに表層に出てきたのは。
「言っておくが、俺だってこのクソ女の相手をするのは嫌いなんだからな。まああいつと違って腸が煮えくり返りそうなほどの恨みは抱えているが」
それは気配殺しから漏れ出てきているもう一人の俺で、今まで見てきた中でも一番憎悪を滲めせている表情で登場したのだった。
こうして星神が復活させたアリスともう一人の俺の戦いが幕を開ける。
次回は凶暴なハクとアリスの戦いです!
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