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第二百五十七話 王選六日目、四

今回で王選に関係する一連のお話は終了です!

では第二百五十七話です!

「な、なんで………」


「ん?」


「なんでハク様は私の邪魔ばかりするんですか!!!」


 俺がその奴隷契約書をシラに突きつけるとシラはいきなり両目に大粒の涙を浮かべながら俺にそう叫んできた。頬は上気し方もわなわなと震えている。滴る涙はこの部屋に敷かれている絨毯を濡らしいくつもの染みを作り出していった。


「私だって何も考えなかったわけじゃないんです!考えて考えて、それでもシラとハク様たちを巻き込まない方法はないか模索して、そしてたどり着いたのがこの結果なんです!本音を言えば私だってハク様たちの下から離れたくなかった!で、でも私は、獣人族で罪を犯したミルリス一族の血を引いていてシルの姉でハク様のメイドだから、できるだけ迷惑の掛からない方法を探したんです!…………そ、それなのに。それなのに!どうしてハク様は獣国に自らやってくるだけでなくシルを王選に参加させ私の目的を阻むんですか!!!」


 シラはこの部屋全体に轟くような声を上げるとその場で膝をついてしまう。泣き崩れるようなその姿を見ている俺たちは誰一人として声をかけることは出来なかった。

 いや、かけられないの間違いだ。

 パーティーのリーダーである俺はもちろん、アリエスたちもシラの秘めている悩みに気が付けなかったという気持ちがそれを阻止していたのだ。俺とてシルからミルリス一族の話を聞くまではまったくその話を知りもしなかった。ゆえにシラの気持ちに気づけてさえいればもっと寄り添うことが出来たかもしれないと思ってしまったのだ。

 だがそれでも俺はパーティーのリーダーとしてシラの主として、そして一人の人間として話しかける。


「なんで拒む、か。正論を振りかざせばそれこそお前は俺たちの仲間で俺が買ったからという理由になる。だけど多分の俺の本音はそんな形式ばったものじゃないと思うんだ。俺も今までよくわかってなかったけど、今ようやく気が付いたよ」


「…………」


 シラはそんな言葉を発する俺を涙を溢れさせた目で見つめてくる。そこにどのような感情が宿っているのか、俺にはわからない。だけど俺はこれだけは伝えようと心に決めていた。


「俺もお前と同じでシラと旅をしているのが楽しかったんだよ」


「ッ!!!」


「色々な町や国を回ってダンジョンに入り神核を倒す。時には喧嘩して笑いあって飯を食って、同じ宿に泊まって一日を終える。こんな当たり前のことが俺は無性に楽しかったんだ。そりゃ当然命を狙われることだってあったし、戦闘だってたくさん乗り越えなきゃいけなかった。でもそれを全て含めて背中を預けられる仲間との旅っていうのは俺の中でかけがえのないものだったんだと思う」


 俺は今まで放っていた威圧を完全に消し、出来るだけ優しい声でそう語り掛ける。

 これは紛れもない俺の本心だ。

 この世界にいきなり飛ばされて、最初はリアがいれば他の人間と関わる必要なんてないと思っていた。

 だけどアリエスから始まりたくさんの人と関わるようになって俺の心は変わっていったのだ。シルにエリア、ルルンにキラ、そしてサシリにクビロ。真話大戦の時はアリスというたった一人の仲間しかいなかったが、今回は違う。俺はこんなにもたくさんの仲間に囲まれて旅をしている。そう考えてしまうとそれは俺の中でとても大切なピースになっていたのだ。

 だがその中に今、その中に唯一かけているのもがあるとすれば、それはもちろんシラの存在である。

 ルモス村で姉妹の奴隷として引き取りそれからずっと一緒に旅をしてきた俺のメイド。その存在なくして多分俺はこの先旅を続けることは出来ないだろう。

 するとそんな俺の言葉に反応するようにシラが顔を下に向けながら小さな言葉で口を開いた。


「そ、そんなことは私だって同じです………。ハク様の傍はいつだって笑顔が溢れていました。仲間が増えていって神核を倒して、時には助け合って。でも私にはどうやっても消しきれないミルリス一族の血が流れています……。それを持っている限り私はこの地に縛られてしまう。で、でもできるならば私も、ハク様と旅を続けたかった……続けたかったんです!」


 シラがようやく吐き出した本音の言葉に俺は一度軽く笑いかけると、すぐさまいつものリア譲りの独特な表情に戻すと今度は力強くシラに言葉を投げかけた。


「だったらお前はもっと俺たちを頼れ。それこそこの国を滅ぼしてほしいだの、今すぐ連れ去ってほしいだの、なんでも言ってくれればいいんだ。それを叶えるのがパーティーのリーダーでありお前の主である俺の仕事だ。それに多分他のみんなも協力してくれるはずだからな」


 俺の言葉はすぐにこの部屋に反響し、アリエスたちに伝わるとその表情を変化させ全員が笑みを浮かべる。


「う………う、ううぅぅ」


 シラは俺の声にもはや顔を上げられないほどの涙を浮かべて地面に蹲ってしまっている。

 俺はその姿を見ていたメンバーの中から一つ動き出す気配を感じ取ると、大人しく体を後方に下げる。

 そして俺の代わりに前へ出たのはシラの血を分けた妹であるシルであった。

 やはり最後は姉妹同士で語り合ったほうがいいだろう。


「姉さん、顔を上げて?」


「う、ううぅぅ………。し、シルぅぅ………」


「確かに私たちのご先祖様は大きな罪を犯した。それは二度と消えないしなくならない。一度してしまったことは消えないの。それは姉さんもわかってるでしょ?」


「だ、だからぁぁ……。私はぁ、この国の王になってそれを償おうと……」


「ううん。それは違うよ、姉さん。私たちミルリス一族の生き残りがどれだけ今の国民の方々に誠意を尽くそうがその過去は消えない。何をしたってそれは変わらないの」


「うぅぅぅ………。だ、だったらどうしたらぁ………」


 するとシルは九つも年の離れた泣いている自分の姉の顔を優しく両手で包み込むと同じく瞳に涙を浮かべながら優しい言葉で声をかけた。


「だから、姉さんは自由にしてていいの。これからもハク様のメイドとして、一緒に色んな所に旅をして笑って泣いて時々怒って、それでいいの。それが私たちも姉さんも望んでいることだから」


「し、シルぅぅぅ…………」


 俺はそんな光景を見てとりあえず大きなため息を吐き出すと辺りを見渡すように視線を巡らせ、そのやり取りをずっと見ていた国王に対して声をかける。


「聞いていたな、これがシラの本当の意思だ。こうなった以上、俺たちは全力でシラを連れていく。それがシラと俺たちが下した決断だ」


「な、何を勝手なことを!シラ様は既にこの国を担われることを承諾してこの場におられるのだ!そんな身勝手なこと……」


「身勝手だと?」


 瞬間、俺の後ろに控えていた黄金の鎧に身を包んだ女性が空間を凍り付かせるような殺気を滲ませながら言葉を発した。


「先程から黙って聞いていれば、身勝手発言をしているのは獣国の王、貴殿ではないか。ハク君が示した奴隷契約書の件もそうだが、それ以前に国民のためとはいえたった一人の少女の人生を贄にするような手段しかとれない貴殿のほうが身勝手だ!もしこのままシラ君をこの国に束縛し続けるというのなら、我ら黄金の閃光だけでなくシルヴィニクス王国と学園王国、それにカリデラ城下町と冒険者最強のパーティーであるハク君たちを敵に回すと思え!」


 イロアがそう言葉を発した瞬間、イロアが引き連れてきていた大量のパーティーメンバーが一斉に武器を抜き国王に向ける。

 本来ならばSSSランク冒険者といっても一国の王に剣を向けるなど許される行為ではない。しかし獣国はその種族性ゆえ他国との外交は断っている。そのためこのような態度で出てもさほど問題はない。ましてこちらにはシルヴィニクス王国と学園王国がバックについている。つまりイロアが強気な態度を取っても獣国の国王は反論ができないというわけだ。


「ぐっ………」


 さすがの獣国国王もこれには返す言葉がないようで眉間に皺を寄せながら言葉を詰まらせた。

 まあ、ここからは俺の出番だな。

 最後の仕上げはイロアに任せるわけにはいかないだろう。

 俺はそう思うと静かにエルテナを抜き、そのままシラとシルの隣を通過していくと真っ直ぐ玉座に座っている国王の前に移動した。


「これが最後だ、獣国の王。シラとシルそしてミルリス一族から手を引け。この国はここ何百年間とその一族の力に頼らず繁栄してきたはずだ。確かにミルリス一族が築いた栄華には程遠いかもしれないが、そんなもののために人間の人生を代償にすることは絶対に許さない。俺たちはここで王選を辞退する。シラもシルも二人とも引き連れてこの戦いを終了させる。後はお前がなんとかしろ」


「……………」


 この部屋にいた家臣や兵士たちは全員が俺の威圧によって気を失っており、残っているのはこの黒い毛並みを持つ国王とシラの直属騎士であるラミオだけだ。

 俺は国王の喉元にエルテナを突きつけながらそう呟いた。だがそれでもこの国王は頷こうとしない。

 本当ならばシルを国王にしてその権力で全てを終わらせてしまおうと考えていたのだが、国王自らの王選を切り上げてくれればこれに越したことはない、のだが。

 くそ、これでもまだ押しが足りないか………。

 だったら最悪神妃化の出力を上昇させてより強力な威圧を……と思っていると。

 俺たちに向かって剣を構えていたラミオがその剣を地面に落とし、そのまま玉座の近くまでやってくると国王に対して跪き落ち着いた声で話し始めた。


「陛下、無礼を承知でお話させていただきます。私はシラ様の直属騎士としてシラ様のご意思を何よりも優先させたいと考えています。ゆえに先程はハク殿に剣を向け罵声を浴びせたのです。しかし今、シラ様の本音を聞いたとき私のやるべきことは変わってしまいました」


「ら、ラミオ………」


 シラはそんな自分の騎士の姿を見て言葉を漏らす。


「陛下。私はシラ様の考えを尊重したいと考えています。今までは国に仕える者として陛下のご命令に従ってきましたが、今はシラ様の直属騎士として言葉を述べさせていただきます。これが陛下のご意思に背いていることは重々承知していますが、どうか!どうか、シラ様の人生を潰さないでいただきたい!」


 ラミオの叫びはこの部屋の中全体に響き渡り、その後音のない静寂を呼び寄せた。

 俺はその言葉に思わずエルテナを下げ、茫然と立ち尽くしてしまう。

 あいつ、まさか………。

 俺が一つの考えに思い至った時、ラミオは少し笑みを浮かべた顔だけ向けて言葉を発してくる。


「あなたにシラ様のことを頼まれましたので」


 確かに俺はこの国に来て初めてシラに会ったとき、ラミオに「シラのこと頼んだぞ」と言った記憶があるが、まさかその言葉をこの局面で実行してくるとは。

 まったく、これだからイケメンには敵わない。

 俺はそんなラミオに頷くといまだに黙っている国王に視線を流す。

 国王は俺、シラ、シル、ラミオ、そして他のメンバーたちを順に見ていくと大きなため息を吐き出し全体重を玉座に預け諦めた表情で口を開いた。


「はあ………。部下にここまで言われ、さらにシラ様のご意思まで違う方向に行ってしまえば私に逆らう手段などない。………よかろう、私の負けじゃ。王選は中止する」


 その言葉が発せられた時、この部屋にいる全員の顔に笑顔が浮かび上がり歓喜の声が木霊したのだった。







 こうしてシラを巻き込んだ獣国ジェレラートで起きた王選は見事中止に至った。

 だがこの時、とある存在がこの国に、いや俺だけを狙って接近していることにこの場にいる誰も気が付いていなかったのだ。


今回で王選は終了です!正直シルの関しては作者もどっちが姉なんだよ、って言いたくなります(笑)

ですがそこにはシラとシルの姉妹としての関係があるんだと思っています。二人が今までの人生で何を学び掴み取って来たのか、それが現れているのかもしれません。

そして次回から二話ほど落ち着いた話が続きます!その後はようやく第六章の戦闘パートに移りますよ!

誤字、脱字がありましたらお教えください!


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