第二百五十一話 王選四日目
今回は王選の開幕とシラの新たな作戦が動き始めます!
では第二百五十一話です!
「わ、私は今回の王選に立候補したシル=ミルリスといいます!全力で頑張っていきますので、皆さん応援よろしくお願いします!」
時刻は午後三時。
俺たちは作戦会議を終了したその直後、すぐにシルの王選参加手続きを完了させ行動に出た。
とはいえ今日は一定の時間を消費してしまっているのでそこまで大きな動きは見せられない。だが時間が限られている以上、何かしらの成果は残しておきたいというのが俺たちの考えだった。
シルとエリア、ルルン、そしてイロアたちパーティーは既に獣国の中央広場にて演説を行っている。今の段階ではまだ目を向けてくれる人はいないがそれは他の立候補者も同じだ。
見れば票をシラにかすめ取られた他の立候補者も時間ぎりぎりまで粘っているようでシルの隣で大声を上げながら演説している。はっきり言って無策でそのようなことをしてもシラには勝てないのだが、負けを認められない以上仕方のない光景だろう。
アリエス、サシリ、キラはまったく別の場所からシルと魔力パスを繋ぎ統制の檻を発動させている。簡単に言えばその中央広場を見渡せるように俺が上空に設置した翼の布の中にいるのだが、これは相当集中しなければいけない作業なので隔離するような形にさせてもらった。
俺の力のおかげで限りなくリスクは減っているもののこれが作戦のかなめになっている以上気を抜くわけにはいかない。
またイロアのパーティーメンバーは獣国各地にも散らばっているようでポスターやチラシを配りシルの宣伝に努めている。
肝心のシラに関してはまだ動きを見せないようで王城の中から出てくる気配はない。
間違いなく獣国陣営には俺たちの参加が伝わっているはずだが、それでも動き出さないということは、よほど自身があるか俺たちという存在を調べているか、そのあたりだろう。
で、残された俺は何をしているかと言うと、アリエスたちが乗っている翼の布と同じくらいの高度に浮かびながらシルたちの動きを観察していた。
「ようやく発動したか」
『そのようじゃな』
俺は気配探知を使い周辺の気配の動きを見ていたのだが、ここにとある力がいきなり混ざりこんできた。
それは広場に立っているシルを中心にまき散らされており、徐々にそれが獣国に広がり始めている。
「これがシルの統制の檻か。アリエスたちが手を加えているとはいえ、なかなかのものじゃないか?」
『まあ、そうじゃのう。とはいえまだシラが発動している統制の檻には敵わん。短時間でそれを押し返すだけの出力を出そうとすればアリエスやサシリとてすぐに魔力が尽きてしまう。定期的に回復させてやるのがいいじゃろう』
「ああ、わかってる。にしてもこうやって上空から眺めてみるとやっぱりすごいな」
『何がじゃ?』
俺が感心したような言葉を漏らすとリアがそれに興味を示したように声を上げてくる。
「この国は本当に獣人族が多いなと思っただけさ。今まで色々な国を回ってきたけどここまで種族が偏っている国はなかっただろ?」
ルモス村、シルヴィ二クス王国、エルヴィニア秘境、カリデラ城下町、学園王国。このどれもが多種類の種族が集まって形成されているものだった。しかしこの獣国は多少他の種族の人間もいるのだが、人口の大半が獣人族で埋め尽くされている。獣人族の差別問題を考えれば当然の結果なのかもしれないが、それにしても俺にとっては珍しい光景だった。
『確かにのう。ただまあ、これは人間の心の闇が生み出した結果とも言えるじゃろうな。人は生きている限りどんなに取り繕っても下に人を作りだがる。それがいじめなのか差別なのかはそれぞれじゃが、優越感というものは人の中にある闇と表裏一体の関係と言えるのじゃ』
獣国に獣人族がこうも集まっている理由は、今リアが言ったことで間違いない。原因はわからないが獣人族という種族をこの世界の人間は相当毛嫌いしている。中には俺たちのパーティーメンバーのようにまったく気にしない連中もいるのだが、それは少数派だろう。
とはいえ今はこのように獣人族だけの国を作り、ある一定の幸せを確立している。
だが、その中に過去の罪を背負うかのようにシラという獣人族の少女が自らの人生を無駄にして入らなければいけないか、というと決してそのようなことはない。
ミルリス一族の王位は既に途絶え、何百年も獣国を離れていた血筋だ。それが関係していなくても獣国の安泰のために引きずりだす必要などどこにもない。現に今の国王の王政で十分に国は回っているのだ。ミルリス一族という過去の栄華に縋ることはもはや時代遅れだ。
するとさらにリアが俺の考えを確認してくるように言葉を投げてくる。
『して主様。なぜ今回シルの統制の檻を使おうとしたのじゃ?主様なら軽く国民全員を洗脳して票を集めることもできたじゃろうに』
おいおい、俺はそんなに非道なことはしないぞ……。
統制の檻も立派な不正行為だけど、それでもさすがに洗脳までしてしまうと逆に後ろめたくなってしまうだろうが。
「それは俺に悪魔になれと言っているのか?」
『獣国相手に歯向かおうとしている以上、悪魔や邪神と呼ばれてもおかしくない気がするが?』
失礼な奴だな。
質問に質問で返してきただけでなく人を悪魔だの邪神だの、滅茶苦茶言ってくれるじゃないか。
俺はそんなリアの問いに答えるように息を吐き出すと、今も大きな声を上げて頑張っているシルたちを見ながら返答を返す。
「はあ………。なに、簡単なことだ。シラが統制の檻を使用してくるのならば同じもので潰そうと考えただけだよ。俺が力でねじ伏せたところでそれは完全な勝利とは言い切れない。同じ土俵で戦って勝利することに意味があるんだ」
『…………。かつてどんな泥臭い手段を使ってでも私を味方に引き入れようとした男の台詞とは思えんのう』
「それは別問題だから!過去の黒歴史を引っ張ってこないでくれますか!?」
俺は若干顔を赤らめながらそう叫ぶと、風にローブと髪を揺らしながら空中に身を置き、ある気配を追うように集中する。
『で、主様がこれからやろうとしておることじゃが、本当に大丈夫なのか?』
リアは俺の心の中にいるので大体のことは掴んでいるようで、心配そうな表情を作りながらそう呟いてきた。
「まあ大丈夫だろう。大丈夫じゃなくても俺にはこの方法しかない。気配創造じゃ時間がかかりすぎるし、絶離剣だと範囲がでかすぎて破壊しきれないからな」
『それはわかっておるが………。とにかく注意だけは払っておくのじゃ。何が起こるかわからんからの』
「了解。まあどうしようもなくなったら神歌でも使って対処するさ」
その言葉を最後に俺とリアの会話は途切れた。
王選四日目。
シルという想定外の立候補者が現れたことによってその戦いは徐々に形勢を傾けていくのだった。
一方その頃。
王城内シラの部屋にて。
そこにはシラとその直属騎士であるラミオの姿があった。
先程の会議はシルというもう一人のミルリス一族の王選参加によって中断され、国王たちはその現状を把握するために動き回っている。
これが普通の獣人族が参加を表明したのであればまったく問題なかったのだが、あろうことか大国であるシルヴィ二クス王国と学園王国国王の推薦状に加え、SSSランク冒険者二人とカリデラ君主のものまで付けられての参加だったのだ。
この通常では考えられない事態に今、王城内はパニック状態に陥っている。
それもそのはず、獣国サイドはもう完全にシラの勝利を確信しており、高を括っていたのだ。その中に突如火が投げ込まれれば驚くのも無理はない。
というわけで会議が中断されたことによって自由になったシラは自分の部屋に戻ってきていた。
シラは何かを考えている表情でまたしても窓の外を眺めている。
するとそこに直属騎士であるラミオが話しかけてきた。
「シラ様。これからいかがいたしましょう?」
その言葉にはおそらくどうやってシラたちを潰すか、という趣旨が含まれているようでそれを感じ取ったシラは浅く息を吐き出すとラミオの方に視線を投げて口を開けた。
「今シルたちが何をやっているか、あなたにはわかっているかしら?」
「はい?え、えーと、シル様たちはシラ様を王選で倒すべく参加を表明し活動を開始しているのだと思いますが………」
「正解。だったらこの王選で私は勝つことが出来ると思う?」
「それはもちろんです!いくらシル様がシラ様と同じミルリス一族であったとしても統制の檻もちろん、今の現状からシラ様の票を奪い取ることは出来ません」
ラミオの言っていることはもっともだ。この王選の戦況は完全にシラが牛耳っている。仮にこの状態を完全にひっくり返そうとするならばシラの参加事態を取りやめさせることぐらいしか思いつかないだろう。
しかしシラはさらに目を細め警戒の色を強めると、またしてもラミオに質問を投げかける。
「質問を変えるわ。もしシルが私に勝とうとするならばどのような方法を取ってくると思う?」
「そ、それは……。わ、私にはわかりません……。ここまで完璧な状況が出来上がっている以上シラ様を陥落させる方法など思いつきません」
だがシラはそんなラミオの答えを知っていたかのように頷き言葉を紡ぐ。
「でしょうね。私にだって殆ど予想がつかないもの。だけど一つ言えることはシルは既に統制の檻を使用している。それも相当な効果力で」
「そ、それは本当ですか!?」
「ええ、間違いないわ。これだとそう時間もかからないうちに私の檻と拮抗しそうね」
「で、ではそれをすぐに陛下に……」
「待ちなさい!」
シラは急いで部屋を飛び出そうとするラミオを一言で呼びとめると、厳しい表情を変えずにラミオを再び自分の傍に近づけさせる。
「ラミオ、あなたハク様のことをどれくらい調べたかしら?」
「ハク殿のことですか?SSSランク冒険者で朱の神と呼ばれており神核を倒したという程度しかわかっていませんが……」
「そう、なら言っておくわ。多分のあの方は私たちの予想を大きく超えてくることをやってのける。実際に今も発動できないはずの統制の檻をシルが使えている時点で頷けるわ」
「は、はい………」
「今はまだ私の檻が強く働いているから優勢に立っているけれど、おそらくこのままだと負ける可能性だって出てくる」
「………」
シラはそう呟くとラミオをさらに自分に近づけ、その顔を両手で包み込むと自分とラミオの花がくっつきそうな距離まで引き寄せその両目に視線を集める。
「な!?なにをしているのですか!そ、そういうのは、困ります!」
ラミオとてこの国の中ではトップクラスの容姿を持っており、常日頃から女性たちを沸かせてきているのだが、それでも今目の前にいるシラはそれを遥かに凌駕する美貌を持っておりラミオの顔を赤く染め上げてしまう。
しかしシラはそんなラミオのことはお構いなしに言葉を投げつけていく。
「私がこの王選でシルとハク様を倒すための方法が二つあるわ。一つは多分あなたもわかっていると思うけど、ミルリス一族の『あれ』。もう一つは………」
シルは言葉を一度ここで切ると、ラミオの耳元に口を持っていくと、甘い匂いを漂わせながらとある台詞を呟いた。
「あなた、分家ではあるけれど今の国王の親戚だったわよね?」
それはこの王選におけるハクたちの最大の障害となって立ちはだかってくる問題を生じさせた瞬間だった。
次回は王選五日目となります!
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