第二百四十五話 縁談に向けて
今回はイロアの作戦内容が明らかになります!
では第二百四十五話です!
「はあ………。何がどうしてこうなったのか、わかりやすく説明してほしい気分だぜ………」
現在、俺はイロア達が宿泊しているという宿に自分たちも部屋を取り、その中でとある作業に明け暮れていた。
いや、無理矢理やらされているといったほうがいいだろうか。
部屋の中には一枚、大きな鏡が設置されておりそこに映し出されている俺の姿はいつも白いローブ姿のものとは異なる服装になっていた。
戦闘など絶対できないであろう固いタキシードのようなスーツに黒色の革靴。さらには普段垂らしているはずの髪も持ち上げられており、ワックスのようなもので塗り固められている。
完全な正装。
そう形容するしかできない姿の俺がその場に佇んでいたのだ。
「ぷ、クスクスクスクス。に、似合っているぞマスター。一応褒めておく……クスクスクスクス」
「どこが褒めてるんだ、どこが!いい加減笑うのやめろよ!」
キラは俺の変わり果てた姿を見て腹を抑えながら笑っている。ちなみにそれは他のメンバーも同じようで俺の服装のチェックをしていたエリアでさえ顔に笑みを作っている。
「クスクス、す、すみません、ハク様。あ、あまりにも普段の雰囲気と違いましたので、つい……クスクス」
「だー、もう!その哀れな人を見るような笑いはやめてくれ!」
「大丈夫だよ!ハクにぃはどんな服を着ても格好いいから!」
我が天使であるアリエスはそんな俺に向かって親指を立てながらグッドサインを笑顔で送ってきてくれるのだが、何故だかそれは物凄くむなしく感じてしまう。
いや、別にアリエスの言葉が原因というわけではない。
ただなんとなくこのような状況に置かれている自分にむなしくなってしまっただけだ………。
隣ではもう一人、ルルンとサシリ、そして今回の作戦を立てた張本人であるイロアがシルのドレスアップをしていた。
「こっちはハク君みたいにおかしなことにはならないねー」
「そうね、ハクみたいなおかしな格好には絶対にさせないわ」
「ちょっとぅ!さりげなく俺をディスるのやめてくれませんか!?確実に俺のライフを削っているので!!!」
「だが、やはりシラ君と姉妹というだけあってシル君も綺麗な顔立ちをしている。ハク君のメイドにしておくのはもったいないな。どうかな、シル君?この件が片付いたらうちのパーティーに来るというのは?」
「さらっと俺のメンバーを勧誘してんじゃねえ!元はといえばお前が言い出したことだろうが!」
そう、何を隠そう俺たちがこのような目にあっているのはこの黄金の閃光のリーダーでありSSSランク冒険者のイロアが発案した作戦のせいなのだ。
その詳細は一時間ほど前に遡る。
冒険者ギルドのとある机に腰を落としている俺たちに、笑いながらイロアは自分たちが入手した最も有効打になりそうな情報とそれを利用した作戦を伝えてきた。
「今、シラ君は王選と同時進行で自分の夫を決める縁談をもの凄い数こなしている。それこそ一日に十件なんてざらにあるくらいだ。この王国は基本的に一夫一妻制の過程を築く場合が多い。ゆえに獣国側からすれば早めにシラ君の配偶者を決定し獣国に留めておくつもりなのだろう」
あー、そういうこと。
なんだかこのようなシチュエーションはアリエスの時やエリアの時に経験したような気がするが、またしてもここでそういう問題が浮上してきたか。
しかも今回はアリエスやエリアの時とは違い、シラという一人の女性取り合うような形で縁談が開催されている。あのシラの美貌をぶら下げれば寄ってくる男もさぞ多いだろう。
「で、それがどうしたんだ?はっきり言ってそれくらいのことであれば今のシラの状況を考えれば当然だろう?特段重要そうには思えないのだが」
するとイロアはやれやれといった顔を俺に向けて話しを続ける。
「まったく、君も鋭いのか鈍いのかわからないな。この情報というのは使いようによってはかなり大きな結果をもたらしてくれるのだ。よく考えてみるといい。シラ君が行っている縁談というのは正直言って誰彼構わず受けているレベルなんだ。ということは、我々の中の誰かがその中に混ざることができれば、比較的簡単にシラ君と接触できるのではないか?」
…………。
ま、まあ、そうですけど………。
俺はその言葉によってある程度先の展開が予測出来てしまったので、ここは口を閉じる。
「な、なるほど!」
しかしそんな俺の意思に反対するかのようにシルは目を輝かせながらイロアの話に食いついている。シルにしてみれば会うことすら困難と思っていたシラにこうもすんなりと会えるというのだから、そのような反応を示してもおかしくはない。
というか必然だろう。
そんなシルの表情にさらに乗ってきているイロアは、自分が立てたであろう作戦の詳細をつらつらと語りだす。
「つまりだ。我々の中の男性一名とシル君がシラ君の縁談相手として王城に潜入する。シル君は見た目も小さいから歳の離れた妹という設定にしておけば問題ない。縁談の推薦にはSSSランク冒険者である私が名前を挙げておくからおそらく大丈夫だろう。ということで、その男性一名というのは………」
その言葉につられるように全員の視線が俺に集められる。
「な、なんだよ」
「君しかいないだろう、ハク君?パーティーのリーダーであると同時に、シラ君とシル君の主なんだ。君以外の適任はいないよ」
ぐっ。
イロアめ……。最初からこの展開を予測していたな。
「ハク様!お願いします!一緒に姉さんに会いに行きましょう!」
シルが俺の体に軽くアタックをかけながらそう呟いてくる。
とは言ってもなあ………。
縁談なんて一体何を話せばいいのかわかんないし……。それにいつ俺たちの正体を明かしてシラの本心を聞き出せばいいのかさえも掴めない。
こんな不確定な条件しか揃っていない状況で成功するのか?
「仮にこの縁談でシラの本意を聞き出せたとしてその後はどうするんだ?シラをこの国から連れ出さないといけなくなった場合、それこそ困難を極めるぞ?」
「それはむしろ君の得意分野だろう?」
「は?」
「公爵家や王族に威圧を容赦なくかけてきた君だ。国王に王選の中止を命令させたり、エリア様の国の名前を出して黙らせてもいい。やり方はたくさんある」
「…………。随分とエグい考えを持ってるんだな、お前」
するとイロアは何をいまさらと言いたげな表情で言葉を紡いでくる。
「そうでもしなければ引くような相手ではないということは君もわかっているだろう?わざわざ遠い学園王国にいる、それも歴史に埋もれたような過去の血筋を持っているシラ君を引きずり出してくるような連中だ。まともな話が通用すれば苦労はない。多少荒手を使ってでも動くしかないんだよ。まあ、いざとなれば我々のパーティーにいる工作員を動かす。それで上手く落ち着くだろう」
な、なんか怖いな……。
冒険者パーティーの中で最強の名を持っているだけあってイロアのパーティーには多種多様な才能を持っているメンバーがいるのだろう。
本来、冒険者というのはギルドと同じくあまり王政や国の支配というものの影響を受けない。当然、犯罪やそれに準ずることをした場合には捕らえられてしまうが、滅多なことがない限りその影響下に置かれることはないのだ。
ゆえに多少派手に動き回ったところで大丈夫なのかもしれないが、それにしても今回は敵に回すのが王国全てだ。
国王やその側近たちだけでなく国民すべてが敵になる。
失敗は許されない。
とはいえこの作戦以外に方法がないのも事実だ。何をするにしてもまずシラの意思を確認しなくては始まらない。
俺がそんなことを考えていると、他のメンバーたちの目線がさらに強くなっていた。
「ハクにぃ、ここはやらないとだめだよ!」
「そうです!ハク様しか動けるものはいないんです!」
「妾たちは一応女だ。男であるマスターが行くほかないだろう?」
「私たちもサポートはするから!」
「ここはハクが動くしかないのよ」
うっ…………。
ここまで言われてしまったら引けないじゃないか……。シルは目を潤ませてこちらを見てきているし………。
俺はできるだけわかりやすく大きなため息を吐き出すと、渋々といった表情でその提案に頷いた。
「はあ………。わかったよ。だったら早く動こう。時間が惜しい」
という経緯があって今に至っているのだ。
あの後、結局俺じゃなくても誰かが男装をすればよかったのでは?という結論も出てきたのだが、それはものの見事に却下され、俺とシルの衣装が仕立てられたという流れである。
どうやらイロアはこの展開を完全に予測していたらしく、俺たちの正装もすでに用意してあったのだ。まるで手のひらの上で踊らされている気分だが、シラとシルのためだと無理矢理自分を納得させされるがままに佇んでいた。
ちなみにイロアは先程縁談の申し込みを王城に届け出してきたらしく、あと一時間ほどでその縁談が始まるらしい。
シラは本当に一日何件も縁談を行っているらしく、俺たちの後にも縁談を申し込んでくる人が大勢いたようだ。
その中に飛び入りで割り込むことができたのはSSSランク冒険者であるイロアの手腕だろう。
俺たちの準備はそれから十分ほどで終了し、とうとう王城へと向かう時間になった。
今回その場所へ向かうのは俺とシルだけで残りのメンバーは全員この宿で待機することになっている。とはいえ俺の魔眼と魔術をリンクさせたものをこの部屋に発動し、リアルタイムでその場の光景を投影させるという、さながらテレビ電話のようなシステムを設置しているので、他のメンバーも目視できるようになっているのだ。
ちなみに俺は神妃化で髪を黄色に変え、さらにシルと同様に隠蔽魔術で多少見た目を変えてある。さすがにSSSランク冒険者であるため顔が多少割れているであろうという判断に基づいた結果である。
イロアが用意してくれた馬車に俺とシルは乗り込むと、最後にイロアがこう言葉を発してきた。
「ハク君。おそらく事はそう上手く進まない。頭にくることも多々あるだろう。だが、そんな中でも力は極力使うな。あの場で暴走すれば完全にこちらが不利になってしまう」
「ああ、わかってる」
イロアはそういうと馬車につけられている馬の尻を叩き、勢いよく馬車を発進させた。操縦は例の副リーダーが担当している。
小さな部屋のような体相になっている豪華な馬車の中には俺とシルの二人が乗っていた。
しばらくはお互い無言でその椅子に腰を落としていたのだが、不意にシルが声を上げる。
「は、ハク様は、姉さんが自分の意思で私たちの下を離れたとお思いですか?」
「さあな。俺はシラじゃないし、本当のことはわからない。ただ、出来れば戻ってきてほしいとは思ってるよ」
「そうですか。でしたら安心です。ハク様がそう仰るのでしたら、それも現実になりそうな気がしますので」
シルは何故か俺の言葉に嬉しそうな顔を作りこちらを眺めてくる。
「何を根拠に言ってるんだ?」
「根拠なんてありません。ただ、今までのハク様は私たちが予想もできない旅を歩き、そこでたくさんの人たちの信頼を得てきました。神核や使徒、さらに精霊騎士まで倒してしまったお方です。私はそんな方のメイドとして、その考えに絶対の信頼を寄せています。それがたとえ無理難題であったとしても」
シルは今までのような暗い表情ではなく、何か踏ん切りがついたような声色でそう呟いた。その言葉にどんな思いが込められているのかは俺には到底わからなかったが、それでも彼女の主として今は静かに頷いておくことにした。
「そうか」
こうして俺とシルは数日ぶりにシラと対峙することになる。
次回はシラとの縁談になります!
誤字、脱字がありましたらお教えください!




