第二百四十四話 情報交換
今回はイロアとの情報交換がメインとなります!
では第二百四十四話です!
イロアの背中を追いかけ冒険者ギルドに向かうこと十分。
王選開催によって盛り上がっている獣国の街を歩き、俺たちはようやく獣国内に設置されている冒険者ギルドにたどり着いた。
この冒険者ギルドはさすがに学園王国やシルヴィ二クス王国のギルドほど大きなものではなく、建物自体の大きさもそれほど巨大なものではないようだ。
外観は他の住居と同じく茶色の壁をベースにしたものとなっており、他の国冒険者ギルドとは違い荒々しい雰囲気が漂っているわけではないらしく、見た目もそれなりに綺麗なものになっている。
俺たちはイロアの後をつける形でその中に入った。
中には受付嬢から冒険者に至るまで多くの獣人族たちがひしめていており、俺たちのような人族や他の種族の人間は殆ど見受けられない。それに反してギルドの掲示板には大量の依頼が張り出されており、冒険者の数とクエストの数があっていないようだった。
イロアはその中にある大きめのテーブルに腰を下ろし、俺たちを同じように席へ進めるとギルドのスタッフを呼びつけ、軽い注文を投げつける。
「私とこいつはアイスコーヒーで。君たちも何か頼むといい。今日も暑いから、喉は乾いているだろう」
俺は差し出されたメニュー表を受け取ると、それをとりあえずアリエスたちに回した。俺の場合は滅多なことがない限りアイスコーヒーが固定なのでメニューは見る必要がない。
アリエスたちはその後、じっくりとそのメニュー表を見ながら飲み物を吟味し注文を確定させた。
ちなみにキラが運ばれてきたドリンクに赤く辛そうな液体をかけていたことには余談だ。
イロアはすこし長めのストローが突き出ているアイスコーヒーに口をつけると、息を吐き出しこう切り出した。
「ではそろそろ始めるとしよう。ガセラ」
「はい」
イロアは自分の隣に座っている大柄な副リーダーの名前を呼ぶと、何やら命令を飛ばす。
するとそのガセラと呼ばれた男はごそごそと自らが背負っていたカバンをあさり何やら文字が大量に書き留められている書類を取り出してきた。
「これは?」
俺はその光景の意図を同じくアイスコーヒーを飲みながら問いかける。
「これは私たちがここ数日間でシラ君に関して集めた資料だ。だからといって有力な情報があるわけではないが、それでも何かの役に立つだろう」
そう言われたので俺たちはパーティー内で回すようにその紙に目を通していく。
それはいつ何時にシラがこの獣国にやって来たのか、さらにどのような生活を送っていたのかということが詳細に書かれていた。
おいおい、これは四六時中観察していたって言われても信じてしまうレベルだぞ………。
王城の中に監視カメラでもつけてるんじゃないか?
その情報の精密さに少しだけ引いてしまった俺だが、そんな俺にイロアはさらに言葉を投げてくる。
「この書類はあくまで役に立つか立たないか微妙なラインを彷徨っているものだ。有効打にはならないだろう。しかし我々が調べた中でそれなりに役に立つものがいくつかある。だが、それを話す前に一つ聞いておきたいのだが、君たちも何か情報を得たと言っていたな?できればそれを話してほしいのだが」
それは奴隷区域の祠の中でイロアから念話がかかってきたときのこと。
確かに俺はそのようなことを口にした記憶がある。
本来、その情報は口に出すことは憚られるのだが、他人であるシラのためにここまで協力してくれているイロアに話さないわけにもいかないだろう。
そう思った俺は一応シルに確認の視線を送る。
するとシルは小さく、しかし重たい頷きを俺に返してきた。
俺はその反応を確認するとイロアに奴隷区域で何があったのかということを話し出した。
「わかった。俺たちがシルヴィ二クス王国に付いた段階から話を進める。シルヴィ二クス王国に着いた俺たちはまず………」
そこから三十分ほど俺の口が動き続け奴隷区域に関しての情報がイロア達の耳に流れ込んでいった。
イロアは終始厳しそうな表情をしており、同感するところは頷き感情をあらわにする際は顔にその気持ちを表しているようだった。
その話を聞き終えたイロアは最後に大きく深呼吸をつくと、そのまま目を開き俺に目線を合わせてくる。
「なるほど。であれば色々と納得がいく点が出てくるな。統制の檻か………。聞いたこともない能力だが、よほど強力なのだろう」
イロアはまるでその力に心当たりがあるような声を滲ませる。
その些細な感情を感じ取ったのか、シルがイロアに質問を投げつけた。
「何か知っているんですか……?」
「知っているも何も、おそらくこの現象を見れば誰だって気が付くだろう。まあ、その前に我々からここ数日の獣国の動きを説明しておこう。シラ君が表舞台に出てきてから今日で四日目になる。あれからすでに三日が経過しており、シラ君の影響力はとてつもないまでに拡大しているのだ。今では他の立候補者の影すら浮かんでこないレベルでな」
一応シラ以外の立候補者以外のポスターも張ってあったはずだが、それでもシラの勢いというものはすさまじいのだろう。
「ギリギリまで粘っていた最有力候補の立候補者もおそらく今日で票数が抜かされてしまう。つまりそれほどまでにシラ君は人気を集めているんだ」
するとその声に反応するようにエリアが声を上げた。
「し、しかし……。果たしてそこまで簡単に人気を集められるものなのでしょうか?私は王族ということもあってその手の話はよく耳にしますが、姿を現して三日でそれほどまでの支持を集められるとは到底思えません」
「そう、つまりはそこだ。他の立候補者はシラ君がここにやってくるさらに一か月以上前から決意表明を出し参加をほのめかしていた。その中には獣国内の相当権力を持っている家系の人間もいたらしいが、それがまったく歯が立たないレベルの支持をシラ君は集めている。これはどう考えても普通の事態じゃない」
「え、えっと……。ど、どういうこと?」
アリエスが頭を何度も横に振りながら疑問符を並べモヤモヤと思考の渦に飲み込まれている。
しかしそれにはエリアの隣にいたルルンが返答した。
「簡単に言えば立った三日や四日なんて短い時間の中でここまでの人気を集めているのはおかしいってことだよー」
「な、なるほど」
アリエスはわかっているのかわかってないのか判別できない表情を浮かべながら頷く。
そんなアリエスの髪を俺は一度撫でてやり、落ち着かせるとその話の続きを己の言葉で紡ぐ。
「それが統制の檻の効果っていいたいのか?」
「としか言えないだろう。まだシラ君がミルリス一族という話は出回っていない以上、それを隠しながらその力を使っている恐れがある。それを抜きにしたとしても普通に活動していてこのような支持を集めることが不可能である以上、この力が絡んでいる可能性が大きいだろう」
まあ、それは確かに頷ける。
俺は実際にその力を間近で見たことがないので何とも言えないが、これほどまでに大きな事態に発展していればその可能性を疑わざるおえなくなってしまう。
それがシラの意思なのかはわからないが、はっきり言ってそれは完全なイカサマだ。票を集めるために金銭を受け渡す行為となんら変わらない。
もし仮にそれがシラを推薦しているという国王の指示なのだとしたら、どうしてもシラを王の座に据えたいのだろう。
それだけの意思がこの現状から読み取れる。
「マスター、何か感じられないか?その統制の檻という力が国中に広がっている力であればマスターの気配探知や気配創造で感じとれてもおかしくないはずなのだが」
そういえばそうである。
俺の気配探知、および気配創造は何も生き物の気配だけを探るものではない。使用された能力だって探すことが出来る。
そう言われた俺は気配探知と気配創造を同時に使用した。
するとそこには物凄く微量ではあるがシラの魔力が滲んでおり、空中の空気を伝うかのようにして散布されているようだ。
「見つけた。どうやら本当に力を発動しているらしい。まったくここまでさせてシラを王にさせたいのか」
「まあ、現国王が直々に推薦状を書くぐらいだからな。よほどこのミルリス一族に王家を継いでほしいのだろう」
イロアはそう言葉を呟くともう一度アイスコーヒーを喉に流し込み、眉間に皺を寄せた話を再開した。
「私たちが掴んでいる情報というのは正直言ってそれくらいだ。いくらSSSランク冒険者といっても王国が相手ではさすがに踏み込めない部分も多い。シラ君の行動は監視できたが、それでも部屋の中に籠られてしまうとさすがに厳しい部分がある。まあ、他にあるとすればシラ君に直属騎士がついたといことぐらいだな」
「直属騎士?」
俺はその聞きなれない言葉に首を傾げながら問いを返す。
「直属騎士というのはこの獣国にて開催される王選の際に立候補者が王国の近衛の中から一人、自分の生涯を共にする騎士のことを指すのだ。シラ君の場合立候補が遅すぎたせいで王国側が勝手に当てがったらしい」
イロアはそう言うと、写真ではなく念写魔術によって描かれた一枚の絵を俺に差し出してきた。
「名はラミオ=ターティル。なんでも獣国における最強の騎士らしく、住民の信頼も厚い。さらには整いすぎているとも言われるほどの容姿をもっていて、街の女性からはとてつもない人気を博している人物だ」
確かに世の中の男性諸君が全員霞んでしまうほどの容姿を持った獣人族の男性の姿がその紙には描かれていた。
俺なんて比べることすらおこがましいレベルで、少しだけ落ち込んでしまう。
くそぅ、世の中顔なのか!やっぱり、顔なのか!
「何してるの、ハク………」
目線を背けながら机を叩いている俺を冷めた目で見つめてくるサシリはそう呟くと、自分の注文したドリンクに手を付けていく。
「まあ、このラミオという男がどうというわけではないが、どうやらこいつが学園王国で戦っているシラ君を獣国に連れてきたらしい」
「なに?」
俺はその言葉にすぐさま反応し体を持ち上げると、イロアに少しだけ威圧の籠った目線を投げる。
「そこでその二人に何があったかは知らないが、その情報は案外簡単に入手できた。つまり無事シラ君連れてこれた以上、隠す必要すらないということなのかもしれない」
「随分と余裕だな。俺たちが追ってくると予想しなかったのか?」
「さあ、それは本人ではないからわからない。だが現状、全て獣国の思う壺であることは間違いないだろう」
このままいけば万事休すということか………。
残されている時間は今日を含め残り四日。
この短い期間の中でいかにシラと接触するかが鍵になってくる。連れ戻すにしてもそうでないにしても一度面と向かって話さなければシルも俺もみんなも納得できない。
しかしイロアたちが厳しいという判断を下したシラとの接触をどうやって成功させればいい?
いっそのこと王城に攻め込んでもいいが、それは穏便ではないし間違いなく問題になる。ただでさえシラの人気が上がっている現状でそんなことをすれば俺たちは獣国の敵となってしまう。
するとそんな俺の姿を見ていたイロアが何やら得意そうな顔を浮かべながら、俺の前に顔を突き出しとある話を切り出してきた。
「それと我々が入手した情報のなかで君たちに伝えてないものが一つだけある。それもこれを利用すればシラ君に会うことが出来るかもしないものだ」
「な、なんですか、それは!」
その言葉に俺よりもシルが勢いよく食いつき頭の上に生えている耳をぴくぴく動かしている。
ああ、あれは興奮すると動く仕様なのか。初めて知ったぜ。
などとくだらない考えを浮かべていると、イロアの顔がさらに笑みに近づきその情報とこれからの作戦を伝えてくる。
「は?」
その言葉を聞いた俺は完全に固まってしまい数秒間、思考が停止したのだった。
つまりそれは簡単に言うと。
「ハク君。君はシラ君の縁談相手として王城へ乗り込むんだ」
次回はハクたちの作戦が明らかになります!
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