第二百三十六話 セルカの下へ
お待たせしました!最新話更新です!
今回はセルカに会いに行きます!
では第二百三十六話です!
「戻って来たか」
俺はアリエスを腕に抱いたままそう呟くと目の前に広がっている光景に目線を向かわせた。
到着した場所はかつて俺が盗賊と間違われた村門付近で、今もたくさんの人たちが入村のための手続きを行っている。
やはりこの村は俺の尺度ではかなり大きいもので何度見てもその巨大な面積には驚かされてしまう。
しかしこの異世界に召喚されて初めて訪れた村なので色々と思い入れがある場所なのは間違いなく、ここで過ごした日々を頭の中で思い出してしまった。
「ここがアリエスの故郷なのか?」
キラがシルを抱きかかえたままそう呟いてきた。
ここにいるメンバーの中でルモス村からの付き合いになっているのはアリエスとシル、そしてクビロだけなのでそれ以外のメンバーはこの村に来るのが初めてなのだ。
シルヴィ二クス王国に関してはそれなりに大きな国なので全員がある程度の認識をもっていたが、このルモス村はそのシルヴィ二クス王国が管理しているごく普通の村ということもありキラをはじめとする仲間たちは興味津々といった表情でルモス村の村門を見つめている。
「うん、そうだよ!この村は他の村よりも小さいけど凄くいいところなんだから!」
アリエスは嬉しそうにそう答える。
というか、この村の規模で小さいというのは正直言って返す言葉がない。
だって、村の周囲を歩いたら普通に三時間ほどかかる広さだぜ?
この規模の村で小さいという世界の常識にはまだまだついていけそうにない。
「なかなかきれいなところね。私はこういうの好きよ」
「うんうん、自然に囲まれててとっても気持ちがいいよ!」
とサシリとルルンが次々に口を開き感想を述べる。どうやらメンバーたちはこの村のことを気に入ったようで声を弾ませて目を輝かせている。
「よし、それじゃあ中に入ろう。とりあえずは飯だ」
俺はそう言うとアリエスを地面に降ろし、服整えると再び転移を実行し飲食店のある場所まで移動を開始した。
そこは前にシラとシルを奴隷商から解放した後にセルカさんと一緒に食事をした店で、今回もここにお世話になることにしたのだ。
店内に入るとすでに食欲をそそる匂いが立ち込めており俺たちの鼻孔をくすぐる。
そのまま案内された席に着き、各々好きなメニューを注文していったのだが、ここで案の定とある問題が発生した。
「あ、すみません!私はここに書いてあるメニュー全部ください!」
「なら私も同じものでお願いします!」
「私もそれで………」
「むう、妾は非常に悩むが、この激辛料理というものを三十個ほど持ってきてくれ」
「私は、このスイーツ系の食べ物全部で!」
「私もアリエスたちと同じでいいわ」
………。
そうです。そうなんです!
この方たち物凄く食べるんです!
前に来た時もそうだったが、この店にある食材を全て飲み込んでしまうのではないかと思ってしまうほどの勢いで料理が消えていくんです!
はっきり言って店にすれば迷惑なことこの上ないのだが、一応俺たちは客なので全ての注文を伝票に書き込んでいっているらしく、店員さんの顔は既に青ざめている。
実際にキラたちがいない前回の食事会でもセルカさんの財布を空にしたというある意味伝説を作っているメンバーなので当然と言えば当然なのだが、今回は俺が全て会計をすることになっているため内心震えていた。
見たところ運び込まれている料理の数を見ると前回よりも遥かに多いようで、俺の財布が底を見せそうな勢いである。
俺は特段大食いというわけではないので、普通にランチメニューを注文し咀嚼しているのだが、その何倍ものスピードで大量の料理をアリエスたちは胃袋に料理を詰め込んでいった。
だがまあ、その顔は物凄く嬉しそうだったので、毎度のこと諦めるのがオチになっている。
「アリエス、ちょっとそれいただいてもいいですか?」
「うん?ああ、いいよー!だったらエリア姉のそれ、貰っていい?」
「キラちゃんの料理、物凄く真っ赤なんだけど本当に大丈夫?」
「まったく問題ない。というかカリデラ城下町で食べたやつの方が辛かったぐらいだ。この程度造作もないぞ」
「モグモグ………。うん、おいしい。最近は学園の寮のご飯が多かったから、新鮮な感じがするわ」
「おいしいです…………」
この光景を見せられると何も言えなくなるんだよな………。
先程まで暗い表情だったシルも今は幾分か表情を明るくしており、頬を上気させながら料理に手を付けている。
最近のシルはキラに諭されるまで本当に沈んでいたので食事をとることでそれが少しでも回復してくれたのなら本望だ。
しかし他のメンバーは何故かいつも以上に食欲旺盛なようで、運ばれてくる料理が次々と消えて行っている。
とはいえ一度この流れが出来てしまうともう俺には止められないので、大人しく自分の料理に手を付けようとする。
しかし。
「ん?あれ、ここにあったハンバーグがない………。確か最後に食べるために置いてあったはずなんだが………」
するとその皿の近くに一匹の黒く小さな蛇が寝そべっていることに気が付いた。その蛇は舌をチロチロと出しており、その口には明らかにハンバーグのソースであろうものつけている。
「おい、クビロ。お前俺のハンバーグ食べたな?」
『…………』
しかしクビロは何も声を出さず、一度俺に微笑みかけた後、そのままアリエスの下へ駆けていってしまう。
つまりこの状況は学園王国の祝賀会でサシリが見せた食い逃げを真似しているのか?
「ほう、ほうほう!いいだろう!お前がその気ならいくらでも相手になってやる!クビロ、表に出ろ!ただでさえアリエスたちの注文に金を割いている今、その料理が俺にとってどれだけ大事だったか教えてやる!」
『な!?ちょ、ちょっと待つのじゃ主!なぜサシリの時は良くてわしのときはだめなのじゃ!』
「知ったことか!今の状況と前の状況が同じとは限らないだろ!食べ物の恨みは怖いのだ!」
『た、助けてほしいのじゃアリエス!主を落ち着かせてくれ!』
クビロは逆立った俺から逃れるようにアリエスに助けを求めるが、当のアリエスは口を大きく膨らましながら残酷な一言を口にする。
「ほういうのはじふんでふぁいふぇつして」
おそらく「そういうのは自分で解決して」といっているのだろうが、その言葉を運悪く理解してしまったクビロは顔を青ざめさせ体を震わせ始めた。
「覚悟はいいな、クビロ?」
俺は自分でもわかるくらい不気味な笑いを浮かべながらクビロの体を摘み上げると、そのまま気配創造で気配を吸い取る。
『気配創造!?な、何という危険な技を使っとるのじゃ!?』
もちろんクビロを殺すために使っているのではなく、あくまでも気絶させるために使用しており、その数秒後クビロは音もたてずに気を失った。
よし、これで俺の料理を横取りする奴はいなくなったな。
俺はそう安心するともう一つ注文していたステーキに手を付けようとする。
しかし。
「おい、今度はステーキもなくなっているんだが………」
あたりを見渡せば以前と同じように表情を殺しながら口をモグモグと動かしているサシリが口にソースをつけながらこちらを見つめていた。
「ま、またお前かあああああああああ!?サシリいいいいいい!」
俺は店内に響き渡るほど大きな声を上げその盗み食い吸血鬼に怒りを示したのだが、そんな俺を一喝するようにアリエスが冷めた声で一言。
「ハクにぃ、うるさい」
「……………すみません」
そんな一幕を俺の中で見ていたリアが両手を上にあげながら、呆れた表情で声を上げる。
『まったく自ら騒ぎ立てておいてこの様とは、みっともないのじゃ………』
こうしていつも通りと言えばいつも通りの食事会は終了した。
しかしまたしてもその会計金額が俺が見たこともないくらいの値段になっていたのだった。
俺以外のメンバー全員が大量の食事を取り終えた後。
俺たちはとりあえずシーナから連絡が行っているであろうセルカさんがいる冒険者ギルドに向かうことにした。
ルモス村の冒険者ギルドにはセルカさんをはじめギルドマスターであるジルさんや顔見知りの冒険者がたくさんいる。
その冒険者とはギルドへ向かう道の途中でもすれ違ったりしており度々話をしながらセルカさんの下へ足を進めた。
一度アリエスの両親であるカラキとフェーネさんに会いに行こうとも思ったが、先にセルカさんに話を通しておいたほうがスムーズに進むと判断したため先にギルドへ行くことにしたのだ。
というのもアリエスの両親はこのルモス村の公爵家にという地位についている。もしかすればシーナの連絡が入っているとはいえ、仕事で忙しい可能性もあるのだ。
その点セルカさんはギルドでの仕事が本業のためその場所に赴けばほぼ会うことが出来る。働くことが好きで休日出勤すらしていると言っていたので間違いなく今もギルドにいるだろう。
「セルカさんに会うの久しぶりだね!」
アリエスが手を嬉しそうに振りながら俺たちを先導するように村の道を歩く。聞けばアリエスは小さいころからセルカさんとは関りがあるらしく、言ってしまえばお姉さんのような存在なのだという。
そんなセルカに久しぶりに会えるのだから浮足立つのも無理はない。
「ああ、そうだな。まああの人のことだからどうせ仕事しかしてないだろ」
すると俺の顔を覗き込むように隣にいたエリアが質問を投げかけてきた。
「そのセルカさんというのは一体どのような方なのですか?」
「ん?そうか、エリアたちは会ったことがないもんな。えーと、元Aランク冒険者の綺麗な女性で種族はハーフエルフ。今はこのルモス村の受付チーフを担っている人だ。抜け目のない思慮深い人だよ」
実際に俺はあの人の策に何度もかけられており、シラやシルを助けるきっかけを作り出したのもセルカさんなのだ。
「なるほど。これは意外と要注意人物かもしれませんね……」
エリアは俺の言葉を聞くと険しい表情をしながらそう呟き頭をうならせた。
「何故かはわからんが妾もエリアと同意見だ」
「私も」
「私もだねー」
他の女性メンバーが口をそろえて俺に理解できないことを呟くと、メラメラと何かが燃え上がっているような気配を放ちながらアリエスの後をついていく。
え、えーと、俺何かマズいことでも言ったかな………?
するとそのというに反応するようにリアが話しかけてくる。
『主様の鈍感具合はまったくと言っていいほど治っておらんな。仲間が増えてもこの有様というのは先が暗いのう………』
おい、それは一体どういうことだ?
俺は個々の中でそう問い返すも返答は帰ってくることはなく、頭に疑問符を並べながらエリアたちに続く形でその背中を追いかけた。
しばらくルモス村の街並みを眺めながらその村道を歩いていくと、見慣れた建物が見え始め、冒険者ギルドが姿を現した。
さすがにこの数か月間の間には何かが変わっているということはないらしく、感じられる雰囲気も以前来た時と同じになっている。
今も俺たちの前を冒険者と思われる人間がその中に入って行っているようで、中からは多数の気配が感じられる。
俺はアリエスの横に立ち、かつて冒険者登録もしていない時にこのギルドに足を踏み入れたことを思い出しながら、仲間を後ろに引き連れ室内に入った。
その中には予想通りたくさんの冒険者とその依頼を処理する受付嬢の姿があり、シルヴィ二クス王国ほどではないが、かなりの活気に包まれているようだ。
俺はこの中にいるはずのセルカさんの気配を探ろうとしたのだが、その瞬間自分の右横から聞き覚えのある声が飛んできたためそれを中断した。
「やあ、久しぶりに会ったねハク君。君の噂は常々聞いているよ」
そこにはエルフよりも少しだけ短い耳を携えたハーフエルフの女性が少しだけ微笑みながらこちらに近寄ってきていた。
俺も同じく笑みを浮かべながら返答する。
「あまり騒がれたくはないんですけどね。自然と噂が大きくなったんです」
「まあ、それが君という存在だろう?仲間を引き連れて旅に出かける、実に冒険者らしいよ。でも今回はそこに問題が生じたみたいだね?」
セルカさんはそう言うと一気に表情を引き締め、俺に質問を投げかけてきた。そしてそのまま俺たちとすれ違うようにギルドの外に足を向けると、右目だけこちらに向けてこう呟いた。
「詳しい話はカラキの屋敷で話そう。この話題は私だけじゃ処理できない。つまりそれだけ大きな問題ということだよ」
セルカさんはそう言うと俺たちについてこいと言わんばかりに一人でギルドを出て村道を歩き始める。
俺は一度メンバー全員の顔を眺め、セルカさんについていくことの確認を取った後、パーティー全員でセルカさんを追いかけた。
こうしてセルカさんとアリエスの父親であるカラキを交えた奴隷区域と獣人族に関する問答が幕を開けるのだった。
次回はセルカとカラキ、そしてハクたちパーティーを交えた話し合いになります!
誤字、脱字がありましたらお教えください!
次回の更新は今日中です!




