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第二百三十四話 イナアの下へ

今回はイナアのいる冒険者ギルドに向かいます!

では第二百三十四話です!

 結局ルルンが弟子であるシーナの稽古という名の洗礼を三十分ほど浴びせた後、俺たちはイナアの下へと向かっていた。

 この王城に向かう前まではシルヴィ二クス王国の近くで魔物のようなものと戦っていたが、今はどうやら冒険者ギルドにいるようでその気配は動いていない。

 学園長という親からの言伝もあるのだが、それと同時にSSSランク冒険者の集会で採決されたことの確認もしておかなければならない。

 シーナ曰く、自由奔放ではあるがしっかりと考えて行動しているとのことで、それなりの活躍をこの王国でも見せているらしい。

 とはいえ帝国軍は攻めてきていないので冒険者ギルドでの魔物の討伐やシーナたち近衛隊の手伝い程度のものだろうが、それでもしっかりと働いているようだ。

 冒険者という職業についている以上働かなければ食っていけないので当然と言えば当然なのだが、あのイナアのことだ。仕事なんか放りだして自分のしたことをやっていてもおかしくない。

 と、思っていたのが案外真面目に励んでいるらしい。

 俺はその話をシーナに聞き驚いていたのだが、何はともあれ会ってみればはっきりすることだ。

 ちなみにルルンとシーナがじゃれている三十分の間に王女であるエリアは国王である自分の父親に挨拶を済ませ報告等も終わらせてきたらしい。

 ということで王城を出た俺たちは足早に冒険者ギルドへ向かう。

 時刻はようやく昼に差し掛かり始めており、ますます街の賑わいは増していくばかり、大きな声で商品を宣伝したり、馬車を引く商人や住民の世間話が至る所から飛んでいる。


「本当に賑やかだな、ここは」


「ええ、それが我が国の特徴ですから!学園王国は学生が多いので若者向けの街づくりになっていますが、この国は老若男女が過ごしやすい環境を目指していますので、活気は必然的に沸き上がるんです!」


 エリアが嬉しそうに顔を向けながらそう呟いてくる。

 自分の国のことになれば普段より饒舌に語ってしまうというのはやはり王女の血が関係しているのだろうか、と思ってしまう。


「とはいえ、これはさすがに人間が多すぎるぞ………。妾は酔ってしまいそうだ……」


「そう?これぐらいは平気よ。なんならもっとたくさんの人たちの前に一人で立ったことだってあるもの」


「か、勘弁してくれ………」


 キラは珍しく顔を青くしながらサシリの体にもたれかかるようにうなだれている。

 うーん、あれだけ大量の精霊たちに囲まれてたくせに人間になるとだめなのか………。

 こいつもよくわからんな……。

 すると俺の隣を歩いていたアリエスが何かを発見したらしく声を上げた。


「あ!ハクにぃ、あれ!」


「ん?って、ブッーーーーーーーー!?」


 俺はいきなりアリエスに指をさされた方向に目を向けると、そこに張り出されていたものを見た瞬間勢いよく噴き出してしまった。


「へえー、なかなか面白そうなものがあるねー。えーとなになに、『SSSランク冒険者ハク=リアスリオンの冒険活劇!!!』、これ、多分演劇だねー。ハク君ついに舞台デビューだ!」


 そこに張り出されていたのは俺に似ても似つかないイケメンな男性が、俺の今までの旅を主題にした舞台公演を開催するといった広告のポスターだった。

 な、なんという忌々しいものをやっているんだ、この街は………。

 そんな俺の気持ちに合わせるように中にいるリアがみんなにも聞こえる声で笑い声をあげる。


『フヒヒヒヒヒヒ!!!な、なんじゃこれ!超愉快な催しじゃのう!どうじゃ、主様?自分の黒歴史が紐解かれる気分は?』


「最悪に決まってるだろ!誰が好き好んでこんなよくわからない演劇を受け入れるか!」


 しかし他のメンバーは俺たちとはまた違った反応を示しているようで、口々に意見を呟いている。


「むー、やっぱり本物のハクにぃのほうが恰好いいかな」


「ですね。というかこんなどこの馬の骨かもわからない輩にハク様の名を使って演劇をするなど無礼です!」


「人間というのはこういうものが好きなのか?いまいち妾にはその感覚がわからん」


「私もこういうのは興味ないわね」


 おそらくこのシルヴィ二クス王国で開催された魔武道祭で俺が優勝したことがかなり大きな要因になっているのだろうが、本人の許可なくこのようなことをするのはやめてほしい。

 一体どのような脚色が加えられて公開されるのかもわからないし、そもそも自分の冒険を誰かに吹聴されるのは顔から火が出そうなくらい恥ずかしいのだ。

 とはいえ今はこんなものに時間を取られているわけにはいかなので無視して足を進める。

 今度時間があるときに主催者に苦言を入れておこうかな……。

 俺たちはそのまま真っ直ぐ冒険者ギルドへ進む。

 やはりこの国は見た目も面積も大きいだけあって王城から十五分ほど歩いていてもまだその建物は見えてこない。

 すれ違う人々は皆忙しそうに道を駆けており、シルヴィ二クス王国の日常が淡々と流れている。

 それからさらに十分ほど歩きようやく冒険者ギルドに到着した。

 そこは本部が置かれている学園王国の建物ほど大きなものではないが、それでも十分に大きな外見を誇っており、現在もたくさんの冒険者が出入りしているようだ。

 俺たちもその中に混ざるようにして建物の中に入る。

 するとその中には案の定たくさんの冒険者とそれを遥かに超えるような依頼書が掲示板に張り出されていた。

 そういえば俺たちもこの中のクエストを前に何個か受けたな、と過去の思い出に記憶を遡らせながら気配探知の反応をさらに絞りイナアの居場所を探る。

 気配探知は半径百キロメートルほどの範囲を探ることが出来るが、その広い索敵範囲のまま使用し続けていると細かい部分が読み取れなくなってしまうので、場合によってその範囲を調節するのだ。

 まあ、はっきり言ってそれはほぼ無意識のうちに行われるのでそれほど気にしなくていいのだが、今回のようにここまで人が密集しており人口密度が高い空間を探る場合には多少意識を集中しなければならない。

 すると、俺が気配探知の範囲を変える前に何やら大きな声で騒いでいる二人の男女が目に留まった。

 その二人は大柄な大剣を背中から担いでいる男と双剣を腰の後ろに交差させて吊り下げている女だった。


「ハクにぃ、あれ………」


「ああ、わかってる。何をやっているんだあいつら……」


 耳を澄ませてみればこのような会話が飛んできた。


「ああ!?俺の獲物を横取りしておいてそんな態度かよ!このちんちくりんが!」


「な!?今!私をちんちくりんって言ったね!SSSランク冒険者であるこの私を!ムキー、もう怒っちゃったもんね!イナアのちゃん怒りましたよ!というかあれは私の魔物だったじゃん!君が勝手に割り込んできただけだよね!」


「はあ?そっちが俺の目の前にいきなり現れて魔物を屠ったんだろうが!SSSランク冒険者ならもう少し大人になってからその口を開くんだなちんちくりん!」


「あ!またちんちくりんって言ったー!私はちんちくりんじゃなくてイ、ナ、ア!SSSランク冒険者のイナアちゃんなんだから、いい加減名前覚えてよね!」


 ……………。

 くだらない、実にくだらない。

 なんというか、両方ともまるで子供じゃないか………。

 俺は盛大に大きなため息を吐き出すと、その二人に近づいて行ってその脳天に両手でチョップを振り下ろした。


「イテェ!」


「あう!」


「いい加減にしろ。周りに迷惑がかかるだろうが」


「「あ、ハク!」ハク君!」


 俺の攻撃に頭を押さえながら振り向いた二人は同時に俺に向き直るとそのまま驚いた顔を作った。

 女の方は言わなくてもわかっているがSSSランク冒険者のイナアだ。今回俺たちが目的としている人物でやはり腰にかかっているバッグにはいくつか果物が常備されている。

 で、残っている男の方はエリアの護衛をいつも続けていたギルであった。魔武道祭では惜しくもエリアに負けて敗退してしまったが、それでもBランク冒険者とは思えないほどの戦闘能力を持っており魔眼と魔術を使いながら戦う意外と器用な奴だ。

 その二人に俺は一体何があったのか聞いてみることにした。


「で、お前らは何で言い争っているんだ?」


「聞いてくれよ、ハク。このちんちくりんが俺の依頼の魔物を全部倒したんだぜ?そのせいで俺は報酬受け取れないし、散々なんだ」


「だ、か、ら!ちんちくりんじゃない!それに君だって私の依頼の獲物を横取りしたじゃん!しかも私が倒したよりもたくさん!」


 つまり?

 まったく同じ現場に違う依頼を携えた二人が鉢合わせ、魔物の争奪戦になったということか。

 まあこの手の話は冒険者の中ではよくある話だ。同じ場所で複数の依頼が発生することはよくある。

 普通ならばある程度譲り合いで解決するのだがこの二人はそうはいかなかったようだ。


「はあ………。俺にはどっちが悪いかわからないけど、とりあえず落ち着け。ひとまずそこの空いているテーブルに座ろう。俺たちにもイナアには用があるんだ」


「私に?」


 イナアは俺の言葉に疑問符をわかりやすく出現させると、俺たちの後ろについてきながら近くの椅子に腰かけた。

 ギルも同じように椅子へと向かうのだがそこでギルは何かに気が付いたように声を上げる。


「ん?おい、ハク。シラのお嬢ちゃんがいないみたいだがどうかしたのか?」


 ………まったく、こいつは。変に鋭い奴だな。

 さすがは魔眼持ちということか。


「まあ、そのあたりについても話すさ。色々あったからな、この数か月間」


 俺はあえてギルに目線を合わせないままそう呟くとアリエスたちを先に座らせ、その後に自分も腰を下ろした。

 そして俺はシーナに話した内容と同じ話をもう一度話し出すのだった。
















 獣国ジェレラート。

 その王城にあるとある一室にて。

 そこにはハクから貰ったメイド服ではなく、もっと煌びやかな服装に身を包んだシラが一人椅子に座っていた。

 その顔は明らかに暗いものになっており、シラが鏡で自分を見てもひどいものだと思ってしまうほどだ。

 長い髪はどうやって作られたのかもわからないほど精巧に編み込まれており、いつも以上に光を反射させ光り輝いている。これは先程までこの部屋にやってきていた王城に仕えているメイドがこしらえたものだ。

 身に着けていた装備は殆どのものが取り上げられてしまい、今のシラはハクと旅をしていたころの面影は残っていない。

 しかしハクから譲り受け、妹のシルと分け合った夫婦剣だけは今もシラの手の中に残っていた。というのもこの短剣は時間という狭間にとても干渉力のある魔剣だ。その力を少しだけ派生させこの件が張る分だけの亜空間を作り出し収納しておいたので、この剣だけはシラの傍に残っている。

 それはおそらく今のシラの心を唯一繋ぎとめているものであり、ピンク色に輝く魔剣の輝きを見ることが、シラの精神を保たせていた。

 シラはその魔剣を握りながら胸に抱き寄せ、目を瞑り誰にも聞こえないように声と涙を同時に流した。


「シル、ハク様、みんな…………。本当にごめんなさい………」


 するとその瞬間、シラがいる部屋のドアが大きな音でノックされたのだった。


次回はイナアとギルを交えての会話と次の目的地についてです!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は明日になります!

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