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第二百三十三話 奴隷区域とは

今回はイナアを出せませんでした!奴隷区域についての説明が描かれます!

では第二百三十三話です!


「獣人族の奴隷区域だと?」


 俺はその聞きなれない言葉に首を傾げた。

 獣人族が差別され難民を多く出してしまっているということは俺も理解していたが、それでもそのような確立された区域があるなど聞いたことすらなかったのだ。それはどうやら他のメンバーも同じなようで獣人族であるシルさえも理解していない様子を浮かべている。


「ああ。本当に偶々なのだが私が任務でルモス村付近の魔物を討伐していたときに発見したものだ。奴隷区域と言ってもそこはシラやシルが暮らしていたという隠居のようなものではなく大々的に公にされていた場所のようだ」


 基本的に奴隷というのは奴隷の首輪を着用させ身体の自由を奪い使役させるというもので、その首輪を付けられたら最後死ぬまで誰かの奴隷として扱われることとなる。

 シラとシルに関しては今アリエスが持っている絶離剣レプリカの力にとってその首輪は取り外されているが、そのような特殊な武器や工具がない限り一度奴隷になったものは一生奴隷というレッテルを張られてしまうのだ。


「年代的にはかなり前に使われていた場所のようで、今では完全に廃墟と化している。管轄的にはルモス村が管理しているようで村の冒険者ギルドと手を組みながら守っているようだ」


 ということはアリエスの両親やセルカさん辺りなら当然知っている話なのだろう。よくよく考えてみればセルカさんが過剰に差別に厳しいのはその区域を一度見ているからかもしれない。

 俺はそんなことを考えながらそのルモス村の公爵令嬢であるアリエスに確認を取ってみる。


「っていう話だが、アリエスは知ってたか?その奴隷区域について」


「う、ううん。私は聞いたこともないよ。お父さんもそんなこと言ってなかったから。そもそもルモス村の近くに奴隷区域なんて場所があることすら信じられないよ」


 するとシーナが目を細めながら何かに納得したような反応を見せる。


「なるほど。そういえばアリエスはルモス村の令嬢だったな。まあ、とはいえおそらくあれは完全に隠されているのだろう。私とて気にかけなければ見つけることすら難しい」


「どういうことだ?」


 俺はその意味がよくわからなかったのでもう一度シーナに問いかけるが、その答えは近くに座っていたサシリから飛んできた。


「隠蔽魔術かしら?」


「ああ。おそらくそうだろう。私も一度確認のためにあの中を見たが…………、あれはそう簡単に見られていいものではない。その当時の獣人族がどれだけひどい目にあっていたかが顕著すぎるほど現れている。今でも獣人族に限らず罪人や借金を抱えた人間は奴隷として強制労働させられたりしているが、そのようなものが生易しくなるほどの現実が長い年月を置いた今でも残っているのだ。私もものの数分で気分が悪くなって立ち去ってしまったからな」


 おそらくサシリは吸血鬼の特性上、隠蔽や幻覚という魔術に秀でているためなんとなくその状況をつかみ取っていたのだろう。

 だがそうまでして隠さなければいけない現状がその奴隷区域には広がっていると、シーナは語っている。

 若くして騎士団長に上り詰めあまたの戦場を駆けてきたシーナが気分を悪くするというのは正直言ってただ事ではない。

 しかしそのシーナに反論するかのようにキラが声を上げた。


「だが、わからんな。なぜそのようなおぞましい場所が今の時代になっても残されている?普通なら破壊してしまうのがセオリーだろう。今でも獣人族は差別されているとはいえ、そのような誰も使っていない負の遺産など存続させておく意味が理解できん」


 確かにキラの言っていることはもっともだ。

 わざわざ奴隷区域という忌々しい場所をルモス村がいまだに管理していることのほうが遥かにに不思議である。


「それは私もそう思っているのだが、何やらかつてその奴隷区域を破壊したものたちから、ルモス村の公爵はあの場所を残しておいてほしいと頼まれたらしいのだ。なんでもあそこにはその奴隷区域に関する重要な情報が残されているからと。それは特段隠すようなものではないらしいのだが、光景が光景なだけにいまだに誰もその最奥には足を踏み入れていないらしい。まあ、それが現ルモス村の公爵にまで受け継がれているということだ」


「奴隷区域を破壊した者たちっていうのは何なんですか………?」


 するとシーナの話をジッと聞いていたシルが重い口を何とか開くように持ち上げ声を発した。

 しかしシーナはその言葉を聞いた途端いきなり眉間に皺を寄せながら表情を暗くした。


「…………。それは正直なところあまりわかっていない。だが、私は一度気になったらなかなか諦めきれない体質だ。ゆえに自分なりに調べたのだが、その確証もない情報でよければ話すが、どうする?」


「お願いします………」


「ふむ、では。私が調べたところによるとそれは、その時代に獣国を繁栄させていた国王とその部下たちが攻め入ることで崩壊を迎えたらしい。とはいえ今の難民のような小規模なものでなく、その奴隷区域に住んでいた獣人族は大量にいたためその獣人族たちとも戦うことになったらしいが、結局は多くの犠牲を払いながらも獣国軍がその区域を壊滅させた。曰く、その部隊を率いていた国王は今まで誰も見たことがないくらい的確に部隊を動かし、勝利を収めたのだという。…………つまり、先程のハク君の話と照らし合わせると」


「私の先祖が、その区域を破壊したということですね………」


 推測だが、そのようなに大量の獣人族をかくまっており公にしていたというのなら、いずれ戦いが勃発することも奴隷区域の管理者はわかっていたはずだ。だが、だからこそその戦場に首輪をつけられている獣人族まで駆り出され、本来争う必要のない獣人族同士の殺し合いが起きてしまったのだろう。

 やはり俺は奴隷はもとより、差別というものはどうしようもなく嫌いらしい。

 今も隣にいるシルの髪を右手で撫でながら、左手は血がにじむほど強い力で握り締めてしまっている。

 見るとシーナを含めた全員が同じ気持ちを抱いているようで、下唇を噛みしめるように顔を歪ませていた。


「推測だがな。だが、今となってはもうルモス村でさえ管理を出来ないような状況になっている。風化は進み建物は壊れ、非常に不衛生な場所になっているのだ。それにもう一つ問題があるとすれば………」


「奴隷の首輪かな?」


 自分の弟子の言葉を引き継ぐような形でルルンが声を重ねる。

 とはいえまったくこの世界の情勢に詳しくない俺は言っている意味が分からず頭をうならせてしまう。


「首輪がどうかしたのか?」


「多分だけど、話の通りにその奴隷区域が崩壊したんだったらその獣人族たちがつけていた奴隷の首輪がたくさん落ちているはずだと思う。奴隷の首輪はその拘束力のせいでそこそこ高価なものだから、時代をおいたとはいっても欲しがる人はたくさんいる。それこそ奴隷商とかは特にかな」


 なるほど。

 であればその奴隷区域をおいそれと簡単に壊せないのは納得がいく。

 何がどう転がろうとそれほどの施設を破壊しようとすれば間違いなく多少の人間の手は必要になってくる。その際に奴隷の首輪を搾取しに来る輩がいないとも限らない。

 これ以上無差別な奴隷を増やさないようにするためにもその中には立ち入れさせないほうがいいのだろう。

 ゆえの隠蔽魔術。

 これで筋は通った。


「ということだ。私から話せることはこれくらいだが、私の予想では間違いなくその区域内に何かあるだろう。それがシラと今の獣国に対していいカードになるかはわからないが、それでも持っておいて損をするものではないだろう」


「………ああ、ありがとう教えてくれて」


「だが、何度も言うが気をつけろよ。あそこは確実に精神を持っていかれる。とくに不安定になっているシルには猛毒も同然だ。できれば君一人で見てきてほしいと言いたい」


 しかしその言葉は力強いシルの声によってかき消される。


「いえ、私は行きます!知らないといけないんです、私たちの先祖に獣人族に何があったのかを」


 シルの目はいまだに光が薄いがそれでっも明確な意思の炎が宿っていた。


「……………。そうか、ならばもう止めはしない。ハク君、君もそれでいいのか?」


「俺はシルの意思を尊重するだけだ。それに何かあれば俺が対処しておくさ」


「はあ……。切り出したのは私だが、君もなかなかに強情だな。この私が根を上げた場所にわざわざ向かうとは………」


「ま、俺はお前に魔武道祭で勝ったからな。それくらいは言わせてもらう」


 俺は空気を変えるように笑いながらそう呟く。

 するとシーナの表情も元に戻り柔和なものに変わる。


「言ってくれるな。まあ、そういうことなら私がルモス村の冒険者ギルドと公爵に連絡を送っておこう。どうせ転移で向かうのだろうが、君たちが到着するころには話を通しておく」


「ああ、悪いな」


「おそらく君たちがよく知っているギルドスタッフに声をかけておいてやる。言っておくが私とセルカは一応知り合いだからな?」


 あ、ああ、そうですか………。

 ま、まあ別にいいけどね……。

 ただちょっとセルカさんにシラが消えたことを伝えれば俺は殺されるんじゃないか………?あの人シラとシルには甘々だったからな……。

 君はリーダーとしての資格がない!とか言われそうだ。


「わ、わかった。それじゃあ頼む」


「やったね、ハクにぃ!ルモス村に帰れるよ!」


 アリエスは俺とシーナのやり取りを聞きながら顔を明るいものに変え俺の服に飛び込んでくる。

 確かにアリエスからすればルモス村は自分の故郷になるわけで両親だってそこにいるのだ。会いに行けることが嬉しいのだろう。

 そういえば俺がこの世界にやってきてもう四、五か月は経過しているのだ。その一番最初に訪れた場所がルモス村なわけで、半年とはいかないまでもルモス村からは距離を置いていた。

 アリエスもまだまだ親に甘えたい年ごろだろう。

 今回は目的が違うが一度ルモス村に赴くのも案外悪くないのかもしれない。

 俺はアリエスの声に軽く笑いかけ、喉を潤すと目に差し出されていたお茶に手を付ける。

 すると今度はルルンが先程の何か企んでいるような顔を向けながら、シーナに迫っていいった。


「それにしてもシーナ?話には聞いていたけど、ハク君に魔武道祭で負けたんだってね。私の弟子を語る以上は、生半可な実力は許さないからね?今から私が久しぶりの稽古をつけてあげる!」


「な!?ちょ、ちょっと待ってください!そ、それは、今は勘弁してほしいというか…………」


「問答無用!シーナの今の力存分に見せてね?」


「そ、そんなぁぁ………」


 シーナは今までの格好のいい態度を崩し、年相応の反応を見せながらルルンの言葉に嫌そうな顔を見せる。

 ははは………。

 なかなか珍しいものだな、これは。

 俺は今日最初にシーナが呟いた言葉を返すように心でそう声を漏らすと、先程から探っていた気配の動きをもう一度確認した。


「……………イナアが戻ってきたな」


 軽くそう声を漏らすと、シルヴィ二クス王国でやらなければいけないことを脳内にまとめシーナとルルンの微笑ましい光景を見守るのだった。


次回こそイナアが登場します!

あとあの冒険者も出てきますよ!

誤字、脱字がありましたらお教えください!


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