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第二百二十九話 シラの行方

今回で第五章が完結します!

では第二百二十九話です!

 帝国との戦闘終了後。

 俺たちはシンフォガリア学園の学園長室に集まっていた。

 帝国軍の全員が転移魔法で消え去った後、戦闘が終了したことによって冒険者や王国の騎士や魔導師は散り散りに解散していった。

 だが、ここでちょっとした問題が生じる。

 王国の面々は任務なので問題ないが冒険者たちに関しては今回の件で払われるはずだった褒賞金について少し騒ぎがおきたのだ。

 今回の冒険者の報酬は帝国兵一人につき、金が積みあがっていくものだったので転移魔法によりその帝国兵が全員消え去った今、誰一人として兵国兵を捕らえている者などいなかった。

 結局そこは、ギルド本部が参加した全員に同じ金額の報奨金が支払われる形で落ち着いたのだが、それでも多少の不満はあちらこちらから上がっているようだ。確かに大量の帝国兵を倒していた連中からすればこの措置は納得がいかないだろう。

 よって、ギルドはその者たちの対処に追われ、王国は今回の戦争を他国に大々的に開示し、俺たちはひとまず学園に戻ってきていたというわけである。

 で、何故今俺たちが学園長室に集まっているのかというと、それは戦闘終了時にシルが泣きながら俺に問いかけてきた言葉が原因だ。


「つまり、先程の戦いの最中シラ君がいきなり行方不明になったというとことか?」


 学園長は俺たち全員の顔を眺めながらそう呟いた。

 帝国軍が転移魔法で消え去った後、シルが俺に泣きついてきていったこととは、姉であるシラの存在が見当たらないということだったのだ。

 それを聞いた俺は気配探知や実際に辺りを見回ってその姿を探したのだが、結局気配どころか足跡一つ発見することは出来ず、途方に暮れており一応今回のことを報告するついでに学園長に相談してみたということである。


「ええ、そういうことです。俺たちも必死に探したんですが見つからなくて………」


 俺も、もう一人の俺に戦いの場を譲っていたこともあり、気配探知を解除してしまっていたため戦闘中に仲間の気配を確認することはなかった。

 ゆえに招いた事態だが、はっきり言って何故突然失踪したのかはわかないのが現状だ。

 シラは他のメンバーに負けないほど美人でむさ苦しい冒険者たちに誘拐されるということも考えられなくはないのだが、そんな輩に負けるようなシラではないし、妹のシルが残されていることがそれも否定している。

 他に考えられることとすれば自ら失踪したことぐらいだが、それもシルという最愛の妹を置いていってる時点でそれも可能性としては低いだろう。

 すると、学園長は顎に手を置きながら何かを思いついたように真剣な表情をしながら言葉を呟いてきた。


「ハク君、一応聞いておくがシラ君やシル君から二人の出身について聞いていないのか?」


「出身?え、えっと、差別されていて森の奥深くに住んでいたとしか聞いていませんが………」


 俺はそう答えながら隣に小さくなりながら耳を垂れ下げているシルの方を見る。その表情はもの凄く暗い顔をしており、今にも泣き出しそうだ。


「ならば、今回のこともさぞ不思議に思うだろうな。いきなりの失踪も理解できないだろう」


「何か知ってるんですか?」


 その意味深な言葉を発する学園長を睨みつけながらそう問いかけた。学園長ならばこの学園の長を務めているので色々と知っていることがあるのかもしれない。


「………知っている、というよりはほぼ間違いなく確信を持っている。だが、それは私の口から言うべきではないだろう。君の口から言ったほうがいい、シル君」


 学園長は静かにそう呟くとシルに向かってそう言葉を投げかけた。

 シルはそう言われると一瞬、身を震わせ何とか顔を上げて返答する。


「は、はい………」


 俺たちはそう答えたシルに向き直りシル自身が喋り始めるのを待った。


「初めに、ハク様。このことを今まで黙っていたのは私と姉さんの考えです。身勝手な行動をお許しください………」


「いや、それは別にいい。誰だって他人に言いたくないことぐらいあるからな」


 俺だって元の世界のことはアリエスたちに伝えていないのだ。お互い様である。


「で、では………。ハク様は獣人族の歴史を一体どの程度理解しておられますか?」


 シルはいつものゆっくりとした口調を止め、しっかりと聞き取りやすい声で話し始める。


「ん?俺が知っているのは、昔から獣人族は差別されているっていうことぐらいかな。他はあんまり聞いたことはない」


「でしたら、そこからお話します。獣人族は基本的に獣国ジェレラートかその国にたどり着けない難民の二つに分かれます。それは今も昔も変わっておらず、獣人族という種族の差別問題を顕著に表しているといっても過言ではないでしょう。姉さんと私はこの二つの難民のサイドにいたわけですが、今回はそちらではなく獣国についてお話します」


 それは俺も聞いていたことだ。シラとシルは差別により森の中という追いやられた場所で生活していた。その際に奴隷商に見つかり捕らえられたのだ。


「獣国とは代々国王が変わっていくシステムが存在します。シルヴィ二クス王国や学園王国とは違い王家の一族というものがないのです。それゆえ国王が退位する際には毎回王選というものが開催されます。それによって新たな王が決められるのです」


 そういえばイロアが今まさに王選が開かれているとかなんとか言っていたな。

 だがそれがシラにどのような関係があるんだ?


「ですが、そんな歴史の中でも唯一の例外がありました。それはとある獣人族が国王に付いたことから始まります。その獣人はかつて見たことがないほど人をまとめる才能を持っていました。それはやがて獣国全てをまとめあげ今では考えられないほどの栄華を築いたのです。そしてその国王が退位しても、その影響は子供たちに受け継がれ何代にわたってその一族の王政が続きました」


「は、はあ…………」


 俺はその話を聞きながらまだその筋が見えないことに首を傾げていた。

 どうやらそれは学園長を除いた全員がそうらしく、アリエスなんかは頭に指を突き立てながら悶々と考えている。


「この家系はある時突如として消え去るのですが、その長く続いた輝かしい功績が称えられ伝説の一族と言われるまでになったのです。ですがその家系は今となってはどこにも発見することが出来ず、分家すら見つかっていません。もし仮にその一族が見つかっていれば間違いなく王選など執り行われず、すぐにでも国王にさせられていたことでしょう」


「そ、そんなに凄い家系なのか………」


 はっきりって王というのは本当に才能を必要とする地位だ。国という大規模な集団をまとめ上げ統率しなければいけない。

 その一族というのはよほど優秀な人間が多かったのだろう。でなければ伝説の一族なんて言われるはずがない。


「しかし、王選が開かれるたびなかなか諦めきれない人たちは各地にその一族の生き残りを探しに出かけました。というのもその一族の特徴がもの凄くわかりやすかったのです。桃の皮を溶かし桜の染料を塗ったかのようなピンク色の毛並み、それはあまりにも特徴的だったので………」


「ちょ、ちょっと待て。そ、それってまさか……」


 俺を含めた全員がようやく話の結論に至ると、シルの言葉を遮り一度空気を整える。

 と、ということはつまり?

 このシルとシラというのは………。




「はい。私たちミルリス一族はかつて伝説の一族と呼ばれた直系の生き残りです」




 俺たちはシルが吐き出した衝撃の事実に口をあんぐり開けて数秒間固まってしまったのだった。












「獣人族においてピンク色の毛並みというのはさほど珍しいものではありません。ですがそれでも一応その特徴はわかりやすかったので、私たち一族を探す要因にはなったと思います」


 俺たちの表情が元に戻るのを待ってからシルはさらに話を続けた。


「今となってはその一族がなぜ獣国を離れ、難民になっていたのかはわかりませんが、森の中で一緒に暮らしていた獣人族の方々は今の話を私たち姉妹にしてくださいました。いずれ私たちを誰かが探しに来るかもしれないから、と。私たちの両親は私を生んだ直後に亡くなっております。ですから、親からこの血筋に関することは聞いておりませんが、名字が名字なのでその事実を否定することは出来ません」


「なら、今回シラがいなくなったのは……」


 俺がシルにそう問いかけようとすると、話を聞いていた学園長が口を挟んだ。


「間違いなく、獣国の王選絡みだろうな。今丁度その王選が開かれている。先程の戦闘中に何者かがシラ君に詰め寄り誘拐したか、それとも説得したか。いずれにせよこの家系のことが根幹に絡んでいるのは間違いないだろう」


「すみません、ハク様……。本当ならば私たちが黙っていなければこんなことには……」


 俺はまたしても顔を落としてしまうシルの体をそっと自分の体に寄せ、その髪を撫でながら軽く抱きしめた。


「大丈夫だ。それによく話してくれた。俺はシルを責めないし、シラにだって問い詰めたりはしないよ」


 するとシルは俺のローブに顔をうずめ、大きな声で泣き出してしまった。

 シルはしっかりしているとはいえ、アリエスよりも小さい七歳なのだ。この小さな体にとてつもなく重たいものを背負わせてしまっていたようだ。

 今の話は決して誰が悪いということはない。

 むしろシラたち姉妹がその一族の生き残りだというのなら、それこそ遅かれ早かれこうなっていたかもしれない。

 だが、それにしても妹のシルを置いてまでいなくなってしまうのは奇妙なことだ。

 今のシルは目に見えて動揺している。今まで奴隷商に捕まっても一緒にいたシラが突然消えたのだ。この王選が絡んでいなくても、悲しいだろう。

 そして一体あの戦闘中にシラの身に何があったのか。そしてシラの意思は一体どうなのか。これを確認しなければ俺は引き下がることはできない。

 もし、仮にシラが自らの意思で俺達の下から去ったのであれば、止めるつもりはない。シルという妹の拠り所を話し合って終了する。

 しかし、無理矢理にでもその王座にあげられようとしているのなら、パーティーのリーダーとして見過ごすわけにはいかない。

 俺はそう考えると、後ろに控えているアリエスたちに少し笑いながら言葉を投げかけた。


「悪い、みんな。帝国のダンジョンに行く前に寄り道してもいいか?」


 すると、メンバーは全員が胸を張って返答してきた。


「もちろんだよ!というかハクにぃが行かなくても私一人でも行くつもりだったし!」


「ええ、少し遠いですがハク様の転移があれば問題ないでしょう。それに私もシラには言いたいことがいっぱいあります!」


「まあ、困ったときはお互い様だよね。しかも獣国は行ったことがないから楽しみだよ!」


「妾はマスターに従うだけだが、確かにシラに文句ぐらいは言ってやらねばな」


「私も問題ないわ。友達の窮地に手を差し出すのは当然よ」


 シルは俺の服から顔を上げると、依然として涙を流しながら言葉を吐きだす。


「あ、あり、ありがとう、ございま、す…………!!!」




 こうして帝国との戦いを終えた俺たちは問題をさらに積み上げながら、次の目的地を定め動き出すのだった。

 オナミス帝国。

 帝国の勇者。

 第五神核。

 星神。

 おぞましい数の敵がこの先に待ち構えているが、それでも俺は仲間の困っている顔は見過ごせない。

 シラが戻ってこなくてもシルの笑顔だけは取り戻さなくてはならない。



 つまり簡単に言うと。



 俺たちパーティーは仲間のためなら国だって神だって敵に回すのだ。













「へえ、彼らは次にあの国へ行くのか」


 とある空間の狭間。

 そこにはいつも通り、星神が頬杖を突きながらハクたちの動きを見ていた。


「なら好都合かもしれないね。あの国は帝国の標的にもなるだろうし。転移魔法を授けておいて助かったというところかな」


 星神はそう呟くと、自分の後ろに立っている金髪の人間に笑いながら言葉を投げかけた。




「よし、そろそろ君に動いてもらうよ。そうだな………、彼らが獣国についてしばらくしたらかな」




 その言葉はハクたちをさらなる戦いに呼び込む汽笛となるのだった。


ようやく第五章が完結しました!長かった、という感想しか出てこないくらい長かったです!

正直言って執筆していて、これ面白いのか?と疑問に思うこともありましたが何とか完結することができました。

次回からは第六章に突入します!初めはまだ学園王国にいますが、すぐに場所を移します!

今まで見てきた懐かしいキャラクターが出てきたりもしますので、お楽しみください!


誤字、脱字がありましたらお教えください!


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