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第二百二十五話 学園王国vsオナミス帝国、六

今回はハク目線がメインとなります!

では第二百二十五話です!

「あ、あれは………。い、一体何なの………?」


 帝国軍を相手に順調ともいえるペースで敵兵を組み倒していっていたアリエスたちは、今目の前に起きている光景が信じられなかった。

 圧倒的という言える殺気はキラやサシリがかつて放ったものよりも黒く、そして禍々しいもので、もはや意識すら黒の感情に飲み込まれているのではないかと思ってしまうくらいだ。


「け、気配的にはハク様ではないようですが………」


「そうなると、必然的にあれは………」


 エリアとルルンもその光景を見ながら言葉を上手く発せないようで、冷や汗を流しながら立ち尽くしてしまっている。

 現在アリエスたちが戦ってる位置はハクたちがいる場所よりも少し離れたところに立っている。さすがにハクやキラたちの姿までは見えないが、それでもその元凶の存在は見て取ることができた。

 いや逆に目に入らないほうがおかしい。

 これほどまでの殺気とこの存在を見せつけられれば、誰だって振り向いてしまう。


「は、ハクにぃは大丈夫かな………?」


 アリエスは体を動かし迫ってくる帝国兵を気絶させながらそう呟いた。


「一応気配は感じますが、それ以上はわかりませんね…………」


 エリアもアリエスの問いには的確な答えを返せないようで、二人とも暗い表情を浮かべてしまう。

 とはいえ帝国軍はそんなものお構いなしに攻撃してくるので、なかなか持ち場を離れることは出来ない。


「とにかくここをどうにかしない限り、私たちは動けないよ」


 ルルンはそう言うとさらに攻撃のペースを上げ、レイピアを打ち出していく。

 その顔は張りつめていたが、やはりどこかハクを心配するような色を滲ませており、ルルンもこの緊急事態を重く受け止めているようだ。


「う、うん………。そうだね」


 アリエスは自分の気持ちを押し殺すように息を整えると魔本をしまい、絶離剣レプリカを引き抜くと、それを構え近接戦闘に切り替えた。

 その動作に続くようにエリアも剣を構えなおし攻撃を再開する。

 今、ハクがいる場所で何が起きているのか。

 それはアリエスたちにもわからない。

 ただ間違いなく予想できなかった事態がそこでは起きている。戦いにおいて完全な予想など立てられないのかもしれないが、それでも今アリエスたちの目の前に映し出されている光景は誰だって予測できなかったはずだ。

 それは当然あのハクだってそうであり、アリエスは遠くの空を眺めながら、ひたすらにその青年の無事を祈るのだった。











 時は少しだけ遡り、キラとサシリが勇者たちと戦い始めたころ。

 同じタイミングで俺と確か拓馬とかいう勇者は剣を打ち付け合っていた。

 確かに自分で言うだけあって拓馬は以前エルヴィニアで戦ったときに比べてその力はパワーアップしているようで、全体的な動きが洗練されていた。


「なるほどな。確かに動きはよくなったな」


 俺はそう言いながら神妃化しているスピードで奴に迫りエルテナとリーザグラムを交互に振るっていく。


「その上から目線な口調、いちいち勘に障るんだよ!」


 その攻撃を拓馬は綺麗とは言えないまでもそれなりの反応速度で打ち払っていく。


「それは悪かった。だが俺は俺でお前らの倫理から外れた行動が鼻に付くんだが、それはどう説明する?」


「黙れ!僕たちは勇者だ、その行いは全て正当化される!それが世の摂理だ!」


 あーあ、本当に壊れてるぜ、こいつ。

 星神に操られているにしても、こうならないぞ………。

 あの神に操られる場合は基本的に元の人格は保たれる。そこに俺という災厄者を倒すような命令が書き込まれるのだ。

 それは最終的に俺という存在を殺すことを第一に考えるようになり自我さえも蝕んでいく。

 とはいえ今の拓馬の状況はそのようなものでもない。これは完全に元の人格から来ている感情だ。つまり初めから俺という存在に憎悪を抱いてこの場に立っている。

 俺たちが住んでいた世界からきているのにここまで歪んでいると、本当に救いようがない。何をどうすればここまで道を踏み外してしまうのか俺にはわからなかった。

 すると、その戦いを眺めていた勇者の一人である結衣と呼ばれていた少女が腰にささっている剣を抜き前に出てくる。


「私も戦うわ、拓馬!」


 しかし当の拓馬はそれさえも邪険に扱うように怒鳴り声をあげて振り払った。


「こいつは僕の獲物だ!他の誰にも邪魔はさせない!」


「あ、う、うん………」


 その一瞬に放たれた威圧は仲間である結衣にすら向けられており、たじろいでしまった結衣はその意思に従うように後ろに下がる。


「いいのか、お仲間を頼らなくて?言っておくが一人で俺を倒せるなんて希望論的な発想を抱いているんじゃないだろうな?」


「お前くらい僕一人で十分だ!わざわざ結衣の手を借りる必要はない!」


「そうか。だったら精々ついてくるんだな」


 俺はそう言いうと一瞬にして拓馬の前に接近すると、その鳩尾に蹴りを叩きこんだ。


「ガハッ!?」


 その攻撃によって怯んだ拓馬の脇腹を身を捻るように蹴りを繰り出し吹き飛ばす。


「がああああああああああ!?」


「拓馬!」


 傍から見ている結衣が悲鳴のようなものを上げるが、そんなもの気にしている暇はない。吹き飛ばされた拓馬に追随するように俺も動き出し追い付くと、その背中を蹴り上げ空中に打ち上げる。


「くっ!?」


「そら、抵抗できるものならやってみるんだな」


 俺はそう呟くと打ちあがっている拓馬よりも上空に移動すると、そのがら空きになった体に踵を突き落とした。


「ぎゃああああああああああああああ!?」


 勢いよく地面に叩きつけられた拓馬の体からは血が噴き出しており、顔はべっとりと自らの血液でぬれてしまっている。


「拓馬!!!」


 さすがにまずいと判断した結衣が拓馬の下に駆け寄り、声をかける。

 だがそれでも拓馬はその手を振り払い、剣を支えにするように立ち上がった。


「ハク=リアスリオン………。どこまで僕を馬鹿にすれば気がすむんだ………」


「生憎と馬鹿にしているつもりはない。単純に実力の差を思い知らせているだけだ。いい加減自分の行いを反省したらどうだ?」


「うるさい!僕は僕の出来る事を精一杯をやってきた。それをお前に否定される筋合いはない!」


 精一杯ね………。

 本当にそうか?お前の精一杯ってやつは俺を殺すことだけ考えてその力を振るうことなのか?

 仮にも勇者とかいう称号を背負っておきながら、帝国に縛られているだけの存在が何を甘えたことを………。

 俺はそう思いながらも聞く耳を持たない拓馬に対して大きなため息を吐き出すと、そのまま二本の剣を構えなおし、戦闘態勢を取る。

 同時に拓馬も剣を構え、俺を睨みつけてくるが、俺はその目線には目を合わせず、となりで戦っていたキラとサシリの方に目を向けた。

 どうやらあちらは戦闘が終了しているようで、一度強力な力が沸き上がったかと思えばそれは一瞬で消滅し、キラとサシリの姿だけが残されているようだ。気配的には一応勇者たちのものも感じるので二人は俺の殺すなという言いつけを守ってくれたみたいだ。


「何を余所見しているんだ!」


 その隙を好機とばかりに拓馬が剣を振り上げ突進してくる。


「おっと」


 俺は軽く驚いたふりをしながらエルテナでその攻撃をはじき返す。その後拓馬の剣は物凄いスピードで俺に振るわれ、急所という急所を全て狙ってくる。

 頭に、首筋。心臓に腕の付け根。

 はっきり言って一度でもまともに受ければ即死レベルの攻撃を拓馬はまったく動じずに放ってくる。

 正直いえば俺がその攻撃をくらったところで大したダメージにはならないのだが、ここで考えなければいないのは、人を何もためらわず殺すことが出来るようになっている点だ。俺とて人を殺すのはあまりしたいことではない。それこそ元の世界では犯罪であるし、そもそも人を殺すということは人間の持つ倫理のなかで一番踏み越えてはいけない最終ラインだ。

 それをこの拓馬という少年は軽々と越えてしまっている。この世界の文化に馴染んだと言えば聞こえはいいが、人を殺すことがタブーな世界からきている俺たちにとってそれは絶対に身につけてはいけない感覚だ。

 だからといって俺はここまで壊れてしまった人間を矯正してやる気はない。それこそそんな面倒を見てやる筋合いはない。

 ゆえに俺はこの少年を無力化することだけを考える。

 力いっぱい繰り出された拓馬の剣をエルテナとリーザグラムを交差する形でしっかり受け止めると、それを全力ではじき返し空いた胴体に回し蹴りを放つ。


「があああああああああああああああ!?」


 その攻撃は鎧を軽々破壊し、その体の中にある骨も何本か砕き折った。

 そしてリーザグラムを鞘に仕舞い、吹き飛ばされている拓馬の襟元をつかみ取ると、その流れで地面に固定しエルテナを首元に突き付ける。


「お前の負けだ勇者。大人しく観念しろ。精々学園王国の牢屋の中で自らの行いを後悔するんだな」


 俺は拓馬にそう言い放つと殺気を樹上から叩きつける。

 これで無力化には成功したな。

 残っているのはあの結衣とかいう勇者だけだが、まああれはそれほど問題ということにはならないだろう。

 そう思い息を吐きながら地面に組み伏せられている拓馬の様子を確認しようとしたとき、よくわからない力がその拓馬から沸き上がっていることに気づいた。


「ッ!?」


 俺は反射的に後ろに飛びのき、急いで距離を取る。

 すると拓馬はゆらりという効果音が合うような足取りで立ち上がり、何かにとりつかれたように呟き始めた。


「許さない許さない許さない許さない許さない許さないいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


「な!?」


 拓馬はよくわからないことを言葉にしながら叫びあげると、そのまま暗黒のオーラに包まれその姿を隠す。


「ちょ、ちょっと!?た、拓馬!?ど、どうしたのよ!?」


 どうやらこの事態は味方である結衣も想定外のようで、顔に驚愕の色を浮かばせながら驚きの声を上げた。

 そしてそのオーラは次第にどんどんと大きくなっていき、俺の身長の何十倍もの大きさまで膨れ上がると、そのオーラは次第に薄れ始め実体が露わになり始める。


 そこに現れたのは皮膚の色を赤黒く染めた巨大な人間で、本来二本しかない腕が背中からさらに二本出てきており、その腕にはよくわからない材質で出来た大きな剣が握られている。

 額には見たこともないような紋章が浮かび上がっており、その紋章からはこの拓馬という少年が本来持っていないであろう出力の魔力が放出されていた。


「こ、これは………。一体何なんだ……?」


 気配探知で感じられる気配の大きさも元の状態とは比べられないほど上がっており、この空間に現れた瞬間、その場の空気を一瞬で凍り付かせてしまった。


『ハク=リアスリオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!』


 放たれた絶叫は周囲の空気をまとめて吹き飛ばすような力が込められており暴風が吹き荒れ、世界が歪み始める。


 俺はその光景に冷や汗を流しながら剣を握りなおすと、心の声を漏らしてしまう。


「これはかなり面倒なことになったかもな…………」


 この戦いはイレギュラーすら驚くイレギュラーがこの場に登場したことによって、一気にその場の空気が変わってしまったのだった。


次回は力を暴走させた拓馬との戦いを描きます!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は今日の午後五時以降です!


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