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第二百二十三話 学園王国vsオナミス帝国、四

今回はサシリが戦います!

では第二百二十三話です!

 キラが勇者たちと戦闘を開始した同時刻。

 少し離れた場所ではサシリが残っている四人の勇者を相手に攻撃を仕掛けようとしていた。

 サシリは相手である帝国軍のことをあまり知らない。ハクやアリエスたちがエルヴィニアで、その軍隊と戦っているときにサシリはまだハクのパーティーに加わってなかったからだ。

 それでもアリエスの話を聞きなんとか理解したものの、当事者でない限りその情景を思い浮かべるというのはかなり難しい。やはりその場にいて同じ時間を共有してこそ生まれる感情というのはあるのだ。

 さらに言えばカリデラにいたころもそこまでオナミス帝国に関して考えてこなかった。吸血鬼という存在は竜人族に並ぶほど強力な種族であるがゆえに、他国から標的になることも少なく比較的平和な生活を送っていたからだ。そのうえ、吸血鬼はかつての名残や血晶病というものがついて纏ってくるので近寄ってくる人間は少ない。なので、帝国がどのような国家を築いているかはさほど伝わってきてなかったのだ。

 ゆえにサシリもカリデラの君主とはいえ、帝国に詳しいわけではない。

 ハクたちから聞く分には非道なことをやってきているとは思うし、同情だってする。だが、それが心の奥底から湧いてくる感情なのかというと正直言ってまだわからない部分が多かったのだ。

 サシリはとりあえず勇者たちに向き直るとそのまま血の力を湧き立たせながらジッとその姿を観察した。

 すると勇者の中の一人が訝しげな表情を滲ませながらサシリに言葉を投げかけた。


「おい、お前。お前はエルヴィニアのときはいなかっただろう。なぜ俺たちの邪魔をする?」


「それは正直言って私にもよくわかってないわ。あなた達が今までしてきた非道なことは耳にしているけれど、それだけで私が動くというのもなんだか変だもの」


「だったらそこをどけ。俺たちはそこの金髪の野郎と虹色の女に用があるんだ」


 サシリは隣で戦っているハクとキラに一度目を向けると再び勇者たちの方に目線を向け話し出す。


「それはどうしてかしら?」


「どうして?ハッ!決まってるだろ、俺たちはエルヴィニアでの借りを返さないといけないんだよ!負けておずおず引き下がれるほど寛容じゃないからな」


「聞けばあなたたちは無理矢理エルヴィニアに侵入した挙句、エルフたちを捕獲しようとしたそうじゃない。それを止めるハクたちに非はないと思うけど?」


「うるさいな。それはお前には関係ないだろ!」


 サシリはその言葉を聞いて少しだけハクたちが抱いた感情の一端を理解した。

 つまりこちらがいかに食い下がろうとも、話を聞くどころか自分たちの意見を一方的に押し付けてくる。

 ましてそれが他人に被害を及ぼすのだから性質が悪い。

 サシリは一度大きくため息を吐き出し、そのまま目を閉じるとゆっくりとした口調で声を上げる。


「関係ない、ね。確かにカリデラにいたころの私だったらそうかもしれないわね。でも、今は………」


「な、なんだよ……」


 急に空気が変わったことに勇者達は知らずのうちにサシリから一歩後ろに下がってしまう。それはサシリの身から放たれる静かな殺気とカリデラの君主としての風格がなせる技であった。


「仲間が襲われそうになっているのに、それを見逃すなんてことできないわ」


 その瞬間、サシリは一瞬で勇者たちに接近するとその中の一人に目をつけ、首筋にかぶりついた。


「きゃああああああああ!?」


 本来、今生きている時代の吸血鬼というものは吸血衝動というものはない。血も日常的に摂取する必要はなく、人間に近しい進化を辿っている。

 だがやろうと思えば今の吸血鬼でもその血肉を己の養分に変えエネルギーを吸い出すことだってできるのだ。


「な!?お、お前!?」


 残されている三人の勇者たちがサシリのいきなりの行動に目を見開き驚いているが、サシリはお構いなくかぶりついている少女の体内から血液を吸い上げる。


「あ、あ、あう、うぅぅぅ………」


 血を吸われている少女は次第に顔色を悪くしていき、足が震え始めている。


「てめえ、放しやがれ!」


 するとその光景を見ていた勇者の一人がサシリに攻撃を仕掛けてくる。獲物は比較的長めの槍で、かぶりつき血を吸っているサシリの顔面にそれは突きつけられた。

 だがそれはサシリの眼前数センチメートのところで急に止まり、その姿を変える。

 換わり巡る血壁(ブラッドウォール)

 それはサシリが戦闘開始と同時に発動していた力で、その力を全身に纏わせていたのだ。それは赤く細い線が形になったもので、触れた全てのものを血液というエネルギーに変換する力を持っているのだ。

 ゆえにその効果が勇者の武器にも作用し当然のごとく鮮血に変換させられてしまう。


「ば、馬鹿な!?」


「あ…………う……。…………」


 サシリは少女の体内にある血液を気が失うレベルまで吸い上げると、倒れ伏した少女を地面に寝かせ舌を這わせる。


「なかなか、いい味だったわ。私、今生きている吸血鬼の中じゃ珍しいけど多少吸血衝動があるのよね。だからあなた達の血も貰っていいかしら?」


 サシリは吸血鬼の始祖と同化してから若干その時代の吸血鬼に備わっていた能力も受け継いでしまっているのだ。それは当然吸血衝動も含まれており、抑えられないほどではないが、一年に一回ほどは血液を体が求めてしまう。


「ふ、ふざけるな!お、お前人間じゃないのか!?」


「吸血鬼を人間と定義しないのならそうかもしれないわね」


 口元にべったりとついた勇者の血を舌で嘗め回しながら、興味がないような雰囲気でサシリはそう呟くと、まるで今しがた吸い取った少女の力を使うかのように力を増幅させ、殺気を放つ。


「私にはそんなことどっちだっていいの。ハクの傍にいて、一緒に冒険して、友達と他愛のないお喋りをして。それで十分なの。もしあなたたちがそれを壊そうとするなら、今の私にだってあなたたちを吹き飛ばす意味はあるわ」


 そう言うとサシリは血の力を操り髪を逆立て地面を揺らしながらこう呟く。


「さあ、選びなさい。私に血を吸われて楽に気絶するか、それともその身が砕けるまで私と戦うか。好きなほうを選んでいいわよ?」


「な、なめるんじゃねえええええ!!!」


 サシリの言葉にとうとう堪忍袋の緒が切れた勇者たちは三人同時に攻撃を仕掛けた。魔術に魔法、あろうことか固有スキルのようなものまで放たれており、その全てがサシリに向けられる。

それは普通の人間であれば間違いなく命を散らすであろう攻撃で、たとえ歴戦の冒険者であってもタタでは済まない威力が込められていた。


「そう。それがあなた達の決断なのね」


 サシリはそう小さく言葉を吐きだすと、今まで誰にも向けたことのない憎悪の感情を顔に浮かばせながらその攻撃を迎え撃った。


搾取するは飴色の流血(ブラッドスィクル)


 サシリがその言葉を口にすると、勇者たちの頭上に大きな紫色の鎌が出現する。それは出現した余波だけで勇者たちの体を吹き飛ばし、攻撃を全て無力化した。


「なんなんだよ、お前!こんな奴がいるなんて聞いてないぞ!」


 自分たちの全力の攻撃が全て打ち消されてしまったことに驚きを隠せない勇者たちであったが、サシリにはどうでもいいことであった。

 この帝国兵と勇者たちは自分とパーティーメンバーにとって不幸にしかならない。であればそんなものを見逃しておけるはずがない。

 サシリはこの一心で攻撃を振るう。

 エルヴィニアで何が起きてハクたちがどれだけ悲しい思いをしたのかは、どれだけその話を聞こうと当事者のように感情を注ぎ込むことはできない。

 だが、だからといってそれがサシリの動きを止める要因にはならない。理由がなければ見出してしまえばいい。それでハクたちとの関係が保たれるのなら、造作もないことだ。

 搾取するは飴色の流血(ブラッドスィクル)はそのまま真っ直ぐ勇者たちの脳天に降り注ぐ。

 莫大すぎる力は周囲の空間を歪ませ、バチバチと稲妻を走らせており、その攻撃がどれだけ強力なものかが窺える。

 しかし、勇者たちも黙っていないようで一人の少女が前に出ると固有スキルであろう力を発動した。


「天界壁!」


 淡い黄色の障壁が展開され、残っている三人の勇者を取り囲むようにその守りの盾は出現した。

 サシリの発動した搾取するは飴色の流血(ブラッドスィクル)はそんまま勇者が展開する障壁に勢いよく激突する。

 本来天界壁というものは、触れたものを問答無用で溶かし打ち消す障壁だ。それは魔力の消費も大きいが発動すれば最後、絶対の守りとして機能する。

 しかしこの盾はエルヴィニアでクビロが破ったように、その出力を大幅に超えるものには対応できない。

 当然その弱点は勇者もわかっていたためこの数か月間鍛錬に励んできた。これがクビロや他のメンバーの攻撃であれば多少は効果があったかもしれない。

 だが今回の相手は、はっきり言って次元が違いすぎる。

 所有している魔力量も違えば、さらに上位の神格まで操ってしまう血神祖が相手なのだ。そんな世界の生み出したイレギュラー相手に高々異世界転移のギフトごときが通用するはずがない。

 搾取するは飴色の流血(ブラッドスィクル)と天界壁が激突した瞬間、両者は一瞬だけ拮抗しているような素振りを見せたが、その後はサシリの搾取するは飴色の流血(ブラッドスィクル)がまるで豆腐でも切るかのように天界壁を真っ二つに両断した。


「そ、そんな!?私だってちゃんと練習したのに………」


 天界壁を放った少女の顔に明らかな絶望が滲み始めると、その周りにいる二人の勇者たちも次第に冷や汗を浮かべ始め、足が震えている。

 しかもまだ搾取するは飴色の流血(ブラッドスィクル)は消滅しておらず、今もなお空中に血を滴らせるかのような鋭い刃先をチラつかせ勇者たちの首を狙っていた。


「今までの話を聞いてあなた達は私に不幸しか呼び込まないことがわかったわ。だからここで消えてもらうことにするわね」


 サシリは無表情でそう呟くと、震えている勇者たちに勢いよく搾取するは飴色の流血(ブラッドスィクル)を叩き落とした。


「きゃああああああああああ!?」


「や、やめろおおおおおおおお!!!」


「助けて助けて助けて助けて助けて……!!!」


 その瞬間、爆風と爆発が同時に空間に吹き荒れ勇者たちを巻き込み、土埃の中に放り込んだ。

 その煙が晴れてくると、そこには無傷の勇者四人が気を失いながら倒れており、泡を吹きながら寝転がっている。

 ハクから殺さないようにと言われている以上、命は奪わず搾取するは飴色の流血(ブラッドスィクル)は直撃させていない。

 当たる瞬間にその力を霧散させ、恐怖という感情だけで気絶させたのだ。

 サシリは無表情で髪をかき上げると、最後に少しだけ笑顔を浮かべこう呟いた。


「今の問答はそれなりに楽しかったわ。でもまあ、何があろうと私はあなた達を攻撃していたけどね。偶にはこういうドラマ仕立てな演出もいいんじゃないかしら?」

 

 そう言葉を発した隣で戦っているキラの姿を見ながら、その戦闘が終わるのをひたすら待つのだった。


 圧倒的な力は勇者たちを吹き飛ばし駆逐していく。

 しかしこれは全て星神が思い描いた展開そのものであり、その手のひらで踊っているということは誰一人気づいていない。

 そして同時刻。

 また別の場所で新たな問題が動き出しているのだった。


次回は冒険者たちとシラ、シルのほうに視点を動かします!

誤字、脱字がありましたらお教えください!


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