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第二百二十二話 学園王国vsオナミス帝国、三

今回はキラがメインです!

では第二百二十二話です!

「ハクがあの二人を倒すなら私たちは残っている九人ね。内訳はどうするのかしら?」


 キラとサシリはお互いに目を合わせながら、どの勇者と戦うかの相談をしていた。ハクが相手取るのは以前戦った二人の勇者ということなので、全十一人いる勇者の中から考えると残るのは九人ということになる。


「好きにしろ。どうせこんな雑魚が一人や二人増えようが大したダメージにはならん」


「そう。なら適当に分けるけれど、今私たちから見て右側の五人をキラに任せてもいいかしら?」


「ああ、それでいい。しかし、やりすぎるなよサシリ。お前は妾と同じで少々歯止めが効かないところがあるからな」


「あら、自分と同じでって言っている時点でそれは説得力ないわよ?」


「だろうな。だがそれでも言っていることはわかるだろう?」


 キラとサシリは何かを確認するように笑いあうと、両者ともに力を全身に馴染ませるように流し始め、戦闘態勢に入った。


「そうね、まあハクに怒られない程度に暴れるわ」


「では行くとしよう」


 その瞬間、キラとサシリの姿が掻き消え、世界がもたらした強大なイレギュラーの二人が動き出したのだった。









「さあ、かかってくるがいい人間。妾が直々に相手をしてやる」


 キラは自分の担当になった五人の勇者の前に立ち、顎を若干上にあげるように目線を向け、そう呟いた。

 目の前には様々な色の防具を着た勇者たちが佇んでおり、その全てがキラに明確な敵意を滲ませているようで、全員が武器を抜いてキラを見つめている。


「お前にはエルヴィニアで散々やられたからな。今日はきっちりお返しさせてもらうぜ!」


 するとその中から一歩前に出てきた少年が大きな大剣を構えながらそう声を発してきた。


「ん?エルヴィニアで確かに妾は誰かと戦ったような気はするがお前のようなやつだったか?」


「忘れてるのかよ!?山杉正悟だよ!前に名乗っただろ!」


「知らんな。そもそも人間は精霊以上に個体数が多い。お前ごときの雑魚をわざわざ覚えているわけがないだろう」


 実際にキラは仲間や余程関係の深い人間以外、脳内にその名前を記憶することはない。やはりキラにとって人間というのは一度共存を望んだとはいえ、まだまだ同じ地位として認めてはいないようだ。

 いや、認めていないというよりは興味がないという感じだろう。

 それこそハクやアリエスといった特殊な例というのもあるのだが、それ以外は本当にキラの眼中にない。

 つまりそんなキラが高々一度戦った相手の人間を記憶しているはずがないのだ。


「くっ!この女、言わせておけば!」


 正悟は明らかに怒りを滲ませた表情をキラに向けると、そのまま戦闘を開始した。

 大きな音を立てて振るわれる大剣は、キラの脳天を叩き割るかのように降り注いでくる。


「くたばりやがれ!」


 さらにその後ろに控えている四の勇者も各々の武器や魔術を発動して正悟を援護してくるようだ。

 しかしキラはその顔に依然として笑みを残しながら、目を瞑るとふと面白いことを思いついた。


(ふむ、いい機会だからマスターのような戦い方をしてみるか)


 するとキラは目の前に迫ってくる攻撃全てを腕を組みながら足だけで打ち落とし、正悟の大剣さえも膝頭で受け止める。


「な!?」


「確かに以前よりは強くなっているようだな。多少は思い出してきたぞ?」


 キラはその剣をはじき返すように吹き飛ばすと、余裕の表情でこう呟いた。


「妾は今から手を使って攻撃も防御もしない。その意味が分かるな?」


 そう、それはかつてハクが圧倒的な実力差を見せつけるために取った手段で、常に空中に浮くことで足の自由を確立し、腕を使わずとも足だけで攻撃も防御もこなしてしまうという強者のみが出来る戦闘スタイルである。


「な、なめるなよ、女!」


 さすがにその言葉にはいら立ちが隠せないようで、正悟も他の勇者たちも一斉に攻撃を開始した。

 キラは根源を足に纏わせるような形で使用すると放たれてくる攻撃を全て消滅させていく。


「所詮、お前たちは力に使われているだけの存在だ。身に余る力を振るうことに優越を覚え、その湯船に長々と浸かっている。そんな連中に精霊の女王たる妾に敵うはずがないだろう?」


「うるさい!加奈子、あれを使え!」


「う、うん!」


 すると正悟は一緒に戦っている勇者の少女一人に何かを呟き行動を促す。


拘束の雷光(スパークバインド)!」


 その加奈子と呼ばれた少女が放った攻撃はキラの周りを取り囲むように電気の茨を作り出し、その逃げ場を封じる。そしてそれは次第に小さくなっていき、その体を縛り詰めるような形でキラの身動きを封じた。


「ほう」


 キラはその体を縛り上げられながら、感嘆の声を漏らす。


「どうだ!加奈子の能力はどんなものでも縛り上げる絶対の茨!これに捕らえられたら最後、加奈子が能力を解除するまで逃げられないぜ」


「なるほど、精霊の実体にまで干渉してくるのか。なかなかの技だ」


 正悟はそんなキラの反応を嘲笑うかのように武器を構え、攻撃を再開した。


「今なら当てられるぜ、屈折境界!」


 それはエルヴィニアでも正悟が使った技であり、多重に出現する剣の虚像を見せることで相手を惑わし、その隙に剣を確実に相手の懐に穿つ正悟の固有スキルである。

 実際、今のキラは身動きが取れないためそのスキルを使用する必要はないのだが、それでもスキル使用中は若干攻撃力に補正が入るので、正悟は全力の攻撃を放つためにその選択を取ったのだ。

 その動きを見ていた残りの勇者たちも同時に攻撃を仕掛ける。それは各々最大の攻撃を放ってきており、空気を振動させている。

 しかし、キラはそれでも余裕の表情を滲ませており、自分の身を拘束している茨を断つために力を発動させようとした。


「悪いが、貴様の力は発動させない。消滅結界!」


 するとその行動を予測していたように勇者の一人が自らの固有スキルを発動した。それは能力使用者の害となるものを全て破壊する能力で、エルヴィニアではハクの気配創造ですら壊している固有スキルだ。


「妾の力を世の干渉力で打ち滅ぼすか。酔狂なものを使うようだな」


 キラは自分の力が消滅させられたことに驚きながら、その場に佇んでいる。いや、佇むしかない。というのも今の状態は電撃の茨に身動きを制限されながら、それでいて攻撃も出来ない状況になってしまっているのだ。こうなってはキラもそう簡単に抜け出すことはできない。

 そしてそこに正悟たちの全力攻撃が放たれる。


「これで終わりだ!」


 キラに向かって差し出される攻撃は寸分たがわず精霊女王の体に降り注ぐ。

 それは砂煙を生じさせ、空間に大量の爆発を発生させた。

 間違いなくクリティカルヒットしたことを確信した正悟たちは、その土煙から逃れるように距離を取ると勝利の余韻に浸る。


「ふはははははは!やったぞ、ついにやった!あの憎い女を倒したぞ!」


 それはどうやら残っている四人の勇者も同じようで、その顔には喜びの色が浮かび上がっている。

 だが。


「なかなかのコンビネーションというやつだな。妾が相手でなければそれなりのダメージは入っていただろう」


 煙の中から姿を現した精霊女王はその顔をさらに楽しそうな表情に変えながら、優雅にそして美しく地上に足を下ろした。

 その姿は先程と同じように腕を組み、まったくの無傷でその場に降臨している。


「「「「「ッ!?」」」」」


「言っておくがあの程度の力で妾の動きを封じることなど出来ると思うなよ?力の絶対量がそもそも違いすぎるのだ」


 確かに勇者たちの力は強力だ。それは普通の人間では到達できない領域に達しており、いくらキラであれ多少の驚きは受けている。

 しかし言ってしまえばそれだけ。

 そこからキラに何か発展を与えるだけの何かがあるわけではなく、進展はない。

 そもそも悠久の時を生きてきたキラが培ったものは、高々力を授かって数か月の人間が壊せるものではないのだ。

 それに根源を操るキラにとってアリエスやエリアといった強力な魔力を持つ者以外の力というのはその天井値が雲泥の差ほど開いている。仮に攻撃を全て受けていたとしてもダメージを与えるどころかかすり傷一つつかない。

 というわけでキラにとって目の前の展開は至極当たり前で、尚且つわかりきった状況だったのだ。


「な、ならばこれはどうだ!」


 すると勇者の一人が何かの能力を発動し、キラに対して声を上げてくる。

 その瞬間、キラの体がブレたかと思うとその体があった場所がいきなり変わり、勇者たちに自ら近づいていくような形で移動してしまう。


「ふん、自分の力に慢心しているのはお前のようだな!」


 一瞬の隙を誘ったその攻撃にキラは目を丸くしながら驚きの表情を見せる。


(座標変換。確かアリエスたちがそのようなことをいっていたな。これはくらってみると意外に厄介な技だ)


 座標変換は相手がどんな位置にいようとその座標を問答無用で能力使用者と交換してしまうというものだ。不意打ちでも通常の戦闘でもそれが成功すれば間違いなく次の攻撃につなげられるとても優秀な技らしい。

 とはいえ、今のキラにそのような攻撃が通用するはずがない。

 キラは寄ってくる勇者たちの構えている武器を右足と左足を交互に使いながら弾き飛ばすと、その全員の体に蹴りを放っていた。


「「「「「ぎゃあああ!?」」」」」


 さほど力を入れたわけではなかったのだが、勇者たちはそのレベルの攻撃で蹲ってしまう。


「痛みに慣れていないようだな。どれだけ自らを鍛えようと所詮は剣の握り方も知らない赤子か」


「う、うるさい………。お、俺たちはお前を倒すまで引けないんだよ!」


「そうか。であればかかってこい。妾もまだまだ力は温存しているぞ?」


 実際キラは根源も通常の攻撃もかなりセーブした状態で戦っている。キラは本気になればそれこそ神核とも互角以上に渡り合える存在なので、いまさらこのような勇者かぶれの連中に苦戦することはない。


「ほざいてろ、女!俺たちだって本気は出していない!今にその顔を絶望に染めてやる」


 キラに蹴りを叩き込まれた場所を手で押さえながら正悟は立ち上がると、自らの大剣を構えなおして、キラに向き直った。

 キラもそれに構えるような形で身構えたのだが、そこであることに気が付く。


(ん?サシリの奴はもう片付けたのか。ならば名残惜しいがこちらもそろそろ終わらせるとしよう)


 キラはそう思うと全身の力を抜き、目線だけを正悟に向ける。


「気が変わった。お前たちとの戯れもここまでだ」


「な、何!?ど、どういうことだ!?」


 正悟たち勇者はキラの言葉にうろたえながら、そう呟く。


「どういうこと?わからんか?お前たちを倒すということだ。それくらい察しろ」


「ふ、ふざけるな!俺たちがそう簡単にやられるわけが………」


「であれば沈め」


 キラはそう言うと前回と同じようにあらかじめ仕込んであった根源を発動する。


根源の爆撃マタタキハハカイノウタ


 それは以前エルヴィニアで正悟を倒したときに発動した技そのもので、再びその攻撃を正悟に浴びせる。


「その攻撃は!!!」


「一度引っかかった技をもう一度くらう気分というもの是非とも教えてほしいものだ」


「よ、避けろ!みんな!」


「遅い」


 正悟の声はすぐさまキラの根源に飲み込まれその体ごと吹き飛ばされる。その根源は今まで勇者が放ってきたものとは段違いの威力を持っており、精霊女王にふさわしい攻撃となっていたのだった。

 キラの根源は綺麗に勇者たちの意識だけをそぎ落とし、気絶させる。

 その光景を見ていたキラは組んでいた腕を元に戻すと、そのまま上からの目線でこう呟いたのだった。


「確かに妾は手を使わないといったが、足だけを使うとは言っていなかっただろう?」

 

次回はサシリにスポットを当てます!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は今日の午後五時以降です!

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