表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
220/1020

第二百十九話 それぞれの思惑

今回は全部で三つの視点からお送りします!

では第二百十九話です!

 とある空間。

 次元の狭間。

 極限の虚空。

 そう敬称すれば、その場所がいかに特異で変質的で、それでもって現実離れしたところなのか伝わるだろう。

 いや、それでもまだ足りないのかもしれない。

 目の前に広がっているのは世界と世界を繋ぐ神にのみ許された出入り口であり、星神の行きついた究極の部屋でもあった。

 その場所で星神はたくさんの使徒たちに囲まれながら世界を眺めている。その目はどこか楽しそうで高揚感が浮かんでおり、しかしそれでいて底を感じさせないほど黒い感情が溢れ出ていた。


「さて、そろそろ勇者君たちは動き出すかな?一応声はかけておいたはずだけど」


 するとその言葉に反応するように、八枚の翼を背中から生やした使徒が一歩前に出て跪き、静かに言葉を返す。


「はい、順調に準備を進めているようです。あと数日もすれば動きがみられるかと」


「そうか。なら心配はいらないね。まったくわざわざあの世界から呼び出しておいて、それを使わない手はないっていうことだよ。いい働きに期待しようじゃないか」


 星神は一度そのタイミングで言葉を切り、右手を自分の顔にかざし、何度も開いたり閉じたりを繰り返す。


「力とは世界よりも不条理だ。どれだけ追い求めてもそれは限界があり、無差別に与えられる。それは僕が意図的に授け、底上げすることもできるけど所詮は紛い物だ。それが純粋な神力を持つ者に敵うはずがない」


「でしたら、オルナミリス様は勇者たちが敗北するとお考えなのですか?」


「そりゃそうさ。だけどそれなりの成果は残してもらう予定だよ。それにまだ死なせはしない。彼らにはまだ動いてもらわないといけないからね」


 笑いながらそう呟く星神の表情は、今まで使徒たちが見てきた中でも一番歪んでおり、どす黒い感情が滲み出ている。


「さて、話は変わるけれど『鍵』の所在はわかったかい?」


「い、いえ、それに関しましては私たちも掴めておりません」


 その言葉を聞いた星神は一つため息をつくと、そのまま足を組み直し座っている椅子に大きく体重を預ける。


「まあ、気にしなくていいよ。そう簡単に見つかっていたら苦労はないからね。とはいえあれがなければ僕の計画は完成しない。できるだけ、早めに頼むよ?」


「御心のままに」


 星神は部下の使徒にそう命じると、使徒たちを全員下がらせ部屋の中を自分一人にした。


「確かに勇者君たちは色々とかき回してくれそうではあるけれど、やはり彼には敵わない。だけどそれは僕にとって好都合だ。イレギュラーはただでさえその身に宿している力が大きいのに、今回は神妃本人だからね。本当に助かっているよ」


 それがどういう意味を持って発せられた言葉なのかは星神以外にはわからない。だがその真相が解明されるときというのは星神の願望が全て叶ったときでもある。

 ゆえにその言葉が出てきたというのは刻一刻と世界の危機が迫ってきている証拠でもあった。

 それからゆっくりと立ち上がるとそのままその部屋を後にし、また別の部屋に足を向ける。

 そこは何もない真っ白な空間で目に映るものは全て白い光だけとなっている。

 星神はその道を何も考えず突き進む。

 そしてたどり着いた先には、一見すると先程と同じような部屋が広がっていた。しかし空間の裂け目はなく全てを収束させるような力場もない。

 その場所に佇んでいるのはたった一つ。

 その存在に星神はゆっくりと近づくと、その体に触れながらこう呟いた。


「意識は、いや魂とでも言うべきか。それは残念ながら見つからなかったけど記憶だけは手に入れた。これで君もようやく動かせる。精々頑張ってくれよ?」


 星神はそう言いながら最後に姿を一瞥すると、またゆっくりとした足取りで元の部屋に戻っていく。


「さあ、ようやく面白くなってきた。気の遠くなるほどの時間の果てに僕はついにあなたを見つけた。それもこれ以上ない絶好のタイミングで」


 今まで誰にも聞かせたことがないような殺気を含んだ声で星神は最後にこう締めくくった。


「まだ僕は動かない。だけど絶対にあなたには会うことになる、神妃リアスリオン。その時を楽しみにしているよ」









 時を同じくしてその頃。

 獣国ジェレラート。

そこは獣人族を唯一歓迎する楽園と呼ばれている場所だ。

その中心地に大きく立ちそびえる王城内の玉座の間。その部屋の中には一人の国王とそれを取り囲むように群がっているたくさんの臣下たちが顔をしかめていた。


「候補者は出そろったか?」


 国王である黒色の毛並みをもった獣人がその臣下たちに呟くように声を上げた。


「はい。五人ほど集まっております。ですが、その中には……」


「いなかったのか」


「はい……」


 獣人族が取り仕切るこの王国は代々その王の座にとある一族が身を置いていた。それは突如として存在を消し、今では同じ獣人族のものであってもその築き上げた栄華を知るものは殆どいなくなってしまっている。

 当然そうなってしまっては現国王を含め、国を運営するためにその一族でないものがその座に身を置くしかない。

 そして今回開かれる王選の参加者の中に一人もその一族の姿はなく、今まで通り希望者の中から選出するしか方法がなかったのだ。


「どういたしましょうか?」


「ふむ、こうなっては今までと同じようにその中から選ぶしかないだろう。わしの時もそうだったからのう。こればっかりは仕方がない」


 現国王は自分の退位を控え、その後継者を今まで通り王選で選ぶことにしたのだ。それはその一族が消え去ってから続いているもので、習わしにのっとっているといえばそうなのだが、現国王は出来るだけその由緒ある一族の生き残りがいないか探していた。

 というのもその一族がこの国を治めていた間というのは唯一獣人族の差別が見直された時期であり、同時に獣人族全てを統括するようなカリスマ性を持ち合わせていたものが多かったからなのだ。

 もし仮にその血筋が残っていればすぐにでも、その者に国王の座を譲ろうと考えていたのだが、それは失敗に終わった。

 結局のところ獣人族はやはり差別されているので、それが今の獣人族を破滅の道に追い込んでいる。なんとかこの国にいるものたちは守れているものの、それ以外の場所に住んでいる獣人族は耐えがたい生活を送っているのだ。

 このような状況でたった一つしかない血筋の生き残りを探すのは無理な話だろう。

 黒毛の国王は臣下に命令を出し、問題を出さぬよう王選を進めるように指示を出した。


「やはり無理なのだろうか。わしの時も前国王はその血筋を探していたが発見できなかった。これほどまでの時間がたってしまうとさすがに難しいのかもしれない……」


 実際その一族が華を飾ったのはもうすでに何百年も前のことで、その存在すら忘れかけられている。

 とはいえその一族は直系ではないものの、獣国初代国王の血を継いでいるので正当な後継者として崇められてもおかしくない血筋で、それこそ発見されれば一瞬にして国王として迎えられる存在なのだ。

 だが見つけられないというよりも生きているかもわからない状態でこれ以上の時間はさけない。

 現国王はそう判断すると、玉座に体重を預け大きく息を吐き出した。

 すると何やら部屋の外からバタバタと足音が聞こえてきており、その音はどんどん近くに近づいてくると勢いよく部屋の扉を開け放った。


「へ、陛下!お、お伝えしたいことがあります!」


「どうした、そんなに慌てて?」


「は、はい。実は………」


 その言葉を聞いた国王は目を見開き立ち上がると、その場にいる部下たち全員に命令を下し、すぐさま行動に乗り出した。


「聞いていたな、絶対にその者たちを安全にこの王国に連れてくるのだ、いいな!」


「「「「「「「はい!」」」」」」」


 そして散り散りに部屋から出ていく部下たちを眺めた国王は一人になった部屋でポツリと一言だけ嬉しさを握ませた声でこう呟く。


「ようやく、ようやく見つけたぞ。これでこの王国も安泰だ」


 それは例の一族と思われる生き残りが確認されたことによる喜びからきており、これこそが新たな問題を引き起こす火種となるのだった。











 さらに場所は変わり、血塗られた空間にて。

 その中心に佇む少女は、人間たちによって満たされた血の池を足でかき回しながら、それを舐めるように喉の中に通していた。


「最近はめっきりこの場所に来る人間も少なくなったから、大分この床も減ったわよね。そろそろ補充しないといけないころかしら」


 その少女はまったく生気の宿っていない目を辺りに向けながらそう呟いた。まるで月を溶かし込んだかのような金髪はなぜかその血液に群れても赤く染まることはなく、その輝きを保ち、少女も体に巻き付いている。

 しかしその髪は少女の意思に反応するように、光を放ちながら軽く空中に浮きあがるとそのままこの部屋の入口がある方向に向けて何かを放つ。

 いや、放ったように見えたというのが正しいか。

 その瞬間、部屋の中に絶叫が轟いた。


「ぎゃああああああああああああ!?」


「本当に人間の悲鳴はいいものね。誰だか知らないけどこの私の部屋に一人で入ってくるなんて随分と度胸があるじゃない?」


 放たれたかのように見えたそれは、その少女が持つ金色の髪そのもので普段ならば腰辺りの長さのものが、今は何十メートルにも伸びてしまっており、侵入者である人間を巻き付けていた。

 しかもそれはその一本一本が人間の体に突き刺さり、血管という血管を穿っている。


「本当なら、一瞬で液に変えるところなんだけど、今日は暇だから少し遊んであげるわ」


「ぎゅあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 もはやその人間が上げている悲鳴は悲鳴ではなく、人間のものなのかも怪しいものとなっていた。

  だがそれを聞いてもその少女はまったく顔色も表情も変えずさらに髪を突き刺していく。


「あら残念。もう壊れちゃったかしら。異世界の神様が来るまで遊んでいようと思ったのだけれど、さすがにそれは無理そうね」


 少女はそう言うと突き刺している髪を縦横無尽に振り回し、全てに肉と骨を砕きつぶすと新たな血液を地面に流し、笑顔を浮かべながら言葉を吐きだす。


「まだかしら、あの神様が来るのは。私はこの空間からでられないんだから、早く来てくれないと困るのよ?」


 すると少女はまた地面に広がっている血を足で掬い上げると、それを顔に浴びせその味を楽しむ。


「残っているのは私だけ、いつでも準備は出来てるわ。あなたの血はどんな味がするのかしら?食べたくて食べたくて仕方がないの」


 少女は一人でそう呟くと、そのまま眠るように目をつむる。

 何をするわけでもなく蹲るその姿は、神々しさを通り越して美しさの極みのような光景だったのだが、その周囲に漂っている気配は惚れたものを一瞬で融解させるかのような死の香りを滲ませていたのだった。






 こうしてハクたちパーティーを取り巻く環境がさらに動き始める。

 そしてついにその第一波がハクたちに向けて流れてこようとしていたのだった。


次回からようやく帝国の勇者たちとの再戦が始まります!

誤字、脱字がありましたらお教えください!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ