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第二百十八話 災いの予兆、二

今回はあの二人の掛け合いが少しだけ描かれています!

では第二百十六話です!

 帝国軍が再び勇者を連れて攻めてくる。

 俺と念話で話しているイロアはそう真剣な雰囲気を滲ませながら呟いた。

 しかしその情報はなかなか俺には納得できる情報ではなかったのだ。というのも学園王国は帝国がまず攻めないであろう場所だと考えていたからだ。

 学園王国はその名の通り学園や学校という教育機関を設けている。それゆえ国全土の戦闘レベルが高くいままで帝国もその力に抑圧されるような形で沈黙の態勢を取ってきたのだ。

 そこに勇者がいるからとはいえ、攻め込んでくるというのはなかなか勝機の沙汰ではない。

 確かに俺はパンドラを置いていくつもりではあったが、それでもこの王国はまず安全だろうと思っていたのだが、イロアの言葉はそれを真っ向から否定してくるものだった。


『その情報は確かなのか?』


『それは間違いないだろう。私のパーティーの中にいる偵察に優れたメンバーが帝国に潜入して聞き出した情報だ。ほぼ確実と言っても過言ではない』


 だがそれは尚更理解ができない状況になる。


『しかし、何故この学園王国を狙う?はっきり言ってこの王国を落とそうとする考えは今までにもあったはずだ。だが、それでも学園王国は国家レベルが段違いに高い。そう簡単に攻ようと思うような場所じゃないぞ?』


『それは私も同意見だ。しかしどうやら本気で学園王国を落とそうとしているらしい。物資の流れもここ最近は急激に激しくなっているようで、一介の村や町とやり合おうという規模の話ではないように感じる』


 戦争というのは常に大量の武器や食料、それにたくさんの人手を必要とする。ゆえに今帝国に見られる動きというのはまさにその状況に当てはまっていたのだ。


『具体的な日付は決まっているのか?』


『いや、それはまだのようだ。それでも近々動き出すような動きは捉えているらしい』


 まあ、俺たちは残り一か月ほどこの学園に留まっている予定だ。俺たちがいる間であればいくらでも対抗は出来るだろう。


『なるほど、事態は理解した。結晶に何か反応があればこちらで対応しておこう』


『ああ、頼む。こちらではおそらく学園王国には行くことが出来ない。向かっている間にそちらでは何かしらの動きがありそうだしな。我々は引き続き獣国に留まっていることにするよ』


 実際SSSランク冒険者は世界の各地にとどまり帝国の動きを観察しているが、いついかなる時も最悪の事態は想定しておかなければならない。

 もし仮にイロアが急いで学園王国に向かっている間に獣国が攻められてしまえば、それこそ大虐殺が展開されてしまうだろう。

 そのためイロアの判断には特に反対しなかった。


『ああ、それがいい。それにしても、そっちはどうなんだ?俺は獣国っていう場所に行ったことがないからよくわからないんだが………』


 獣国、つまり獣国ジェレラートというのは今いる学園王国よりを遡るように南に下り、ルモス村のさらに西に位置している獣人族の国だ。

 そこはこの世界で唯一獣人族の差別がないところで、人族や他の種族が獣人族と平和的に暮らしている。

 今までずっとルモス村から北上するような形で旅をしてきたため、その国には訪れることはなく、はっきり言ってしまえばまだ見ぬ未踏の地になってしまっていたのだ。


『どうといわれてもな……。こちらには特段帝国の動きは見られない。………あ、そういえば今はなんだか王選というものが行われているようで、なにやら賑やかではあるな』


『王選?』


『なんでもこの国の国王が丁度このタイミングで退位するらしく、今は次の国王を決めることで国中が騒いでいるのだ』


 は、はあ………。

 王選ねえ、また異世界らしいことやってるじゃないの。

 王選というのは文字通り次期国王を何人かの候補者の中から選ぶ儀式である。なんでも獣国は正当な王家の血を引くものが今では途絶えているらしく、国王が変わるたびにその王選というものを行っているらしい。

 おもしろそうなイベントだけど、別に獣国には予定ないしなー。行くことはないだろう。


『へー、それはまたなんとも言えないタイミングになったな』


『まったくだ。とはいえ閑散としているよりはマシだ。大人しく監視を続けるとするよ』


『そうか。なら、また何かあれば連絡する』


『ああ、頼んだ』


 俺はそう言ってイロアとの魔術念話を切ると、大きく息を吐き出し今の会話の要点を整理しだす。

 えーと、つまりは近々帝国軍が勇者を引き連れてこの王国にやってくるってわけか。

 ならばさっそく動いておくのも悪くはないだろう。

 そう思い至った俺はいまだに頬を引っ張られているパンドラに向けてちょっとした命令を出した。


「おい、パンドラ。今すぐ箱をいくつか設置してきてくれ。場所は結晶よりもさらに王国に近い場所で頼む」


「ふぇ?わ、わかりましたぁー!では行ってきますぅー!!!」


 パンドラは元気よくそう呟くと、そのままアリエスたちの手をすり抜けるようにして空中をふわふわと飛び上がると、俺の命令を実行すべく動き出した。

 アリエスたちはそんな姿にさえもうっとりしていたが、すぐに俺の方へ振り替えると真剣な表情で問いを投げてくる。


「何かあったの、ハクにぃ?」


「ああ。どうやら近いうちに帝国の奴らがこの王国に攻めてくるらしい。たった今イロアからそう連絡があった」


「「「「「「ッ!!!」」」」」」


 よく事態をわかっていないサシリ以外のメンバーは一瞬にして顔をさらにしかめ、鬼気迫る威圧を放ってくる。


「帝国ってなんのこと?」


「ああ、サシリ姉は知らないんだね。えーと、帝国っていうのは………」


 俺はアリエスが今までの出来事をサシリに話している姿を眺めながら、それに続く形でイロアとの念話の内容を話していく。

 結果的にそれは一時間ほどかかってしまったが、皆事態を理解したようで各々が帝国の勇者たちとの再戦に備えて気持ちを引き締めていくのだった。

 ちなみに我らが担任のギランはいつも通り教卓の上で眠りこけていたというのは余談である。




 で、さらに翌日。

 この日は学園自体が休日で、俺は久しぶりに一人で体を休めていた。

 とりあえずやることはあるものの、神核とも戦った直後なので今日は一日しっかりと体の疲れを取ることにしたのだ。

 アリエスたちは何やら街へ買い物に出ているらしく、その知らせがキラの念話で飛んできている。

 昨日呼び出しておいたパンドラは俺が言った通りに箱を王国の周りに設置し終わったようで、その報告も俺に入ってきていた。

 その箱というのは、有名なパンドラの箱のことをさしており、世の中に災厄をまき散らすことを前提に作られたもので、中にはその因子が大量に詰め込まれている。

 だが今回はそれをパンドラに大量に用意してもらい、それをまるで地雷のような形で使用しようとしているのだ。

 さすがにこのような場所で出力全快の箱を使うわけにもいかないので、ある程度の足止めが出来るように威力を調整した箱を帝国の軍勢が来たときに開くようにして、撃退しようという考えである。

 そもそもパンドラの箱というのは災厄や世の中の悪を閉じ込めているものだ。それは本来攻撃という手段には使用できないもので、もっと幅広い被害を及ぼす力を持っているのだが、それを俺が力を加え書き換えることで攻撃用に転嫁させて設置している。

 まあ、別に殺すわけでもないので俺たちが到着するまでの間注意を逸らせればいい、という程度にしか考えていない。

 だがそれでも効果は間違いなく期待できるので、パンドラという選択肢を俺は選んだのだ。

 そのパンドラから無事に設置が完了した知らせを聞いた俺は一人ベッドの上に寝転がり目を閉じる。

 そう思えばこうやって一人でベッドに転がるのって今まであんまりなかったな。

 いつもならアリエスたちかグラスが絶対に近くにいるし、なかなか珍しい時間だ。

 俺はそのような考えを膨らますと、俺の中にいるであろうリアにふと話しかけてみた。


「起きてるか、リア?」


『むう?どうしたのじゃ主様?』


「いや、別に特段用はないんだけど……」


『なんじゃ、それ。私は今どうやって主様を夜中に襲うかという計画を必死に考えておったというのに』


「おい、待て。今何か聞き捨てならないことを言わなかったか?」


『ほれ、ここ数か月で考えたプランはノート三冊分になるぞ!』


 そう言ってリアは脳内で嬉しそうに元の世界で俺が使っていたようなノートを俺に見せてくる。


「多いな!?というか、それは後で燃やしておくから覚悟しろよ?」


『なぬぉう!?そ、そんなことはさせんのじゃ!いくら主様といえど私の領域までは入ってこれんじゃろうが!』


 いやいや、何を甘いことを。

 同化している以上、それくらい造作もないんだぜ?


「それじゃあ、遠慮なく」


 俺はそう呟くと脳内で、自分の姿を具現化しリアに近づいていく。


『ぎゃああああああ!そ、その手があったか!ちょ、ちょっと待つのじゃ主様!こ、これには事情があって………』


『見苦しいぞ、リア?』


 出来るだけ殺気を殺しながらニコリとリアに笑いかけた俺は、そのままリアの胸に抱かれている三冊のノートを取り上げビリビリに破り捨てる。


『ぐわあああああああ!?な、なんと殺生な………!主様は悪魔か!私が一生懸命かき上げた主様攻略ノートを木っ端微塵にするなど………!』


『知ったことか!何か書くんだったらもっとましなものを書いとけ!いかがわしいものは禁止だ!』


『ふん、私は諦めんのじゃ!いつか絶対に主様を的確な方法で襲ってやる!』


 こ、怖いな、おい………。

 まあ、またその時は鉄拳制裁してやればいいか。

 と、元の世界にいたときのような会話をリアと繰り広げた俺は、その流れで少し気になっていたことを聞いてみる。


『なあ、リア。「鍵」っていうもの知ってるか?』


『グス、グス、なんじゃ急に……。私の努力の結晶を破壊しておいて、自分の望みだけ聞こうなど勝手にもほどがあるぞ………』


『ああ、そうですね。俺だって変なことを書き連ねたノートじゃなければこんなことしませんとも。だけどお前が書いてたのは完全に俺を不幸にするものでしかない!そんなもの放っておけるか』


 すると、目の前のリアあからさまに顔を不機嫌そうにして小さな声でボソボソと呟いてくる。


『主様はそんなに私が嫌いかのう?確かに私には実体がないし、昔は主様を傷つけはしたが………。そこまで言わんでいいじゃろうに……』


『え?あ、な、なんかごめん……』


『しかも今はアリエスたちに構いっぱなしじゃし、私など眼中にないのかのう……』


『ちょ。ちょっと待って!いや、別にそんなつもりは………』


 しかしその瞬間、リアは物凄いスピードで俺に近づくとドレスの中から何かを高速で取り出し、俺の前に構えてくる。

 それはパシャリという音を鳴らして再びリアのドレスに収納される。


『ふふふ、いい写真が撮れたのじゃ!主様は少し、脆い姿をみせれば瞬殺じゃのう、簡単なものじゃ』


 つ、つまり?

 今のは演技で、俺の心の中という何でもありな空間を生かしカメラを生成し、それで俺の恥ずかしい反応を激写したと。そういうことですか?

 俺はワナワナと肩を震わせながら拳を握り締めると、眉間に皺を寄せ全身に力を放出させながら、喜んでいるリアに向かって声を吐きだした。


『そうか、そういうことですか。ええ、わかりましたとも。そっちがその気なら俺だって手加減はしない。行くぞリア!ここで真話大戦の再現といこうじゃないか!』


『な!?ちょ、ちょっと待つのじゃ!そ、それだけはだめじゃ、そんなことをすれば私は、ってあーーーーーーーーー!?』


 普段はからかっている側であるリアの絶叫が響き渡り、俺の拳骨がリアの頭に降り注ぐ。

 結局それだけのことだったのだが、一番聞きたかった「鍵」のことは最後まで聞くことが出来ず、うやむやになってしまうのだった。




 そしてその回答が出ないまま、帝国の勇者たちとの決戦は着々と近づいていく。


次回は少しだけ違うサイドのお話に移ります!

誤字、脱字がありましたらお教えください!


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