第二百十六話 第四神核との対話
今回は第四神核との会話がメインとなります!
では第二百十六話です!
「洗脳は解けたみたいだな」
俺は近づいてくる第四神核に向かってそう呟いた。
俺自身がその洗脳を解除したとはいえ、一度確認しておかなければならない。もし仮に星神が新たな試みを講じており、その洗脳が解除されていなければ、またしても戦闘になる可能性さえ出てくるからだ。
「ああ、何故貴様を襲ったのかもよくわからないが、星神の力は俺の中から消えている。悪いことをした」
その言葉を聞いた俺は一度大きく息を吐き出すと、痛む体を庇うように足に力を入れ立ち上がる。
「ハクにぃ、大丈夫なの………?」
アリエスが心配そうに聞いてくるが、その顔に一度笑いかけると軽く神妃化を実行し、すぐさま体力を全開させる。
すると途端に体の気怠さが消え体力、魔力ともにいつもの状態まで回復した。
「で、俺たちに話したい事っていうのはなんだ?」
俺は首をコキコキ鳴らしながら、神格を見つめそう呟いた。
「俺は見ての通り貴様に完膚なきまでに叩き潰された。わかっていると思うが俺がこの世界に姿を残して置ける時間は短い。その前に言っておかなければいけないことが何点かある」
神核は出来るだけ柔和な顔を浮かべているが、それでも額には大量の汗を浮かべており、今にも倒れてしまいそうな雰囲気さえ滲ませていた。
「それはなんだ?」
「そうだな、まず第五神核のことからいこう。貴様らはあの神核について一体どの程度理解している?」
第五神核。
それはエルヴィニア秘境の遺跡内部でその過去の一端を知ったぐらいの情報しか俺たちは持ち合わせていない。他にあるとすれば同じくエルヴィニア秘境で見た情報誌のニュースくらいか。
「一番力のなかった第五神核は人間に襲われて、結果的に力を得たことによって人間を攻撃した。だが事実はそうではなく、元からその力は持っていた。そう第三神核から聞いている」
俺は率直にそう呟いた。実際にそれ以上のことは知らないし、あの遺跡からのそれ以上の情報は出てこなかった。
「やはり、そうか。はっきり言ってしまうとそれは少し間違っている。いや、というよりは情報が不足していると言うべきか。貴様の情報に付け加えるとすると、第五神核生み出された瞬間から神核の中で最も強い存在だった」
「どういうことだ?」
確か第五神核は力がなかったからこそ人間たちの標的となり、その身に余る惨劇を引き受けたと聞いている。
「第五神核は戦いがあまり好きなタイプではなかった。それゆえ戦いというものを避け続けダンジョンの中で佇んでいたのだ。それは人間たちに襲われてからもしばらく続き、それが貴様らが伝え聞いた弱かったという情報に書き換えられたのだろう」
ということは初めから神核トップの強さを持っていたがそれをひたすら隠しており、人間に愛想をつかせた瞬間に力を解き放ったということだろうか?
まあ、確かに辻褄はあっているが、あまりにもお人よし過ぎやしないか?普通一方的に攻撃されていたらすぐにでも抵抗したくなるはずだ。
それをそのまま神核に伝えると、神核自身も困ったような表情を浮かべながら返答してくる。
「それは俺も思っていたが、あの神核はどこまで行っても人間を愛していた。世界の秩序という大きな使命を背負い、その中に住んでいる生き物を大切にしていたのだ。だが、それこそが今の神核を作り出したとも言える」
「今のというのは?」
俺の隣に立っていたエリアが食い掛るようにそう言葉を発した。
「殺戮と残虐の塊。そう言っても過言ではないくらい人間に憎悪を抱いている。ダンジョンに侵入してきた者は肉片すら残さず消し飛ばしているのだ。そして流れた血を舐めることによって優越に浸る。あそこまで壊れてしまえば、もはや元の状態などに戻れるはずがない」
それは情報誌によって断片的に伝えられていた情報だった。あの記事ではダンジョンを発見した集団がその中に入ったが、生きて帰って来れたのはたった一人だけだったようだ。
幸いしているのはそのダンジョンが通常ではなかなか発見できない場所に設置されているようで、その場所を見つけること自体が困難になっているということだろう。
第一、第二ダンジョンのように入ろうと思えばいつでも入れる形式になっていれば、それこそ死体の山というより血の海が比喩なしで出来上がっていたかもしれない。
「ゆえに気を付けておけ。おそらく貴様らは星神の下へ行くために奴とも戦うことになるだろう。だが奴は既に壊れているため星神の手にすらおえない存在だ。それは同時に貴様らの命すら躊躇いもなく消し飛ばしてしまう可能性があるということ。それこそ、まだ星神に操られていたほうがましに思えてくるくらいにな」
「心に留めておこう。それで、他には?」
早めに話を進めないとおそらくこの神核は長い時間持たない。こいつ自身も言っていたようにもうすでにその身を保たせていること自体がつらいはずだ。
だから俺は先の話を促す。
「他の神核から聞いていたことだ。貴様の隠れている人格についてだが、どうやらそれはもうすでに答えが出ているようだな?」
「ああ、まあな」
俺の中にいるであろうあの人格の原因は今までの神核たちの証言から、妃の器における最後の力が原因だと推測されている。それはリアも頷いていたことなので、おそらく間違いない。
「ならばそれに関して俺が言えることは一つだけだ。見たところその人格はその器本来のものだ。どちらが本物でどちらが偽物なのかというのは判断できないが、それでもその人格は今のお前よりも長い間その器に収まっているらしい」
は?
ど、どういうことだ?
俺の体なのに、俺よりもこの体に長く住んでいるだと?
ますますわからなくなり、俺は首を傾げるのだが、その俺の目にアリエスが怒りの籠った表情で立ちふさがる。
「あれはハクにぃじゃない!今ここにいるのが本当のハクにぃなんだから!」
「アリエス……」
するとその言葉を聞いた神核は少しだけ笑いながら、俺に向かって言葉を発する。
「いい仲間を持っているな。だが、それでも貴様は間違いなくその人格と向き合わなければいけない時が来るだろう。しっかりと身構えておくといい」
「ああ……」
「ならば、次で最後だ。まだ色々と話したいことはあるのだが、ど、どうやら、そろそろ限界、のようだ………」
神核はそう言うととうとうその膝を地面につけてしまい、息を荒げながら蹲ってしまう。
俺も相当力を使って消耗していたが、その攻撃をまともに受けた神核は俺以上に深刻な状態のようでよく見れば両腕がないだけでなく、その顔色はどんどん悪くなっていく一方だった。
俺たちはその神核を取り囲むように、その姿を眺めながら神核が喋りだすのを待つ。
そして神核は第五神核について話していた時よりも声のトーンを下げて、表情を暗くしながら重い一言を呟いた。
「勇者の奴らには気をつけろ」
「お前、勇者たちを知っているのか?」
「それなりには、というところだな。貴様の持っている第三神核からそのような存在がエルヴィニアに攻めいったときいて、俺も独自に調べていたのだ。しかしその最中に星神に操られてしまったというわけだから、言い訳すらも出来んがな」
これに関しては意外だった。
正直言って神核たちはこの世界の人類は見守っているだろうが、それ以外の世界からきた人間の動向をなど興味を持っていないと思っていたのだ。
俺のような星神に目をつけられている存在は別だが、あのようなレベルの低い連中に神核が気を向けているとは受け入れがたい事実だった。
…………いや、それは違うか。違う世界から呼び出された存在だからこそ、目をつけておく必要がある。それこそエルヴィニアでの出来事のようにこの世界の人間が襲われるということが起きないという保証はない。
人類の守護者である神核はむしろ、そのような存在に注意を向けなければいけないのかもしれない。
だが返ってきた答えは俺の予想を遥かに超え、より事態を深刻な方向に傾かせた。
「あの勇者とかいう連中は星神がこの世界に引き込んだものだ。それはオナミス帝国に関連付けられているが、帝国も気が付いていないだけで元凶は全て星神にある。おそらくは貴様らを潰す駒として、さらに人類を滅ぼす駒として呼び出されたのだろう」
「つまり、奴らが振りかざしている力は元を辿れば星神が授けたものなのか?」
「ああ。貴様も気づいたと思うがあの連中に足りないものは経験と覚悟だけだ。仮にそれが揃ってしまえばどのようなことになるか想像できない貴様ではないだろう?」
確かに勇者たちは神核が言ったように経験と覚悟が足りてなかった。しかしそれ以外、つまり実力の部分では俺たちに匹敵するほどの力を持ち合わせていたのだ。
俺やキラ、今ではサシリもそうだが、このクラスの強さに勇者たちは届いていないが、エリアやルルンにならば多数で挑めば倒せてしまうレベルの力を持っている。
それが無差別に人類を攻撃し始めれば、確実にこの世界は崩壊する。
今は帝国がその舵を握っているが、手綱を握れなくなり奴らに自由が与えられれば人格が破綻しきっている奴らは何をやりだすかわかったのもではない。
俺が見た限り勇者という集団は普通の学生には見えない。それこそ星神に洗脳でもされているのかと聞きたくなるくらい人の命を奪うことに躊躇いがなかった。
ゆえに神核は注意を促してきているのだろう。
「了解だ。こちらも帝国の動きにはそれなりに気を配っている。すぐにとはいかないかもしれないが、できるだけ被害は最小に止める努力はしよう」
俺の言葉を聞いた神核は微笑みながら全身の力を抜き、その体を薄くしていく。
「では、俺はそろそろ限界だ。最後に一つだけ言わせてもらうなら、俺と戦っていたときでさえ、貴様は本気ではなかったのだろう?まったく異世界の神というのは常識はずれにもほどがある………」
神核は最後にそう言い残すと、少し悔しそうな顔をしながら体を消失させ、地面に青色の宝玉を落とした。
俺はその宝玉を拾い上げるとそのまま服の中に仕舞い、大きなため息を吐き出してしばらく無言でその場に立ち尽くす。
無事、とは言えないかもしれないがなんとか第四神核も倒すことができた。だがそれでも後に残ったのは勝利の余韻ではなく、これから来るであろう厄への危機感だった。
勇者、第五神核、星神。
この先に待ち受ける戦いに、俺はアリエスたちを巻き込んでしまっていいのだろうか?今回のように命の危険に晒されることだって増えてくるだろう。
もちろん、仲間の実力を信用していないわけじゃない。だがだからといって百パーセント安全を保障できるかというとそうではないのだ。
確かに俺は神核が言ったように本気は出していない。しかしそれは出そうと思って簡単に出せるものではないのも事実だ。
それは今回の戦いで十分に証明されてしまった。
ゆえにここから先は油断できる戦いなどありはしない。それがこの戦闘から俺が学び取った教訓であった。
するとそんな俺の腰になにやら柔らかいものが抱き着いてきた。
「…………私たちは今回、足手纏いになっちゃったけど、次からは頑張るからもう一人で戦わないでね?頼りないかもしれないけど私たちだってハクにぃの仲間なんだから……」
「アリエス……」
それは俺の気持ちを見透かしているような言葉で、俺は露骨に返答を返せなくなってしまう。
「その通りです。助け合ってこそのパーティーなんですから、今日はハク様に助けられましたけど、次は私たちがハク様を助ける番です!」
シラが珍しく胸を張りながらそう呟いてきた。その言葉に同意を示すように他のメンバーも深々と頷いている。
「みんな………」
「だが、とりあえず今日は飯だなマスター?妾は腹が減ったぞ!」
「あ!それ、私も思ってました!」
「ははは、本当に食には目がないね」
「お腹減りました……」
「そうね、私も何か食べたいわ」
その姿は確かに頼もしいものであったがやはりどこか暗さが滲み出ており、みんな今日の戦闘に参加できなかったことを悔やんでいるように見えた。
アリエスたちはもう守られるだけの存在じゃないってことかな………。
俺はそう思い至ると、一旦難しい話は頭の片隅に投げ捨てて笑顔を作り、できるだけ元気のある声でこう呟いた。
「帰ろう、学園へ。早くダンジョンから出ないと日が暮れてしまう。それに俺も腹が減ったしな」
その瞬間、アリエスの首にかかっているあの青いペンダントが一瞬だけ光り輝いたような気がした。
こうして第四ダンジョンでの戦闘は全て終了した。
それは新たな問題を出現させ、俺たちをどんどん星神への下へと近づけていく。
しかし、この学園王国での物語はまだ終わらない。
むしろここからが本番になることを今の俺は気が付いていなかった。
次回からは第五章、最後のエピソードに突入します!
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