第二百十一話 第四神核、二
今回は神核との戦闘が激化します!
では第二百十一話です!
「見えもしないし、気配すら感じないっていうのは厄介だな」
俺はエルテナと絶離剣を両手に構えながら姿が見えない第四神核の動きを探っていた。いつもなら気配探知を使い、ある程度の場所を把握しながら戦っているのだが今回はそれすら通用しないようではっきり言ってかなり厳しい状況が組み立てられていたのだ。
『ほら、俺はここにいるぞ?攻撃してこないのか?』
神核は俺には感じ取れない状態を保ちながら嘲笑うかのようにそう呟く。
「なめやがって」
このまま消耗戦に持ち込む手もないではないのだが、いくら気配創造で何とか抑えているとはいえ、アリエスたちの気配は着実に小さくなっていっている。どれだけ俺が手を加えようと明確なタイムリミットが存在しているのだ。
俺はすぐに思考を切り替え攻撃の手段を切り替える。
「姿は見えなくてもこれならどうだ!戦火の花、戦火の砂時計!!!」
直接的な攻撃が当たらないのならば、全体攻撃に切り替えてしまえばいい。
そう判断した俺はカーリーの十八番である能力を全力全快で発動した。極彩色の花々が出現し、この空間を閉鎖する。また奴にかかる時間の流れを著しく遅くし行動のテンポを遅らせた。
『なるほど、考えたな。貴様の世界の神々というのは奇怪な技を使うらしいな』
「ついでだ、こいつも受けとけ」
俺はそう言うと自分の中に流れる魔力を魔力波に変換し、部屋全体に打ち放つ。部屋を飲み込むように膨張した光は回避するスペースさえもかき消し神核にダメージを与える。
しかし。
『だが、その程度の力では俺は止られん』
瞬間、俺の目の前に強大な殺気が迫ったかと思うと戦火の花ごと俺を切り裂いた。
「ぐがっ!?」
今回はギリギリのところで直撃は免れたが、その脇腹の皮数枚分持っていかれたようだ。
バリバリという音を立てて戦火の花が瓦解し、同時に戦火の砂時計も消滅する。
まあ、これは効かないんだろうな。
あの第一神核ですらこの攻撃はいとも簡単に崩してきた。いくら神妃化をしているとはいえ、第四神核にいまさらこのような力が通用するはずがない。
気配はともかく、その姿さえ見えればまだやりようがあるのだが………。
俺はそう考えつつ、身動きの邪魔になるだろうと考えエルテナを鞘に、絶離剣を蔵の中に仕舞った。
『その剣はもう使わないのか?』
「生憎とそんなに安売りできるものでもないんでね。ここからはお前のスピードについていくように努力しようと思ったんだよ」
やはり武器というものを持っていてはその重さと手を塞いでしまうことによって、瞬間的な行動が遅れてしまう。攻撃がある程度予測出来れば問題ないのだが、今はそれがまったくできないので俺は奴の攻撃に反応することだけを考えたのだ。
『ならば見せてみるといい。人類に災厄をもたらすその力をな』
瞬間、神核の声が空気に溶け込むように消え、気配が完全に感じ取れなくなった。
俺は感覚を集中してその動きを予測する。能力によって全ての動きを消しているとはいえ、何か痕跡は必ずあるはずだ。それさえ掴めれば勝機はある。
『どうした?遅れているぞ?』
「ッ!?」
その言葉が耳に轟いた瞬間、バク転をしながら後方に下がるのだが、それはどうやら神核に誘導されていたらしく、背中を思いっきり蹴り飛ばされた。
「ガハッ!?」
それでも何度か転移を繰り返して距離を取る。
くそ、本当に読めないな、あいつの動き………。
『主様、もっとよく観察するのじゃ。私でない限り世の中に絶対はない。であれば間違いなく何か手掛かりはあるはずだ』
『ああ、わかってる』
リアの言葉に頷いた俺はもう一度意識を集中し神核の動きを予測する。
『何度やっても無駄だと思うがな』
神核の声が再び轟くとそれがトリガーになっていたかのように無音の攻撃が俺に飛んでくる。
だがその攻撃は俺の頬を掠め僅かな鮮血を巻き上げながら小さなダメージを与えるだけで留まった。
『なに!?』
「油断しすぎだ、クソ神核!」
俺は見えないが確実に目の前にいるであろう神核の腹に全力の蹴りを叩き込んだ。
『があああああああああ!?』
ふう、これが初めてのクリティカルヒットか…………。
今のはほぼまぐれで回避することが出来たが、何となくその動きが掴め始めているな。思考ではなく感覚が対応しているが、それでも神妃の力を宿している俺の体は何度も同じ醜態を晒すほど無様ではないようだ。
俺は今の感覚を忘れないうちに魔眼を発動しある部分に意識を集中する。
奴の気配と姿はおそらくどうやっても感じられない。ならば、それ以外のものはどうなっている?
『くっ………。時の運というのは怖いものだな。一瞬であったがその恐怖を知ってしまった。だが、次はそう上手くはいかんぞ!』
神核は今までよりも濃厚な威圧感とさっきを放ちながらその存在を空間に溶け込ませる。
しばらく無音の時間が流れ、互いに硬直状態が続いた。
いつどこから攻撃が飛んでくるかわからない状況であったが、俺はあえてその神核の動きを探っているわけではなかった。
見ているのはまったく別のもの。
予想が正しければ間違いなくその動きに変化が出てくるはずだ。
『もらったぞ!』
すると背後から神核の野太い声が聞こえたかと思うと、俺の見ているそれも確かに動きがあった。
迫ってくる奴の剣を振り返りざまにつかみ取り地面に突き刺す形でその自由を奪う。
『な、なに!?き、貴様見えているのか!?』
俺はそのまま奴の顔面に拳を叩きつけ一度怯ませた後、右手を地面につき体の上下を反転させながらその首筋に左足を滑り込ませた。
『ぐがあああああああ!?』
勢いよく吹き飛んだであろう神核は轟音とともに部屋の壁に激突する。
すると何かのスイッチが切れたかのように神核の気配が現れると、首をコキコキと鳴らしながらダメージが入っていないような素振りで立ち上がった。
「なぜ、俺の動きが読めた?」
「簡単な話だ。お前の動きが見えも感じられもしないのなら、お前以外のものを観察すればいい。例えば大気の流れ、とかな」
そう、俺は神核が動いたときに生じる空気の流れを魔眼を使って観察していたのだ。奴の能力は言ってしまえば奴自身にしか効力を示さない。その力は完璧というほかないくらい気配を遮断するが、それでも奴の効果範囲外の空間は遠慮なくその恩恵から外れる。
であればその全てを見ていればいずれ奴の攻撃も予測できるようになるということだ。
俺は神核にそう呟くと、俺の足元に突き刺さっている奴の剣を抜き、蔵に仕舞ってあった絶離剣で叩き折るとそれを部屋の片隅に投げ捨てた。
「だから、もうその能力を使うことはオススメしないぜ?それ使ってるとお前もそれなりに負担かかってるんだろう?」
「…………。なるほど、確かに他の神核を難なく倒してきただけのことはあるようだな」
神核はそう呟くと、自らの肉体を覆っている甲冑を脱ぎ捨て鍛え上げられた体をあらわにした。
その体には黄色く光り輝くいくつもラインが走っており、その全てから膨大な魔力が放たれている。
「へえ、ようやく本気モードってか?」
「ほざけ。この程度で本気なわけがないだろう」
「いちいち癇に障る奴だな。いいぜ、ならその本気、見せてくれるまでお前をいたぶってやるよ!」
俺は今まで以上に神妃化の出力を上げ全身に力を流す。
そして神核に対して真っ直ぐに接近するとそのまま拳と蹴りによる肉弾戦を開始した。
「はああああああああ!!!」
「がああああああああ!!!」
爆音と暴風が巻き荒れる中、俺たちは互いの攻撃を受け流しながら自分の攻撃をいかに相手に当てるか考える。
速さは互角、攻撃力は少しだけ奴に分があるようだ。だが、だからと言って俺が劣っているわけではない。
「くたばるがいい、人間!」
「ぐっ!?」
神核が放ってきた拳を何とか両手で受け止めるが、それは俺の体を容赦なく吹き飛ばし後方へ下がらせる。
「なめるなよ!」
すぐに転移で奴の後ろに移動した俺はその首に足を絡みつけ捻るような形で地面に叩きつけた。
「な!?ぐはっ!?」
つまり、速度は同じでも大きな体を持っているこいつには一瞬一瞬の行動が遅い。でかい体で今の俺の動きについてくることはなかなか難しいはずだ。
すると神核はまたしても姿をかき消し、気配を消滅させる。
「だから、無駄だって言ってるだろうが!」
俺は再び空気の流れから奴の位置を予測し、そのポイントに向けて蹴りを放つ。
「甘い、甘いぞ!その程度でこの力を攻略できたと思わないことだな!」
「なに!?」
神核は突き出された俺の足をつかみ取るとそのままグルグル回転し俺の体を投げ飛ばす。
「がああああああああ!?」
背中から思いっきり叩きつけられた俺は声を上げながら地面に膝をつく。
「大気の流れで俺の攻撃を読んでいることさえわかってしまえば、それを誘導しさらには行動を誘い込ませることもできるだろう?」
確かに奴の言うことは当たっている。所詮俺が見えるのはやつとは無関係の存在のみだ。それは良くも悪くも平等に情報を伝えてくる。それを逆手に取ればいくらでも俺の攻撃を封じることも出来るだろう。
だが、そんなことは俺だってわかってる。
だから対策を用意した。
「ああ、わかってるさ。でもだったら新しい目印をつけてしまえばいいだけだ」
俺はそう静かに呟くと、先程アリエスたちに使用した気配創造の力の一部を使って作り出された刃を天井から神核に突き落とした。
「ぐっ!?な、なんだこれは!?」
「知らないか?第二神核を倒した技だったんだが、てっきり知っていると思っていたんだが、どうやらそうじゃないらしいな」
「こんなもので俺の動きを予測しようなど浅はかだぞ。すぐにでも破壊してやる」
神核はそう言うと魔力を流したり、拳で殴ったりしてその刃を壊そうとする。だが、それはまったく壊れることはない。
「諦めるんだな。力だけは最強と謳っていた第二神核が外せなかったんだ、お前に抜けるわけがない。それにその力はお前の気配そのものに突き刺さっている、物理法則ごときで破れる代物じゃないぞ」
神核はその後も何度かその刃を抜こうと試みていたが、ようやく事態を理解したようで大きなため息とともに俺を睨みつけると、再び冷静さを呼び戻し話し始めた。
「…………。この力が刺さっている限り俺がいかに姿を消そうとも居場所がわかってしまうということか。考えたな、災厄者」
「それはどうも。降参するなら今のうちだぜ、まあお前たち神核はそう言っても聞きはしないだろうけどな」
「当然だ。人類の守護者である俺が貴様のような危険分子を見逃すはずがないだろう」
「だったら早くかかってこい。どうせまだ全力を出してないんだろう?」
「ふん、調子に乗るなよ。後悔することになるぞ」
神核はそう言うとそのまま全身に魔力を這わせると、ダンジョン全体を揺らすような力を放出させた。
それは次第に形を持っていき、漆黒に包まれた三体の存在を出現させた。
「おいおい、まじかよ………。これを一人で相手にするのはさすがにきついぞ……」
目の前に出現したその三人は俺もよく知っている存在で、かつて今のように多大な苦戦を強いられてきた相手だった。
「俺の力は存在消去と存在の逆流。この世界にいる者全ての存在定義を操り管理する能力だ。貴様にこの面子が倒せるか?」
その言葉に反応するように俺に一歩近づいてきたのは、今は星神の空間への鍵になっている三人の神核たちであった。
次回は再び現れた三体の神核を交えての戦闘です!
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