第二百八話 第四ダンジョン、三
今回は第三層にいる魔物と戦います!
では第二百八話です!
第二層の最終フロアで三体の騎士像を倒した俺たちは、第三層の入り口に立っていた。
ここからはいわゆるボスラッシュになる。第三層、第四層ではかなり強力な魔物が部屋の中で待ち構えているらしく、伝わっている範囲でもよほど危険な魔物がいることが見て取れた。
さらにその奥には目的である第四神核がいるので、これから先は本当の戦場となんら変わらない環境が用意されているようだ。
通常の学生ならば大半が第一層の魔物たちに襲われて退却を余儀なくされるのだろうが、仮にこの第三層にたどり着いたとしても、おそらくこのフロアは攻略できないだろう。俺にそう感じさせるくらいの殺気が、この空間には蔓延している。
とはいえ力を持っているのは相手の魔物や神核だけではなく、俺たちパーティーも同じであることを忘れてはいけない。
決して慢心しているのではなく、単純にメンバーの実力を信用しているのだ。
今まで培ってきた仲間との日々はその気持ちを俺に抱かせるには十分な要因だった。
というわけで今、そのボス部屋の手前で待機している俺たちは一体誰がこの中にいる魔物と戦うというメンバー決めをしていた。
「ここは妾にやらせてくれ。妾は第一層と第二層では殆ど戦ってきていないのだ!」
「えー、キラはさっきあの石像と戦ったじゃん!二回連続はずるいよ!」
「なら私が行きます!私は競技祭にも出てないんですよ!少しくらい私に出番を回してくれてもいいじゃないですか!」
「うーん、でも別に一人で戦わなくていいよね?それなら私も参加しよっかなー」
「ええ、私もまだ動き足りないわ。腕がうずうずするもの」
キラの言葉に続くようにアリエス、エリア、ルルン、サシリが次々に声を上げ、我こそが!といった雰囲気で意欲を湧き立たせている。
俺は隣にいるシラとシルと呆れたような顔でその光景を見ていた。
「…………。い、いや、確かにメンバーの実力は信用しているんだけど、空気が明るすぎる気が………」
「そ、そうですね………。今から魔物と殺し合いを始める人間の雰囲気とは思えません…………」
「みんな楽観的です…………」
シラとシルもこういう時はみんなの中に入って意見を合わせるのかと思っていたが、今回はそうではないらしく俺に意見を合わせている。
俺はそんな二人に目線を移動させながら、不意にとあることを考え始めた。
そういえば学園にいるときもこの二人はメイド服だったよな?
そのメイド服は二の腕の中頃から下が完全に柔肌が見えるようなものになっており、スカートもかなり短い。
正装のメイド服はこのようなものではないことはわかっているのだが、生憎と俺の脳内にはライトノベルで培った二次元的メイド服しか記憶されていなかったので、現状のような服を仕立てたのだが、意外としっくりきているようだ。
身分が関係ない学園においてその服装をしているのは少し恥ずかしくはないのか?と俺は思ってしまった。
なにせメイド服だぜ?
自らの意思で俺に仕えているとはいえ、学園に在籍しているむさ苦しい男子たちの視線は、気分のいいものではなかっただろう。
「なあ、二人は学園にいるときもその服を着てたけど、恥ずかしくなかったのか?そ、その男子たちの目線とか、な………」
二人は俺の口から出てきた言葉に心底驚いた表情をし、その後柔和なものに変え話し出した。
「いえ、私たちはどこへ行こうがハク様のメイドであることは変わりませんのでこの服のままでいいんです。むしろ私たちはこの服を気に入っていますし、嬉しいんですよ、このメイド服を着ていられることが」
「それに私たちの意思でハク様に仕えているので………、恥ずかしいなんてことはありません…………!」
あ、ああ、そうなのね………。
なんというかいいメイドを持ったものだ。奴隷として囚われていた二人を救出した時には、獣人族の差別問題をセルカさんに聞いていたこともあり、自由に生きてほしいという一心で行動したのだが、今やその二人が自らの意思で俺に従ってくれている。
当然、二人が今すぐメイドを辞めたいといえば二つ返事で受け入れるし止めることもしない。
だが今は自分の傍にいてくれているので、そのことに感謝しながら俺は二人の言葉に返事をする。
「そうか。ならこれからもよろしくな」
「はい!任せてください!」
「喜んでお受けします………!」
そう言葉を口にした二人の顔はダンジョンの中で話しているとは思えないほど明るいもので、少しだけ見とれてしまった。
で、アリエスたちはどうやらようやく第三層で戦うメンバーを決めたらしく、俺たちの方へ近づいてきた。
「今回は私とサシリが戦います!ハク様、よろしいでしょうか?」
エリアがサシリとともに俺にそう確認してくる。
まあ、俺的には誰が戦おうが何も問題はないのだが、エリアたちにすればパーティーのリーダーである俺に確認を取っておきたかったのだろう。
エリアは剣術も魔法も両方とも使える両刃使いだし、サシリに至ってはそもそもの地力が高く、その身に宿している神格は俺やキラにも有効打になるレベルだ。
この二人なら心配はいらないだろう。
「ああ、大丈夫だ。だけどもしピンチになったら遠慮なく割り込むからな?」
「ええ、それは構わないわ。でも私とエリア相手にそんな状況を作れる魔物がいると思っているのかしら?」
サシリ表情は強者が見せる独特なものへと変わっており、滲みださせているオーラから見ても相当気合が入っているようだ。
対してアリエスたちはとても悔しそうな顔をしており、眉間に皺を寄せている。
いや、次もまだ戦えるから、我慢しような。
俺は心の中で三人にそう呟くと、目の前の扉に手をかけメンバー全員に目線を合わせる。
「よし、なら行くぞ!」
俺の言葉に頷いたメンバーを確認すると、その扉を全力で開け放つ。
それと同時に部屋の内部から濃密な死の気配と殺気が流れ出し、俺たちを襲う。
ゆっくりと歩きながら部屋の内部に入ると、その中央には一匹の巨大な青白い魔物が鎮座しており、俺たちに気が付くとそのまま目線を合わせながら立ち上がった。
その魔物は狼とキツネを足して二で割ったような存在で、体長は十メートルほどある大きな体を持っているようだ。
「ほう、あれはヘラシュナータか。また珍しいものを捕らえていたな」
キラがその魔物をみた瞬間、何かを思い出したかのようにそう呟いた。
「らしいわね。古代種がこんなところにもいるなんてさすがに想像してなかったけど、私たちのやることは変わらないわ」
サシリはそう言うとエリアとともにそのヘラシュナータという魔物に近づいて行った。
俺はそのヘラシュナータという魔物が一体どのようなものなのかわからなかったので、それを知っているであろうキラに問いかけてみる。
「あの魔物、ヘラシュナータっていうのは何なんだ?」
「ヘラシュナータはサシリが言っていたように古代種だ。それこそ召喚術式などでしか今はお目にかかることはなくなってしまったが、かつてはかなり強力な存在として名をはせていた時期もあった」
『しかし、その力ゆえ人間や他の種族に狙われることも多く、次第にその存在は消えていったということじゃ』
キラの言葉を引き継ぐようにアリエスの髪の中にいたクビロがそう説明してくる。
ということは今目の前にいるヘラシュナータは召喚術式で呼び出したものではなく、天然のヘラシュナータということだろう。
気配的には普通の魔物より遥かに強力そうだが、果たしてどう戦うか。
俺は戦闘を開始したエリアとサシリを眺めながらその戦いを観察するのだった。
二人の戦いはまず初めにエリアがヘラシュナータに切りかかったことで始まった。その攻撃は見事にヘラシュナータの肉を切り裂き鮮血を吹き上がらせる。
しかしヘラシュナータも負けてはおらず、その身から膨大な魔力を湧きあがらせると、それをエリアとサシリに向かって放った。
「へえ、そういうこともできるのね、あなた」
サシリは先程と同じような笑いを浮かべたまま、右手を差し出すと口を動かし力を発動する。
「換わり巡る血壁」
その瞬間、目に見えるか見えないかわからないぐらい細く赤い糸のようなものが、出現しヘラシュナータの攻撃に振れる。
ヘラシュナータが放った魔力はすぐさま赤色の血液に変換されサシリの体内に吸収されていった。
「ギャア!?」
それにはヘラシュナータも驚いているようで、一瞬だけ身を強張らせた。
それもそのはずで、自分の攻撃を瞬時に破壊し我が物にしてしまうことなど、普通は想定していないのだ。
そしてその大きくできた隙を残っているエリアが見逃すはずがない。
「はああああ!!!」
エリアは持ち前のセンスでその懐に潜り込み俺にも出来ないようなきれいな動きでヘラシュナータを切り裂いていく。
「ギャアアアアアアアアアアアア!?」
先程まで青白く輝いていたヘラシュナータの体は、すっかり赤く染まってしまい数秒の間にまるで別の生き物のように姿を変えてしまった。
いきうらヘラシュナータが強いとはいえ、相手にしているのはイレギュラーと言われている血神祖と人外クラスの才能を持った王女様なのだ。
戦闘が始まった段階で勝負は決していると言っても過言ではないだろう。
エリアの攻撃は止むどころか、さらに速度を上げているようで俺の黒の章に似た動きを展開していた。
対するサシリはその光景を見守りつつ、ゆっくりと力を溜めているようで次第にダンジョン全体が小刻みに揺れ始めている。
ヘラシュナータは何とかその剣撃から抜け出そうとするのだが、エリアの攻撃が完璧すぎてなかなかその攻撃から逃れられないようだ。
しかしヘラシュナータも伊達に古代種とよばれていないようで、その青白い体を一際眩く輝かせると、体を急速に回転させ、エリアを体ごと吹き飛ばした。
「きゃああ!?」
さすがに体格差の問題もあるので、エリアは物凄い勢いで後方に飛ばされる。だが後ろに待ち構えていたサシリが優しくその体を受け止めると、この戦いに終止符を打つ言葉を口にする。
「エリアの攻撃を振り切っておいてなんだけど、あなたは終わりよ」
その瞬間、サシリの右腕に膨大な力が収束しカリデラで俺を倒すために放たれた大技を繰り出す。
「破滅するは其の血壊」
サシリの言葉と同時に右腕から出てきたその攻撃は態勢を立て直しているヘラシュナータの体を一瞬で飲み込み消滅させた。
はっきり言てしまえばエリアにしてもサシリにしても完全に手は抜いていただろうし、遊ぶような形でこの戦いを展開していたのだろう。
ヘラシュナータからすれば納得のいかない話であろうが、戦闘とは常にそういうものだ。実力がない者が負け、強者こそが勝者になる。
今回はそれが顕著だっただけの話だ。
「もう!最後は私が決めたかったんですけど!」
エリアがサシリの腕の中でそう抗議する。
「仕方ないじゃない、私だって同じ気持ちだったんだから」
サシリは意地悪くエリアにそう呟くと、そのまま俺たちの方へ近づいてくる。
俺は新たに開かれた第四層への階段を眺めながら、エリアとサシリに労いの言葉を投げかけるのだった。
次回は第四層での戦闘を描きます!
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