第二百五話 第四ダンジョン潜入
今回から第四神核のお話に入ります!
では第二百五話です!
競技祭とクガの一件が決着し、約一か月が経過した。
その間は当然ながらギランの授業を受け、何事もない学園生活を送っており、ルルンの学園ライブや俺たちのファンクラブやらが色々と騒ぎ立てた期間となったのだ。
授業といってもやはり特段何かを学ぶというよりは戦闘における基礎力の向上や、リアによる元の世界の知識から導き出される物理法則の解説、キラやサシリが持っているこの世界の知識など、幅広い学習が行われた。
競技祭で完全優勝を果たした俺たちを取り巻く環境というのはさらに盛り上がりをみせ、学園内だけでなく、冒険者ギルドや学園王国の王城内にまでその噂が広がるようになり、学園の外に出歩いているときも声がかけられないことはない、という程に有名になってしまっていたのだ。
とはいえそれでも俺たちの生活というのはそれほど変化せず、比較的穏やかな生活を送っており、周りの環境に流されることはなかった。
そして、とうとうこの学園王国内にあるダンジョン、つまり第四ダンジョンに潜入する日がやって来た。
卒業自体は入学から三か月という時間が必要になるがあくまでもこのダンジョンに潜入できる期間は卒業試験期間ということだけなので、一か月前倒しで入ることが出来る。
裏を返せばこの期間内ならば何度でもダンジョンの中に入ることが出来るらしいが、俺たちはそんな気はさらさらなく、一度の侵入で蹴りをつける心づもりでいた。
というのも残っているダンジョンと神核は第四、第五の二つで、この二体の神核をどうにかしない限り星神には会うことが出来ない。
まして第四神核はまだわからないが、第五神核は間違いなく厄介な問題が発生する。エルヴィニア秘境での遺跡にもあったように、あの神核と向き合うにはそれだけの時間と労力が必要になってくるのだ。
つまりはっきり言えば時間がない。
油を売っている間にも星神がどのような被害を人類にもたらすかもわからない状況では、気長に旅をするというのはなかなか出来ることではないというのが現状だ。
一応、この学園では三か月の間在中しておかなければならないが、できるだけ早く第四ダンジョンを攻略できることに越したことはない。
それこそ俺はSSS冒険者であるがゆえに、この学園王国を離れる場合にはイロアたちとこの国の守護に関する打ち合わせもしておかなければならないだろう。
というわけで、俺たちはそのダンジョン内に入ることが出来るようになった日から、すぐにその攻略に乗り出した。
この第四ダンジョンというのは、洞窟型のダンジョンで一見すれば第一ダンジョンの造りとよく似ている。
しかし内部の構造はまったく違うらしく、全五層という比較的少ない階層で構築されているようだ。
その中は、敷地面積的には第一ダンジョンよりも大きいらしいが、第一層、第二層は大量の魔物が蔓延るステージとなっており、学園の面積と大して変わらないような大きな空間の中をひたすら駆け回る仕様になっているらしい。
そしてその後、いわゆる中ボスが第三層、第四層と続く形で最後の神核へとたどり着く形になっているようだ。
事前に学園長と今日からダンジョンに潜入すると伝えたことがあったのだが、その席で学園長は今までの生徒がどのようにダンジョンを攻略してきたを話してくれた。
『今まで数多くの生徒たちがあのダンジョンに入っていく姿を見ているが、いまだに第三層以降にたどり着いたものは見ていない。それこそ、その内部は今まで伝え聞いてきた過去の情報でしか推測ができないのだ』
『つまり、それだけ攻略難易度が高いということですか?』
『うむ、おそらくな。このダンジョンは他のダンジョンに比べて相当レベルが高い。有名な第一ダンジョンや第二ダンジョンはその大部分が公にされているが、この第四ダンジョンはまず全フロアに到達すること自体が難しいようだ。私も過去に入ったことはあるが、一層すら突破できなかったからな』
第四神核というのは第五神核が何かの拍子に強くならなければ、神核内で最も力を持っていた奴だ。つまり元序列一位の神核が守護しているだけあって、そのダンジョンの難易度自体も跳ね上がっているらしい。
しかし俺たちは何としてもこのダンジョンを攻略しなければいけないので、パーティー全ての装備を整え、朝一番でダンジョンの前に集合した。
到着してみるとそこには入学式の際に身に来た赤色の結界は消滅しており、その入り口が露わになっているようだ。
「さてと、ようやくダンジョンとご対面だ。みんな、準備はいいか?」
俺は腰にエルテナをさし、その調子を確認しながらそう呟いた。
「うん!絶好調だよ!どんな魔物が来ても一瞬で倒すんだから!」
「こちらも問題ありません。色々と長かった道のりでしたね」
「でも………、これでやっとダンジョンに入れます………!」
「ええ!どんな神核が出てこようと今の私たちなら問答無用で倒してみせますよ!」
「うん、こっちも準備オッケーだよ。久しぶりの戦いだから腕がなるねー」
「ああ、神核だろうがなんだろうが一瞬で吹き飛ばしてやる」
「強い相手と戦うのは楽しみね。心が躍るわ」
俺の言葉に答えたメンバーは皆やる気を滲ませながらそう呟くと、各々装備の確認をし始める。
ちなみにクビロは案の定アリエスの髪の中にいるようで、度々顔を出すとその都度自らの力の調整を行っているようだ。
今回の神核は今までの神核とは比べ物にならないほど苦戦を強いられるはずだ。
それこそカリデラで戦った星神の使徒と同じかそれ以上の力を開放しなければ勝てる相手ではないだろう。
しかし、それは俺一人で神核と戦う場合だ。
今回はパーティーメンバー全員でこのダンジョンを攻略する。神核には悪いが、一人対多数という陣形で戦いを展開するのだ。
つまりパーティーの実力が上がっている今であれば、パーティーならではのコンビネーションが使える。それを利用しない手はないだろう。
俺はそう考えると、もう一度みんなの状態を確認し、そのままダンジョンの中に足を踏み入れる。
「よし、入るぞ」
その掛け声とともにアリエスたちも続くようにダンジョンに入ってきた。
まずは第一層。
前情報によれば、そこはかなり大きなフロアで大量の魔物が蔓延している階層らしいのだが、実際に入ってみると。
「こ、これは…………」
「す、すごいね………」
俺とアリエスは目の前に展開された光景を見て言葉を失ってしまった。どうやらそれは他のメンバーも同じようで、精霊を引き連れて世界を転々としてきたキラさえも口を開けてその景色に見とれている。
その空間は長い長い階段を下りた先に存在しており、天井は軽く三十メートルを超え、空中にいくつもの魔法陣と巨大な魔石が浮遊している空間だった。
その魔石からはこの世界の息吹だとでも言わんばかりの膨大な魔力が放たれており、大量に吊るされている魔石は全て地上に生えている木の根っこに絡まるような形で浮き上がっている。
また通路を取り囲むように石の壁が乱立しており、完全な迷路を形成しどこを進めばいいのかすらもわかりにくい構造になっていたのだ。
俺は咄嗟に気配探知を作動させ、この空間にいる魔物の数をと大体の広さを確認する。
「…………へえ、確かに大量と言われるだけの魔物がいるみたいだな」
気配探知に捉えられた魔物の数は軽く千を超えており、いつどこから出てきてもおかしくない状況で、この空間の広さは学園の敷地そのままの大きさというダンジョンにしては破格の面積をほこっているようだ。
するとルルンの長い耳がぴくぴくと揺れると、その顔を笑みに変え楽しそうにこう呟いた。
「どうやら、さっそくお出ましみたいだね」
その言葉と同時に目の前の通路から十体前後の鳥型の魔物が姿を現した。
俺はエルテナの鞘に手をかけ剣を抜こうとしたのだが、それをシラが手を差し出して止める。
「ハク様はここで見ていてください。このくらいの魔物ならハク様の手を煩わせる必要はありません」
隣にいるシルもシラの言葉に頷くと、サタラリング・バキを抜き一瞬でその魔物に切りかかった。
「あ、ずるい!私も戦う!」
「そうですよ!二人だけ楽しむなんてハク様が許しても私が許しません!」
アリエスとエリアはシラとシルの二人を見ながら自分たちも魔物に向かっていき攻撃を開始した。
い、いや、どうせこれから大量に出てくるわけだから、そんなに急がなくても………。
と俺は内心思ったのだが、それはどうやら残っているルルン達も同じようで、キラとサシリにいたっては雑魚には興味がないといった表情で何やら関係ない話をしているようだ。
おいおい、それはそれで問題だからな?
少しは集中してくださいね、精霊女王様と血神祖様?
俺がこの二極化している状況に呆れていると、唯一俺と同じ状況に立っているルルンが隣に近づいてきて言葉を投げかけてくる。
「ははは………。ハク君も気苦労が絶えないねー。ま、私は楽しいからいいけど!」
「他人事だな、おい…………」
そう言いながら俺は大きなため息を吐き出すと、その戦闘が終了するまでの数秒間、ジッと目の前の光景を見つめるのだった。
そして俺は表情に余裕を浮かべながらも、みんな気づいていて口にしない痛いほどの殺気に意識を集中しその原因について思考を巡らせる。
入学式の段階では感じなかったが、どうやらここの第四神核も他の神核と同じように星神に洗脳されており、圧倒的な敵意を俺たちに向けてきているようだ。
つまりあの狡猾な異世界の神は今回も俺たちの先を行っているらしい。
こうして星神と神核が絡み合った第四ダンジョン攻略が今、始まる。
「ふむ、どうやらようやくあのダンジョンに入ったようだね」
星神はいつもと同じ態勢、同じ格好で徐にそう呟いた。
目の前には案の定世界の切れ目とハクたちの姿が映し出されており、それを取り囲むような形で、使徒たちが星神に視線を集めている。
「まったく、本来であればここまでかき回される前に決着をつけるけど、今回はかなり面白そうだからね」
星神はそう言うと、自らの後ろに一度だけ視線を這わせ、すぐさま元の位置に目線を戻す。
「僕が動くのはまだ先だ。それまで精々じっくりとその絆を温めておくことだね」
その言葉はどこか高揚感を抑えられないといったトーンで放たれており、声色は明るいのだがその後ろには言葉だけで人を殺してしまいそうなほど鋭利な感情が浮かんでいた。
それは近くに控えている使徒たちの表情すらも凍り付かせ、空間ごと震わせる。
「そして見せてくれよ、僕にその絶望を」
星神は最後にそう呟くと、目を閉じながら来るときを只管に待ち続けるのだった。
次回はダンジョンの階層を攻略します!
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