第二百三話 vs精霊騎士、六
今回はようやくクガとの戦いが幕を下ろします!
そしてついにあの人物がチラッとハクたちの前に姿を現します!
では第二百三話です!
「キラ………」
俺はいきなり現れた自分の精霊の登場に驚きながらクガに放とうとしていた攻撃を中断した。それは相手であるクガも同じようで、その目を見開いている。
キラは口を閉じたまま俺の傍に近づいてくると、俺に目線をじっと合わせて話し出した。
「王国内の精霊はアリエスたちと冒険者や騎士たちが抑えている。少々心が痛むが、その攻撃は何とか侵攻を食い止めているようだ」
「そうか」
俺はそのキラの言葉に頷くと、そのままキラを見つめたまま、その表情を窺った。キラが俺に見せてきている顔はすでに何か決心したような様で、瞳は強く何かを訴えてくるような光を帯びていた。
キラが降り立った時に呟いた言葉から考えれば、どうやら俺の役目はもう終わりのようだ。
初めは動揺していたキラと殺伐としているクガを会わせることは出来ないと思っていたのだが、その心配はすでに不要のようたった。
俺はキラの瞳から目線を外すとそのまま剣を鞘に納め、身を後ろに下げた。
「なら、好きにやるといい。俺はもう口は出さないよ」
キラは俺の言葉に大きく頷くと、俺の前に出るような形で立ちふさがり、攻撃を放つ寸前だったクガを睨みつけた。
「…………。久しいな、クガ」
その声は決して再開を祝福するようなものではなく、場を凍り付かせるような冷たさを持っており、キラがその再開を喜んでいないことがひしひしと伝わってきた。
本来キラにすればクガと会えたことは物凄く嬉しいはずなのだが、このような騒ぎを起こした挙句、星神に操られているともなれば歓迎などできないのだろう。
対するクガはその顔に歓喜の表情を浮かべその言葉に返答した。
「ああ、まったくだ。あの時お前と引き裂かれえてから俺は、この再開の時を待ち続けていた!」
クガは両腕を伸ばしながらそう声を吐く。
しかしキラはそんなクガに対してまったく表情を変えず、腕を真っすぐ伸ばし口を動かす。
「根源の明かり」
その瞬間、キラの腕から虹色の光が溢れだしクガを飲み込んだ。
「な!?がああああああああ!?」
俺との戦闘でかなり消耗しているクガにとってその攻撃は、はっきり言って急所を突かれることと同じくらいのダメージを生じさせる。
クガはその攻撃をまともに受けてしまったが、それでも星神に与えられた力が幾分か威力を軽減しているようで、なんとか立ち上がると顔を歪めながらキラを怒鳴りつける。
「な、なぜだ!?なぜ同じ精霊である俺にお前まで攻撃を仕掛ける!?俺はお前の騎士だぞ!」
キラはそれでもやはり表情は変えず、むしろ蔑むような眼をクガに向けるとゆっくりと言葉を口にした。
「今のお前を妾の騎士になど絶対に認めない。妾が騎士にしたのは、どんなに挫けようとも人前との共存をあきらめず、自らの夢を追い続けた一途な精霊だけだ。今のお前は断じてそうではない」
確かにキラが信じ続けその傍に置いていた騎士というのは、今のクガのように人間を襲い共存という道をかなぐり捨てた哀れな存在ではない。
キラが認めたクガという存在は既に打ち倒されている。
それはとっくの昔に清算されたもので、いまさら星神によって復活させられ意思すら捻じ曲げられた器だけの精霊とは違うのだ。
「…………なるほど。どうやらお前は今でもあの時の俺を見ているのだな。ならばもう一度、人間に対する憎悪や絶望を教えてやろう!」
クガはそう言うと満身創痍であるはずの体に鞭をうち、再び力を充填し始めた。それは大地を揺らし、風の流れを不自然に曲げ、力の渦を形成する。
まだこんな力を残していたのか。
感じられる気配はとっくに小さくなっていたので、残りの体力も少ないかと思っていたが、消耗はしているとはいえ、それなりの力を温存していたようだ。
「………やはり、星神に操られているとはいえその見栄を張るその性格は一緒なのだな」
キラはそう言うと、自身の力を開放し渾身の根源をクガに叩き込む。
「根源の起爆」
一見すればそれはただの光にしか見えないのだが、キラの根源は灼熱の炎そのものでこの空間にあるもの全てを一瞬のうちに焼き尽くした。
「ッ!?」
それは問答無用でクガの肉体も飲み込みその体にダメージを与えていく。今回クガは声も漏らさずその攻撃に耐えていたが、根源自体が消滅するとそのタイミングと同時に体をバタリと地面に倒した。
「どれだけ上辺の力を繕っても、その中は空っぽだ。すでにマスターと打ち合っていたお前に妾の攻撃を耐える術などあるはずがない」
ということは、今しがた見せたクガの力は最後の足掻きのようなものだったのか。
それがキラの言っていた見栄という奴なのだろう。
俺はそう思うと大きく息を吐き出し方の力を抜いた。
キラの根源を受けたクガの気配はもはや感じ取れないくらい小さくなっており、息も絶え絶えになってしまっている。
この状況になれば、今のクガには覆すことなど出来るはずがない。よって俺はとりあえずクガを無力化したことに胸を撫で下ろしたのだ。
「…………悔しいが、さすがは女王だな。俺がいない間もその力を維持し続けているのはすさまじい………」
クガは苦しそうな表情を見せながらも、何とか口を動かしそう呟いた。
「ふん、お前とて星神にその力を分け与えられているとはいえ、体になじませているのは称賛に値する。とはいえ、今のお前に同情の余地はない。消させてもらうぞ」
キラはそう言うと倒れているクガに近づき、右手を差し出す。
「精霊を守るはずのお前が精霊の俺を殺すというのか?何度も言うが、人間こそ悪なのだ!お前とて初めは人間を憎んでいただろう!」
「……………」
キラはその言葉には一切答えず、眉間に皺を寄せながら口をつぐんでいる。その雰囲気は当時の状況を知らない俺では推し量ることもできず、ひたすら眺めていることしかできなかった。
そしてクガの言葉はまだまだ続く。
「思い出せ、人間が今まで何をしてきたのかを!人間こそが災いの種であり、共存などという甘い考えは初めから不可能なのだ!」
「……………」
それでもキラは無言のまま佇んでいる。
そしてキラはさらに目を細めると、今まで聞いたことがないくらい低い声で殺気を放ちながらゆっくりと口を開いた。
「お前の言葉など聞いてやる気はない、そのわざとらしい芝居も見るに堪えん。いい加減、姿を現したらどうだ星神?」
するといきり立っていたクガの表情が固まり、静寂が生まれたかと思うと見たことがない表情を浮かべたクガが喋り始めた。
「へえ、さすがはイレギュラーだ。いつから気づいていたんだい?」
「お前がクガに乗り移ったその瞬間からだ。妾の攻撃を受けてその器と意思に隙間が生まれた瞬間を狙ったのだろうが、わかりやすすぎだ」
どうやらキラが根源の起爆を放った直後、クガの内部には星神本人が入り込んでいたようで、キラはそれに気が付いていたようだ。
え、まじなの……。
俺気が付かなかったんだけど……。
「といっても僕の一部分が乗り移ってるだけだから本体はちゃんと別のところにあるんだけどね」
おそらく星神本人の思考とは関係なく作動する人工知能のようなもののようで、クガの思考の一部に溶け込んでいたようだ。
星神はクガの口を操りながらそう呟くと、飄々とした態度でキラを見つめた。
「その器、クガに返してもらうぞ」
キラはそう呟くと、再び右手を前に差し出しキラ専用の記憶干渉能力を使用しようとする。それを使えばその中に住まう星神を追い出すことぐらいは可能なのだろう。
「いいのかい?この精霊君は今僕が宿っていることでなんとか生きている。僕が消滅してしまったら、今度こそ本当に消えるよ?」
おそらく星神はキラという存在を揺さぶるためにそう問いかけているのだろう。キラが星神の意思を追い出せば、クガという存在自体が消えてなくなるということを突きつけ油断を誘っているのだ。
しかしキラの目は一切迷いがなく、一言だけ言葉を発しその能力を使用した。
「黙れ、下種が」
瞬間、ガラス玉が割れたときのような音が空間に響き渡り星神の意思が消滅する。
だがそれは同時にクガの消滅も意味していた。
先程はあれだけ濃厚に滲ませていた力も、今ではほとんど感じられずその体は霞み始めている。
するとクガは今までのような憎しみに満ちたような目線ではなく、本来の自分を取り戻したかのような目線でキラに言葉を投げかけた。
「せ、せっかくの再開が………、台無しに、なって、しまったな………」
「クガ!」
キラは完全に過去の精霊騎士に戻ったクガに駆け寄るとそのかすれ始めている身を抱き寄せた。
「そんな、顔をするなよ………。むしろ、今回は俺が謝らないといけない、だろう………?」
「お、お前という奴は、なんであの時妾を………!」
クガに言葉を投げかけているキラの目からは大粒の涙が零れ落ちており、クガの顔をにそのしずくを落とす。
「………やっぱり、騎士っていうのは、主を守ってこそ、一人前、だからな………。そういうことをしたかったのさ………」
「ば、馬鹿か、お前は………!本当に、本当に馬鹿だ!!!」
「ははは………。俺は馬鹿でも騎士は騎士だ……。それくらいのことはするさ………。それより、お前は、新しい、主を、見つけたのだろう………?だったら俺の、ことなんて、忘れて、自由に生きろ………」
「お前を忘れることなんて出来るはずがないだろう!!!」
キラは泣き叫びながらクガの体を揺さぶる。
しかしそれと同時にクガの体がいよいよ見えなくなってきた。
「楽しんで生きろよ………」
「待て、まだ行くな!お前には話したいことがたくさん………」
クガそんなキラに優しく微笑むとその体を完全に光と変え、世界へと溶け込んでいった。
キラは自分の手を何度も動かし、そこにいたはずのクガの感触を確かめようとする。しかし、その手は何にも当たることはなく宙をきるだけだった。
俺はそんなキラを見つめながら、一体どのような言葉をかけていいのかわからず、ずっとその背中を見つめていた。
しばらくキラはその態勢で固まっていたのだが、おもむろに立ち上がるとそのまま俺の胸に飛び込んできた。
キラは特段泣きわめくわけでもなく、俺の服に顔をうずめるようにして両目から溢れ出る涙を流し続ける。
俺はそんなキラの背中を落ち着くまでずっと撫でながら、星神に対する怒りをさらに募らせていく。
今回はキラの大切な騎士であるクガを無理矢理復活させ、それを俺たちに差し向けてくるという、他人の過去を掘り返すような動きを見せてきた。
さらに自分の意思まで乗り移させるというおまけつきだ。
初めて星神という存在の本性を垣間見たが、それは到底容認できるものではなかった。
ここまで人を馬鹿にしておいてただで済むと思うなよ。
俺は心の中でそう呟くと、キラの体をやさしく抱き留め、いつか来るであろう星神との戦いに闘志を燃やすのだった。
次回はこの騒動後のお話をお送りします!
誤字、脱字がありましたらお教えください!




