第百九十八話 vs精霊騎士、一
今回は精霊騎士であるクガとの戦いが幕を開けます!
では第百九十八話です!
俺たちはキラの過去を一緒に向き合うことを決め、迫り来る精霊騎士との戦いについて作戦会議を開いていた。
俺の気配探知はすでにその莫大な力を帯びた存在を捉えており、キラが己の過去を語っている間に学園王国の関所に到着しているようだ。
多くの冒険者たちが、その精霊に立ち向かっているようだが、まったく通じておらず無残にも吹き飛ばされている。
戦っている冒険者たちにもう少しだけ粘ってほしい、と心の中で呟いた俺はすぐさまこれからの行動について言葉を発した。
「で、今から精霊騎士とかいう奴と大量の精霊軍団に立ち向かうわけだが、俺はその精霊騎士ってやつを叩きのめそうと思う」
「なんだと?」
するとキラが若干力のこもった声でそう呟いてきた。
「マスター、クガは私の騎士だ。その正体が本物であれ偽物であれ、そのケジメは妾がつける。マスターの介入は不要だ」
確かに、キラはクガの主でありそれ相応の責任を感じているはずだ。
だがそれだからこそここは俺が戦うしかない。
「なら聞くが、お前はかつての騎士を相手に完全に私情を挟まないと断言できるか?」
「………そ、それは……」
キラが今もクガという精霊騎士を大切に思っているのは嫌でも理解できる。それに俺が口を出せるわけもなく、出す気もない。だが、それは無情にならなければいけない戦闘では大きな足枷となってしまうのだ。
大切な場面で行動が鈍り、逆に命を奪われたなんていう結末は最悪で、相手がより親しい人物であるほどそれを引き起こしてしまう可能性は大きくなる。
よってここはキラが戦うというシチュエーションだけは避けないといけないのだ。
「今回の相手は明らかにこの学園王国を悪意をもって攻撃している。そのようなやつを相手取るときに無駄な感情はかえって邪魔になるだけだ。だから今回は俺に任せてくれ」
キラは俺の言葉を聞き終わると、無言で唇を嚙みしめ俯く。だが、数秒後大きく息を吐き出すと、諦めたような表情を浮かべ大きく頷いてきた。
「はあ………。確かに今の妾はクガを相手に全力を使うことはできないかもしれない。………悔しい話だが認めなければならないな。では、マスター。妾のどうしようもない騎士をよろしく頼む」
「ああ、頼まれた。といってもその精霊騎士本人じゃない可能性もあるんだよなあ……。どうやって真偽を見極めるか……」
キラ曰く、今関所前で戦闘を繰り広げているその存在はかつての精霊騎士の気配と酷似しているようで、この段階はまだ確実な証拠はなくそう断定することは出来ないのだ。
というのも偶々同じような気配を持った精霊が暴れている可能性もあれば、なんらかの方法でクガと同じ気配を誰かにまとわせることに成功しているということも考えられる。
しかし俺はそのクガという奴を見たことがないので、見た目や容姿による判断はできない。かといって気配による推察も、元の気配がどのようなものだったかわからない以上比べようがないのでこれも不可能だ。
「それは妾にパスを繋いでおけば問題ない。マスターに見た光景を妾が判断して、答えを出せばいいだろう」
精霊との契約は一種の同化のような働きを促す。それは意思疎通や魔力のパスさえも作り出し共有することが出来るのだ。
つまり俺がその存在を目で確認し、パスが繋がっているキラがその光景を見て本物のクガかどうか確かめるということだろう。
「よし、ならそれでいこう。アリエスたちは学園王国中に散らばっている精霊たちの処理を頼む」
「「「「「「了解!」です!」です………!」しました!」だよー」よ」
現在、関所で大量の冒険者と戦っている奴が引き連れてきたであろう精霊たちは、学園王国中に散布するかのように散らばっており、被害までは出していないものの明らかに普通の状態ではなく、いつ攻撃してきてもおかしくない状況になっていた。
しかも普段は精霊を見ることができない人間でもその姿を視認できるほど存在が浮き彫りになってきており、このことからも今起きている事態が緊急であることを示している。
キラと戦ったときもその膨大な量の精霊とキラという破格の存在によって、精霊の姿が視認できるようになったときはあったのだが、今回はそれとは違い不自然なまでの力と理解不能な現象が巻き起こっていた。
「それじゃあ、できるだけ気を付けて行動してくれ。相手はさほど強力ではないが、どれだけ小さくても精霊だ。キラがいれば問題ないだろうが、それでも注意はしておいてほしい。んじゃ、行くぞ!」
俺の掛け声に大きく頷いたメンバーたちは一斉に動きだし行動を開始する。
学園王国の街を駆けていくメンバーの背中を見守りながら、俺は自分も関所の前に向け転移を実行したのだった。
「があああああああああ!?」
転移でその場に到着した瞬間、俺の真横を大柄な男が物凄い勢いで吹き飛ばされていく。
慌てて目の前を見てみると、そこにはキラと同じような髪色をした一人の男が立っていた。服装は自分の体全体を囲むようなローブと金属の腕輪を何本も腕に巻きつけており、その目には光が灯っていない。
あ、あれが、精霊騎士かもしれない奴か………。
感じられる気配はキラほどではないが、それでも神核たちに匹敵するくらいの力は放っており、キラが直々に鍛えたという事実を物語っていた。
予定通り俺はキラに念話を通じて自分の見ている風景を共有する。
『どうだ、キラ?こいつは本物か?』
するとキラは息を飲むような声を一度上げ、そのまま眉をひそめながら話し始めた。
『ッ!?………………ど、どうやら、本当にクガのようだ。間違いない。いかなる方法を使ったのか知らないが、この世界に現界している………』
であれば、やはりこの存在はかつての精霊騎士そのものということだ。しかし、キラの話にあったような優しい心を持つような表情はしておらず、憤怒や憎悪といった感情が滲み出ていた。
『そうか…………。だがこうやって学園王国に攻め入っている以上、容赦なく消し飛ばすぞ?』
『ま、まさか殺すつもりか!?』
キラが声を荒げながらそう問いかけてきた。精霊という存在に本来、死という概念はないはずだが、俺ならやりかねないとキラは思っているのだろう。
確かにその予想は当たっており、俺はやろうと思えばその存在に死すら叩きつけることも出来る。
魔眼や赤の章はその代表例であるし、妃の器から供給される最後の能力でもそれは可能だ。
『必要があればな。だが、本来出てくることが出来ない奴がこうやって現界してきてるんだ。こちらも殺す気で挑まないと何が起こるかわからない。それにお前自慢の騎士なんだろう?だったら生半可な気持ちでは挑めないさ』
『ま、まあ、それはそうだが………』
『とにかく心配するな。殺すにしてもそれは最終手段だ。お前に勝った俺がその騎士に負けるはずないだろう?』
俺はそう言うとキラとの念話を切り、目の前の光景に目線を戻した。
どうやら俺の真横を過ぎ去っていた男は冒険者のようで、仲間と思われる連中が治癒を施している。
するとクガを取り囲んでいる冒険者たちは俺の姿を見た瞬間、顔を歓喜の表情に変化させ、大きな声で俺の登場を歓迎した。
「あ、あの朱の神がやってきたぞ!こ、これでどうにかなる!」
「ああ!きっとあの人なら一瞬で片づけてくれるさ!」
「ハクさん!お待ちしておりました!」
今までクガの相手をしていた冒険者たちは、数で言うと二百人ほど集まっており、その誰もが軽傷とはといえない傷を負っているようで、必死にこの王国を守っていたようだ。
このような事態の場合、組織ではなく一個人の判断で動くことができる冒険者は行動が早い。王国の騎士団や魔導師団はやはり国が管理しているものなので、その動きは遅くこの場にはまだ到着していないようだった。
今回の相手は精霊。
それはイロアが帝国軍用に設置した探索結晶にも引っかからず、何事もなくこの学園王国に現れたのだ。イロアの探索結晶はあくまでも帝国軍の動きを探知するために使われているものなので、精霊にはまったく反応しないようで、今回の侵攻も直前まで気づくことが出来なかった。
イロアたち他のSSSランク冒険者がいない今、この王国を守ることができるのは俺しかいない。むしろこの国は俺の担当区域なのだ。なんとしても死守しなければならない。
俺は勢いよくエルテナを腰から引き抜くとそれを中段に構え、真っ直ぐとクガに向ける。
その動作に合わせるように他の冒険者たちは一斉に身を引き、その場から立ち去った。おそらく自分たちでは足手纏いにしかならないことを悟ったのだろう。
すると俺の登場を黙ってみていたクガが口を開き話し出した。
「ほう、貴様、ただの人間ではないな?」
「そういうお前こそ、普通の精霊じゃないだろう?」
俺はクガの威圧に対抗するように全力の殺気を叩き込みながらそう返答した。
「なるほど、では貴様がキラの主となったというハク=リアスリオンか?」
「だったらどうする?」
その言葉をクガは聞いた瞬間、ありえないほど黒い魔力を全身から放ちながら、話を続ける。
「ならば貴様は俺の倒すべき相手だ。キラから聞いているのだろう?俺の最後について」
「まあな」
「あの時は本当にどうしようもなかった。キラを庇い守ることしか頭になかったのだ。しかし、今こうして肉体を持ち再びこの世界に降り立った以上、俺とキラを引き裂いた人間たちを抹殺するほかこの気持ちをぶつける手段はない!いいか人間?これは精霊と人間の問題ではない。俺と人間、そしてキラの問題なのだ!そこに貴様ごとき小さき人間が割り込む隙などない!」
おいおい、これが本当に人間と共存を望んだ精霊騎士なのか?
もはや復讐心にかられ、キラをストーキングしているただの変態にしか見えないぞ………。
俺はそう思いながらも、どこかその雰囲気に違和感を覚えた。
このどこから話しかけてもまったく聞く耳を持たない言動は確か………。
しかしその瞬間、クガの姿が掻き消えたかと思うと、そのまま俺の腹に強力な拳を物凄いスピードで叩き込んできた。
「ぐががあがああああああああああああああ!?」
俺は反応することも出来ず、体ごと吹き飛ばされ関所の壁に激突した。粉々に砕かれた壁の中から俺はなんとか体を起こす。
そしてこのままの状態では間違いなく勝てないと判断した俺は遠慮なく神妃化を実行した。
「殺してやるぞ人間!精霊とキラ、そして俺のためにくたばるがいい!」
クガはそう天に向けて叫ぶと、もう一度俺に向かって突っ込んでくる。しかし俺はその言葉を聞いた瞬間、脳内にとある一つの結論を導き出していた。それは間違いなく違和感の正体であり、俺を十分に納得させるものだったのだ。
『主様、これはおそらく………』
リアもどうやらおそらく同じ結論に至ったらしく俺に問いかけてくる。
「ああ、ほぼ間違いないな」
この執着に俺を殺したがる意思、そして他人の話を聞き入れない心。
それはかつて星神に操られ俺を攻撃してきた神核たちの姿にそっくりだったのだ。
つまり。
「この精霊騎士、星神に落とされている」
俺はその事実をもう一度確認すると、クガの攻撃に合わせてエルテナを全力で振るった。
次回は一度キラサイドに視点を移します!
誤字、脱字がありましたらお教えください!




