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第百九十五話 全学園対抗競技祭、個人戦、三

今回で個人戦及び競技祭は終了します!

では第百九十五話です!

 全学園対抗競技祭個人戦決勝。

 どうやら決勝で俺と戦う相手は初戦の前に話しかけてきた茶髪の青年のようだ。

 見るとどうやら武器は刀のような異世界では珍しい武器を装備しているようで、日本の刀とまったく同じとまではいかないまでも片刃長剣なのは間違いない。

 俺はいつもと同じようにエルテナとリーザグラムを装備してその試合が始まるのを待っていた。まあ、準決勝が終わったその流れで決勝が始まるので装備の入れ替えをしている暇もなかったという理由もあったりする。

 例によって連戦選手には回復薬が支給されるのだが、特段必要のなかった俺は丁重にお断りしておいた。というのも先程の試合でオーディンの力を使用したが、はっきり言って最低火力の最低魔力だったので、魔力も減ることは無く直ぐに自動的に回復したのだ。


「ついに!この全学園対抗競技祭個人戦の決勝が行われます!!!三日間続いた競技祭ですが、今日この試合をもって全て終了となります!そして注目の対戦選手ですが、まず右コーナー、昨年の優勝校トーランガルド武術学園よりフラッグ=バードナ選手、そして左コーナーからは三冠がかかっているシンフォガリア学園ハク=リアスリオン選手との戦いになります!両選手、予選、本戦ともに一瞬で対戦選手を下してきており、高レベルの試合が展開されることが予想されます!!!」


 俺はそのアナウンスを聞きながら武器の調子を再度確かめていたのでが、ここでフラッグと呼ばれた少年が前に進み出てこちらに話しかけてきた。


「まさか本当に決勝で合うことになるとは思わなかったよ」


「それはこっちの台詞だ。何者か知らないが俺を楽しませる程度には足掻いてくれよ?」


「フハハハハハハ、まさかこの僕にそんな言葉を投げかけてくる奴がいるとは。いいだろう、ではお望みどおりその体にしっかりと刻み込んであげるよ、敗北の痛みをね」


「ああ、それじゃあ見せてくれよ、お前の強さってやつをな」


 俺とフラッグはそう言って互いに距離を取ると、武器を抜きそれぞれ得意なポジションに構える。

 俺は今回エルテナだけを選択し中段、それも比較的自由度の高い動きが取れるような位置に置き、じっとフラッグの目を見つめる。

 確かにフラッグはかなり高飛車な性格のようだが、そこには悪意は無く純真に戦いを楽しもうという気持ちが見受けられた。

 それが自身のプライドと競合し合って空回りしているが、おそらくそれなりの実力があるという自負を持っているからこそ出てきた言葉なのだろう。しかも俺がSSSランク冒険者だということはとっくに割れているので、それを理解してもなお攻撃的な姿勢を崩さないのは、ある意味に意志力の賜物なのかもしれない。

 フラッグが肩に構えているのはやはり刀のような武器で、その切れ味は見ただけですさまじいことが見て取れた。

 そもそも刀という武器は西洋剣のように切れ味と力の複合で叩き斬るようなものではなく、単純に切れ味で切断することだけを考えて作り出されたものだ。

 ゆえに俺が持っているエルテナやリーザグラムとはまったく違った攻撃方法、攻撃痕を残す。それが良いか悪いかは使用者次第だが、それでもやはりこの世界において刀という武器は異質な存在だった。


「それでは決勝戦スターーーーーーーートです!!!」


 俺がそのような考えを巡らせていると実況者の女性が試合開始の声を上げた。

 その掛け声と同時にフラッグはもの凄いスピードで俺に接近し、刀ならではの流線を描きながら剣先を突きつけてくる。


「はああああ!!!」


 俺はその刀をエルテナで受け止め弾き返すと、こちらも攻撃に転じる。

 右肩、左肩、右太もも、左太ももを一回ずつ突くように剣を動かし、その後に回転しながら左から右に抜けるように横なぎの攻撃を放つ。

 しかしその攻撃は全ていなされ、カウンターに利用されてしまった。


「甘いよ!」


 フラッグの刀は、西洋剣では出来ないような動きを見せながら俺の腕輪を的確に狙ってきており、カウンターを放たれている今、なかなか弾き返すことの出来ない攻撃を繰り出してきていた。

 俺は咄嗟に転移を実行し背後に回ると、がら空きになっている背中を右足で蹴り飛ばす。


「な!?があああああ!?」


 俺はエルテナを左右に切り払いながら言葉を発し、問いかけてみる。


「確かに自分で自分を褒めるだけのことはあるな。だが、まだまだ戦闘経験がたりない。お前がやっているそれはただの殺陣ショーだ。戦いならば、試合であれなんであれどんな手段も厭わない攻撃をしてくることだな」


 そう、このフラッグは自分で言っているだけあってそれなりの実力を持っている。しかし、それはあくまで学園で培われただけのものであり、そこには殺気もなければ相手を本気で倒すという気概すらない。

 これはあくまでフラッグだけにいえることではなく、今までの選手全員にいえることなのだが、どれだけ強大な攻撃で頭部や急所を狙おうが、それはまだ人を殺すという領域には至ってなかったのだ。当然本当に人殺すことはしてはいけないので、本気になりすぎるのも困るのだが、勝負という中においてそのような駆け引きがまったくないというのは、これまた問題だった。


「い、言うじゃないか………。だったら見せてあげるさ僕の強さを!!!」


 瞬間、フラッグの刀から膨大な力が湧きあがりフラッグ自身を包み込んだ。それはすぐさまフラッグの筋力を上昇させ、擬似的な身体強化を施している。

 なるほど、あの刀は魔剣、いや魔刀だったのか。


「ならばその強さで俺を叩きのめしてみろ。やれるものなら、だけどな」


 その声が引き金になったかのようにフラッグの姿はその場から掻き消え、一瞬で俺の背後に迫る。

 スピードでいえば先ほどの数倍は膨れ上がっているようで、俺は身を捻りながら振り下ろされた刀とエルテナで受け流し攻撃に出ようとした。

 だがそのとき、フラッグの刀が物理的にありえない方角から俺の腕輪目掛けて動き出した。


「なに!?」


 それはまるで刀自体が意思を持っているかのような動きであり、明らかにフラッグの意思で行われたものではなかったのだ。

俺はまたしてもその攻撃を避けるために転移を使用し、更に背後に回る。

 だが。


「それはもう通用しない」


 俺の転移すらも予測していたフラッグは振り向きざまに俺の顔面を狙って刀を横一線になぎ払ってくる。


「ッ!?」


 それは俺の前髪をかすめ、何本か切られてしまった。

 バク宙をするようにとりあえずフラッグから距離を取りもう一度その姿を眺めてみる。


「へえ、やるじゃないか。まさか転移まで読まれてるとは、恐れ入ったぜ。今のどうやったんだ?」


「この剣は自らの意思で僕の動きをカバーするのさ。それとまだまだ試合はこれからだよ。僕は君を倒すまでは止まらない」


「それはいいが、その体はいつまで持つかな?」


「ッ!?」


 どうやら魔刀の力をその身に流すことで今の力を得ているようだが、その力はどこからどう見ても過剰火力だ。今は何とか体が持ちこたえているが、このままその力を使い続ければいずれ体の方が持たなくなり自滅の道に追い込まれるだろう。


「………だったら、その前に君を倒す!!!」


「へへ、そうこなくっちゃなあ。期待してるぜ?」


 するとフラッグは今までよりも更に速いスピードで動き、攻撃を繰り出してきた。残像すら残っているその剣線は普段感じることの出来ない独特の雰囲気を帯びており、どう対処していいのか上手く掴めない。


「はああああああああ!!!」


「はああああああああ!!!」


 俺とフラッグは同時に雄叫びを上げながら剣と刀を打ち付けあう。それはいつの間にか俺が先程言った剣士同士の駆け引きが繰り広げられており、フラッグはこの戦闘の中でも大きく成長しているらしい。

 ならばこちらもあまり手を抜いていては失礼だろう。

 そう思った俺はギアを更に上げフラッグよりも速い速度で攻撃を繰り出す。


「ついて来られるか?」


「ぐっ!?」


 体の上から足の先までに及ぶ俺の連撃は次々とフラッグの肉を傷つけ、その体にダメージを蓄積させていった。

 だがそれでも俺の攻撃は止まらず剣の雨は止まることを知らない。

 するとここでフラッグが一度剣を引き、大きな隙を見せた。俺は腕に先ほどから剣を放ち続けているので気にすることなく攻撃をかます。


「かかったね」


 しかしその瞬間フラッグは剣を持っていない左手と刀の柄を上手く使いながら俺の体を一回転させるように投げ飛ばした。


「がはっ!?」


 まさかの事態に転移する暇すらなく肺に溜まっていた空気を全て吐き出してしまう。

 俺はすぐさま態勢を立て直すと、今しがた俺を投げたはずのフラッグの姿が近くに無いことに気がついた。

 俺から数メートル離れたところに立っていたフラッグは刀を振り上げ何かの技を繰り出す直前のようなポーズを取っていた。


「さすが、SSSランク冒険者だね。僕の本気を出してもまだ届かないとは、正直言って驚いてるよ。だけど、これはどうかな!!!」


 瞬間、フラッグが握っていた刀に魔力が流れ始め膨大な力が渦巻いていく。

 おそらく自身の魔術を魔刀に流し込んだのだろうが、その技は魔力切れ覚悟のもののようで、フラッグの額には大粒の汗が滲み出ている。

 魔刀の力に自身の体が耐え切れなくなる前に決着を付けたいようなので、やっていることはあながち間違いではないのだが、いささか強引な方法にも見えた。

 いや、戦闘という場であればこれは普通なのかもしれない。下手に後先考えず、今出せる自分の全力を叩き込む。

 これも一種のスタイルということか。

 であれば俺が出来ることは、この攻撃に力で答えることだけ。

 そう思った俺はエルテナをしまい神妃化を実行する。

 そしてその瞬間、フラッグの両手に収まっている刀が全力で振り下ろされた。


一太刀の絶炎(ファーストフレイム)!!!」


 その攻撃は蛍光色のような赤い炎を纏った斬撃であり、ステージの地面をバキバキと削りながらとてつもないスピードで俺に近づいてくる。

 普通の生徒であればこの攻撃の余波だけで吹き飛んでしまうほどの威力を秘めた一撃のようで、伊達に個人戦決勝まで勝ち進んできていないことを証明していた。

 しかし俺はこの戦いとの別れを惜しむように微笑みながら右腕を振りあげる。そしてそれは勢いよく振り払われ、その斬撃を触れただけで消滅させた。


「ば、馬鹿な!?」


 俺は驚いている表情のフラッグに接近し、その腹に意識を一瞬で刈り取るレベルの拳を叩き込む。


「がはっ!?」


 その拳をまともに受けたフラッグはズルズルと滑り落ちるようにステージに蹲り気絶した。


「それなりに楽しかったぜ。また機会があれば戦いたいところだ」


 俺はそう言うと神妃化を解除してその光景を眺めた。


「し、し、し、試合終了ーーーーーーーー!!!激戦を制し見事この競技祭個人戦を勝ち抜き優勝を手にしたのはシンフォガリア学園ハク=リアスリオン選手だーーーーーーーーー!!!皆さん、この戦いを見事戦い抜いた選手たちにもう一度大きな拍手をお願いします!!!」


 こうして俺はその拍手と喝采に塗れながらシンフォガリア学園の三冠を祝うと同時に、学園長との約束である卒業まで期間の短縮が確定されたことに胸を撫で下ろすのだった。


次回からようやく第五章の中枢になるお話がスタートします!

誤字、脱字がありましたらお教えください!


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