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第百九十二話 全学園対抗競技祭、タッグ戦、三

今回でタッグ戦は決着します!

では第百九十二話です!

「いよいよ、決勝か」


「うん。そうだね」


 魔族を見事と言う他ないくらい完膚なきまでに叩きのめしたシラとシルは残っている決勝戦を戦うべく現在ステージにその姿を現していた。

 この全九学園、学校で行われるトーナメントは比較的早くその試合が消化させていき、一回戦が終わるとすぐさま準決勝という形になっている。団体戦のようにその一試合の中に三回また試合を挟むのであれば必然的に時間もかかるのだが、タッグ戦と個人戦にいたってはそのようなことはく、昼過ぎには全ての試合が終了する見通しとなっているようだ。

 そしてタッグ戦決勝。

 シラとシルの最後の相手はこれまたかなりイレギュラーな相手のようだった。

 出場校はワクラーディン召喚学校というらしく、その名のとおり専攻しているのは魔術や魔法によって発動される召喚術式だ。

 この召喚術式はかなり特殊な分類をされるもので、縁がなければそれこそ一生発動すらしないもので有名な術式だ。

 というのも召喚というのはどの魔力属性からでも発動できるものなのだが、その使用魔力が魔法よりも遥かに多く通常の人間では発動にすら持っていくことは出来ないほど扱いが難しい。召喚術式は本来この場にないものをこの空間に繋ぎとめ半テイム状態にするものだ。それは呼ぼうと思えばそれこそドラゴンや古代種の魔物すらも召喚できる。それゆえその召喚にかかる魔力が半端ではないらしい。

 ではなぜ今回の相手学校はそれを専攻し実用化まで漕ぎ付けているのかというと、それは召喚に用いる触媒の生成が比較的簡単に出来る設備を持っているということが原因だ。なんの対策もせずに召喚することは難しくても、触媒といういわばお助けアイテムがあれば召喚というものの難易度は急激に下がるよう、今回の対戦相手もおそらくはその触媒を使って何かを召喚するつもりなのだろう。

 というわけで俺たちはシラとシルの最後の試合が始まるのを待っているわけだが、ここで不意にエリアが話しかけてきた。


「ハク様は召喚魔術や、魔法は見たことがないようですから、多分あれは驚くと思いますよ?」


「ん?どういうことだ?」


「ああ、そうだろうな。はっきり言って妾は絶対にやりたくない。というか面倒だ」


「は?だから一体どういうことだよ。それ?」


「うーん、見てもらうのが一番早いんだけどなー」


 エリアに続くようにルルンさえも意味深なことを口から呟いてくる。

 すると俺の疑問に答えるようにサシリが口を開いた。


「召喚系の魔術、魔法は通常のものとは違って魔方陣を全て手書きで描かないといけないのよ。なんでも、そうでなければ正常に発動できないらしくて、召喚というものの弱点及びデメリットになっているわ」


 そ、そんな制限が付いた魔術や魔法があるのか………。

確かに不便では有るが、それをわざわざ使用するということはそれなりの反面的な理由があるはずだ。


「それじゃあ、メリットは?」


 その問いに膝の上に乗っていたアリエスが返してくる。


「自分の実力とは無関係に強力な存在を呼び出せるってことかな。触媒によってかなり召喚の魔力が抑えられる今は、一度呼び出せば負けることのない存在を召喚するのがセオリーなの」


 へー、そういう裏事情があったりするのか。

 この世界の魔術もなかなか奥が深いな。

 俺は普段からヘルやフレイヤといった神々を召喚というか呼び出すことがあるが、そのような制約は存在しない。つまりやはり元の世界にある魔術とこの世界の魔術は根本的に何かが違うのだろう。

 それか、単純に俺が常識外の魔力を持っているという線も考えられなくないのだが………。

 と一人で考えに耽っていると会場から歓声が沸きあがり選手が揃ったようだ。

 俺は引き続きアリエスを膝の上で抱きかかえながらその試合を見守っるのだった。












「ようやく、ようやく決勝戦がやってきました!!!前三日間の日程で行われる競技祭の中日である今日!その最後の試合がまもなく幕を開けます!!!対戦カードはワクラーディン召喚学校のジュラレット=リクーラ選手とエーテナ=プーラン選手、そしてシンフォガリア学園からはシラ=ミルリス選手とシル=ミルリス選手の四人です!!!昨年のタッグ戦では残念ながら一回戦で敗退してしまったワクラーディン召喚学校ですが今年はなんと決勝戦まで駒を進めておりその実力は本物のようです!そして我が学園代表、ミルリス姉妹はその洗練された連携と神業のような動きで予選から無双を繰り広げている最強姉妹となっております!!!この試合、どちらに優勝旗はなびくのか、非常に気になります!!!」


 ステージには既に出場者四人の姿が現れておりシラとシルはサタラリング・バキを構え、相手の男女のペアは色々と召喚に使うための触媒を準備している。


「おそらく相手は強力な魔物や存在を召喚してくるはずだわ。その前に勝負を決めるわよ」


「うん………!」


 この戦いは相手選手の大規模召喚が発動してしまった時点で勝敗が大きく傾く。ドラゴンや古代種の魔物は今のシラとシルが全力を出せば余裕で討伐は出来るのだが、それでも危険な存在であることには間違いない。

 よって二人は早々に決着をつけにかかるようで、腰を落とし戦闘態勢を取る。

 するとそれに呼応するように相手選手も身構え始め静寂が会場全体を包んだ。それは息を吐く音さえもうるさく感じられるほど静まり返っており、両者の緊迫感がもろに反映されていた。


「それでは、タッグ戦決勝戦開始ですーーーーーーーーーーーーー!!!!」


 瞬間、シラとシルの二人は勢いよく地面を蹴りジュラレットとエーテナに接近する。手を使って魔方陣を展開しなければならない召喚術式はどうしても発動に時間がかかってしまう。それはこの召喚という概念も弱点でもあった。

 しかし仮にも召喚というものを専攻している学生がその弱点を知らないはずがない。


「みんな、俺たちの召喚を阻止させたいみたいだけど、そうは問屋がおろさないぜ!」


 ジュラレットがエーテナを庇うような形で前に出て魔力を発し始める。

 それはものの一秒ほどで発動し具象を呼び起こした。


闇の黒煙(ダークスモーク)


「な!?通常魔術!?」


「しかもこれは…………」


 ジュラレットが放ったのは召喚術式でもなんでもないただの黒魔術だった。それは言ってしまえば煙幕そのものでそれ以外の効果は持たない。

 だがそれはエーテナが魔方陣を描きあげるのに十分な時間を稼ぎ出す。


「ケホ、ケホ。し、シル!ここは一旦引くわよ!多分このまま突っ込んでも召喚を阻止することは出来ないわ!」


「ケホ、う、うん…………」


 その言葉はまるでフラグのように、膨大な魔力を撒き散らしながら強大な存在をこのステージに降臨させた。


「いでよ、ヴァルファリシュート!!!」


 今回エーテナが呼び出したのはワイバーンに似た古代種の魔物のようで、背中からは四つの翼と炎が吐き出され、腕と足もそれぞれ四つ生えているドラゴンもどきだった。しかしその力は普通のドラゴンとは比べ物にならないほど大きく、圧倒的な存在感を放っている。


「はあ、はあ、はあ。あとは頼んだわよ、ジュラレット………」


「ああ、任せとけ!」


「おーーーーーーーと!強力な魔力を消費する召喚を行ったことによってエーテナ選手が気を失ったーーーーーー!?ワクラーディン召喚学校の残る選手はジュラレット選手のみですが、これは強力な存在が姿を現したーーーーーー!果たしてミルリス姉妹はこの凶悪な魔物にどう立ち向かう!?」


 どうやらやはり召喚は大量の魔力を消費するらしくエーテナは気絶し、残っている選手はジュラレットだけとなった。

 のだが、状況はあまり芳しくない。

 なにせ古代種がこの場に現れてしまったのだ。あれをどうにかしなければジュラレットには攻撃することは出来ないだろう。


「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 ヴァルファリシュートは咆哮を轟かせると、シラとシルを足すべく空を舞いながら突進をかましてくる。


「くっ!」


「ッ………!」


 シラとシルはなんとかそれを回避し、ジュラレットに接近しようとするがそれはジュラレット自身の魔術とヴァルファリシュートによって阻まれる。

 そしてヴァルファリシュートは空中から狙い定めたように口をあけるとその中から大量の火炎を放射してきた。


「シル!能力を使って避けて!」


「うん………!」


 さすがにあの攻撃はまずいと判断したシラはシルのそう告げるとサタラリング・バキの未来予知を使用し安全地帯に移動する。ヴァルファリシュートのブレスは移動する前の二人の位置を的確に破壊しステージを溶かした。


「どうだ!これが俺とエーテナで作り上げた召喚術式だ!そう簡単に倒せないぜ?」


 ジュラレットは声高らかにそう叫ぶと自分も次々と魔術を放っていく。どうやらこの試合でジュラレットが召喚を使うことはないようだ。

 シラとシルその攻撃を避けながら、一つの決断を下していた。

 このままでは明らかにこちらが不利な状況が続く。ましてヴァルファリシュートはすでに召喚されてしまっているので使用者の魔力残量に関わらず存在し続ける。

 であれば………。

 背中合わせにくっついた二人は息をあわせるように目線をあわせると、楽しそうな笑みを浮かべながらこう呟いた。


「それじゃあ、少しだけ」


「本気………出すよ……」


 瞬間、シラとシルはヴァルファリシュートでさえ捉えられないほどの速度で動き、サタラリング・バキを煌かせた。

 それは未来のヴァルファリシュートを的確に切り裂き、四つの翼を全て切り落とす。


「ギャアアアアアアアアアア!?」


「な、なんだと!?」


 そしてそのまま未来予知を惜しみもなく使用し、その体を切り刻んでいく。このヴァルファリシュートが倒れない限りジュラレットに近づけないと判断した二人は、まず全力でこの古代種を蹴散らすことにしたのだ。

 ヴァルファリシュートは苦しそうにしながらも腕を振るったり、ブレスを吐いたりしているがそれはシラとシルにはまったく当たらず全てが回避される。

 そしてついに二人の魔剣がヴァルファリシュートの心臓を捉えた。どれだけ分厚い鱗に覆われていようが、神宝の前では紙も同然。

 その一撃を受けたヴァルファリシュートは自分自身を存在させておく力を失い、光に飲まれるような形で消滅した。


「馬鹿な!!!!」


 ジュラレットはその光景を見た後、すぐさま身に着けている触媒を取り出し新たな召喚を行おうとするが、それはもう遅い。

 神速のような速さでジュラレットに肉薄したシラとシルは二人同時に右腕に装着されている腕輪を両断すると、晴れやかな笑顔でこう呟いた。


「あなたたちの召喚、新鮮で楽しかったわ」


「うん………。でも私たちの方が強い………」


 その言葉を聞いたジュラレットは頭をかきながら自分達の敗北を認める。


「まいったな、これは勝てないぜ………」


「これはーーーーーーーーーーーーーーー!!!ヴァルファリシュートという強力な魔物をものともせず、見事決勝戦を勝ち抜いたのはミルリス姉妹だーーーーーーー!!よってタッグ戦の優勝校は団体戦に引き続きシンフォガリア学園に決定だーーーーーーーーー!」


 その言葉と同時に巻き起こる大歓声を受けながら、シラとシルは満面の笑みを浮かべてハク達が待っている観戦席へと足を向けるのだった。










 だが、このときある存在がとてつもない大群を引き連れてこの学園王国に向かっていることに誰も気が付いていなかった。


次回はようやくハクの試合が始まります!

そしてこの学園王国編のメインエピソードが幕を開ける瞬間にもなりますので、ご期待ください!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

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