第百八十九話 全学園対抗競技祭、団体戦、三
今回で団体戦は終了です!
では第百八十九話です!
予選と同じく全三日のスケジュールで進む全学園対抗競技祭は団体戦の最終局面を向かえようとしていた。団体戦に出場しているアリエスたちは一番の優勝候補のララワール魔術学校に勝利してからというもの危なげなくその後も勝ち進み決勝戦に到達していたのだ。
まあ、今さら学生クラスの力でアリエスたちをどうにかしようとしていること自体が安い考えなのだが、やはり出場校の連中はアリエスたちを一年生だからと侮っているところがあるようで、試合早々油断を見せてしまい一瞬で片付けられているようだった。
で、その決勝戦も先鋒であるサシリが難なく相手選手を気絶に追い込み優勝まであと一勝というところまで来てるようで会場の熱気は今日一番の盛り上がりを見せている。
ちなみに相手の学園はトーランガルド武術学園というらしく、その名の通り剣や格闘技を主に専攻している学園のようで、サシリと対戦した生徒も徒手空拳の使い手のようだった。
で、俺たちはその光景を見つめながら何をしているかと言うと。
「おい、エリア。それは一体なんだ?」
「え?これですか?これは学園の屋台で売ってたんですよ!どうですか、可愛いでしょう?」
い、いや………。
それを可愛いと言える神経は俺にはないかな………。
というのも団体戦の準決勝が行われる前に一度昼休憩が入ったのだが、その際にエリアが自分の頭に妙なお面をつけて返ってきたのだ。それは俺も旅の道中で何体も倒したことのある魔物、アルミラージのもので多少デフォルメされているとはいうもののその見た目はやけにリアルに作りこまれていた。
アルミラージというのはウサギの頭に角が生えた魔物のことを指し、全体を覆う毛は金色で角は太陽の黒点のように黒く、それは奇妙な生き物なのだ。しかし元々の見た目がウサギということもあり中では人間のペットとして飼われていることもある魔物なのだ。
「う、うん。まあ、そうだな……」
それは嬉しそうなエリアの顔を見ながらなんとか頷くと、エリアたちがそのお面と同時に買ってきてくれたフライドポテトを口に運ぶ。
この世界の食事は元の世界と違っているところもあれば同じところもあるようで、俺が親しんでいた料理もそこそこ見受けられたのだ。このフライドポテトやパン、スープなどはその典型例で俺も食べることが多い。
見るとキラやシラ、シルも各々好きなものを購入して腹に入れているようで、その姿はとても幸せそうだった。
ちなみにキラはどこで買ってきたのかわからない激辛スイーツと銘打たれている、もはや辛いのか甘いのか理解できないようなものを食しており、大層満足そうな顔をしていたのは余談である。
するとどうやらいよいよ中堅戦が始まるようで、会場が再びざわめき始める。既に後がないトーランガルド武術学園はステージに最後の選手を送り出しており、腕を組みながら中堅戦が始まるのを待っているようだ。
見たところ腰には二つの剣がささっており双剣というよりは俺と同じ二刀流使いのようで、左右にかけられている長剣はまったくの別物になっている。
俺は右コーナーにあてがわれたシンフォガリア学園のほうを眺めつつ選手が入場してくるのを待ったのだが、ここで少しだけ驚く事態が起きた。
「へー、今回はアリエスが出てくるのか。今までだとルルンが出てたよな?」
「はい………。ですがこの決勝戦は違うようですね………。何か考えがあるのでしょうか?」
俺の言葉に返答したシルも同じく首を傾げており頭に悩んだ表情を浮かべていた。
予選から本選である今日を通してアリエスたちのグループは中堅をルルンに任せていたのだが、今になってアリエスがこの場に登場したというのははっきり言って俺も考えていなかった出来事だ。
まあ、アリエスが出たからといって負けることはまずないし困ったことも特段ないのだが、一つ言えるとすれば余計な心配事が増えたということぐらいだろう。
アリエスは何だかんだ大きな魔術を連発する癖がある。それは今までの旅でもそうだったし、授業のときでもその癖は顕著に現れていた。
ゆえにアリエスが最後だから、と言う理由で大規模魔術を最大火力で撃ってしまわないかということが気がかりになったのである。
「大方アリエスが自分も最後くらいは出たい、と言い張ったのだろう。本選に入って以降、サシリとルルンしか戦っていないからな」
キラが呆れたようにシルの問いに返答しステージを眺める。
それはありえそうだな………。
と俺は内心思いながら手に持っていたフライドポテトをもう一つ口に運び、その戦いを見つめる。
まあ、頑張って来い、アリエス。
そう心の中で呟いた俺は腰のエルテナをそっと撫で体重を観客席の背もたれに預けるのだった。
「最後くらい、私も出たいよ!」
サシリの先鋒戦が終了し、中堅のルルンが入れ替わるようにステージに向かおうとしていた瞬間、アリエスの声が二人の耳に響き渡った。
「アリエス、少し落ち着いて」
サシリが頬を膨らましたアリエスをなだめるように声をかける。確かにアリエスは競技祭の予選以外では戦っておらず、本選でもその姿を一度もステージに出していない。というのもサシリとルルンが大将であるアリエスに戦いを回す前に勝敗を決めてしまうからであり、二人の強さから生じる事態にちょっとした不満をアリエスは募らせていたのだ。
実際それは予選のサシリも同じであり、このまま戦わないのは可愛そうということもあってサシリは本選で先鋒を務めたのだが、ルルンだけは依然フルで出場している。つまりアリエスの不満はルルンに向けられたということである。
「うーん、確かに私はずっと戦ってるし、まあいいっか。うん、それじゃあ最後はアリエスちゃんに任せるね」
対するルルンは特段試合に興味を持っているわけではなさそうで、あっさりとアリエスの要求を飲み込んだ。これはおそらく五百年という長い時を生きたことによる器がなせる心のゆとりであり、ルルンの凄いところでもあるのだが、アリエスはその言葉を聞いた瞬間顔をほころばせ嬉しそうに頷く。
「ありがとう、ルルン姉!」
アリエスはそう言うとすぐさまステージに走っていく。
その背中を眺めながらサシリとルルンは困ったような顔を浮かべて話し始めていた。
「あはは……。アリエスちゃんは大人なところもあるけれど、やっぱりまだ子供だねえ」
「そう?私はいつも可愛い子供のようにしか見えないのだけれど……」
「それはまだサシリちゃんがアリエスちゃんの凄さを知らないからだよ。あの子は私たちが考えてる以上に色々なことを抱えてる。でも根は子供なんだよね、ハク君を真似て頑張ってるみたいだけど」
「………なんだか、ルルンっておばあちゃんみたいなこと言うのね」
「なんですとぅ!?」
サシリの言葉に過剰に反応したルルンだったがその瞬間試合開始の声が響き渡り、二人の目線は同時にステージに向けられるのだった。
「さーーーーーーーて!!!本日行われる団体戦も残すところ僅かとなってきました。後がないトーランガルド武術学園は今回参加している三人の選手の中でも最強と言われているエルーナ=プフェーリ選手が登場です!!!対してシンフォガリア学園は今までとは打って変わってアリエス=フィルファ選手が出てきました。アリエス選手は十一歳という年齢でこの学園に入学した若き天才です!!!この試合どちらが勝つのでしょうか!!!」
アリエスはその実況を聞きながらハクから貰った絶離剣レプリカを勢いよく引き抜いた。
するとそれに合わせて長い髪を後ろで束ねたエルーナも腰に下げていた二本の剣を抜きアリエスに構える。
そしてエルーナはそのままアリエスに確認するかのように声をかけてきた。
「あなたが十一歳でまだ子供だからという理由で手加減する気はないわ。優勝がかかってるこの一戦、私はあなたを全力で叩き潰す!」
「うん、それでいいよ。私もそんなくだらない理由でいちゃもん付けられても嫌だしね」
その言葉がトリガーになったかのように試合開始の掛け声が会場に鳴り響いた。
「それでは決勝戦中堅戦スターーーーーーートです!!!」
アリエスは試合が始まった途端、一瞬でエルーナに接近し絶離剣を全力で振り下ろす。
「はあああ!!!」
「くっ!?」
やはりそのスピードは常識を軽く逸脱しており、エルーナが反応する前にアリエスの剣は剣を繰り出していた。
絶離剣は本来、どんなものでも両断する魔剣だが今回はその力をある程度セーブしエルーナの剣を破壊しないようにコントロールして戦う。アリエスも今までの旅を経験してこの程度ならば難なくこなせるように成長していたのだ。
アリエスの攻撃はエルーナの右手に収まっている剣を簡単に吹き飛ばし、その腕輪を狙う。
しかしそこはやはり決勝まで勝ち進んできた選手なだけあって、ギリギリのところで身を翻しその剣を避けた。
「まだまだいくよ!」
エルーナが態勢を崩している間にもアリエスは剣を持ち、その体に接近する。
「なめないで!!!」
だが、その動きを読んでいたかのようにエルーナの左手が跳ね上がり、アリエスの腕輪に差し向けられた。
今のように圧倒的な実力差がわかっている場合は試合というルールを活かし腕輪の破壊を狙ってくるのは当然であり、それはアリエスもよく理解していたことだ。
ゆえにその対策を講じていないわけがない。
「氷の時計」
アリエスは試合開始から予め魔力を流していた魔術をここにきて展開する。それは一瞬にしてステージを絶対零度の極寒へと変貌させた。
「な!?」
さすがにこれはエルーナも予想していなかったことのようで抵抗する暇もなく、その体はみるみる凍り付いていき身動きが取れなくなってしまう。
「ま、まだ終わらせないから!!」
アリエスはこれで終わったかなと、安心して腕輪を破壊しようとしていたのだが、エルーナの声に引き寄せられるように警戒の色を戻した。
みると先程弾き飛ばした剣がアリエスの魔術の氷を溶かし始めている。
「魔剣かな?」
一本の剣から迸っている熱気はエルーナを硬直させていた氷を完全に溶かすと、再びエルーナの手に戻り煌めきを取り戻す。
「はあ、はあ、はあ。勝負はこれからよ………」
息を荒くしながらいまだに冷気が漂うステージに足を突きながらエルーナはそう呟いた。どうやらエルーナの魔剣は炎を司るもののようでアリエスの氷を全て溶かすことは出来ないまでもエルーナの体を覆っていた氷は見事消失させ、体の自由を復活させたようだ。
とはいえアリエスの表情からはまだ余裕の色が見えている。
アリエスは絶離剣をしまい、服に挟みこむようにして持っていた魔本を勢いよく開く。
「ううん、残念だけどこれで終わり。剣もいいけどやっぱり魔術のほうが私は得意かな」
「な、何を言って……ッ!?」
アリエスがそう呟いた瞬間、空間を叩き割るような魔力が一斉にアリエスに集まり出し、巨大な魔方陣を描き始める。
左手に魔本を、右手は真っ直ぐエルーナに向けてアリエスは発動の文言を呟く。
「閑地万却の雷」
瞬間、会場の天井から白い稲妻を帯びた竜が出現し大きな咆哮を上げる。そしてそれをアリエスは全力でエルーナの頭上に叩き付けた。
「きゃあああああああああああああああああ!?」
エルーナは恐怖のあまり剣を投げ捨て両手で頭を塞いでしまっている。
確かにこのままこの魔術を直撃させれば即死コースだろうが、アリエスは間違ってもそんなことはしない。
アリエスはニヤリと一度降格を上げるとそれをエルーナにぶつかる寸前で消滅させた。無理矢理消し飛ばしたことでかなりの爆風が巻き起こるが、物体に衝突して爆発するよりは遥かに威力を抑えられる。
そしてアリエスは蹲っているエルーナの前まで接近すると絶離剣をもう一度引き抜きその右手に付けられている腕輪を破壊した。
「驚かせてごめんね。でもこれで私の勝ち」
そう言ってエルーナに手を差し伸べたアリエスは満面の笑みを浮かべるのだった。
「………はあ、本当に敵わないわね、あなた達には」
アリエスの手をしっかりと握り返したエルーナは同じように微笑み返して自分の負けを認めた。
「試合終了――――――――――!!!激戦の中団体戦を勝利したのはシンフォガリア学園だーーーーーーー!!!優勝おめでとうーーーーーーーー!!!」
こうしてアリエスとルルン、サシリの団体戦は優勝という華々しい結果を残して幕を下ろした。
明日はシラとシルによるタッグ戦が開催される。
次回はタッグ戦が開幕します!
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