第百八十八話 全学園対抗競技祭、団体戦、二
今回はルルンがメインです!
では第百八十八話です!
「ほら、言っただろう?サシリはしっかり手加減してるじゃないか」
「…………」
キラが俺に顔を寄せながら自信満々にそう呟いてきた。
見てのとおり試合はサシリがその圧倒的な力で相手選手を下し、シンフォガリア学園が勝利に一歩近づいた形になっていた。
いや、まあ………。
確かに手加減はしているけど、ステージを修復不可能なレベルで破壊するのはちょっと………。
サシリが相手の男子生徒に放った攻撃は血の力のようで、観客や生徒に怪我はなかったもののステージを切り裂くような形で破壊痕を残し相手グループを戦慄させていたのだ。全力のサシリであれば被害はこの程度に収まるはずはないのだが、それでもやりすぎなくらい実力を披露していた。
俺は無言でその光景を眺めながら、次の試合を待つ。
次はルルンか………。これまた大変なことになりそうだな。
心の声が脳内に響き渡る中、サシリと入れ替わるような形でルルンが入場してきた。
その瞬間、一部の観客達が一斉に大きな声を出してルルンを応援し始めたのだ。というのもこれにはしっかりとした理由がある。予選終了から二週間の間、ルルンはかつてのエルヴィニアよろしくあのアイドル活動をこの学園でも始めてしまったのだ。それは瞬く間に男子生徒の注目を集め、ファンを大量に増やすこととなった。
つまり今騒いでいるのはそのファン達であり、よく見れば他学園の生徒たちもそれに混ざっているようだ。
「こ、これは凄いですね………」
シラが目線をその観客達に合わせながら呟いてくる。どこの世界に言ってもこのような文化を追い求める人種というのは変わらないようで、その観客達の目はルルンに釘付けのようだ。
それを否定するわけではないが、このような場では少し自重することを学べばいいのに、と思ってしまう。
「ま、まあ、これはもう自然現象みたいなものだ。気にしてたらこっちが持たないぞ」
見るとルルンがステージに上がったことで、相手の選手も同じように上がったようだ。
この戦いを勝利すれば大将戦が訪れることなくシンフォガリア学園の勝ちが決まるため、おそらく相手側は三人の中でも最強の生徒を出してくはずだ。相手が魔術学校の生徒ということもあってお互いに相性はいいはずなので自分の得意な展開に持ち込めれば多少はルルンを苦戦させることが出来るかもしれない。
「でもやっぱり、ルルンには勝てないだろうな。あの剣速は異常だし」
俺は初授業で味わったルルンの凄さを改めて思い出しながら一人そう呟くのだった。
「それじゃあ、次は私の番だね」
ルルンはそう言うとサシリと入れ替わるような形でステージに上がっていく。
「ルルン姉も頑張ってね!」
「応援してるわ!」
アリエスとサシリの言葉にルルンは持っていたレイピアを少しだけ上げ、そのまま足をステージに向け歩いていく。
ルルンがステージに姿を現すととてつもない歓声が押し寄せ、会場全体を揺らした。見るとそれはルルンの学内ライブによく来る面子のようで、そのどれもがルルンの名前を叫んでいる。
(うーん、熱烈なファンっていうのは嫌いじゃないんだけど、ここまでやらなくてもねー)
これまでもルルンはエルヴィニアに居る際にこの手のファンが押し寄せてくる事態を経験していた。その中には結婚まで求めてくる者もいたりしたのだが、それはルルンにとってあまり嬉しいものではなく全て断っており、その対応に苦労していたのだ。
そもそもルルンは注目されることに優越を覚え、アイドル活動という手段をとりその欲求を満たしている。それゆえ、実際ファンがどうだとか、それから恋愛事情に発展するだとかはまったく興味がないのだ。
(それに今の私はハク君しか見えてないのよ)
ルルンは自分の考えに若干恥ずかしさを覚えながら心でそう呟く。ルルン自体五百年という長い時間を生きている関係上、ここ最近は恋愛感情などまったく持っていなかった。だが、あのエルヴィニアの事件の際、自分のピンチに颯爽と現れたハクを見たとき、自分の心が久しぶりに疼いた気がしたのだ。
アリエスやエリアがハクに対して特別な感情を抱いているのは何となくわかっていたし、それに割り込もうとは今も思ってはいない。しかしそれでもルルンはハクの旅を近くで見届けたいと思ってしまったのだ。
(だから、応援してくれるのは嬉しいんだけど、その気持ちには答えられないんだよねー)
するとそんなルルンに反応するように右コーナーからも対戦相手の生徒が姿を現した。その生徒はどうやら女子のようで、ルルンとは反対的に短く切りそろえた髪をローブで覆うような格好をしている。右手には杖のようなものを持っており、典型的な魔術、魔法タイプであることが見て取れた。
「続きまして中堅戦に入ります!!!ララワール魔術学校からはグリム=ファリーナ選手が、シンフォガリア学園からはルルン=エルヴィニア選手が出場しています。グリム選手はララワール魔術学校の中でもトップスリーに入るほどの実力者らしく数々の魔術を自在に操れるそうです!!!対するルルン選手は最近学園内で話題のアイドルとして名前を馳せています!実は私もひそかなファンだったりするのですが、とにかくこの戦いも素晴らしいものになりそうです!!!」
するとグリムと紹介された少女がルルンに近寄り話しかけてきた。
「あなた見たところエルフよね?なのになんで剣なんか構えてるの?」
「エルフだから魔術しか使えないなんて道理はないでしょ?まあ、私の場合使えないこともないけどやっぱり剣が好きなのよねー」
ルルンはレイピアを構えながらも笑ってそう呟く。
実際ルルンは他のエルフ達と遜色ないほど魔術も魔法も使えるのだが、やはり剣の腕と比べると劣ってしまうと考えているようで、剣を好んで使っているのだ。
「…………変わってるのね、あなた」
「杖の中に短剣を仕込んでるあなたに言われたくはないかなー」
「ッ!?」
ルルンの言葉を聞いたグリムは一瞬だけ驚いたような顔をすると、再び冷静な表情に戻り話し始める。
「…………どうしてわかったの?」
「だって普通杖っていったら魔術や魔法の補助に使うものでしょ?それなのにその杖はまったくといっていいほど魔力を感じない。で、そんな中に仕込めるとすれば短剣ぐらいしかないじゃない?ルール的にも既に外に出してあれば問題ないみたいだしね」
ハクのように能力で新たな武器を出したり、服の中から隠していた武器を取り出すのはルール違反だが、今の様に杖の中に仕込んだり鞘の中に武器を入れていたりと、一応目に見えている状態であれば新たな武器の携帯は許されている。
つまりこの少女もルールの合間を縫って攻撃方法を考えてきているということだ。
「意外によく見ているのね」
「まあエルフは長い時間生きてるからある程度は鍛えられるってことかな」
二人はそう呟くとお互いに距離を取り戦闘態勢を取った。ルルンはレイピアを肩と同じくらいの高さに構え腰を落とし、グリムは杖を前に翳しながら詠唱の準備をする。
「それでは一回戦第一試合中堅戦スタートです!!!」
その掛け声と同時にグリムは先鋒戦のヒチリフと同じように詠唱を開始する。その手際はヒチリフよりも数段上のようで、ものの数秒でその詠唱は完了した。
当然ルルンであれば一秒も掛からず相手を吹き飛ばすことも出来るのだが、今回は命を取り合う戦闘ではないので様子を見てみることにしたのだ。
「闇の雷帝!!!」
グリムが使った魔術はどうやら闇魔術のようで、ラオのような重力特化ではなく通常の闇魔術を行使しているようだ。
本来重力系の魔術、魔法は闇魔術、闇魔法のなかでもかなり特殊な部類に入り、強力ゆえ使用したいものも多くいるのだが、扱いにくさと魔力消費量の多さから使う人間は殆どいない。
どうやらこのグリムも通常通りの闇魔術を好んで使用しているようで、ルルンの頭上には暗黒の雲が立ち込めており、大量の雷が降り注いできた。
「うん、なかなかいい攻撃だね」
ルルンはそういうと舞踏姫と呼ばれたその足裁きでその雷を次々と避けていく。偶に空中で回転したり、バク転しながら回避していくその様はさらに会場の熱気を底上げする。
「な!?なら、これでどうよ!!!」
グリムはすぐさま魔術の術式を切り替え、新たな魔方陣を作り出す。
しかしそんな隙はルルンが与えない。
「背後がおろそかになってるよ?」
ルルンハ目にも留まらぬ速さでグリムの背後に移動すると、その流れを残しつつグリムの背中に回し蹴りを叩き込んだ。
「きゃあ!?」
それは見事にヒットし、グリムの体を吹き飛ばす。だが、ルルンが手を抜いているせいもあってグリムはすぐさま体勢を整えると、魔術を発動する。
「闇の爆炎!!!」
放たれた黒い火炎球はルルンへ一直線に向かってきており、威力は十分強力だったのだが、それはルルンのレイピアにあっけなく穿たれて消滅する。
「まだまだ甘いよ?そんな攻撃じゃ私は倒せないんだから!」
ルルンはレイピアをクルクル回しながら火炎球の爆発によって生じた煙を切り払っていく。
そしてようやくその煙が晴れたとき、先程までグリムが立っていたところにはその人影はなく忽然と姿を消していたのだった。
「さっきの言葉はそのままお返しするわ」
するとルルンの不意を突くように背後からグリムの声がしたかと思うと杖の中に隠し持っていた短剣を出し腕輪目掛けてそれを振り下ろした。
だが、その光景を見ていたルルンはいつも通りの笑顔を浮かべながらこう呟く。
「だから、そんな攻撃じゃ私は倒せないの」
ルルンはそう言うとレイピアをハク達と戦う速度で動かし短剣を弾き飛ばす。
「そ、そんな!?」
「私もハク君と同じことやってみるよ」
ルルンの剣はその言葉に反応するように高速で煌き暴風と共にグリムの体に放たれる。それはグリムの体には当たらず寸止めであったが、ステージにいくつもの傷を作り、サシリの攻撃痕をもみ消すかのように地面を抉っていった。
そして最後にレイピアをストンと鞘の中に収めるとサシリと同じように相手選手に背を向けてステージから去っていく。
「じゃーねー。それなり楽しめたよー」
「ちょ、ちょっと!何を言って………」
ルルンのレイピアの動きを追うことが出来なかったグリムは何が起きたのか理解できず、困惑の声を上げるが、床に落ちる金属の物体を見て凍りつく。
それは綺麗に十分割されたグリムの腕輪で、つけていた腕には傷一つなく血すら滲んではいなかった。
「う、うそでしょ………」
「おーーーーと!!!これはなんということでしょう!?ルルン選手の攻撃が一瞬でグリム選手の腕輪を粉々に断ち切ったーーーーー!!!ということはこの中堅戦および一回戦第一試合はシンフォガリア学園の勝利―――――!!!」
実況の声が轟いた瞬間、観客席は大きな叫び声と共に震撼し大きな歓声を上げた。
ルルンはそれに微笑みながら、アリエスたちの下に戻る。
(私には十分割が限界かな。ハク君みたいに三十分割は無理だなー。あれはもう神業だよ、神業)
するとそんなルルンを出迎えるようにアリエスとサシリが同時に声をかけてきた。
「「お疲れ様!」」
それは先程のサシリにも放たれた言葉で、団体戦ならではの雰囲気だった。
こうしてアリエスたちはこの後も次々とトーナメントを勝ち進み、ついに決勝戦にたどり着く。優勝まで後一歩という位置に近づいたアリエスたちはより一層意気込みを強め試合に挑むのだった。
次回で団体戦は終了します!
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