第百八十四話 競技祭予選、個人戦、二
今回もハクは無双しますよ!
では第百八十四話です!
カリンとの半無双試合を終えた俺はステージ外の人目のつかないところでフレイヤからの報告を聞いていた。というのも確かにギランにシラフの一件は投げたと言うもののギランだってその存在を煙たがられている関係上命を狙われてもおかしくない。
まして一番狙われている俺たちの担任をやっているのだ。いくら学園長が動き出したからといって安心は出来ないだろう。
ということで俺はフレイヤに周辺の警戒とギランの警護を任せておいたのだ。人というか神に面倒ごとを押し付けて自分だけ競技祭を楽しむ形になってしまっているが、こればかりは仕方がない。基本的にフレイヤたち神々は俺の力がなければ現界できない。つまりそれは俺が力を手放した瞬間消滅するということなので、少しでも表に出ていたいフレイヤたちからすれば、俺の命令を聞くと言うのは当たり前なのだ。でなくとも神妃の力を持っている俺に対しては必然的に絶対服従の形になる。
これが自らの行動で過去のリアに反旗を翻したのが、かつての十二階神ということなのだ。まあ、そのときは神々全てが肉体を持っていたので今の状況とは大分違うのだが。
「で、何か異常はないか?」
『そうねえ、今日のとこはまだ何もないわ。あの教師も特段狙われていないし。そもそも生徒会?だったかしら、あの連中を封じ込めているんだからそんなに心配しなくてもいいんじゃないの?』
フレイヤは可愛らしく首をかしげながら俺にそう呟いてきた。
さすがは愛と豊穣の女神、その見た目はなんとも美しい姿をしている。
が、俺は騙されない。この女神はこの色香を使って今までとんでもないことをたくさん引き起こしてきたのだ。
その首からかけてるそれを手に入れるためにお前がやったことを知らない俺じゃないぞ………。
というわけで普通の男子なら卒倒するレベルの容姿を持っているフレイヤを前に俺は淡々と言葉を紡ぐ。
「そうとも限らない。あのシラフという男は他の学園や裏社会に繋がっていると聞く。それであれば殺し屋とかスナイパーでも雇っていてもおかしくはない。まあ、異常がないならそのまま警戒を続けてくれ」
「ふーん、そんなものなのかしらー。人間って全員ロキみたいに狡猾なのねー。とりあえず了解よ、今まで通りでいいのかしら?」
いやあの曲芸士みたいな糞神が全人類埋め尽くしていたらそれはそれで問題だと思うぞ………うん。
「ああ、頼む」
俺は若干フレイヤの言葉に疑問を持ちつつもそう答えると、フレイヤとの念話を切り目線をトーナメント表に向けた。どうやらそろそろ俺の二回戦が回ってくるようで準備をしなければいけない時間になっていた。
といっても準備というほど大げさなものをするわけでない。ただ単に装備の確認と武器の調子を確かめるだけである。エルテナは良くも悪くもその性質は変化しないので問題はないが、リーザグラムは世界の恩恵その物といった性質の武器なので若干日によってその力が変動するのだ。まあ、それは本当に微々たるものなのだが、もし不都合がある場合には気配創造の力で足りない部分を補強する。
ただ今日はいつもと変わらない様なので特段問題はないようだ。すると脳内にいつも話しかけてくる相棒の声が轟いた。
『一昨日も言ったが、よくまああの女神を起用しようと思ったな主様?他にも呼び出せる神々は大量におったじゃろうに……』
『まあ、そう言うなよ。実際役に立ってるじゃないか。ようはしっかり働いてくれればいいのさ』
『むう………。効率で言ったらあきらかにヴィシュヌあたりが優秀じゃろうに。あやつならアヴァターラで人員など無限に増やせるぞ?』
ヴィシュヌというのはヒンドゥー教における主神の一柱である。その力は創造と破壊の二つを司るとして崇められており、破壊神として有名なシヴァと共にその世界の秩序を見守ってきた神の一人だ。またその秩序が崩れそうになったときに自分の分身として世に放つのがアヴァターラというもので、よくあるPRGにおけるアバターというものの語源はここからきている。
確かにそのアヴァターラを使えば比較的に楽な側面もあるのだが、今回は生憎とヴィシュヌを起用する気はない。
というのも。
『まあまあ、確かにヴィシュヌもいいが、今回の相手は主犯が男だ。こう状況はフレイヤの色香も使えるだろう?』
『それはそうなのじゃが………』
どうもリアは俺が女神を使うことをあまり良しとしていないようで、カーリーの力を使うときもヘルを呼び出したときもあまりいい顔はしていなかった。
何が原因かはわからないが、今は納得してもらうしかない。
『それにいざとなればエインヘルヤルを動かせばいい。あれを使えるのはオーディンだけじゃないからな』
俺はそう言うとようやく試合が終わったステージに目を向け自分の番が来るのをひたすらに待ち続けた。
するとどうやらトーナメントを見ている限りあのバーリという少年もなんとか勝ち進んでいるようで先輩の生徒相手に一歩も引かない戦いを繰り広げているようだ。まあ、あのAランク冒険者の貴族君を差し置いて出場しているのだから、それなりの力を持っているのはずなのだが、俺の目ではどうみてもAランク並みの強さは感じ取れなった。
いあや、確かに他の生徒と比べれば強いのだがあの貴族君の動きと比べてしまうとやはり劣っているように見える。
今日は調子が悪いのか?それとも俺への怒りで動きが鈍っているのか?
などと考えていると俺の名前が呼ばれ光り輝くステージに通された。やはりそこは観客の大歓声が集っている場所で太陽の光と魔術によるライトが俺の体温を急激に上昇させる。
俺はそのまま腰の剣を二本勢いよく抜くとそれを構えながら対戦相手が入場してくるのを見つめた。
誰が来ても負けるつもりはないし引く気もないのだが、そこに現れたのは俺も予想をしていなかった人物だった。
「お、来たな、先生。今日はよろしくお願いするぜ?」
「ぐ、グラス!?お、お前出場してたのか?」
そこに立っていたのは毎朝、冒険者としても特訓に付き合っているグラスその人だった。
俺の言葉を聞いたグラスは鼻に指を当てながら嬉しそうに話し始める。
「まあな。俺も先生との朝練を始めてからそれなりに強くなったのさ。今ではクラストップだぜ!」
そ、それは喜ばしいことなのだが………。
参ったな、この状況は想定外だ。
何もなければグラスを勝たせてやりたいところだが、こちらは学園長の件もあって勝たなければならない身だ。いくらグラスが俺との訓練で強くなったとはいえ今の俺であれば一秒も掛からず倒すことが出来る。
しかし、せっかく実力を上げて挑んできたグラスの競技祭をここで終わらせるのも忍びない。
「おっと、遠慮は要らないぜ。先生はいつも通り俺を叩きのめしてくれればいいからな?それに俺に関して言えば先生をこうやって驚かせただけで勝負には勝ってるのさ」
そういいながらグラスは笑い、場の空気を暖める。
これは一本取られたかな。
俺はそう思うと同じくそのまま笑みを作り、エルテナとリーザグラムを構え、戦闘態勢に入る。
その姿を見たグラスもいつも使っている剣を抜き俺に差し向けてきた。
俺たちのタイミングを見計らうかのように試合開始のゴングが鳴り響き、大歓声と共に勝負の火蓋が切って落とされた。
グラスはその瞬間、俺の予想もしてなかったスピードで接近し剣を突き出してくる。それはもはや先程のカリンを超えており、正直舌を巻いてしまう。
「はあああああああ!!!」
声を発しながら振り下ろされる攻撃を二本の剣で受け止めるような形で挟み込むと、それを勢いよく弾き飛ばし、こちらも攻撃に出る。
「いくぞ、グラス!」
「へへ、かかって来い!」
俺はエルテナとリーザグラムを交互に繰り出しその体に傷を付けていく。この競技祭のルールは基本的に気絶か腕輪の破壊にのみ決着がつくのでダメージを与えたからといって即終了ということにはならない。
「ぐっ!?」
グラスは俺の迫り来る攻撃を何とかかわしながらも鮮血を上げ苦悶の表情をもらす。というのも俺がグランに対して二刀流を見せるのはこれが初めてなのだ。普段はエルテナ一本しか使っていないためこの変則的な動きはグラスにしても想定外なはずなのである。
しかしグラスは持ち前の反射神経だけで二刀流の攻撃をいなしており、当たれば間違いなく意識を刈り取るだろうという攻撃も全て叩き落としており、小さな攻撃で血を流す程度にしか傷を負っていなかったのだ。
「へえ、その力隠していたのか?」
「まあな。先生との訓練は魔術も魔法も使用禁止だっただろう?だけど今は遠慮なく使うことが出来るからな!」
グラスはとう叫ぶと、自身の体に魔力を流しさらに加速してくる。おそらくかつてのギルと同じく身体強化を行っているのだろうが、そのスピードはもはや常識の範疇を超えていた。
まさか、この短期間でここまで力をつけるとは………。
この世界の住人は才能がある奴が多くて羨ましいな。
自分の心の中で高まる高揚感を滲ませながら俺もその動きについていく。確かにグラスの実力は上がっているのだが、まだ俺たちパーティーのレベルには遠く及ばない。ゆえに俺が遅れを取ることはないのだが、それでも必死にくらいついてくる様は見ていて悪い気持ちにはならなかった。
「どうした?こんなもんか?」
俺はグラスが繰り出す連撃を弾きながらそう呟いた。
「簡単に言ってくれるねえ………。ならこれでどうだ!」
するとギラン剣が急に輝き始め魔力が流れ込んでいく。それは魔力と物質的な剣が混ざり合うことによって擬似的な魔剣を作り出しており、放たれてくる気配も今までのグラスのものとは一味違うようだ。
「受け取れ、先生!!!」
グラスはそう言うと渾身の一撃を俺の脳天目掛けて振り下ろした。
なるほど、こういう戦いも悪くはない。
同じくらいの年齢で同性、お互い剣を競い合うかのように火花を散らす。これは元の世界でもこの世界でも今までなかったことだ。
俺はその攻撃を見ながら本当の笑顔を浮かべると、そのまま力を解き放った。
ガキンという音と共にグラスの剣が俺の額に直撃する。
「な!?」
だがその攻撃を受けても俺には何のダメージも入っておらず、依然笑いながら佇んでいた。
その姿は先程までとは違い髪は金髪に瞳はさらに濃い紅に染まっている。
俺はその驚いているグラスを見ながらこう呟いた。
「これが真の強さだ。いずれお前もこの高みへ来るといい。果て無き探求は楽しいものだぞ?」
神妃化したことによって口調が変わっているが今はそんなことよりグラスにこの姿を見せたかった。
願わくば俺と対等に戦えるくらいまで強くなってほしいという願望をかけて見せた姿だ。
俺はそのまま軽く目に力を入れグラスの腕輪を睨み破壊すると、そのままグラスに背を向けてステージから降りる。
その後ろでグラスが頭を掻きながら困ったような笑いを浮かべ、ボソリと言葉を発する。
「はあ………。まったく敵わないぜSSSランク冒険者様には……」
こうして俺とグラスの試合は終了し個人戦のトーナメントはさらに進んでいくのだった。
次回はいよいよ個人戦ラストです!
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次回の更新は今日中です!




