第百七十九話 小さな騒動
今回は少しだけハクの無双成分が入ります!
では第百七十九話です!
入学式で生徒代表を務めたそのイケメン君はギャラリーである多くの女子生徒と数人の取り巻きのような男子生徒を引き連れて、俺たちSクラスの教室にやってきた。
こちらの話し合いも丁度終わったタイミングだったので都合がいいといえば都合がいいのだが、生憎と俺たちはこの手の属性を持つやつとは相性がよくない。生理的に合わないのだ。
以前であればあの聖剣士君などが挙げられるが、あれも結局自分の意見を押し付けるだけで相手の話は聞かず、自己中心的な行動で俺たちを巻き込んだ。それもあって正直言うとこのようなイケメン君とははっきり言って関わりたくないという考えが俺たちの中には存在していた。
ジュナスのようなイケメンでも心もしっかり格好がいいタイプなら全然問題ないのだが、何故だかこのイケメン君はまったくそのようなオーラを感じない。
俺はそのイケメン君が発した言葉に素っ気無い調子で答える。
「ああ、間違っていない。で、Aクラスの成績優秀な代表さんがこんな辺鄙な教室に一体どんな用が?」
俺の返答はこのイケメン君を慕っているであろう後ろの女子達や取り巻きたちの反感を買ったようで明らかに黒い感情が浮かんできている。まあ、そんなもの本当の殺気を知っている俺からすれば可愛いものなので今は無視する。
「ということは君があのカリン先輩を倒し、SSSランク冒険者などという嘘をばら撒いている張本人ということだね?」
ん?待て待て、色々とわからない単語が出てきたぞ?
SSSランク冒険者のことは置いておいても、カリン先輩というのはまったく聞き覚えがない。どこかで会ったっけ?
すると隣にいたアリエスが何かを思い出したような表情で俺の耳に小さな声で囁いてくる。
「多分、入学試験手続きのときに決闘した人のことだよ」
はー、なるほど。追う言えばあのとき野次馬がそんなことをいっていたような気がする。にしてもあの女性の名前ってカリンっていうんだな。しかも先輩ってことは俺たちよりも学年は上ということだろう。
俺はそのままそのイケメン君に大して表情を変えず、睨むように言葉を紡いだ。
「だったらどうする?言っておくが俺がSSSランク冒険者なのは本当だぞ?もし疑いたいならばギルドにでも問い合わせてみるといい」
その言葉を聞いたイケメン君は鼻で笑うように息を吐き出すと、そのまま両手を挙げ声を発する。
「何を馬鹿なことを。僕はしっかりとこの目であの朱の神を見たことがある。そのときの容姿は金髪だったはずだよ。いくら君がその服装や態度を真似ようが僕の眼はごまかせな………」
「だったらこれで問題ないな」
俺はその言葉を遮るように神妃化を実行し髪を金色に染める。その瞬間、抑えてはいるが圧倒的な力が溢れ出し教室の空気を支配する。それはイケメン君の後ろに居るギャラリーたちを一歩後ろに下げ威圧だけで恐怖を叩き込んだ。
しかしイケメン君はまったく気にしている素振りは見せず、依然飄々とした態度を見せている。
「そんな魔術で僕の目を誤魔化そうとしても無駄だよ。君の手の内はもう読めている」
「へー、それはよかったな。で、そんなことよりこの教室に何の用なんだ?生憎とこちらも暇じゃないから、早々に立ち去ってくれるとありがたいんだが」
「よく言うね。SSSランク冒険者の真似事をしておきながら、この僕にそのような態度を取るとは、命知らずとはこのことだね。なに、僕はカリン先輩を倒したという生徒に対して敵を取りに来ただけだよ。正直言って君があのカリン先輩を倒したことさえも怪しいけどね」
はあ………。だからそのカリン先輩っていうやつとお前は一体どんな繋がりなんだよ。
そもそもあれはあっちが勝手に仕掛けてきた決闘だったし、お互いの了承のもと行われた戦いだった。それに今さら口を出されてもはっきり言って迷惑なだけだ。
「そうですか………。悪いが俺はお前と戦う気はない。さっさと帰るんだな」
俺は体の向きを変え右手をヒラヒラとそのイケメン君に突きつける。
「逃げるのかい?君は自称とはいえSSSランク冒険者を語っているのだろう?ならばここで僕の挑戦を受けなければ益々君の評判は落ちていく一方だけど?」
「ああ、それで結構。お前ごときに時間を使うぐらいなら俺の評判なんていくらでもくれてやる。わかったら早々に消えろ、邪魔だ」
すると今までイケメン君の後ろに待機していたギャラリー陣が一斉に騒ぎ始めた。
「なによ。やっぱりただの腰抜けじゃない。バーリ君が話しかけるような人間じゃないのよ!」
「そうね。こんな人間のクズみたいな人と関わる必要なんてないわ!」
「ねえ、バーリ君?もうこんなやつ放っておいて教室に戻ろうよ?そっちのほうが絶対楽しいよ?」
あーあ、ひどい言われようだ。
まあ、まったく気にしていないので痛くも痒くもないのだが。
実際、その侍りつくように群がっている女子にしたってまったくもってどうでもいいのだ。容姿だって俺のパーティーメンバーのほうが破格的に美人だし、なにより性格が終わっている。この程度の男の本性を暴けないようであれば見る目がないと言うしかないだろう。
見れば俺の周りにいるメンバー達も明らかに負のオーラを放っており、特に先程競技祭の抽選から外れたキラは余計に殺気だった感情を滲ませていた。
『おい、キラ。ここで流血沙汰は勘弁してくれよ?』
『しかしだな、妾はこの溢れ出る感情のぶつける場所がほしくてたまらないのだ。そこに丁度いい的があると思うのだが、どうだ?』
『どうだ?じゃない。とにかく今は抑えてくれ』
俺はキラに念話でそう伝えるともう一度そのバーリという少年に向き直り、言葉を投げかけた。
「いいから早く帰れ。もう少しで授業も始まる。俺みたいな奴と関わってないでその後ろにいる女子達と楽しくやってろ」
「どうしても僕の決闘を受けないというのかい?」
「ああ、そのつもりだが?」
「だったら力ずくで叩きのめすしかないね!」
バーリはそう言うと腰にささっていた剣を抜き放ち俺に向けてくる。だが次の瞬間、授業開始のチャイムが校舎内に鳴り響いた。
「あ、時間切れだな。それじゃあな」
俺はそう言うと集団転移で全員をAクラスの教室がある座標に移動させた。
無理矢理だが、あちらが勝手に仕掛けてきたことなので文句はないだろう。いや、多分溢れかえるほどありそうだが………。
その光景をまじまじと見ていたメンバーは俺のその行動について若干引きながら口を開いた。
「は、ハクにぃ……。少しくらい話聞いてあげればよかったのに……」
「そ、そうですよ………。さすがに私でもあのような対処をされては泣いてしまいます………」
「いきなり転移だもんね………」
「というか、これはまた絶対面倒なことになるわね」
アリエス、エリア、ルルン、サシリが順にそう言葉を呟いた。それに同意を示すように他のメンバーも頷く。
ええ!?だってあんな奴に慈悲なんてかける必要ないでしょ!?
みんな優しすぎるぞ!?
そもそもみんなああいう人種苦手じゃなかったっけ?
『わかっておらんようじゃから言っておくが、あの連中が転移させられたくらいで引くと思うかのう?』
「というと?」
リアが皆にも聞こえる声でそう話しかけてきた。
『次の休み時間も絶対に来るということじゃ。下手に長引かせず、今のうちに決着をつけておけばよかったのに、というのが私達全員の意見ということじゃな』
…………つまり?
次の休み時間どうなったかというと………。
現在、午前十一時を回った頃。
俺はこの炎天下の中グラウンドに立たされていた。目の前にはたくさんのギャラリーに囲まれた少年が一人。
結局、その敵討ちとやらを引き受けないと奴らは引き下がらないということでその決闘を受けることになったのだ。ちなみに初めから興味がないアリエスたちは教室で待機している。
俺としても早めに切り上げて授業に戻りたいので、まだかまだかと決闘開始の合図を待っている状態なのだが、どうやらあのバーリとかいう少年は大人気のようでなかなか試合が始まらない。
引く手数多と言わんばかりに次々と女子達がバーリに群がっている。俺は一人、グラウンドに足を打ちつけながらひたすら待ち続けるという拷問のような時間を押し付けられたのだが、ようやく十分ほどしてバーリが前に進み出てきた。
俺はその分の謝罪を求めるように気になっていたことを呟いた。
「お前にとってカリンという女性はどんなポジションなんだ?普通なら仮に先輩が負けたところで気にもしないだろう?」
するとバーリは何がいいのかわからないが上機嫌でぺらぺらと言葉を並べ始める。
「カリン先輩は僕の憧れなのさ。あの悠然ともいえる態度に確固とした実力。それはもう全生徒の頂点に相応しい姿なんだよ!そんな先輩が君ごときの人間に負けたなんて、他の皆が認めてもこの僕が認めない。断じてだ!」
悠然?あれのどこがぁ?
いきなり突進してきたかと思えば決闘を仕掛けてくるし、自分の非は認めないし、悠然のゆの字も感じられないぞ………。
俺は盛大にため息を吐き出すと、いい加減うんざりしてきたので話を進めることにした。
「はあ………。そうですか。だったら早いとこ始めよう。勝敗はこの腕輪を破壊するか気絶したらでいいな?」
「ああ。もっとも僕の動きはほら吹きの君にはまったく見えないだろうけどね」
まあ、確かにAクラスのトップにいるのだからそれなりの実力を持っているのだろうが、今回は俺も時間をかけるつもりはない。一気に終わらせてしまうとしよう。
するとバーリは腰の剣を先程と同じように抜き放ち全速力とも思えるスピードで突っ込んできた。
「どうだい?君にこの動きが見えるかい?」
その表情は完全に勝利を確信したような顔で、もはや戦いを楽しんでいるようなものではなく、勝利に酔っているいるような顔つきになっていた。
うわー、これはあまり見たくないなと内心そう呟いた俺はおもむろに右手をあげ、それをそのまま軽く振り上げた。
それは一瞬で暴風を呼び起こしバーリの体を飲み込んで吹き飛ばす。後ろに控えているギャラリーたちを更に越え、後方にあった校舎の壁に激突させた。
おそらく骨の何本かは軽く折れているだろうが、決闘の際は再起不能なダメージさえ与えなければ両者の合意の下、執り行われている戦いなので問題はないらしい。そうなれば基本的に治せない怪我はない俺はどれだけ大きなダメージを与えるのもよしとされてしまうのだ。
一瞬で片がついた勝負にギャラリーたちは言葉も出ないようだが、俺はそんな連中を置いて一人転移を実行し教室へと戻ったのだった。
教室に着くと俺を待っていたかのようにメンバーがこちらに振り向き声をかけてきた。
「あ、ハクにぃ!どうだった?」
俺はそんな言葉に苦笑しながら答える。
「余裕だ」
ちなみにこの騒動があった間もギランはずっと教卓で眠りこけていたのだが、その大胆な性根はもはや賞賛に値するな、と俺は心の中で思うのだった。
次回はちょっとした学園話を描きます!
誤字、脱字がありましたらお教えください!




