第百六十話 集会、三
今回はザッハーを追い詰めます!
では第百六十話です!
「それじゃあ。帝国軍に対する具体的な対策法についてなんだけど、イロア、考えてあるのかい?」
帝国軍の侵攻に俺たちSSSランク冒険者が手を貸すことが決まったことにより、会議の進行は更に先のステージに進もうとしていた。と言ってもこの議題は前々から話題にはなっていたようなので取り掛かりはさほど問題にはなりそうになく、ジュナスは何の躊躇いもなく話を続けている。
そもそも帝国軍というのは自分達の領土、国民を守るためなら他の国や村あるいは秘境を容赦なく襲う戦略姿勢を持っているのだ。確かにそれは自国民を守るためと言われればそうなのかもしれないが、それでも世論に関係のない人間を戦場に引きずり出すその考えは到底受け入れられるものではない。
過去にはそれをこの学園王国とシルヴィニクス王国が協力して話し合いで解決しようとしたらしいが、結局聞く耳を持たなかった帝国に成すすべもなく諦めたらしい。
といわうわけで現在のように武力での睨み合いが続いていたのだが、そこにとうとう俺たちSSSランク冒険者が参戦するという流れになったのだ。
ジュナスに目線を向けられながら頷いたイロアは口を開き声を少しだけ張りながら話し始めた。
「ああ、もちろん考えてある。だが、その前に確認しておきたいことがあるのだがいいか?」
「というと?」
ジュナスが意外そうな顔をイロアに抜けおもむろに問い返す。
おそらくイロアはこのタイミングでザッハーを問い詰めるのだろう。であれば俺もいつでもイロアに助太刀できるようにしておかなければならない。
ザッハーは先程の反応から見ても口よりも手が動いてしまう奴らしいので警戒はしておくが、それでも口もそこそこ回るのだ。その辺りはさすがSSSランクというところなのだろうが、あの態度を見るになかなか一筋縄ではいきそうにない。
『キラ、わかっていると思うが奴がまた動き出したら牽制してくれ。くれぐれも傷をつけないようにな』
『ああ。だがだがさすがにマスターを攻撃してくるのであればあの槍くらいは叩き折るぞ?』
『ほどほどにな』
俺は念話でキラに万が一のことが起きた場合に備えて打ち合わせをいておいた。
このSSSランク冒険者の集会では武器の携帯が許されている。つまり、この場で何が起きても文句は言えないということだ。SSSランクともなれば自分の身は自分で守れということなのだろう。
そしてとうとうイロアがザッハーに対して質問を投げかけた。
「ザッハー、お前は私とハク君がエルヴィニアに向かう前に既にその場を訪れていたらしいが、これは本当か?」
するとまさか自分に話を振られると思っていなかったザッハーは少しだけ慌てながら返答する。
「ああ!?あ、ああ、そうだよ。俺は一ヶ月くらい前までそのエルヴィニアに滞在していたさ。それがどうしたっていうんだよ?」
「いや、何。そこでのお前の活躍は目をはるものがあったらしいからな。冒険者ギルドの依頼をほぼ片付けたり、第三ダンジョンを踏破したり。それはもう我々の耳にも届くくらいの成果を挙げたそうじゃないか。その様な存在がもう少しだけ滞在していてくれれば私もハク君も助かっただろうに、と思っただけだ」
それは俺がエルヴィニアにいたときも耳にしていた話だ。エリアの冒険者登録をしにギルドに向かったとき、そのギルドの中に本来あるはずの大量の依頼が殆どなくなっていたのだ。それは俺たちが来る前に一週間ほど先に秘境を発ったSSSランク冒険者がやったことらしく、あのルルンも第三ダンジョンへの立ち入りを許したほどの強さを持っていたことで俺たちの中でも話題になっていた。
当然俺たちがダンジョンに親友した際に神核と戦っているということはザッハーはダンジョン潜入時、神核とは交戦していないわけなので攻略も難なく出来たということだろう。
「………お前、俺に嫌味言ってんのか?」
ザッハーはイロアの捲くし立てるような言葉に眉を更に吊り上げながら、低い声で問い返した。その声色には若干怒りのようなものが混ざっており、威圧感が更に増しているようだ。
「まさか。だが一つ確認したことがあるだけだ。お前はそのエルヴィニアに行くときも帰るときもものの一時間もしないうちにあの樹界を突破したらしいな。それはどうやったんだ?」
「ああ?どうやったって言ったって、そんなもんは普通に突破しただけだ。正面の入り口から入って真っ直ぐ森を抜けただけだぜ」
「ほう、本当にそれを正気で言っているのか?」
「なんだと?」
そう、この段階でザッハーはもう嘘を一つ吐いてしまっている。あのエルヴィニアの秘境は通常の手段では到底一時間などという短時間で攻略などできない。
俺たちでさえ、あの大量の罠を潜り抜けるのに三日かかったのだ。それを多人数のパーティーを引き連れていたとしても一時間で攻略するというのはいささか無理がある。
となれば残されている道は一つしかない。
「我々は帝国軍が秘境に攻め入ったという情報を聞いた後、すぐさまそのエルヴィニアに直行した。その際確かに私達も一時間足らずであの樹界を突破したさ。だが、それは通常の道を通ったわけではない」
「ッ!?」
ザッハーの顔に若干焦りの色が見え始めた。額には薄く汗が滲み始めている。
「そもそもあの樹界をいくらクエストやダンジョンを踏破したからといって一時間足らずで攻略できるはずがないだろう?となれば残っている道は我々と同じ手段しか考えられない」
「…………」
「ザッハー、お前もエルフ専用の抜け道を使ったな?」
それは俺たちでさえもルルンに言われるまでまったく気づかなかったエルフ特有の魔術が施された抜け道のことだ。実際それは俺たちも体験した通り、一時間掛からずにその樹界を突破できる優れものなのだが、それを使用しない限りこのタイムで森を行き来することなど出来るはずがない。
ザッハーは眉間に思いっきり皺をよせ、靴裏を床に何度も叩きつけながら口を閉じていたが、いきなり目を見開くと怒鳴り散らすように声をあげてきた。
「ああ、そうだよ!俺はエルヴィニアに行くときも帰るときもそのエルフ専用の道を使ったさ!だがそんなものが今回の会議になんの関係がある?いい加減にしないとお前もその首切り飛ばすぞ!」
ザッハーは槍を握らないまでも鬼気迫る威圧を放ちながら、イロアを威嚇した。
「いや、大いに関係あるとも。ということはお前はあのエルフの道を知っていたということだ。であればあの帝国軍の動きも頷けるということだ」
「どういうことだい?」
ジュナスがいまいち話が見えてこないと言わんばかりな表情でイロアに聞き返す。だがその答えはイロアではなくイナアから飛んできた。
「つまり帝国軍もその道を使ったんじゃないかってことだよ。話を聞く限り帝国軍もありえないスピードであの樹界を突破したらしいしね」
「だが、それはおかしいな。僕も何度かエルヴィニアには行ったことがあるけれどそんな抜け道があるなんて知らなかった」
「そう、つまりはそこだ。なぜ普通の人間が知らないような情報をよりにもよって帝国軍が知っていたのか、それが今考えるべき問題だ」
俺はジュナスの言葉に続く形で話をまとめる。ここからが大筋を決める話し合いになってくるのだ。
「私は古き友人がエルフとうこともあってその道を知っていたが、ザッハー、お前の場合はどうなんだ?」
「ふん、俺は大分前から鍛えるためにあの樹界に出入りいていたからな、そのときに偶然発見しただけだ」
「そうか。ではこれはどう説明する?」
イロアはそう言うとザッハーの目の前に一つの紙束を投げかけた。それは何枚もの紙がくくりつけられており、そこには赤い判子のようなものが何個か押されているようだ。
「それは我々が入手した帝国の機密書類だ。そこには丁度一ヶ月ほど前に何者かと情報のやり取りをしたことが書かれている。それも冒険者カードの契約印を使ってだ」
冒険者カードの契約印というのは冒険者カードに備わっている機能の一つで身分証として使うことが出来る。カードに魔力を流すと擬似的な判子のようなものを作り出せるというものだ。これはかなり精巧に作られていて、その印から個人を特定することはできないようになっており、その契約したものの冒険者カードがなければ本人の判別はできないらしい。
だが、それでは不正事項が多発してしまうということである程度の情報とランク帯だけはギルドが管理しているのだ。といってもその契約印は滅多に使われることはなく忘れ去られているようなものなのでギルド側もほとんど確認はしないというのが現状だ。
というのも匿名性を帯びた契約印など取引をするにしては、危険すぎるものだからだ。本来この契約印は冒険者同士の決闘の際に命を奪わない契約を結ばせるために作り出されたもので、他の使用については考えられていない。当然今回のように一般の取引にも使うことは出来るのだが、本来ならば相手側が拒否するはずなのだ。
だが、今回はその契約印が使用されていた。
これがどうなるのかというと。
「この契約印についてギルドに調べてもらったところSSSランク冒険者の物だということまでは搾り出せた。であれば間違いなくこの中にその書類に記載されている情報を帝国軍に売った奴がいるというわけだ」
ザッハーはその書類を手に取りまじまじ見つめたあとそれを再びテーブルに投げ出した。
「で、お前は俺がそのSSSランクだといいたいのか?」
「まだ断定できない。だがこの事実ははっきりいって由々しき事態だ。冒険者の鑑である我々が帝国軍に情報を売りつけるなど本来あってはならないことだからな」
「でもそれって本当にダメなことなのかな?正直言って冒険者ってどの国にも加担しない中立の立場でしょ?だったら誰がどう動こうが関係ないんじゃない?」
イナアがイロアの意見を封じ込める様にそう呟く。
確かに冒険者というのはギルドに属しているだけで、国からの影響をまったく受けないことが取り得でもあったりする。
ゆえにその事実が本当だったとしても本来ならまったく問題ないのだ。まして今回は直接手を下したのではなく、情報を売っただけ。こうなればもう問い詰めたところで話は進まないだろう。
「ああ、その通りだ。だから私はこのことを深く問い詰めはしない。だが今SSSランク冒険者は帝国軍への対策を練るという採決が取られた以上、その者もこれからは帝国軍へ攻撃することになるということを肝に銘じてもらう、ということを確認したかっただけだ」
イロアはそう言うともう一度ザッハーに釘を打つように力強く睨み、話をようやく先に進めた。
ザッハーは嫌そうに目をそらし口を閉ざす。
もはや情報を売った犯人など言うまでもいないのだが、イロアの今回の目的はあくまで牽制だ。深く掘り下げはしないのだろう。
「では、次は先程止めてしまった対策について考えていくとしよう」
そしてようやく、会議の進行は具体的な打開策の話し合いに移行したのだった。
次回は集会最後のお話になります!
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