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第百五十三話 アクシデント

今回は学園ものあるあるといったお話です!

では第百五十三話です!

 テンプレートというのはまさによく起きることだからこそそう呼ばれる。それは日常の一コマを切り出してそう呼称される場合もあれば、何かの題材に当てはめて似たような状況を展開されたときに使うような言葉でもある。

 で、今の俺たちを表現するならば間違いなく後者になるだろう。

 入学試験手続きが終了した俺たちはそのままこの学園を出ようとした。手続きが思いのほか早めに済んだので、時間がまだ余っており王国の町でも練り歩くこうかと思っていたのだが、ここで思わぬアクシデントが起きたのだ。

 手続きをする受付から足を遠ざけ、学園内の大きな廊下を歩いていたとき、突然曲がり角から何かが俺に衝突してきた。


「ッ!?」


「イタッ!?」


 そのスピードは普通に走っているものよりも明らかに速く、魔術による身体強化を施しているような速さだった。激突された俺は、さすがに吹き飛ばされはしかなったが、それでも一瞬よろけてしまう。


「ハクにぃ!大丈夫?」


 隣にいたアリエスが俺の体を支えるように触れてくる。見れば他の皆もいきなりのことで驚いているようで、俺の身を案じていた。

 気配探知を使っておけば避けることは出来たかもしれないが、とはいえ曲がり角を全力疾走するのも問題はあるだろう。

 俺はぶつかった頭をブンブンと振りながら、俺の体に激突して地面に倒れてしまった人を観察する。

 そこにいたのは上品ではあるが着飾っていない動きやすそうなスカートとローブに包まれた少女で、肩ほどまで伸ばした茶色の髪を先端だけ少し色素が抜け落ちていて金色に変わっていた。

 俺はその少女に一応手を伸ばして起き上がらせようとする。


「だ、大丈夫ですか?」


 するとその少女は床に散らばった本や紙を急いで拾い集めると、俺の手をそこそこ強い力で払いのけ、大きな声で話し始めた。


「あなた!どこを見て歩いてるんですか!普通女性に道を空けるのは当然でしょう!」


「は?」


 俺はその当然の状況に対応できず、呆けた声をあげてしまう。


「それにこの学園の花である私を突き飛ばしたんです、どう責任を取るつもりですか!」


 いやいやいやいや、何故にそうなる?

 どちらかといえば曲がり角から出てきたこの少女の方が前方不注意だったし、仮にそうでなくとも責任の分配は半分ずつだと思うのだが………。


「いや、悪いけどあなたもさっきみたいな速さで走るからこういうことになるんだと思いますよ?」


 俺はその少女に一切気後れすることなく淡々と会話を続ける。元の世界にいたときならばすごすごと頭を下げて謝っていたかもしれないが、ここら辺はさすがにSSSランク冒険者になったこともあり、対応は慣れていた。


「な、なんですって!?こ、この私に口ごたえですか!!!」


 が、その少女はますます怒りの色を顔に滲ませていき憤怒の表情を浮かばせる。だがそれは俺の後ろにいるパーティーメンバーも同じようで、もはや殺気としか呼べないほどの威圧が放たれていた。

 二つの剣幕に挿まれている俺はとにかくこの場は穏便に収めようと努力する。というか頑張る。


「いや、だから、俺も周りを確認しなかったのは謝りますが、あなたにも少しは非がありますよってことです」


「何を言っているんですか!どこからどう見てもあなたが百パーセント悪いじゃないですか!責任を押し付けないでください!」


 あー、なんとなくわかってきた。

 多分この人は相手の話を聞かないタイプだ。自分が正しいと思ったら絶対に引かず、自分の意思を貫く。まあ言ってみれば非常に面倒くさい輩だろう。

 俺は誰にも気づかれないように小さくため息を吐きだすと、解決策がないか考える。


「ではどうしますか?このままではお互いの主張がぶつかります。当然ですが俺は自分の考えを曲げる気はありません。正直な話、この程度のことであまりもめたくないんですが」


 その言葉を聞いた少女はまたもや顔を赤くしそうになるが、すぐさま何かを思いつきその顔に笑いを浮かべてきた。


「なら、私と決闘しましょう。その勝者の主張が一番正しかったと証明するために。そのほうがシンプルでわかりやすいでしょう?」


 決闘………。

 なんか本格的にライトノベルのテンプレートに近くなってきたな……。

 といっても俺はこの学園に入学しているわけではないので、いわゆる学園バトルというものはまだ繰り広げられない。

 のだが、まさかこのようなタイミングでこういう流れになってしまうとは。


「あら、嫌ならやめてもいいですよ?ですがその代わりあなたが全ての罪を認めて、全力の謝罪を見せてくれればですけど」


 わかりやすい挑発をその少女は俺に投げかけてくる。本当ならばそんな野蛮な考えは捨てたいところなのだが、俺の後ろにいるメンバーがとてつもない熱気を放ち、俺にその決闘を受けろ、という目線を送ってくるので俺に選択肢はなく、頷くしかなかった。


「…………ルールはどうするんですか?」


「そうですね。あなたは見たところこの学園の生徒ではなさそうですし、とりあえず、相手を殺さずに追い詰めたら勝利、ということにしましょう。そしてその勝者が相手の主張を全面的に受け入れるということで」


「はあ………。わかりました、それで受けます」


 俺のその言葉と同時にその少女は廊下の隣にあった中庭のような場所に移動する。それに続いて俺も動き出すが、そこには既に多くの野次馬達が詰め掛けていた。


「おい、あのカリン先輩が決闘だってよ」


「はあ、またあの人を怒らせたのか……」


「災難よね。カリン先輩は強すぎるもの……」


 俺は野次馬たちの間を抜けるように中庭の中央に向かうと、そのカリンと呼ばれた少女と相対するように地面に足をつけた。

 一緒についてきていたアリエスたちが声をかけてくる。


「ハクにぃならあんな奴一撃だよ!さくっとやっちゃって!」


「正直あの態度には腹を立ててしまいました。本来なら私が切りかかりたいですが、ハク様がご自分で戦うと言うのならお止めはいたしません。瞬殺でお願いします!」


「ハク様、気をつけてくださいね………」


「あ、あの醜悪な輩にハク様を罵倒されたと思うと、いても立ってもいられないのですが、ここはハク様にお譲りします。ボコボコにしてやってください!」


「さすがにあれは私もムカついたかなー。ハク君、一瞬で片付けてきなよ」


「燃えるのはいいが、やりすぎるなよマスター?」


「そうね、勢いあまって殺しちゃったっていうのはやめてよ?」


 メンバーは各々俺に言いたいことを呟いていくと、そのまま野次馬達と同じラインまで下がり観戦モードに移行した。

 まあ、俺とてたかが一介の生徒相手に神核やら使徒のときのような力を出すことはしない。そこらへんは弁えているはずだ。

 するとその少女は腰に刺さっていた細剣を勢いよく抜くと俺に真っ直ぐ構えてきた。


「では、始めますよ。準備はいいですか?」


「ええ、いつでもどうぞ」


 俺はエルテナさえも抜かずに手をヒラヒラさせながら試合開始の合図を待つ。といっても審判がいるわけでもないのであの少女が攻撃を開始したらスタートなのだが。


「その余裕叩き追ってあげます!」


 その言葉が発せられた瞬間、カリンと呼ばれた少女はいきなり体に光魔術の身体強化を施し俺に切りかかってきた。それは冒険者のギルと似たような戦い方だったが、そのスタンスはまったくもって違う。

 高速で突き出される細剣は魔術で強化された体の動きに馴染むように的確な攻撃を仕掛けてくる。

 だがその攻撃は俺が体を捻らせるだけで、全て空を切ってしまう。確かに悪い動きではないのだが、今までの戦闘と比べればもはや何段落ちているのかわからないほど、低レベルな戦いだ。そんなものを今さら見せ付けられても止まっている様にしか見えない。

 俺はその後もひたすら無言でその剣撃を避け続ける。

 次第に周囲の観客がその光景を見てざわめき始めた。


「お、おい、あいつ、カリン先輩の攻撃避けてるぞ!?」


「ま、マジかよ……。俺だって見えないのに……」


「まぐれよ!きっと!カリン先輩が負けるはずがないわ!」


 こ、この程度で驚くのか………。

 王国一の学園のレベルも底が見えてしまったかもしれない……。

 そんな関係ないことを考えながらも俺は腕を組んだまま少女の剣を身を翻しながらかわしていく。


「なんで当たらないのですか!私の攻撃があなたに届かないはずがありません!」


 その考えが間違ってるんだけどね。

 俺はそう思うと全力で突き出された細剣を親指と人差し指で掴み取った。


「な!?」


 そのままその細剣を吹き飛ばすように少女ごと地面に投げる。

まあ、初めからわかっていたことだが結果がわかってる戦いっていうのはあまり面白いものではないな。このタイミングで強者を求めていたラオやサシリの気持ちが少しだけわかった気がした。

 少女は服に土をつけながらも何とか立ち上がると、またしても声をあげた。


「あ、あなたはこの学園の入学希望者でしょ!?それなのに私が負けるなんてことは認められない!絶対に!」


 あー、もうこれは完全に血が上ってるな。

 別に入学希望者が学園の生徒に敵わないなんていう道理はないだろうに。

 すると少女は自身の魔力をかき集め、大きな魔法陣をその場に展開した。見たところそれは風魔術のようでそれなりの力を内包しているようだ。


「まさか魔術まで使うことになるとは思っていませんでしたが、ここまで馬鹿にされては引くに引けません!手加減はしますが、重傷は覚悟してください!」


 その瞬間、少女の魔力が具象に変換され魔術を発動する。


風の神官剣(ウインドソーディア)!!!」


 発動された魔術は空中に巨大な風の剣を作り出し、暴風をこの空間に呼び寄せた。薄く緑がかったその攻撃は真っ直ぐ俺の脳天目掛けて振り下ろされる。

 が、それでも俺は動かない。

 というかこのレベルの攻撃に避けるという動作は必要ない。

 俺はその剣が俺の目の前に迫った瞬間、左手で無造作にその刀身を掴み取りバキバキに握りつぶした。


「な!?そ、そんな馬鹿なことって!?」


 驚いているその少女に俺は初めて接近すると、その体が立っている地面の横を少しだけ力を入れて踏みつけた。

 その瞬間、岩が砕け散るような轟音と共に地面が大きくひび割れた。俺の足があるその場所は底が見えないほど陥没しており、砂埃を発生させている。

 少女はガクガクと震えながら腰を抜かしているが、俺はその姿を見ながら軽く笑いかけ一言だけ呟いた。


「俺の勝ちだな。後始末は頼んだぜ?」


 発した言葉には先程までの敬語は含まれておらず、完全に勝者の余裕が浮かび出ていた。

 その後俺たちは和やかに笑っているアリエスたちを連れて学園を後にした。野次馬の生徒たちがなにやら詰め寄ってこようとしていたが、それは全てキラとサシリの威圧によって吹き飛ばされているようだ。





 こうして何故だかよくわからないライトノベルのテンプレのような学園バトルは終了した。だがこれが後に俺たちの学園生活に大きな影響を与えてくることを俺たちはまだ知る由もなかった。



次回は少し気を抜いて日常回になると思います!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は今日の午後五時以降になります!

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