第百五十二話 入試手続き
今回は初めてシンフォガリア学園に向かいます!
では第百五十二話です!
「ということはその第四位を吊し上げるのが今回の集会の目的ですか?」
俺はイロアが告白した事実を頭の中でまとめつつ言葉を口にした。というのも第四位がエルヴィニア秘境での一件について裏で動いていたのであれば、今後のためにもイロアならそのルートをつぶしておくのではないかと思ったのだ。
そもそもその第四位が一体どれほど帝国と結びついているのかはまだわからない。これがSSSランク冒険者ゆえの気まぐれだったらしっかりと制裁を加えないといけないし、もっと密な関係を結んでいるようなら完全に敵対する必要がある。
帝国と手を組んでいるからという理由で吊り上げるのではなく、自らの行いによって甚大な被害が出たということが大事なのだ。よりにもよってそれを冒険者の鏡であるSSSランクがやっているのだから余計に性質が悪い。
するとイロアは大きく首を振りながら俺の言葉に否定を示した。
「いや、それは今回は不可能だ。確かに我々は第四位が裏で動いているという情報を手に入れたがまだ大きな証拠をつかめていない。これが普通の冒険者相手なら今の状態でも十分押し切れるのだが、なんといっても奴もSSSランク冒険者だ。一枚岩ではいかないだろう。だから今回はあくまでこの情報をチラつかせながら、帝国軍への警戒を強める方針に持っていくつもりだ」
まあ、それが妥当なラインか。
このまま突き詰めても最悪暴力沙汰にしか発展しないだろう。れっきとした証拠を突きつけてからではないとこちらも動けないのが現状だ。また下手に刺激して余計な被害が出ることも避けなければならない。
これは意外と骨が折れる集会になりそうだな。
「わかりました。とりあえずはイロアさんの意見に賛同しておく形でいいですね?」
「ああ、助かる。君はSSSランク冒険者の中でも一番強いから特段気後れすることはないだろうけれど、あの場の空気には注意しておいてくれ。生半可な気持ちで臨めばすぐに飲まれてしまう」
イロアのその表情は何か嫌な思い出でも思い出しているように暗く、そこから先は聞くことができなかった。
「ああ、あとこの集会には護衛として誰か一人同席させることができる。私の場合はいつも副リーダーであるあいつを連れて行っているが、君はどうする?」
うーん、護衛か。
特段必要がないといえばないのだが、やはりこういった会議ではその立席者の器が試されるようなこともある。ここで下手に誰も連れて行かないというのはなめられてしまうかもしれない。
と考えていた俺だったのだが、今まで落ち込んでいたイナアがいきなり顔を上げて話し出した。
「まあ、私はいっつもソロだから護衛なんてつけないけどねー」
ああ、そうですか………。
ということは別に一人で向かっても問題ないのだろうか?であればアリエスたちは置いていきたいのが本望なのだが。
「一応言っておくと護衛を連れてきていないのはイナアだけだ。ゆえに私は誰かを同行させるのをお勧めするぞ」
はい、前言撤回。
こうなったら意地でも誰かを連れて行かないといけない。俺のパーティーもメンバーが増えてきたこともあり多方向に秀でた力を持つメンバーが多くなってきているので正直言って誰を連れて行っても問題はないのだが、ここはまあ、契約もしてるし俺の次に強いであろう女王様にしておくのが無難だろう。
「よし、それじゃあ、キラ。護衛を頼んだ」
「ああ、任せておけ。マスターには指一本触れさせんさ」
キラは若干強めな威圧を放ちながら、そう呟くと自分の注文したドリンクを一気に飲み込んだ。
「では私からの話は以上だ。君たちはまだこの国に来たばかりなのだろう?であればゆっくりと満喫するといい。入学試験の準備もしないといけないだろうし、時間をかけてこの国を堪能するんだな」
とイロアは笑いながらそう呟くと空になったグラスを片手に席を立ちギルドの外に出て行ってしまった。
「それじゃあ、私も」
そのイロアに続くようにイナアも立ち上がると一度俺たちに向き直り、言葉を投げかけてきた。
「じゃ、また三日後ね。私は正直興味ないけど、お互い頑張りましょ」
イナアはそれだけ告げると重さを感じさせない足取りでギルドを後にしたのだった。
「なんていうか、言うことだけ言って颯爽と消えていったな」
「う、うん。二人ともかなりマイペースだよね……」
「ですが、あれくらいでないとSSSランクにはなれないのはではないでしょうか?ハク様が特殊すぎるだけで本来はあの姿こそが最強の冒険者なのかもしれません」
俺とアリエスの言葉に続くようにシラが二人のSSSランクに対して感想を述べる。それは確かに一理あることで、歴戦を潜り抜けてきたものだけが至る境地なのかもしれない。
俺はその姿を見届けると自分の目の前に置いてあるドリンクを一気に飲みほし、これからの予定を確認する。
「それじゃあ、これからどうする?一応試験の手続きには行かなければいけないけど、まあそれはまだ時間もあるし………」
「いえ、それは早めに済ましておいたほうがよろしいかと………。おそらくギリギリになってしまうと人が集中しますので……」
シルが俺の言葉に静かに返答する。実際手続きの期限まではあと数日あるのだが、それでも余裕があるとは言えないだろう。
「なら今日はとりあえずシンフォガリア学園に行って手続きをすることにするが、いいか?」
「「「「「「「うん!」はい!」はい……!」大丈夫です!」オッケーだよ!」ああ」いいわよ」
と全員の意思が一致したところで、俺たちは席を立ちギルド本部を後にした。ギルドの中は依然むさ苦しい気配が充満しており、たくさんの冒険者が依頼を受理して戦場に向かっていったのだった。
学園王国には全部で九つの学園、学校が存在する。それらは特に年齢制限はなくどれだけ若くても、歳をとっていても問題なく入学することができる。とはいえ基本的に子供の成長過程の一環として通わせていることが多いので学生の大半が、元の世界でいう小学生から大学生あたりまでの年齢層になっているのが現実だ。
その九つの学園、学校は学園王国の国土の周に沿うように設置されており、中央にある王城から放射線状に広がるように位置している。その中でもシンフォガリア学園は王城から真っ直ぐ北に進んだところにあり、その敷地面積も王国一大きなものになっていた。
それはおそらく唯一ダンジョンを保有している学園ということも関係しているだろうが、それを無視しても王立というだけあって、その名に恥じない設備がそろっている。
ゆえに学園王国に学問目的で来るものは大抵がこのシンフォガリア学園の入学を希望しているのだ。
俺たちはその難関校であるシンフォガリア学園に向かってエリアの誘導のもと、ひたすら王国の道を歩いていく。エリアの背中を追いかけている間も何人もの学生とすれ違い、改めて学園王国というものの異様さを思い知った。
「本当に学生が多いんだな」
「みたいね。はっきりいって私はこういうところに来たことがないから少し緊張するわ」
俺の言葉に答えたサシリは辺りをぐるりと見渡すと、顔をほころばせながらそう呟いた。ちなみに今回シンフォガリア学園に入学試験手続きを行うのはクビロ以外の全てのメンバーだ。
クビロはもともと魔物なので入学など夢のまた夢だが、目的がダンジョンにいる神核に会うことである以上できるだけフルメンバーで臨みたい、というのが俺たちの考えだった。ゆえに俺たちは全員が今回の試験を受験するのだが、俺以外は勉強などまったく必要がないほど頭が冴えるらしく、実際に苦労しているのは俺だけだった。
というわけで街を歩いている間も俺は参考書を出して眺めているのだが、とうとう目的地であるシンフォガリア学園に到着した。
そこは大きな岩から削り取ったような石造りの校舎で、長年多くの生徒の学びを見守ってきた風格が溢れだしている。その校舎は縦にも横にも巨大で、全ての部屋を回ろうとすれば一日では済まないほど広大な敷地だった。
「お、大きいね、この学園………」
「あ、ああ……」
アリエスは首を上に向けながらその建物をじっくり見つめてそう口にした。他のメンバーもあんぐりと口をあけその光景に見とれている。
とにかく学園に入る前に立ち止まっていても仕方がないので、俺たちはその校門をくぐりその中に足を踏み入れた。
するとそこにはご丁寧に、入学試験手続きはこちら!と書かれた看板がいくつも突き立てられておりその指示に従う形で学園の中を歩き回る。
見ればその学園の中には生徒と思わしき人たちが何人かいるようで、分厚い魔本のようなものや重そうな剣を持ちながら移動しているようだ。
その案内板に従い進むこと数分。
明らかに人だかりができている受付のような場所にたどり着いた。さすがに手続き終了数日前ということもあり百人ほどの行列ができており、並んでいるのは俺たちと変わらないくらいの少年少女たちだった。
おそらくこいつらもこの学園の試験を受けに来るのだろうと思いながら俺たちはその列の最後尾に並ぶ。
見ればその少年少女たちは武器や防具を戦闘時並みに身に着けており、かなり真剣な表情で列をなしているようで、その顔は緊張と不安が織り交ざったような雰囲気を醸し出していた。
「そんなに緊張することなのか?ただ単に手続きしに来ただけだろう?」
俺は誰に問いかけるわけでもなく言葉を外に吐き出した。
「ええ、まあそうなんですが、やはり心配性な方は、すでにこの段階から試験が始まっていると思っているようです。正直私もあそこまで硬くなる必要はないと思うのですが、もうああなってしまうと聞く耳はもってないでしょうね」
エリアはどこか呆れたような口調で俺の問いに答えてきた。そういえば俺も元の世界では一度高校入試というものを経験している。そのときはさすがに緊張したが、それでも高々手続きだけで震えていた記憶はない。
ということはよほどこの学園の合格率はシビアなものなのだろう。毎年、倍率もとてつもないことになると聞くし、これは俺も不安になってきてしまいそうだ。
と、まああれこれ考えながら約一時間ほどその列に並び続け、ようやく俺たちの番が回ってきた。
そこは岩で作られたギルドの受付のような場所で、スタッフ五人体制で入学希望者の処理を進めていた。
俺は自分たちの番が来ると、すかさず受付のお姉さんに話しかけた。
「えーと、この学園の入学試験を受験したいのですが、大丈夫でしょうか?」
「はい、大丈夫ですよ。では受験する方々の名前と、受験料として人数かける一万キラをお願いします」
やはりどこの世界でも受験料というものはあるようで、俺は蔵の中から用意しておいた金を取り出しそのお姉さんに渡す。そしてそのまま俺たちパーティーのメンバーの氏名を一枚の紙に書き留めていった。
七人分全ての記入が終わると、その紙を確認した受付のお姉さんはすぐさまカウンターの中から小さな紙を取り出し、名前を複写していく。
「はい、これが受験票です。これは試験当日も使いますので大事にしてくださいね」
元の世界ならここで身分証やら学園長の判子やらが必要だったのだが、この世界ではそのような面倒な手続きはまったくなく、速やかにその作業は進んだ。
「試験についての注意事項と科目説明は受験票の裏に書かれているのでそれを確認してください。では、試験当日にまたお越しください」
こうして俺たちの受験手続はつつがなく終わった。
だがこのままでは終わらないのが異世界だ。俺はその事実を身をもって体験しているので、何か嫌な予感がするな、と思っていたがそこで起きた出来事はあまりにもテンプレすぎるものであった。
次回はテンプレート的な展開が巻き起こります!
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