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第百五十一話 打ち合わせ

今回はSSSランク冒険者集会の内容について掘り下げます!

では第百五十一話です!

 イナア=フリージス。

 それがその果物を頬張っている少女の名だそうだ。実際のところ五人しかないSSSランク冒険者の序列五位だそうで気配から何となくわかっていたことだが、かなりの強者のようだ。腰に携えている双剣は黄色と赤色の輝きを放っており、俺のリーザグラムのような鉱石質の魔剣で、見ているだけでただならぬ力を感じる。

 イナアの席を新たに増やし、今はクビロを合わせれば総勢十人という人数で一つのテーブルを囲んでいる状況になっていた。

 すると果物を食べていたイナアが不意にイロアの方に顔を向けると何かを思いついたように問いかける。


「そういえばさー、イロアっち、いつもの護衛はどうしたの?あのごっつい男!筋肉ムキムキのやつ!」


「…………護衛でなく副リーダーだがな。あいつは今日は任務というかギルドの依頼を受けているはずだ。ここで時間を持て余してるくらいなら仕事をしろ、と言っておいたからしばらくは戻ってこない」


 確かにエルヴィニア秘境で出会ったときにはイロアの傍には誰かしらの存在があった気がする。それこそ今話していた副リーダーの男や他のパーティーメンバーがイロアを一人にさせていなかったはずだ。


「なるほっどねー!そういうことなら心配ないね。イロアっち、結構護衛嫌がってたもんねー」


「別に特段嫌というわけではない。ただ私なんかのために時間を使うくらいなら、仕事や依頼など他に色々とやることがあるだろう、と思っただけだ。それに私のパーティーメンバーはどうも私に頼りすぎているきらいがある。その状況で私の護衛などさせてみろ、護衛どころか仕事すら満足にできんぞ」


「おー、怖い怖い。さすがは最強パーティー黄金の閃光のリーダー様だ!」


 イナアがからかうようにイロアに言葉を投げつける。対するイロアはというともはや何度目かもわからないため息を大きく漏らし、俺のほうを指さしながら口を開いた。


「言っておくが私のパーティーは最強じゃないぞ。世間が勝手にそう騒ぎ立てているだけで、実際は彼らのパーティーのほうが強い」


「うん?ああ、そう言えばこの子たちは一体何なの?」


 イナアは頭に疑問符を浮かばせながらそう呟いてきた。まあ、初対面なわけだし、お互い一体誰なのかという情報は欠如している現状だ。というわけでどうやって説明しようか悩んでいたところイロアが全て説明してくれるようだ。


「彼はSSSランク冒険者序列三位、朱の神ハク=リアスリオン君だ。お前も聞いたことがあるだろう?地の土地神(ミラルタ)を倒し魔武道祭で優勝した青年を。それが彼だ。正直言って私なんかでは手も足も出ないほどの実力者だぞ」


「え!?この子があの朱の神なの?」


 と驚いた声を出したイナアは俺の顔に自身の顔を近づけながら、舐めるように観察した。目の前に女性の顔があるというのは非常に精神衛生的によろしくないので、できれば早くどいてほしかったのだが、それはもうたっぷりと一分は俺の顔を眺めていたのだった。


「ふーん、君があの朱の神かー。ふむふむ、なるほど」


 イナアはそう言うとようやく俺から離れ、今度は俺のパーティーメンバーを観察しだした。


「へえー、確かに強そうな面子ばっかりそろってるねー。というか、君はあれなのかな?ハーレム志望なのかな?」


「聞き捨てならないセリフをサラッと吐かないでください……」


 俺は一応イナアに敬語を使い突っ込んでおく。周りから見れば今の俺の状況はハーレムに見えないこともないが、俺自身の気持ちとしてはハーレムを作ろうと思ったことなど一度もない。勝手に集まり、結成されたのがこのパーティーだ。そこにハーレムなどという邪念は介在していない。


「冗談だよ、冗談!それにしてもみんな綺麗な子たちばっかりだねー。………ん?この赤い髪の女の子は……」


 メンバーを眺めるように見ていたイナアの目線は赤い髪をなびかせているサシリに焦点を合わせると、そこで動かなくなってしまった。

 すると今度は逆にサシリが口を開く。


「久しいわね、SSSランク冒険者さん?」


「あーーーーーーーー!や、やっぱりそうだ!なんでこんなところに血神祖がいるの!?」


「な、なんだ、お前たち知り合いだったのか?」


 イロアがそんな二人に当然の疑問を投げかける。それは俺も、というかこの場にいる全員が思ったことでその視線はサシリに全て集中した。


「ええ、まあそんなところですね。少し前にカリデラに来ていましたから」


「というと?」


 俺はそっけなく答えるサシリにさらに深く問いかけてみる。


「ハクがカリデラ来る少し前にこのSSSランク冒険者さんはのこのことカリデラにやってきて私に勝負を仕掛けてきたのよ。まあ、その結果は言わなくわかるでしょうけど、とにかくただしつこかった記憶しか残ってないわね」


 そういえばカリデラに行きサシリに合わなければいけなくなったときに、そんな話を耳にしたな。まさかそれがこの序列五位だったというのは予想外の出来事だったが。


「はあ………。お前はなんという無茶をするんだ。血神祖は今までの神祖とは違うことぐらいわかってただろうに」


「だって!やっぱり冒険者たるもの、強者を追い求めるのは当然だと思うのよ!そんなときに最強の吸血鬼なんてものが現れたら勝負したくなっちゃうでしょ!」


 あー、なるほど。

 俺はようやくこのタイミングで以前、イロアが言っていたことを理解した。SSSランク冒険者には狂人や変人しかいないという、あの言葉はあながち間違ってないようだ。

 つまりこのイナアは完全な戦闘狂。それも相手との実力差を知りながらも敵陣に突っ込むような大馬鹿者だ。


「それでも私にまったく歯が立たなかったわよね」


「あ、あれは、ちょ、ちょっと調子が悪かっただけだし………。今戦えばもっと違う結果に……」


「あー、はいはい。もうお前の話に付き合っていたら話が進まん。少し黙っていてくれ」


「ムキー!!!イロアっちまで冷たくしないでよ!」


 まあこのままこの漫才劇のような光景を見ていてもいいのだが、それではやはりここに来た当初の目的が果たせないので、俺も先を促すことにした。


「そうですね、出来るだけ早く進めていただけると助かります。俺たちもそこまで暇ではないので」


「ひどい!!!」


 イナアは俺の言葉が最後のダメ押しになったようでズーンという効果音を発しながら足を抱えて座り込んでしまった。


「では本題だ。というのも三日後に行われる集会の話なのだが、今回の議題についてなにか聞いていることはあるか?」


 と言われても俺たちはシルヴィ二クス王国のアトラス王にSSSランク冒険者の集まりがあるから参加するようにとしか言われていない。そこでは裏事情や議題などという情報はまったく伝えられていなかった。


「いえ、特になにも。俺たちはただ参加するように言われただけですので」


「そうか。ならばそこからだな。今回の議題は帝国軍の侵略についてになる。これは大分前から決まっていたことで、先のエルヴィニア秘境での出来事が完全なトリガーを引いたという状況だ。つまりその侵略の対抗策を練る、というものになる」


 帝国の侵攻は、それこそ俺たちがルモス村にいたときから噂になっていたし、何よりセルカさんが人種差別を色濃く行う帝国を毛嫌いしていたこともあり、その情報は何かと耳にしていた。

 それにエルヴィニア秘境でのことはまさに当事者なのだ。おそらく集会においても大きなキーポイントになってくるだろう。


「なるほど、それに関しては理解しました。で、具体的にはどうなるんですか?」


 俺はイロアにそう問いかける。だがそのイロアは苦虫を飲み込んだかのような表情をして話し出した。


「君はSSSランク冒険者の全てが帝国軍を敵視していると思うか?」


「は?どういうことですか?」


 確かに帝国軍は自らの国を最優先に考え、見方を変えればとても国民思いのいい国だ、という捉え方もあるのかもしれないが、やはり世間一般からすると悪いイメージがついていることのほうが多いだろう。


「SSSランク冒険者のというのはよくも悪くも変わり者だということだ。前にも言ったがここにいるイナアを含めた残りの三人ははっきり言って変人ばかりだ。ゆえに帝国に興味がなかったり、逆に加担していたりするものもいるのだ。イナアなんかはまったくもってこの手の話には興味がない。むしろ強者を求めるためならば、単身で帝国に挑んでいくようなやつだ。そんな連中がいる中で、まともな案を出したところで受け入れられると思うか?」


「…………思いませんね」


 俺はその言葉に重くうなずくと、話の先を促した。


「今までならばこのままこの話し合いは何も解決しないまま終わっていたところなのだが、今は大きなカードを二つ蓄えている」


 イロアは自身の指を二本立てながら、少しだけ笑みを浮かべて口を開く。


「というと?」


「まずは君たちの存在だ。今まではラオがその席に座っていたのだが、SSSランク冒険者のなかではまだまともではあったが、それでも我の強い奴だった。だが今回はそれが君に変わる。君たちはあの帝国の惨さをよく理解している人間だ。ゆえにこの状況をどうにかしなければいけないと思っているだろう?」


 それは確かにそうではある。はっきり言ってこの世界の事情というのはよく分かっていないが、俺にとってみればアリエスたちが攻撃されたのもそうだし、あの勇者たちは俺がいた世界から来ているのだ。今までしてきた行いの責任というのはしっかりと取らせなければいけない。


「ええ、まあそうですね」


「であれば強力な一票がはいるわけだ。五人しかいない席のなかで二票集めるというのはかなり大きな前進になる。で、問題の二つ目だ」


 イロアはここで一度言葉を区切り、口をつけていたドリンクを喉に流し込んだ。話を聞いていた俺たちも同時に喉を潤す。

 アリエスたちは黙ってその話を聞いているようだが、だんだんとその瞳に火が宿り始める。アリエスたちからすれば帝国軍というのは嫌な思い出しかなく、憎悪を抱くのも無理はないだろう。


「君はあのエルヴィニア秘境での事件について、少々おかしいと思うことはなかったか?」


「え?」


 俺はその言葉の意味がいまいちつかめない中、必死に思考を回転させた。

 おかしい、か。あのときは無我夢中で戦ってたし特段気にすることもなかったが、なにかあっただろうか?


「エルヴィニアというのは間違いなく人目に付きにくい秘境だ。そのような場所においてあれだけの軍勢があの短時間で秘境の周りを取り囲むことができるなど、出来すぎた話だと思わないか?」


「あ」


 言われてみれば確かにそうだ。俺たちでさえあの樹界を突破するのに大分時間がかかったのだ。それをあの膨大な人数を抱えて秘境を取り囲んでしまうというのは明らかにおかしい。

 見るとエルヴィニア出身のルルンも顔をしかめており、その異常性について深く考え込んでいた。


「で、だ。もし仮にこの状況を作り出そうとすると、間違いなく必要になってくるものがある。なんだと思う?」


 すると腕を顔に当てていたルルンが徐に口を開けて話し出した。


「エルフの樹界に対しての知恵、もしくはそれに準ずる知識を持つ者……」


「そういうことだ。我々はあの事件の後、ずっとその調査を続けていたのだが、とうとうの尻尾を捕まえることに成功した」


「それが第二のカードだと?」


 俺の質問に大きく頷いたイロアはゆっくりと重さを強調するようなトーンで言葉を紡いだ。




「エルヴィニアでの一件、手に入れた情報によれば、SSSランク冒険者序列第四位が裏で帝国にその情報を流していたらしい」




 その情報はとうてい一般人に話せる内容のものではなく、俺たちでさえも全員が呆けた表情になってしまうのだった。


次回は学園の入学手続きに向かいます!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

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