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第百四十四話 カリデラ防衛戦、七

今回は久しぶりのハク無双回です!

どんどんハクの実力が明らかになっていきます!

ですが、絶対最強というのも考え物ではあるんです。それはまた先のお話になりますのでしばしお待ちください!

では百四十四話です!

 神速と言っても過言ではない攻防がそこでは繰り広げられていた。

 神妃化により金髪になった俺と、背中の羽と同じ色の光を体に灯らせた星神の使徒。両者の戦いは時間が進むごとに激しいものへと変化していった。

 俺は自らの拳や足を使った肉弾戦と神妃化による圧倒的な神の力、それに元の世界の魔術を併用しながら戦いに身を置いている。一方使徒の少女は同じく自らの体を使った近接攻撃、それに加え魔術でも神格でもない得体の知れない力の塊、それらを組み合わせて攻撃していた。

 数秒おきにお互いの攻撃がぶつかる音が響き渡り、まるで打ち上げ花火が爆発するような音が空間に轟いた。

 肘や足の脛、拳と拳が激しく衝突し力と力が拮抗する。まさにそれは人外境領域の戦いでありSSSランクの冒険者はおろかエリアやルルンでさえも付いて行くのは難しい戦いになっていた。


「はあああああ!!」


「フッ!!」


 俺の回し蹴りが使徒の頬を狙う。

 が、それは後一歩のところで奴の左腕に弾かれ、背中に攻撃を受けてしまう。


「くっ」


 だが俺も負けてはおらずそのまま体を回転させるように捻ると、残っている右足で今度こそ使徒の顔を蹴り上げた。


「がはっ!」


 俺は怯んでいるその少女の首を空中に浮きながら両足で挟み込むと、さらに体をねじのように回し地面に叩きつけた。その攻撃は平らだった地面を一瞬でへこませ大量の砂埃を蔓延させる。

 だが少女も負けてはおらずその足を反射的に掴み取ると、俺の体ごと振り回しながら後方へ吹き飛ばした。


「チッ」


 その流れを上手く残しながら使徒から一度距離を取ると、息を大きく吐き出し次の行動に備える。

 すると薄っすらと立ち上がっている煙の中から使徒の姿が浮かび上がった。


「解せませんね。あなたはこれだけの戦闘を繰り広げておきながら、まだ全力を隠している。私との戦いに何が不満なのですか?」


 その少女の顔は、まったくもって理解できないと言いたげな表情で眉間に皺を寄せながらそう呟いた。

 確かに奴の言う通り俺はいまだに本気という本気を出してはいない。いや、それに関してはさらさら出す気もない。

 だが、だからといって特段手を抜いているわけではないのだ。絶離剣や剣技を異常なほど警戒している敵というのは初めてで、不意打ちといものがまったく通用しない相手なのだ。この状況において手を抜くなど甘いことは出来るはずがない。

 今出せるそれなりの加減で戦っているつもりだ。


「俺からすれば、お前が戦っている理由のほうが解せないな。何故俺をそこまで執着に追いかける?」


「心外ですね。先程から言っているようにあなたはオルナミリス様の邪魔にしかならないのです。あなたを排除するのは当然でしょう?」


 俺はその言葉にどこか違和感を覚えた。

 絶対忠誠。

 まさに今目の前にいる少女は星神に対しその気持ちしかないのだろう。命令されれば疑問一つ持たず、忠実に行動する。それが善の行いなのか悪の行いなのかの判断もせず虎視眈々と毎日を星神に捧げているのだ。

 だからこそ俺は問いかける。


「その考えにお前の意思はどこに行っているんだ?戦うのがお前本人である以上、それなりの感情を抱いたって不思議じゃない。今お前がやっていることは自分の意思が容認した結果なのか?」


「…………」

 するとその少女は少しだけ俯くと自身の白い髪で目元を隠すようにうなだれた。そこには何の感情も読み取れず、ただ時間だけが流れていく。

 やがて使徒は方を細かく振動させ、声を漏らすと顔を空に向けて笑い声を鳴り響かせた。


「フフフフフフフフフハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」


「何がおかしい?」


「ハハハハハハ!おかしいに決まってるじゃないですか!何を言い出すかと思えば、私の意志?本当に馬鹿なんですね、あなたは。私の意志など産まれたときからありませんよ。そもそも私達はオルナミリス様から作り出された生命体です。その産みの親に忠誠を捧げない者がどこにいるんですか?私の意思はオルナミリス様の意思と同じ。そこに嘘も偽りもなければ不満もない。それが必定で絶対の不文律なんですよ!至高の喜びとはまさにこういうことをいうんです。まさかイレギュラーともあろうものが、そんな甘い台詞を吐くとは。私達を人間と同じ認識で捉えないでください」


 その表情は確かに笑っていたが、狂ったような笑いも浮かべていた。だがそこには奴がいったように欺きの影はない。

 どうやら本当に本心で語っているようだ。

 もし無理やりにでも働かされているようなら、もしくは俺を殺すことに少しでも疑問をもっているなら、と思ったのだが今回は俺の認識が甘かったようだ。

 こいつは星神に命令されればそれこそ死ぬまで動き続けるだろう。それがどれだけ惨い殺人でも、大量虐殺でもお構いなしに。

 ならばこんな危険な存在を野放しにすることなど出来るはずがない。

 俺は金色に染まった前髪を無造作にかき上げると、そのまま絶対的な神の殺気を放ちながら言葉を発した。


「そうか。いや、そうだったな。お前らは既に関係のないカリデラの住民に手をかけている。ならばこのような質問は必要なかったな。…………ならば、よいな、星神の使い?その命儚く散っても文句はあるまい?」


 俺の口調は全盛期のリアのものと混同し、より神の位に俺を押し上げる。

 その空気は今までとは明らかに違い、俺の気配がこの場を支配した。


「ッッッ!?よ、ようやくその気になったみたいですね。………いいでしょう、私も本気で行きます。絶対にあなたを殺すために!!!」


「ではやってみろ下郎。その力俺に示してみるがいい」


「言われなくてもやりますよ!」


 その瞬間、使徒の体を中心に時空を歪ませるような力が集束していく。それは次第に空に浮かんでいる雲さえも突き動かし大きな雷を呼び起こす。その光は使徒に吸収されるかのように全てがその体を穿ち、光り輝いていく。

 あれほど吹き荒れていた暴風は完全になくなり、あるのは濃密な奴の力だけ。その上昇は止まることを知らず、気配探知がなくともその強大さは感じ取れた。

 先程よりもさらに輝きを増したその姿は、髪が完全に重力に逆らうように逆立っており、体のいたるところには六角形のイタのようなものが剥がれたような跡が出てきている。肌は水色の血管のようなものが浮き出てきており、そこを起点にまるで石像のように亀裂が走り出していた。

 おそらくその身に宿る強大な力に体がついてきていないのだろう。時に強大な力は使用者さえも蝕む毒になる。それは奴もわかっていることだろうが、そうまでしても俺を殺したい、いや星神の気持ちに応えたいようだ。

 奴の心は俺を殺すことよりも、星神の命令を聞くことが最優先事項であり、おそらく命令された内容が特段俺の殺害でなくとも、何気ない顔でやってのけていたはずだ。

 まるで命令を聞くだけの人形のようなその感情は、俺の中にあった躊躇いの気持ちを完全に吹き飛ばした。

 ゆえに俺は今から確実に奴を殺す。

 奴とは違い、明確な意思を持ってその存在を叩き潰す。今の俺の頭の中にはそれだけしか浮かんでいなかった。

 するとどうやら使徒はその力を無事とは言えないかもしれないが身に降ろしたようで、完全にこちらに敵意を向けていた。


「自分の体を傷つけてまで、星神に尽くしたいという心意気は否定しない。だが、そこにある偽りの感情は虚空に流し込むどす黒い感情そのものだ。そんなものでやれイレギュラーなど、やれ人類などと、よくもまあ下らん戯言を吐けたのだ。いい加減その腐った性根、砕き折って星に還してやる」


「黙りなさい。あなたは何もわかっていない。この忠誠こそが私の生きる印であり価値でもある。力を与えられ、その息吹を育んだ以上私のやる事はオルナミリス様に仕えることだけ!だからあなたを全力で潰します。この命に代えてでも!!」


「ふん、ならば潔く世の波に飲まれろ、爆剤が」


 その言葉を皮切りに使徒の体は掻き消えるようにその場からいなくなった。

 気配は感じない。だが今の俺にはどこにいるかなど手に取るかのようにわかる。


「くらいなさい!!」


 使徒が俺の遥か頭上から、巨大な見たことのない魔方陣を展開しその直径と同じ大きさの魔力波のようなものを打ち出してきた。

 ビリビリと肌を焼くようなその力の力場は、先程まで一点に集まっていた雲を一瞬で吹き飛ばし太陽の光を招き入れる。

 放たれた光線は俺を押しつぶそうとして一直線に向かってくる。

 だが俺はまったくその場から動かない。

 否、動く必要がない。

 こんなもの身動き一つせずに破壊できる。

 俺はその光線が目前に迫ると、右手を肩に垂直になるように掲げると、小さく口を開いてある文言を呟いた。


「連滅せよ」


 瞬間、目の前に接近していた光線は細かい光の粒に解けてしまうかのよう消え去った。


「な!?そ、そんな馬鹿な!?」


 使徒は驚いたような声を上げるが、すぐさま次の攻撃に移る。

 それは間違いなく今ある全ての力を放とうとしているようで、ひび割れていた肌は完全に原型を留めておらず、体の中から迸る水色の光を外に放出してしまっている。


「何をしたか知りませんが、これは絶対に受けられませんよ!」


 そう言うとその少女はまるでこの世界にもう一つの太陽を作り上げるかのように強大な光球を練成し始めた。

 それはカリデラはおろか、ここら一帯の地域を埋め尽くすような大きさでサイズだけならサシリが最後に使った雷球よりも大きかった。

 白と水色が混ざり合ったようなその光球は使徒の力をさらに飲み込み大きくなっていく。

 そしてとうとうその攻撃が打ち出された。


「これで終わりです。神外を絶滅させし光彩マカギフェ・ファニフーラ!!!」


 俺はその光景をじっと眺め、自分に近づいてくるのを只管待った。

 絶離剣も十二階神の力も魔眼も気配創造も使わない。

 使うのはあの世界で頂点に君臨していた最強の神妃の力。

 かつて自ら生み出した世界と神々と戦い勝利した絶対最強の神妃リアスリオンのその真髄。

 本来ならばこの程度の相手に使う必要はないのだが、それでも今の俺は奴をこの力で叩き潰したかったのだ。

 そしてついに俺はその力を解き放つ。

 先程と同じように右手を掲げると、理の文言を一小節で唱える。




「殺眩せよ」




 それはリアが全盛期のころよく使っていたもので言霊よりも更に上位の「神歌」というもので言葉を神の歌に流すことによって事象を書き換えるというものだ。

 だがこれは事象の生成のように幅広く使えるものではなく、基本的に破壊や攻撃行動にしか使えない。だが次元境界にも左右されず、神の名に相応しい現象が呼び出されるのだ。

 ゆえに俺がその言葉を呟いた瞬間、その光球はあっけなく消滅した。

 上空にはもはや睨む気力さえ残っていないような少女の残抜け殻が浮遊している。

 俺はそのままそいつの前まで転移すると、体と呼べるものがなくなり喋ることもできなくなっている使徒に向かって口調を元に戻し、最後の言葉を投げかけた。




「あんまり異世界の神をなめるんじゃないぞ?」




 その言葉と同時にそのボロボロになっている体を俺は軽く腕を振るい吹き飛ばした。残っているものは何もなく、その少女を構成していた光の残滓だけが空中に漂っているのだった。





 こうしてカリデラ防衛戦における全ての戦いが終了した。

 俺はどこかで笑いながら見ているであろう星神に殺気を放ちながら、アリエスたちのいる城下町へ向かったのだった。


次回はこの戦いの後処理になります。

残すところ第四章も三話くらいだと思われます!

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