第百四十三話 カリデラ防衛戦、六
今回は最強の使徒vsハクの戦闘の続きです!
では第百四十三話です!
俺が星神の使徒の左腕を吹き飛ばしたそのとき、同時に空をかき回すような力が爆発した。それは空と大地を揺らし、俺達が立っている場所にさえもその衝撃を伝えてきた。
感じられたのはキラとサシリの気配。
おそらくあちらも大方決着がついたのだろう。今まで耳鳴りのように響いていた悲鳴や叫び声はすっかり止んでいるので、使徒の討伐も住民の避難も上手くいっているようだった。
すると俺に左腕を切られた使徒の少女はふらふらと立ち上がると、険しい顔のままその左肩に力をこめた。
「ぐっ!!!」
力が注入された左肩は青白い光と共になくなった腕を形成し再生していく。俺の事象の生成ほどではないが、吸血鬼の再生と同じくらいの再生速度だった。
「へえ、お前って傷を治せるんだな。お仲間はそうでもないみたいだけど」
実際、カリデラ城下町に飛び回っている使徒たちがこの能力を有していた場合、現在もカリデラの炎は収まっていなかっただろう。このような力があるとさすがのキラとサシリも苦戦するだろうし。
現在は上空に多数浮かび上がっていた使徒たちの姿も確認できないため、この力はこいつオリジナルということになる。
「あ、当たり前です……。あの子達にこのような強大な力は授けられていません。私だからこそ使える能力なのです」
使徒は完全に腕を再生すると再び宙に浮かび上がり、戦闘態勢に入った。
「やはりあなたは危険です。その剣技や武器もそうですが、なによりその存在が危うすぎる。ここで排除するという考えは間違ってなさそうです」
「なら、やっぱり引かないのか?」
「当然です。もとよりそんな考えは持ち合わせていません。それにあなたの攻撃の中で注意すべきはその赤い剣と先程の剣技だけですから、造作もありません」
少女はそう言葉を吐き出すと、今までよりもさらに速いスピードで攻撃を開始した。
俺は絶離剣とエルテナを瞬時に仕舞うとその攻撃に備える。
予想通り、攻撃は俺の背後から飛んできており突き出された拳を受け止める。
「なぜ、私の攻撃が後ろから来るとわかったのですか?」
「わざわざ殺し合いの中で語る馬鹿がいるか?」
俺は殺気の篭った目つきで掴み取った拳を前方に引っ張り投げ飛ばす。そのまま飛ばされている使徒に追随するように移動すると、その白い腹に向かって肘をたたき付けた。
「おらよっ!!」
「がああああああ!?」
俺の肘は確実に使徒の内部器官を破壊し、その体力を大きく削る。人間であれば胃は破裂し口から大量の血を吐いていることだろう。
体の構造がいかに違ったとしても与えられるダメージに変わりはない。痛覚もあるようで人間とその体の造りは根本的に異なっても、その概念は大分似ているようだ。
使徒は再び猛スピードで地面に叩きつけられ土に埋もれる。
真っ白だった髪は既に砂まみれになって茶色くくすみ、みすぼらしい姿に変わってしまっていた。
だがそれでも使徒の少女は諦めていないようで、動きの音を完全に遮断しながら俺に殴りかかってくる。
しかしそれでもその動きは俺にばればれであり全ての攻撃を綺麗に受け止めてく。
「何故ですか!何故私の攻撃する場所がわかるのですか!あなたの能力でその様なことが出来るものはなかったはずです!それなのにどうして!?」
俺の何を知っていてそんなことを口にするのかわからないが、確かに俺は今のように気配探知を封じられてしまえば、それこそ相手の位置を捕捉することは難しいだろう。
だが、出来ないとは一言も言っていない。
「俺が気配探知だけでしか相手の存在を感じ取ることが出来ないと思っているからそうなるんだよ」
ちなみに何故俺が使徒の攻撃を全て読むことが出来ているかと言うと、それは気配探知ではなく気配創造の力を応用して感じ取っているからである。
気配創造とはそもそも地上にある全ての有機物、無機物から気配をかき集め新たなる物質を構成させる能力だ。であればいくら気配を存在量に置き換えようと、気配創造は例外なくその存在からも気配を吸い出す。仮に気配がなくともそれに変わるものを呼び寄せるのだ。
つまり逆に考えればその吸い取る流れを辿っていけば、どこに移動してくるか、どこに攻撃してくるかが気配探知と同じ精度で知ることが出来る。といってもやはり気配探知とは比べ物にならないほど力を消費するので常時使用することは出来ないのだが。
俺は少女にそう呟くと右腕を掴み、左腕と脇の間に滑り込ませるようにして背後に回り関節技を決める。
関節技は骨や筋肉というパーツが備わっているからこそ効く攻撃なのだが、仮にそれがなくても生物的に動けない範囲に部位を動かすため、拘束することぐらいは出来るのだ。
「がっ!?な、何を!?」
「いいか、よく聞けよ?お前らは俺をどこか遠くのところから観察していたのかもしれないが、今までこの世界で見せてきた力が俺の全てだと思うなよ?」
耳元で恐怖を煽り出すように淡々と言葉を重ねていく。それは次第に使徒の体の熱を奪い絶望を刻み込んでいった。
「は、離しなさい!あ、あなたのような災厄者に私が劣ることなど……」
「いいぜ、離してやるよ」
俺はその要求に答えるように、その少女の首から上をその体から切り離した。神妃化している今の俺であれば手刀だけで人の首ぐらい簡単に弾き飛ばせるのだ。
「え?」
少女は今起きていることを理解できないまま、その頭と共に地面に落下する。俺は先程の俺と同じように残っている体をバラバラに解体し同じく地面に投げ捨てた。
「そっくりそのままお返ししてやる。その痛みとくと味わってみろ」
「ぎぎゃああああああああああああああああ!?」
使徒の少女はもはや女ではないような絶叫を轟かせながら重力に引きずられていく。地面に落下した後もその悲鳴は止まることはなくしばらくの間その声は響き続けた。
やがて再びその体は使徒の力によって再生していくが、どうやら今回はその直りが随分と遅いようで、四肢の繋ぎ目がまだ光に包まれている状態になっている。
その姿を確認するために俺は一度地上に下りるとそのもだえている使徒に言葉を投げつけた。
「哀れだな。先程自分が仕掛けた攻撃をそのまま返されるとは。よくもまあそんなにも慢心しながら戦えるものだ」
するとその少女は目を吊り上げ明らかに憎悪の感情を実らせながら呟く。
「だ、黙りなさい!!!こ、この程度の攻撃、私であれば直ぐにでも……!!!」
その言葉はどうやら嘘ではないらしく、口を開いたと同時に傷の治りが急速に早くなってその体を元に戻していった。
俺はバックステップで距離をとると嘲笑しながら、その光景を見つめていた。
「その根性は感心するが、いい加減力の差を認めたらどうだ?お前は俺の力で用心するのは絶離剣と赤の章しかないと言ったが、本当にそれだけだと思うからこういうことになるんだよ。戦いというのは奥の手をいかに大量に用意できるかによって勝負が決まる。それを理解していないお前には最初から勝ち目なんてないんだよ」
腕を大きく開きながら使徒を馬鹿にするような形で言葉を吐き出した。
「うるさい!!!見ていなさい、私にだって奥の手の一つや二つくらい用意しています!!!」
少女は俺をそう一蹴すると継ぎ接ぎだらけの体を何とか持ち上げ、その体に更なる力を通した。目は見開かれ髪は逆立ち、立っている地面からはどこからともなく風が吹き始めている。
次第にその力はその少女を中心に収束し始め、青白い光を全身に纏わせながらその場に佇んだ。
「それが、お前の本気ってことか?」
「笑わせないでください。この程度が本気だと思ってもらっては困ります。これは初めのリミッターを切っただけに過ぎません」
そう呟く少女の目は再び落ち着きを取り戻しており、その瞳の真ん中には纏っている光と同じ色の輝きが灯されていた。
俺は無言で腰を落としながら、腕を後ろと前に突き出すように構えると、その攻撃を静かに待った。
瞬間、風と同化しているような速さでその少女の拳が俺の腹にめり込んだ。
「がはっ!?」
それは気配創造の力を頼ることも出来ないようなスピードで、まるで隕石でも叩き込まれたかのような衝撃が走った。
その攻撃をまともに受けた俺は遥か後方に勢いよく飛ばされる。
なんとか勢いを殺し、立ち直そうと地面に右手をつけようとした瞬間、その手を高速で何かが払いのけた。
「な!?」
バランスを崩した俺は咄嗟に体を捻り左手を突こうとするがその動きをまるで待っていたかのように細長い二つの腕が掴み上げた。
「遅いですよ」
刹那、俺は百八十度弧を描くように投げ飛ばされると背中から地面に磔にされた。
「くはあっ!?」
二つの肺から空気という空気が全て吐き出される。呼吸すら満足に出来なくなった状態で、さらに使徒の攻撃は続く。
「神外は消するべし爆炎」
俺を投げ飛ばした腕から放たれたそれは、キラの根源の停滞よりも黒く、光すら反射しないような炎だった。
まずい!
俺は咄嗟にそう判断するも全身を叩きつけられた反動はまだ体に残っており、動くことはできない。転移を実行しようとするが、またもやその行動は阻まれた。
「だからいい加減あなたも学びなさい。私との戦いで転移など腑抜けた技を使えると思わないことです」
見るとやはり俺の体をくくりつけるように細い糸が絡まりつけられていた。
「チッ!」
俺は思いっきり舌打ちすると、発動していた気配創造の力を全力で呼び寄せ、その糸と爆炎の気配を何とか吸い出そうとする。
だが、それは無常にも間に合わず俺を中心に大爆発を引き起こした。
それは半径百メートルほどの巨大なクレーターを作り上げ、地表を抉る。
使徒はその場からゆっくりと空中を浮遊しながら平らな地面に着陸すると、その爆心地をただ見つめていた。
そしてもの凄く嫌そうに眉を顰めるとその口を開き言葉を発した。
「なるほど、あのギリギリのタイミングで直撃は免れましたか。ますます気に障る人間ですね」
「はあ、はあ、はあ……。間一髪ってところだな……」
俺はその爆心地から十メートルほど上空に姿を現すと、右手を押さえながら地上に足をつけた。
痛みが走る右腕は焼かれたように皮膚が爛れており見るのも嫌になってしまうほどだ。
圧倒的な熱によるやけど、むしろ今の攻撃を受けてそれだけの傷で済んでいることのほうがラッキーというものだろう。
俺は何とか気配創造によってあの場を脱出したのだが右腕だけはその攻撃をまともに受けてしまい、痛々しいものに変化してしまったのだ。
だが、それでも俺は完治の言霊ですぐさま治療し体力を全快させる。
「まったく、キリがありませんね。全身の細胞を消さない限りあなたは死なないのですか?」
「さあな。最悪それでも死なないかもよ」
俺は神経に残る痛みを堪えながらそう呟くと、再び戦闘態勢に入った。
星神の使徒との戦いはいまだに終わる気配を見せない。
次回でおそらくこの戦いも決着します!
長かった第四章も終わりに近づいてきました!
誤字、脱字がありましたお教えください!




