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第百三十九話 カリデラ防衛戦、二

今回はイレギュラーとはなにか、そしてハクを召喚した存在が明らかになります!

では第百三十九話です!

「弱きものは群がれば強くなるなど言う思想を持っているようだが、それは単純に思考を捨てた腑抜けのすることだぞ?」


 カリデラ城下町上空。

 そこでは二百体を超える星神の使いである少女たちがキラとサシリに襲いかかっていた。その場に集まっている星神の使徒は地上でエリア達が戦ったものよりも数段強いようで、この者たちが主に町に攻撃していたことが発覚した。

 だが今はキラとサシリに標的を定め、大群をなして攻撃を打ち出している。

 その攻撃は致命傷にいたるほどのものではないが、まともにくらえばそれなりのダメージを覚悟しなければならないものであった。

 しかし対するキラとサシリは何食わぬ顔で迎え撃っていた。


「はあ!!」


「フッ!!」


 キラは複数根源を空中に漂わせながら、その中にある力を適量吸いだすような形で攻撃している。それはハクが気配創造を用いるときの動作に似ており、神々しいまでの存在感を放っていた。

 サシリは血剣を振り回しながら、圧倒的なスピードで相手をいなしてく。キラが根源での遠距離攻撃に対し、サシリは剣での近距離戦闘。相性として悪くはなく、キラの根源による攻撃の隙間を潜り抜けるようにサシリの剣は駆け抜けた。

 二人の攻撃は大量にいる使徒たちを次々と吹き飛ばしており、その量は一瞬にして減っていく。

 が。


「あれほど言っているのに、まだ増えてくるか。これは本当に全部消し去らないといけないらしいな」


「雑魚をどれだけ積み上げても所詮は雑魚なの。それを理解しなさい」


 キラとサシリはそれぞれその少女達に愚痴るように言葉を吐き出す。そして一旦距離を取り、お互いの背中を合わせ、意気を整える。


「どうやら一つの個体からどんどん増殖しているようだ。一体でも残っていればたちまちに量産されてしまうぞ」


「ええ。でもまとめてこの量を倒そうと思ったら、それなりの力を使うわ。それでもやる?」


 サシリは自分の背中に寄り添っている精霊の女王である少女に試すような口調で問いかけた。

 するとキラは顎を上げながら使徒たちを見下すような目線で軽く笑いながらこう呟く。


「妾を誰だと思っている?マスターの精霊にして女王だぞ?この程度の連中、消し飛ばすなど造作もない」


「そう。なら早速……」


 サシリはキラのその言葉を聞いた瞬間、右手に魔力を集中させる。

 それに気づいたキラも根源をかき集め、サシリとは反対の左手にそれを集めた。

 二人の力はまだ放たれていないというのに、地面を揺らし火花を跳び散らせており、この世界における強大な力が凝縮されているような光景だった。


根源の起爆ハイトナルハソノイノチ!」


破滅するは其の血壊(ブラッドブラスト)!」


 放出された力の渦は左右対称の光を描きながら少女たちに向かって突き進む。

キラの攻撃は目視することも出来ない根源の火。一瞬にして全てを焼き尽くし、空を白色に染め上げる。

 サシリの血の力はその場にいる使徒を全て飲み込むかのような巨大な魔力波で、破壊と崩壊を繰り返しながら轟音を轟かせた。

 さすがに神核やハクとまともに打ち合えるだけの強さを持っているだけあって、二人にとってこの程度のことはまったくもって本気の範疇に入っていない。

 ゆえに力も大分温存できた状態でこの場を切り抜けた。


「むう……。吸血鬼の姫よ。お前、マスターと戦ったときの威力とは天と地ほどの差があったがそれはどうしてだ?」


「それはあなたもでしょ?こんなどうでもいい場面で全力なんて使うはずないじゃない」


 二人の会話はお互いを逆撫でするような言い回しの文章だったが、二人の顔は笑顔で黒い感情は一切感じられない。


「フッ、確かにその通りだ。このような劣悪種に本気など、見せるにも値しない。どうやら考えていることは同じだったようだな」


 キラはサシリにそう答えると、爆煙が漂う空中を見つめる。

 そこには先程まで空を覆い隠すように存在していた少女達の姿はなく、その力の残滓さえも残されていない。

 二人の力が巻き起こした結果ではあるが、さすがとしか言えないレベルの威力を物語った空間がそこにはあったのだった。

 だが二人はまだ警戒を解かない。

 なぜなら二人の遥か頭上に先程までいた使徒とは比べ物にならないくらい強力な存在が待機していたからである。


「どうやらあれが本命らしいぞ?」


「そうみたいね。これは少し楽しめそう」


 サシリはそう答えると、右腕に魔力と神格を同時に流し込み、巨大な武器を作り上げる。


搾取するは飴色の流血(ブラッドスィクル)


 その場に現れたのは血液をまるごと飲み込んだかのような巨大な鎌で、紫色の光を放ちながらこの場に現界した。


「では頼んだ」


「頼まれた」


 キラはサシリにその鎌での攻撃を促すと、自分の体にも先程より多くの根源を纏わせ始める。

 サシリの手の中にあるその鎌はそのままその腕から投げ放たれると、円を描きながら上空にいる存在の刈り殺すように突き進んだ。

 だがその攻撃は標的に当たる寸前で破壊されてしまう。

 瞬間、キラたちの前の空間に暴風が吹き荒れた。


「無粋な。たかがイレギュラーの分際で私に歯向かうなど言語道断だ」


 降臨した少女は焼き尽くした少女たちの容姿と、とても似ていたが背中から生えている羽は四つに増えており、その身に宿している力も桁違いだった。


「ほう、では今度の相手はお前ということか、星神の使い?」


 キラはそれでも女王としての振る舞いを変えず、言葉を投げかける。その顔はいまだに笑っているが、それでも警戒の色は滲ませていた。


「貴様ら如きにオルナミリス様は処刑の命令を下した。不本意ではあるが私の手を貴様らのために汚さなければいけなくなったのだ。その罪理解しているか?」


「生憎だけど、あなたの都合なんてどうでもいいわ。あなた達がこのカリデラに攻め込んだ時点で私のやることは決まっているもの」


 サシリはそう答えると、血剣を高らかと上段に構え戦闘態勢に入った。


「その剣、あの始祖のものか。まったく生きているときに散々かき回してくれたと思えば、この一番面倒な時期に適合者を見つけるとは。腹立たしいにも程がある」


「………。あなた始祖を知っているの?」


 サシリは自分の中に宿る始祖という存在の言葉が出てきたことに少し驚きながら問いかけた。


「当たり前だ。その始祖が一体何を仕出かしたと思っている?私達に楯突くことはおろかオルナミリス様にまで攻撃を仕掛けたのだ。結局その際に封印される形で落ち着いたが、その力が弱まってきたこの時期に最強の依り代を見つけるなど悪運が強いにも程がある」


 ここで語られた事実は吸血鬼の長であるサシリも知らないことで、その事実はサシリの心を少し揺らした。


「はははははははははは!いいじゃないか!というより今はその始祖の気持ちがよくわかる!妾も星神のことはよくは思っていなかったが、今は完全に敵として認識しているからな。吸血鬼の姫よ。お前に宿っているその始祖とやらはその現実にいち早く気づいていたようだぞ?」


 キラはその話を愉快なことだと言わんばかりに笑い飛ばすと、サシリに向けて言葉を紡いだ。


「………そうね。始祖が何を考えてそのような行動に出たのか、くわしいことはわからないけど、それでも今はその感情が少しだけ理解できる気がする!」


 サシリはそう答えると全身の力を引き上げ、始祖返り(スローブラッド)を使用した。


「チッ!土地の力を流し込んだか。また厄介なことを」


 星神の使徒はそのサシリを見ながら顔をしかめる。


「いいのか?それはタイムリミットがある上に、かなり疲弊するのだろう?」


 キラが珍しく心配そうな表情で問いかける。


「この力はカリデラの土地と近ければ近いほど扱いやすいの。今はカリデラのど真ん中にいるわけだし、多分一時間くらいは持つわ」


 それは今までサシリが鍛錬してきた結果であり、サスタが城の地下で見つけたときより遥かに強くなっている証拠でもあった。


「ならば妾も本気で行くとしよう」


 対するキラも全身に大量の根源を沸き立たせると、その力を現界させ準備を整えた。


「認めたくはないが、さすがイレギュラーと呼ばれることはある。だがそれゆえこの世界には邪魔だ!」


 その瞬間、とてつもない力の塊である三つの存在が空中で激突した。









 時間は少しだけ戻り、カリデラ城下町の外にある荒野。

 そこでは白と水色の翼を六枚携えた少女と神妃化したハクが対峙していた。


「一つ聞くがそのイレギュラーっていうのはなんだ?」


 ハクは二本の剣を構えながらその少女に聞き返した。両者が放つ威圧はその空間にある原子を僅かに振動させ、その場の温度を少しだけ上昇さぜる。


「………正直言ってあなたの質問に答える義務はないのですが、まあ死に土産ということで答えてあげます。イレギュラーというのはオルナミリス様でも予測できなかったこの世界には必要ない力を持った異分子です。具体的な名前を挙げるとすればあなたと精霊女王キラ、そして血神祖サシリ=マギナということになります」


 それがイレギュラーの正体か。

 おそらくこのカリデラにその強力なイレギュラーが集まってしまったことによって今回の騒動が起きたのだろう。

 こちらからすれば酷い話だが、厄介な存在をまとめて屠れる機会としては間違いなくいいタイミングだったはずだ。

 それゆえの攻撃、そして進攻。


「で、何故その俺達を殺そうとする?特段悪いことはしていないはずだが?」


「減らず口を。あなたは現にオルナミリス様の下へ赴くために神核を倒しているではありませんか。そのような危険分子を叩かないほうがどうかしています」


「俺をこの世界に呼び出しておいてよく言うぜ」


 するとその少女は心外だと言わんばかりに腕を振るいながら言葉を吐き出した。


「まさか。オルナミリス様があなたのような存在を呼び出すわけがないでしょう。あなたはこの世界が勝手に呼びつけたものです。どのイレギュラーも基本的には世界がオルナミリス様に対抗するために用意したに過ぎません」


 俺にとってそれは初耳の情報だった。

 推測では星神が俺を呼び出したのではないか?という仮説も立っていたのだが、それはどうやら違うらしい。

 しかも呼び出したのは世界そのものきた。

 それはよほどこの世界自身が緊急の危機にあることを示している。そもそも世界というものはその中に住む生命体の存続を最優先事項として考える。そのために用意されたのが人類の守護者である神核だ。

 しかしそれはその世界を作り出した神と意見の食い違いが起きることがある。それは元の世界におけるリアが最初期に体験したことでもあり、現にこの世界にも起きていることだ。

 おそらく世界は全ての生命を守りたいのに対し、星神は人類を滅ぼしたいという考えがあるようでそこで食い違いが起きているようだ。

 これが全ての発端。

 そして真相。

 であればその世界から召喚された俺や強大な力を持つキラとサシリを狙うのも頷ける。


「だったら俺も引けないな。星神が何を考えて俺達人類に攻撃を仕掛けているのかはわからないが、それでも人類を滅ぼすなんて考えは到底容認できない」


「おろかな。世界を存続させるにはある程度の間引きは必要だということをなぜわからないのですか。まあ理解したところであなたは殺しますが」


 瞬間、両者の力が爆発的に高まり、戦闘開始の合図となった。


 少女から降り注ぐ光の柱と俺の剣がぶつかり火花を散らし、俺達は力と力を叩き合わせ命の取り合いを始めるのだった。


実はハクが召喚された理由はこれだけではなく、そこにはまた星神の思惑が絡んでくるのですが、それはまた少し先のお話ですので、しばしお待ちください!

次回はハクの戦闘がメインになります!

誤字、脱字がありましたお教えください!

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