第百三十七話 カリデラ城下町の危機
今回から第四章最後の戦いが始まります!
では第百三十七話です!
俺とサシリが同時に振り返るとそこには無残に破壊されていくカリデラ城が浮かび上がっていた。
城の中でも一番大きな見張り台は既に真っ二つに折れており、一番の目玉と言えるであろう玉座の間は完全に屋根が崩れ落ち崩壊してしまっている。
俺は咄嗟に気配探知を発動した。
この距離ならば一体どんな存在がカリデラ城を襲っているか読み取れるはずだ。そう考えた俺は全力で探知の網を広げるが意外なことにそこには何も引っかからない。
なぜだ?
あれほどの被害が出ているのにまったく怪しい反応が見当たらない。
その不可思議な現象に俺は一人で考えていたのだが、そこで明らかに様子がおかしいサシリに気がついた。
サシリは満身創痍な体をわなわなと震わせ、歯を食いしばっている。
「………い、いかなきゃ。私が皆を守らないと………」
「お、おい、サシリ?どうした?」
俺は空中に力なく伸ばされるサシリの手を掴み持ち直すと、その顔を眺めるように見つめた。
確かに今、カリデラ城は何者かの攻撃にあっている。それは紛れもない事実だ。ゆえに早急に手を打たないといけないことも理解できる。
だがそれにしても俺に体重を預けているサシリの様子は半ば狂ったかのような目をしておりとても正気だとは思えなかった。
「私が、勝手に城を離れたから………。だからあんなことに……」
よく耳を澄ませば城下町にいるであろう住民の叫び声や悲鳴が轟いている。どうやら被害は城だけに留まらず、城下町にも飛び火しているようだ。
「サシリ、しっかりしろ。今ここでお前が倒れれば………」
俺がそうサシリに言葉をかけようとした瞬間、耳を劈くような声がサシリから放たれた。
「あああああああああああああああああああ!!!!!」
それは再びサシリの体から膨大な神格を呼び覚まし覚醒させる。だが今の状態は完全に自分では制御が出来ていない。
おそらく自分の我侭が原因でカリデラが襲われる原因になったと思い込んでいるのだろう。
しかしそんなものはまったくの見当違いだ。
サシリはこのカリデラの君主ではあるが、だからといって今このような状況を予想できたはずがない。そもそも予測できていたとしても、あれほど簡単に城を破壊できる者ならばどんなに頑張っても多少の被害は免れない。
しかしそれでもサシリはそれを全て自分のせいだと思っているようで膨張した自我に飲み込まれ力を暴走させていた。
俺はすぐさまそのサシリを近くに引き寄せると、全力での頬をひっぱ叩いた。
響きのいい音が空間に木霊する。
「ッ!?」
「いい加減にしろ!お前は一体今までの戦いから何を学び取ったんだ!お前は確かにカリデラの君主かもしれない。だがだからといって何も全て一人でこなす必要はないだろ!それにお前が城を離れたことでカリデラが攻撃されたんだとしたら、その戦いを引き受けた俺にも責任がある!…………あまり先走るな」
「ハク………」
サシリは俺に抱かれる様な形で俺の目を見つめていた。その目には先ほどのような狂気は滲んでおらず、いつもの歴然とした血神祖のものへと戻っている。
暴走させていた力もどこかに消えるかのように霧散し、神格の気配も完全に消えうせてるようだ。
サシリはそれからやはり不安そうな表情を浮かべると、もう一度戦火が広がるカリデラに視線を戻す。
するとなにやらカリデラの上空に人の影のようなものが複数見て取れた。
「あれが今回の主犯か」
「そうらしいわね……」
そこには白と水色の翼を携えた存在が空中に浮いておりカリデラに向かって攻撃を放っていた。
するとそこに青天膜の中にいたアリエスたちが駆け寄ってくる。
「ハクにぃ!あれは何!!」
アリエスが俺に抱きつくような形で質問をぶつけてくる。
「わからない。気配も感じないしその実体も掴めない………」
悔しい話だが本当に奴らの得体がわからないのだ。通常ならばあれほど派手に暴れていれば気配探知に確実に反応があるはずなのだが、それが今回はまったく感じられない。
気配創造の力の流れから推測するに、一応気配という概念は持っているようだがその気配が欠片も読み取れないのだ。
「ですが!早く向かわないとカリデラにいる方たちが!」
シラが俺に食いかかるように呟いてくる。
「ああ。………キラ、それにリア。あの連中についてわかることはないか?」
俺はシラの言葉に返答すると、パーティーの中でも博識な二人に問いかけてみた。
「むう………。妾もあのような存在は見たことがない。だがあの者たちの気配というより、存在量は感じる。これは基本的に精霊だけにしか読み取ることはできないが、それでも確実にあの連中は生きている存在のようだ」
キラはそう言いながら顔をしかめる。おそらくキラであってもあれほど異常な存在は初めて見たのだろう。気配が感じられずよくわからない力を振り回すあいつらは、寒気がするほど不気味だ。
『確証はないが、主様があの者らの気配を探知できないのは、気配をキラの言っている存在量に全て変換しているからであろう。そうすれば命の多寡は取れ、体もこの世に繋ぎ止めることが出来る。だがそこまでする理由は私にはわからんのう……』
気配を存在量に変換……。
突拍子もない話だが、実際に気配を探れないのだからその事実は受け止めたほうがいいらしい。
「だけど、これってなんかハク君の対策をしているような動きだよね?それこそハク君が一番厄介だと言っているみたいな」
ルルンがキラとリアの話を聞いた直後にそう言葉を重ねる。
「それは私も思いました。まるでハク様を誘導しているかのような状況です………」
なるほど、そういう考えもあるか……。
俺が狙われることといえば、やはり神核絡みになってくるが、このカリデラに神核はいない。まして俺のローブの中に入っている神核たちが復活するような気配もない。
であればどういうことなのか。
ますますわからなくなっていきた。
「ですが……、姉さんの言った通り早めに向かったほうがいいのは事実です………。このままでは被害が広がる一方ですので……」
シルが俺のほうをじっと見つめながら口をあける。
俺はその言葉に頷くと、パーティーメンバー全員に指示を出す。
「アリエスとシラ、シル、クビロは住民の避難をエリアとルルンは地上に降りてきている奴らを吹き飛ばしてくれ。キラとサシリは空中にいる連中を頼む」
『「「「「「「了解!」しました!」しました……!」です!」だよ!」だ」じゃ』
俺の言葉に頷いた皆はすぐさま気配を戦闘モードに変え力を漲らせる。
するとそんな俺たちを見ていたサシリが不意に口を開いた。
「ま、まって!これはカリデラの問題だから皆がそこまでしなくても……」
俺はその言葉がサシリの口から放たれる前に神妃化を実行し、事象の生成でサシリの体力、魔力、神格全てを全快させる。
「あ………」
「言っただろう?これは俺たちの責任でもあるって。それに俺たちは困ってる人がいたら見捨てられない主義なんだよ。今までもこういうことは何度かあったから」
その言葉に頷くようにアリエスたちも同意を示す。
特段自分たちから首を突っ込んでいるわけでもないのだが、シルヴィニクス王国では第二神核が、エルヴィニア秘境では勇者たちが、大きな被害を出そうとして俺たちの前に立ちふさがった。
ゆえに慣れているというのは変だが、一度乗ってしまった船を下りる気は俺もアリエスたちもさらさらないのだ。
サシリはそれでもまだ納得が言っていない様子で、言葉を発しようとしていたが、それを封じ込めるように言葉を紡ぐ。
「それに友達のピンチを助けないほど俺たちは腐っちゃいないさ」
「!」
俺はサシリに笑いかけながらそう呟くと、エルテナとリーザグラムを取り出し腰に装備する。そしてその二本の愛剣を勢いよく引き抜くと、そのまま上空を眺めた。
「は、ハクにぃ………?い、いきなりどうしたの?」
突然剣を抜いた俺に困惑の声をアリエスはぶつけてきた。
それでも俺は言葉を発しない。
なぜなら、明らかに危険な存在がこちらに近づいてきていたからである。
気配は感じない。
だがその痛いほど体に突き刺さる殺気が俺の感覚を刺激していた。
その存在がここに到着する前に俺はキラとサシリ以外のメンバーを集団転移を使いこの場から移動させる。
「キラ、サシリ。町のほうは頼んだぞ」
するとキラもサシリもここに接近してきている力を感じているようで、警戒の色を強めながら俺の言葉に頷いた。
「了解した。マスターも気をつけろよ」
「私は皆を守る義務がある。だからなんとしても死守するわ。だからハクも死なないで……」
その言葉に無言で笑みを浮かべた俺はアリエスたちと同じポイントに二人を転移させた。
「ふーう、やれやれまったく次から次へとこっちの気も知らないで騒ぎ立ててくれるな」
『まったくじゃな。ここまで派手にやられた以上、もちろん引く気はないんじゃろう?』
「当然だ。ここまでやられて大人しく逃げ帰るほうが正気を疑うぞ?」
俺はリアと戦う意思の確認をすると、その圧倒的なまでの殺気を放ちながら近づいてくる存在を待ち構えた。
それから数秒後、突如として巻き上がった暴風はその中心になにか大事なものを隠すような形で俺の前に降り立った。
その風は白と水色の光が纏わりつくようにうごめいており、神核やキラとは違った恐怖を煽り出している。
そしてその風が完全に空気と同化し掻き消えると、中から一人の生き物が姿を現した。
それはアリエスの髪よりも白く透明な髪を携えた女性で、背中からはまるで夏空を思わせるような彩度の高い白色と水色の半透明な翼が計六枚生えている。
身にまとうのは比較的ラフなローブのような布を巻きつけており、腕には奇妙な文様が描かれた円環が薄気味悪く浮き上がっていた。
「ようやくお出ましか。随分と派手な登場だな?」
俺は剣を構えながらその女性を見つめて挑発的な言葉を吐き出す。
その言葉に反応するように、目の前の女性は明確な殺気を滲ませた声で口を開いた。
「黙りなさい。あなたのような世界の汚物がこの私に話しかけるなど無粋にもほどがあります」
ほう、汚物ときたか。
これはまた随分と嫌われているようだ。
まあ、それはこっちも同じだがな。
「言ってくれるな。俺だってお前みたいな雑魚に時間を割く気はない。やるんだったら早く掛かってくるんだな」
顔に笑いを浮かべながら俺はエルテナをクイクイと突き上げさらにその女性を煽る。
「いいでしょう。私も命令とはいえあなたに構っていられるほど暇ではありません」
その瞬間、とてつもない力がその女性から湧き上がり、地面を叩き割った。
「ただ今より星神オルナミリス様のご命令を遂行し、最上位イレギュラー、ハク=リアスリオンを排除します」
こうしてカリデラを舞台とした俺たちパーティーと星神の思惑がぶつかる最初の戦いが幕を開けたのだった。
次回は一度アリエスサイドに視点を移します!
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