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第百三十話 サスタの思い

前回の後書きでアリエスサイドに戻るという話でしたがすみません!今回もハク視点になります!

では第百三十話です!

 あの戦闘騒ぎから三日が経過した。

 その日は結局、伸びている冒険者と吸血鬼たちを放置して転移を使い俺とキラは宿に戻った。結果的に昼食とあの戦いは二時間ほど消費してしまい、帰って来るころには午後二時を回っていたが、いい具合に力が抜けてその後の勉強も捗り、充実した一日となったのだった。

 ちなみにアリエスたちはというと両手に大量の袋を提げて、宿に帰ってきた。案の定俺が預けた大量のお金はもはや見る影がないほど消失しており、呆れかえっていたのだが、ついてきていたサシリの表情が朝よりも柔らかくなっているようだったので、とりあえず水に流し、何事もなく一日を終了させたのだ。

 後から聞いた話ではあるがサシリは俺とキラの戦闘に勘付いていたようで、気にはなっていたらしいのだが、サシリはサシリの予定を優先させたらしい。それは俺にとっても本望だったのでとやかく言うことはなかった。


 それから三日間。

 俺は同じようにキラが付きっ切りで入試対策をひたすら行う毎日を過ごしている。

 今ではもはや手元にある問題集は難なく解けるレベルには到達しており、自分でもありえないほどの成長速度だと実感してしまうほどだ。

 まあそれはやはりキラの教え方が上手いというのが一番の原因であり、感謝の言葉しかないのだが、キラはなにやら人に説明するのが好きな性質なようで、いつも上機嫌な顔で俺に教鞭を振るっている。

 で、件のアリエスたちはというと連日サシリを連れ出して、色々なところに行っているようだ。カリデラ城下町の観光スポットやお洒落なお店、はたまた雑貨屋に至るまで、ありとあらゆる場所を踏破しているらしい。

 ちなみに今日は冒険者ビルドに赴き、軽いクエストを受けに行っている。

 まあ、全員がもはやSランクなど相手にならないほど強くなっているので大して心配してないし、もしものことがあればサシリが追い払ってくれるだろう。なんと言ってもサシリは血神祖なのだ。有象無象の魔物に遅れを取るはずがない。

 というわけで俺は気兼ねなく自身の勉強に取り組んでいるのだが、先程も言ったようにそろそろ手持ちの参考書では生ぬるくなってきている。

よって新しい問題集を買いに出よう考えていた。


「なあ、キラ?そろそろ新しい問題集に変えないか?なんかやりすぎて答えまで覚えていそうな勢いだし。変え時だと思うんだけど」


 俺は鉛筆を動かしながら起用に口を動かしそう問いかける。


「ん?まあ確かにそれは一理あるな。マスターも理解力が大分高いようだし、そろそろ頃合ではあるな。では近くの書店に向うか」


 そういう結論にいたった俺たちは軽く身支度を整えると、それこそ家の前にあるコンビニに向かうような感覚で宿を出た。

 さすがに三日間もそとに出ないと、外の日差しが眩しく感じられ肌を焦がしている感覚が伝わってきた。またまだ季節は夏ということもあり、汗を沸き立たせるような熱波が押し寄せている。


「あっついな………。今までよくこんなところで旅をしていたものだ」


「まあ、それは同感なのだが、とはいえ夏はこれが醍醐味だろう。他の季節では絶対に味わえんぞ?」


「確かにな。だがそれでもこれはさすがに嫌になってくるな……」


 俺とキラはそんな他愛もない会話をしながら書店を目指す。完全に忘れられているクビロは俺の首元、もとい髪の中にひっそりと佇んでおり、小さな寝息を立てて眠っている。

 なんでもクビロは気を張っていないときは寝るのが趣味だそうで、今のような状況は絶好の昼寝日和なんだとか。

 まるでどこかの高校生かよ!

 と突っ込みたくなるのだが、小さく丸まって寝ているクビロは実に愛嬌があるので、そっとしておく。たまにその体を突いたりして遊ぶのだが、感触がやみつきになりそうなので自制をしている。

 書店についてみると、朝っぱらだというのに大勢の人達が群がって本を開きながら立ち読みをしていた。こういった風習はどこの世界でも変わらないようで、ここが異世界だということを一瞬、忘れてしまいそうになってしまう。


「えーと、参考書コーナーは………。ここか」


 俺とキラは色々な学園の過去入試問題がおかれている場所に行き、とりあえず少し難しそうな参考書を手に取ってみる。

 キラに一応確認を取ってみると、問題ない、との返答が返ってきたので俺はそれを会計に運び購入した。

 書店には特段用もないので俺とキラは足早に退店し、転移で一気に戻ろうと考えていたのだが、ここで不意に後ろから声をかけられた。


「お!ハクじゃないか。こんなところで何やってるんだ?」


 その声は惜しくも聞き覚えのある声で、振り返らずともその声の主が誰なのかわかってしまった。


「それはこっちの台詞だ。お前こそ何をやってるんだサスタ?」


 そこにいたのはサシリと同じ赤髪を携えた元気のよさそうな吸血鬼だった。


「ん?俺は丁度暇になったからただの散歩だ。そういうお前は………ああ、噂の入試勉強ってやつか。姉ちゃんがなんか凄く頑張ってるって言ってたぜ?」


「まあ、それなりにはやってるさ。今も新しい参考書を買ったところだ」


「そうか。………なあ、ハク。この後少しだけ時間あるか?」


 するとサスタはいきなり神妙な顔つきで俺にそう問いかけてきた。

 何事か?と思ったのだが、俺も勉強をしないといけないのでさほど時間に余裕があるわけではない。

 ということで俺に教鞭を振るっているキラにどうする?といった目線を流してみる。


「まあ私の予想よりもマスターは飲み込みが早いからな。少しくらいは問題ないだろう」


 あ、そうなんですね………。

 うーん、褒められると俺って途端に反応出来なくなるな……。なんというか少し恥ずかしい。

 とはいえ大先生からお許しが出たので、俺はサスタの提案に乗ることにした。


「ということだ。そんなに多くの時間は取れないが少しくらいならいいぞ」


「わかった。だったらさっそくどこかのカフェにでも移動しよう。道のど真ん中で話すのは気が引けるしな」


 俺とキラはその言葉に頷くと、ズンズン進んでいくサスタの背中を追いかけたのだった。







 その後、俺たちは最寄の喫茶店らしき店に入ると、とりあえず全員がアイスコーヒーを頼み席に着いた。

 店内は緩やかな氷魔術の冷風がはためいており、ひんやりと俺たちの肌を冷ました。内装も比較的落ち着いた雰囲気で俺としてはなかなか好感が持てる店内になっているようだ。

 俺は運ばれてきたアイスコーヒーに軽く口をつけ喉を潤わせると、サスタにこう問いかけた。


「で、用っていうのはなんなんだ?」


 するとサスタは自分のアイスコーヒーの氷をストローでクルクルと回転させながら話し出した。


「ハクは姉ちゃんの話をどこまで知ってる?」


 は?サシリの話?

 いや、そんなもん殆ど知りませんが?

 というか話ってなに?


「いやなんのことかさっぱりわからんのだが……」


「うーん、姉ちゃんがあれだけ心を開いてるから大方知ってると思ってたんだけど、そうでもないのか………。まあ簡単に言えば姉ちゃんの過去だよ、産まれてからの生い立ちだ」


 そんなのも知るわけないだろ!

 と、心の中でぼやくが、そういえばサシリガ俺に戦闘を仕掛けてきた理由は俺と自分の行き方の違いに疑問を持ったからだった。

 それが何か関係しているのだろうか?


「まったくといっていいほど知らんな。強いて言えば強大な力を持っているせいで、あまり人付き合いが出来なかったというくらいしか俺の知識にはない」


「それも大方当たってるけどな。まあそれを一度ハクには話しておこうと思ってさ。こうやって話をしているわけだ」


「何故それを俺に?言っておくが俺なんてどこの馬の骨かもわからないような冒険者だぞ?」


「本当に得体の知れない奴だったら姉ちゃんがあそこまで変わるわけないだろう?最近の姉ちゃんは今まで見たことがないくらい生き生きしてる。それのきっかけになったのは間違いなくお前との戦闘だ。だから俺はお前を信頼してこの話をするんだ」


 うーん、買いかぶられすぎている気もするが、確かにサシリの表情は日に日に豊かになっていっている。それはおそらく俺ではなく毎日一緒にいるアリエスたちが原因になっているのだろうが、それでもここ最近のサシリは最初に会ったときのような無機質な雰囲気はまったく感じ取れなくなっていた。

 俺は半ば諦めたようにため息をつくと、そのままサスタに先を促した。

 

「はあ………。だったら話せよ。言っておくがそれを聞いたからと言ってなにか出来るわけではないからな」


「わかってるさ。それじゃあ話すぜ。姉ちゃんが産まれたときに吸血鬼の始祖と同化したっていうのは知ってるか?」


「ああ、それはなんか噂にもなっていたからな」


「その始祖の力は元々莫大な力を持っていた姉ちゃんのポテンシャルを更に引き上げ、俺たちのような吸血鬼では太刀打ちできないくらい強くなってしまったんだ。それも産まれた瞬間に」


 まあここまではなんとなく予想できていたことだ。始祖なんかと同化して普通の吸血鬼でいられるはずがない。


「すると丁度、次のカリデラ君主になる神祖を決める時期だったこともあって、姉ちゃんはそのまま神祖の座に着くことになったんだ。正直いってこれはかなりの異例だったらしいぜ。なんていったって赤ん坊が神祖になるんだからな。正気の沙汰じゃなかったはずだ。でも姉ちゃんはそうされてもおかしくないくらい強い力を持っていた。なんか初めは泣き叫ぶだけで城を半壊させたこともあったらしい」


 ………。

 ま、まあそうなりますよね………。

 物心つく前なんだから仕方ないはず……。


「で、そこからだ、姉ちゃんの地獄は。姉ちゃんはその後ほぼ城に幽閉されるような形で神祖としての業務をこなした。当然そうなれば普通の子供がやるような遊びや友達も出来るはずがない。初めはそれすら疑問に思ってなかったらしいけど、とうとう姉ちゃんは自分が他の子供と違うことに気がついた。しかもその頃には両親、まあ俺の両親でもあるんだが、その二人は完全に自分の子供と思わずカリデラの君主としてしか見ていなかった。これがさらに姉ちゃんの心を抉ったんだ」


 よく童話とかで、貴族や王族の子供は友達ができないっていう話をよく耳にしたことはあるが、それでも城の外には出ることが出来たし、親は優しいというのが定説だ。

 だがあのサシリという少女はそれすら与えられず、一人孤独の海の中に沈んだということか。

 正直言って返す言葉は見つからない。

 自分で動こうにも動けない空間を作り出され、話しかければ他人行儀な回答しか返ってこない。その様な状況で正気でいられるほうがよっぽど不思議だ。


「しかも俺という弟がいることもしばらくの間知らなかったらしい。それは俺も同じだったんだが、なんとかその情報を入手した俺は何度も姉ちゃんに合いに行った。初めは会うのが怖かったが、それでも姉ちゃんは俺が弟だと知ると優しく話しかけてくれたんだ。両親よりよっぽど好感が持てたよ」


 おそらくこのサスタという存在がサシリの心をギリギリのところで繋ぎとめ支えていたものなのだろう。ましてや血を分けた弟だ。それがどんなに自分と力が離れていようと、唯一特別扱いしない存在を蔑ろに出来るはずがない。


「でも姉ちゃんが心を開けるのは俺と、同化している始祖だけだった」


「ん?始祖?始祖は同化して消えたんじゃないのか?」


 俺とキラはお互いに目を丸くしながらそう問いかけた。


「始祖は姉ちゃんを孤独に追いやったことを悔いていたみたいで、自分から話しかけられるようになると、積極的に姉ちゃんの話し相手になっていたみたいなんだ」


 な、なるほど……。

 おそらくは俺とリアのような関係なのだろう。これまた変な共通点を見つけてしまった。


『変なとは失礼じゃな主様!』


 というリア声が脳内に響き渡ったが、とりあえず無視して話を進める。


「それがサシリの過去か?」


「ああ、大方そうなる。だから正直言って俺はお前たちが姉ちゃんの話し相手になってくれていることに感謝してるんだ。今まであんな顔見たことなかったからな。だからこの町にいる間は出来るだけ姉ちゃんの側にいてほしいんだ」


 サスタはコーヒーを飲みながら笑顔でそう答えた。

 はっきり言って、今の話を聞いたからといって俺に出来ることは何もない。強いて言えば今までと同じように話すことぐらいだろう。


「そうか」


 俺はサスタの言葉に短くそう返すと、すっかり温くなってしまったアイスコーヒーをストローで軽くかき混ぜ喉に流し込んだ。

 その味は酷く苦く感じられ、俺の胸の中にモヤモヤとした感情を残す。

 その感情の正体はわかりきっていることなのだが、いざ言葉に出そうとしてもなかなか出てくるものではない。


 ただ一言言えるとすればそれは。


 その生き方はアリスに似ている、と思ってしまった。


 それが何を意味し俺に訴えかけてくるのかはわからないが、それでも何故だか少しだけ寂しくなったのだった。


 その後俺とキラはサスタと別れ宿に戻り勉強を再開した。

 しかしその一日は鉛筆の走りがいつもより悪かったのだった。


次回こそアリエスサイドに移ります!

あと二回ほど日常パートが続きますが、その後は戦闘が続くのでしばしお待ちください!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

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