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第百二十九話 最強コンビ

今回はハクとキラの無双回です!

では第百二十九話です!

 俺とキラはそのまま空中を浮遊しながらカリデア城前の広場にやってきた。

 カリデラは城下町と言うだけあって、城を中心に発展している都市であり、それを取り囲むように町が連立している。一見すればエルヴィニア秘境の造りと似ているのだが、その秘境と城下町では生活環境が違いすぎるので、規模も町並みも似ているところはまったく感じられなかった。

 そして俺たちが降り立った広場は、シルヴィニクス王国の中央広場よりも大きな場所で半径二百メートルほどの円形をした石畳が敷かれている空間だった。

 ここには歴代の神祖や真祖たちの石像が並べられており、いかにも城を守っているような門番的なオーラを放っている。当然ここには観光客も集中し、その客をあつめようと出店が多く出展していた。

 その中央にゆっくりと降り立つと、しばらくしてドタバタと大きな足音と共に百人ほどの人間がこの広場に入り込んできた。

 元々いた住民や観光客は何が起きているのかわかっていない様子で、ただその光景を見つめる。

 冒険者と吸血鬼たちは俺とキラを丸く囲むように散らばると、皆同時に武器を構えた。


「どうやら、まとめて掛かってくるみたいだな。どうするマスター?」


 キラは俺と背中合わせになるような形でそう問いかけてくる。


「どうするもこうするもないさ。全員まとめて吹き飛ばす。食後の運動には丁度いいだろう」


「フッ、やはりマスターは戦うときが一番そそられる!その表情だけで、パン百個は食えるぞ」


「また食べ物の話か!………だけど、俺に座学が似合わないことは自覚してるさ。だから少しだけ憂さ晴らしと洒落込もう」


 俺はそう言うと抜いていたエルテナを中段に構え、そのまま軽く腰を落とし、誰に問いかけるわけでもなく質問をぶつけた。


「一応聞いておくが、何故俺と戦いたい?サシリを倒したからか?名声がほしいからか?」


 すると周りにいる誰かから大きな声で返答が帰ってきた。


「SSSランク冒険者で、さらにあのサシリ様を倒した奴と戦いたくない冒険者がいると思うか?強さを求めるんだったら強者と戦いたくない奴なんていねえよ!」


「それに本当にサシリ様を倒したのかも怪しいもの。その実力が知りたいわ」


 その言葉に増長されるようにこの場にいる全員の口が開く。

 もはやここは何かの戦闘大会のような雰囲気になっており魔武道祭の空気感を醸し出していた。


「だそうだぞマスター?」


「いい迷惑だ。さっさと蹴散らして宿に戻るぞ?」


「妾としては戦っているマスターを見ていたいのだが……。まあ仕方ない、昨日はあまり力を使えなかったから今日は派手に行くとしよう」


「期待してるぜ、相棒」


 俺はキラに背を向けながらそう呟くと、そのまま全身に力を張り巡らせ意識を集中した。

 するとその言葉を聞いたキラはなぜだかとても嬉しそうに、だが纏うオーラは力強いもの変化させて返事を返した。


「心得た」


 瞬間、俺とキラは同時にその場を離れ、攻撃を開始する。

 俺はとりあえず目の前にいた冒険者であろう男の右横に移動し、わき腹を左足で吹き飛ばすと、そのままその男の落下地点目掛けて、近くにいた吸血鬼の女性を投げつけた。


「ぎゃあ!?」


「きゃあ!?」


 戦闘が始まった以上、性別なんて気にしてられない。

 その二人は地面にぶつかりながら正面衝突すると意識を失い仰向けに倒れた。


「さあ、次は誰が相手だ?いい加減ぬるい攻撃ばっかりしてると、一瞬で片がついちまうぞ?」


 俺は左手を曲げるようにクイクイと挑発すると、エルテナをクルクルと回し肩の上に構えた。


「くそ!やっぱり実力は本物みたいだな………。お前ら!陣形を組め!近接部隊、行くぞ!」


 するとなにやら一人の男が指揮を執っているようで、その言葉に続いて後衛のメイジ隊、中衛の弓、ボウガン部隊、前衛の近接部隊の三つに別れ行動を開始した。


「へえ、無策ってわけじゃないのか」


 さながら何かのボス扱いのような仕打ちだな、これは。

 俺はそう思いつつも、余裕の表情を崩さず近接部隊が俺に近寄るのを待つ。

 見ると観光局は俺たちの戦闘をなにかのショーだと思っているらしく、知らない間に多くの人だかりができていた。

 出店の人達からすればこれ以上ない稼ぎ時だろうが、あいにくとそこまで長引かせる気はない。

 俺は真っ先に切りかかってきた冒険者を体を回転させながら勢いよく右足で蹴り飛ばすと、転移でメイジ隊の後ろに顔を出した。


「早くしないと潰されるぞ?」


「な、なに!?」


 後衛で高をくくっていたメイジはいきなりの俺の登場にとても驚いているようで、一瞬だけ反応が遅れた。

 その瞬間を俺が逃すはずがなく、すぐさまエルテナで魔術の起動術式を破壊すると気配創造で意識が消失する程度に調節して気配を奪う。

 さすがに全力で吸い出してしまうと死んでしまうのでそれだけは気をつけながら使用したが、思いがけず早く気を失ってしまったので、その間に俺は次の行動に入る。

 この冒険者と吸血鬼のフォーメーションで一番厄介なのは今しがた潰した後衛部隊だ。俺のような転移がなければ前衛と中衛を潰すまでその攻撃を受け続けることになる。

 で、次に問題なのが前衛部隊だ。

 今回のように複数人近接系の人間がいる場合は、そのどれもが遊撃と同じ役割をすることが出来る。一方が相手を引き付け、その他の連中は自由なところから攻撃をする。これは意外と効果的で、一対多の様な場合はとくにその強さを発揮するのだ。

 ゆえに俺が次に標的にしたのは、先程上手く出し抜いた前衛の連中だった。

 俺は吸い取った気配から無数の青白い刃を生成し、それを前衛に向けて投擲する。


「ぐっ!?ぜ、全員避け続けろよ!」


 と言わなくても俺に当てる気はない。気配創造の刃は、あの第二神核を仕留めるほどの威力だ。間違ってもそんなものを投げ出すことはしない。

 俺の狙いは、その陣形を完全に崩すことにある。今は中衛と前衛が完全に入れ替わってしまっている状況だ。だがそれでも各部隊は集結している。確かにまとめて一掃するならこちらのほうがいいのだが、やはりまとまっているとそれなりの危険が伴うものだ。一斉攻撃であったり、コンビネーションであったり。それらは戦場においてとても大きな役割を担うことを俺は知っている。

 つまり俺はそれをなし崩し的に壊してしまおうというのだ。

 そしてそれはものの見事に成功し、散らばった冒険者と吸血鬼を俺のエルテナが襲う。


「ほらほら甘いぞ?背後がお留守だ」


 俺は次々と前衛の連中を上空に突き飛ばしそれらを空中でお手玉にするかのようにつき合わせていく。


「ぐがあああああ!?」


「ぎゃああああああ!?」


 こうして前衛は完全に壊滅。

 こうなってしまえば中途半端な間合いと、遠距離になりきれない弓やボウガンではなかなか対抗することができない。

 とはいえここは圧倒的な実力差を見せ付けるためにも、力を行使することにした。


戦火の花(カマラチャクラ)


 それは途端に極彩色の花々を花開かせ、中衛のやつらの生気を吸い取る。


「な、なんだ!?き、急に力が………」


 これが神核やキラレベルであればすぐに破壊されてしまうのだろうが、やつらにはそれほどの力はない。

 またこの生き地獄から抜け出そうにも戦火の花(カマラチャクラ)は空間を遮断するので、逃げ出すことすら出来ない。

 つまりこの瞬間をもって俺の戦闘は終了した。

 残っているやつらは全てキラが片付けているようだし、もう問題はないだろう。俺はそう思うとそのままエルテナを鞘に戻し戦闘態勢を解除した。

 その瞬間、最後まで粘っていた冒険者が気を失う間際にこう呟いた。


「こ、これが………SSSランク冒険者……か……」


 俺はそれに答えるわけではないが、その冒険者たちに背を向けながら一言口を開いた。


「あんまりなめるなよ。生半可な気持ちで挑むと後悔するぞ?」


 そのまま俺はキラの様子を確認するために、俺がいた場所とは反対の方向を向いた。

 そこにはもう既に冒険者と吸血鬼たちをほぼ全て蹴散らしているキラの姿があったのだった。










 キラはハクの言葉に力強く頷いた後、すぐさま魔力を両手に集中させ、根源を打ち放った。


根源の灯火(フルエテキリトナレ)


 それはキラが使用できる根源の中でもかなり威力の低いものなのだが、それでもこの空間で使用するにはとてつもない威力を秘めた技で、問答無用に冒険者と吸血鬼を吹き飛ばした。


「ぐあああああああああああああ!?」


「きゃあああああああああああああ!?」


 それは根源の明かり(フルエテハイトナレ)の威力ではないが、真っ白な光が辺りを包み込み見えないダメージを叩き込んでいく。


「この程度で限界か?まったく人間というものは柔な生き物だ」


 なんとかその攻撃から逃れた冒険者たちはキラに一太刀でも入れようと特攻を仕掛ける。それは計算されたものではなく、無我夢中に仕掛けられたものであったが間違いなくキラの体を狙ったものだった。

 キラはその攻撃を避けることもなくその身で受け止める。


「な!?ば、馬鹿な!?直撃しているはずなのに!?」


 キラは自分に向けられた武器をまじまじと一つ一つ眺めると、次の瞬間その武器を全て破壊した。そして手に何も持っていない連中に向かってこう呟いた。


「やはり軟弱だ。攻撃とはこうやるものだぞ?」


 キラはそう言うと無造作に右手を突き出し、魔力を解放した。


「はじけ飛べ」


 それは根源ですらない魔力の塊であったが、キラの周辺に纏わりついている冒険者と吸血鬼の有象無象に全てヒットし広場の外壁ギリギリまで吹き飛ばす。

 キラはハクやサシリのように近接戦闘をメインとするタイプではない。当然やろうと思えば出来るのだが、それでもキラは根源や記憶の再現といった自らをまったく動かさずに戦う方法を好みとする。

 よって今も初期のポジションからまったくと言っていいほど動いていなかった。

 これが逆に連中の闘志に更に火をつけ体を動かす。

 だがそれはもう既にキラの手中に入っているといっても過言ではなく、完全にキラのフィールドと化していた。


「ではそろそろ終わりにしよう。マスターに背中を預けられた戦いであったが、それもこれで終幕だ」


 キラはそう言うとこの広場の丁度半分まで魔力と神格を練り上げると、最後の根源を発動した。


根源の在天(ネムルハキテンノイチ)


 それは地面から空間を全て覆うような光を出現させ、そこにいた冒険者と吸血鬼たちを覆った。この攻撃は基本的に技の威力というものはないが、それでもとある事象を呼び起こす。

 その光が晴れたときには先程まで闘志を滾らせていた連中は全て地に伏せており、意識のあるものは誰一人いない。

 この根源の在天(ネムルハキテンノイチ)は対象者の意識がなくなる限界点まで体力を削り落とすことが出来る、いわば相手を傷つけず勝利するために考えられた根源である。

 これはキラがハクと契約してから作り出されたものであり、殺すことだけが戦いではないという、ハクの意思を尊重してキラ自らが作成したものだ。

 これこそがキラが狙っていた攻撃であり、発動すれば確実に勝利が手に入る手段だったのだ。


「すまないな、人間。妾に攻撃しようなどと考えるのはもう少し強くなってからにするといい。今はそのまま眠っていろ」


 キラは冒険者と吸血鬼にそう告げるとハクが戦っていた方向に体を向ける。

 そこには全ての連中を叩き伏せてキラの姿を見ていたハクが立っていた。

 すぐさまキラはハクに近寄ると、少し不安そうな顔で問いかけた。


「待たせたか?」


 するとはく目を閉じたまま手を軽く振りながら答える。


「まさか、俺も今終わったところだよ。上出来だ」


 ハクはそういいながら右手を上に挙げ、キラの反応を待った。おそらくこれはハイタッチしろということなのだろう。

 キラは心地よい笑顔を浮かべながらそれに答えた。

 パンっと乾いた音が広場に響き渡り、周囲にいた観光客や住民の拍手を受けながら、キラとハクという絶対最強の人間と精霊女王の最強コンビによるちょっとした戦闘は幕を閉じたのだった。


次回はもう一度アリエスサイドに戻ります!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

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