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第百二十八話 ハクの苦悩

今回も日常パートですがそれなりに進展はあります!

では第百二十八話です!

「まあ大分解けるようになってきたか」


 俺とキラが勉強会を始めてから約三時間が経過した。午前九時からスタートしているので現在は正午を少し回ったところである。

 やはり精霊女王というのは偉大であり教え方というか説明の仕方が恐ろしいほど上手く、凝り固まった思考回路を持っていた俺でもなんとか理解できるくらいまでは成長することができた。それは正攻法から精霊独自のマメ知識まで幅広く網羅しており、短時間でここまで習得できるものなのか?と疑いたくなるほどである。

 ちなみに歴史に関してだけは、これはもう完全に暗記科目なのでどうしようもなく俺の努力次第ということになっている。多少効率のいい覚え方を教えては貰ったが、まあそれはあくまで覚えるための補助なわけで、解決策とは言えない。うえにこればっかりは間に合わなければ能力や魔眼で記憶するということになり、今は魔力学を教えてもらっていた。

 で、今は完全にお昼時。

 息抜き用のドリンクはシルが用意してくれたが、昼飯はなにもない。

 よって俺たちも一時勉強を中断して町に出ないといけないわけである。


「そろそろ、昼だし飯にでも行くか?」


 俺は椅子の上で体を伸ばしながらテーブルに座っている女王様にそう問いかけた。


「ん?ああ、もうそんな時間か。確かに丁度腹も減ってきたところだ。では行くとしよう」


 キラはそう言うとゆったりとした動作で立ち上がると無造作に流していた長く虹色の髪を素早く紐で纏め上げると、軽く身支度を整え俺に近づいてきた。

 俺はというといつものローブをはおり腰にエルテナをさしてから、机の上で寝ているクビロをひょいっとつまみ上げて肩に乗せ、キラの隣に立った。


「それじゃあ、行こうかキラ」


「ああ。それにしても何を食べるんだ?」


「ん?それはキラが決めていいぞ。時間が掛からないんだったどこでも」


「本当か!な、ならここがいいと思うのだが!」


 俺とキラはそのまま宿の階段を降り、そとに出ようとする。その最中、キラが見せてきた一枚の紙を見た俺は、キラに決めさせたことを後悔するのだった。









 それから数十分後、俺とキラはとある飲食店に入り、各々昼食を取っていた。

 ちなみにこの店の中はやたら氷魔術で生成された冷風が吹き荒れており、いくら夏と言ってもさすがに寒すぎると思ってしまうほどだ。さらに辺りを見渡せばそこには女性客というものが誰一人おらず、キラの存在がより目立っており入店したときはかなり視線を集めてしまった。それは決していやらしい目線ではなく、あの娘本当に大丈夫か?というった心配の目線であり、その気持ちは俺もよくわかった。

 というのもこの店、カリデラのなかでもかなり有名な激辛料理店なのだ。

 過去にはSランク冒険者を卒倒させたことがあるとか。

 いやいや、辛さの耐久度に冒険者ランク関係ないから!?それは自慢にならないでしょ!?

 と心の中で思いつつも入った以上引き返せないので注文する。

 見るとカレーのようなものから、麺類、ピザ、それ以外にも多種多様なものが揃っており、少々悩んでしまったが、とりあえず変り種は止めようということで無難にカレーもどきを注文しておいた。

 辛さの調節は一から五までの五段階設定になっているようで、特段辛いものが苦手というわけではないが、なにかあると怖いのでランク一に設定しておいた。

 対するキラはというと、俺と同じものが食べたいらしく、同じくカレーもどきを注文したのだが辛さの設定はまさかのランク五。

 店員さんもかなり驚いていたが、キラ自身は、全然気にしていないようすだったので、俺も店員さんもなにも言えなかったのだった。

 で、いざ料理が届き実食タイム。

 辛さランク一の俺の料理でも匂いからして明らかに発狂レベルの辛さであることが見て取れた。

 勇気を出して一口食べてみたのだが。


「ごがはあああ!?」


 一瞬にして口の中を痛みと辛さが襲い、冷や汗を大量に噴出する。いそいで水を口の中に流し込み気道確保した。

 な、なんじゃこりゃあーーーー!?

 こ、これでランク一だと!?こんなの元の世界の辛口カレーの何倍も辛いじゃないか!?

 俺が顔を青ざめながら、そんなことを考えていると、隣では勢いよくその料理を意に放り込んでいくキラの姿があった。


「うーん!これが激辛料理というやつか!実にいい!刺激的なスパイスが胃を刺激する!」


 …………うん。

 精霊女王って戦いだけじゃなく、食事も化け物級なんだね………。

 ちなみに俺のパーティーの中では大食いなことで有名なクビロはなにやらまだ眠っているらしく、その体を突いてもぷにぷにという感触とともに少しモゾモゾと動くだけだった。

 まあ寝ているのなら起こすのも悪いだろうということでそっとしておくが、問題はこの料理だ。

 あの衝撃を味わってしまうとなかなか次の一歩が踏み出せない。


「ん?どうしたマスター?さっきから手が進んでいないが?」


「………お前、よくそんなにおいしそうに食べられるな。辛くはないのか?」


「辛いといえば辛いが、それがまたいい刺激になっていて、食欲をそそるんだ!マスターはそうではないのか?」


「は、はは………。そ、そうだよな。普通はそうだ。よし!俺も男だ、一気に行くぞ!」


 俺はそう言うとスプーンを片手に口の感覚を頭の隅に追いやりかきこむようにそのカレーもどきを頬張った。


『死ぬでないぞ主様………』


 俺が食べている最中にリアの声が聞こえた気がしたが、脳内がスパークしている俺にはまったく聞こえてこなかったのだった。






 結局、口のなかの感覚がなくなるのではないかというくらいの辛さとの戦いを何とか終えた俺は、机の上に突っ伏していた。

 幸いこの店内は効きすぎているほど、冷風が漂っていたので汗はさほどかいてはいないが、それでも冷や汗は大量にあふれ出ており、もはや喋ることもできないほど疲弊していた。


「いやー、美味かったなマスター!機会があれば各地の激辛料理を食べつくしてみたいものだ!」


「………お、お一人で、どうぞ……」


 俺はなんとかそう呟くと、目の前に注がれている水を喉を癒すように流し込むと、火照っているからだを無理やりたたき起こし会計を済ませ、その店を出ようとした。

 だがここで思いもよらない事態が起きる。


「お、お客様。外でお客様に是非会いたいという人達がいるのですが………」


「は?お、俺に?」


 俺は自分の指で自分を指差すと、そのまま店員の後ろをついていき、店の外に顔を出した。

 そこにはごっつい体格を携えた冒険者らしき人達が列を成して店の周囲を囲んでいたのだ。

 俺は急いで頭を店の中に引っ込めると、店員に事態の説明を要求した。


「こ、これは、い、一体どういうことですか……?」


「は、はい。なんでもサシリ様に勝利した冒険者と是非一度戦いたいとかなんとか………」


 …………。

 その瞬間、俺の顔からは表情というものが消え去り、もう一度その店のテーブルについた。


「さあ、キラ。何が食べたい?俺、また腹へってきちゃってさ、なんでも頼んでいいぞ?」


「………見苦しい取り繕いはよせマスター。そもそも今のマスターにはここの料理はきついのであろう?」


 気づいてたんかい!?

 だったらもう少し気を使ってほしかった………。


「だったらどうするんだよ!あんなにたくさんのやつらと戦いたくはないぞ!」


「とはいってもマスターが戦わなければあの者たちは動かんぞ?仮に転移で逃げたとしてもこの店に迷惑が掛かるだけだしな」


 ぐわああああ!?

 というかどこから俺がサシリに勝ったという情報が漏れた!?あのときはカリデラの住民は全員家屋の中に避難していたはずだ!


『それならおそらくあの金髪吸血鬼じゃろうな。冒険者ギルドにはそういった情報が早く回るし、そもそもシュエースト村のギルド職員は全員知っておるのじゃから、そこから広まっていてもおかしくはないじゃろう』


 おのれ冒険者ギルド!

 せっかくの穏やかな日々を壊しやがって!

 と、内心かなり頭にきているのだが、こうなった以上現状を打破するには大人しく奴らと戦うしかないという解答を俺の頭ははじき出していた。

 仕方がないか………。


「おい、キラ。お前も手伝えよ?」


「ん?なんで妾が……」


「いいから手伝えよ?」


 俺はキラに顔を思いっきり近づけながらそう呟く。おそらく今の俺はキラを倒したときより威圧が大きかったであろう。


「わ、わかった!わかったからその威圧はやめろ!」


 ということで、俺とキラは並んで店内を後にする。


「あ!出てきたぞ!朱の神ハクさんだ!」


「スゲー、本物かよ!」


「でもあの人が本当にサシリ様を倒したの?私信じられないんだけど」


「それを今から確かめるんだろ!」


 どうやら見たところ、普通の冒険者のほかにも多くの吸血鬼たちが混ざっているようで、その目は明らかに戦意で満ち溢れている。

 俺は彼らを一度見渡すと、腰のエルテナを抜き放ち、高らかに声を上げた。


「お前らの目的は知らんが、勝負したい奴はいくらでも受けてやる!場所はカリデラ城前の広場だ!わかったら店の迷惑にならない前に移動しろ!!!」


 俺はそう言い放つとキラと共に空を駆け上がり、宣言した広場まで移動し始めた。


「はあ……。なんでどこに行っても面倒ごとに巻き込まれるかな………」


「それはもうマスターの宿命だ、諦めろ」


「納得できねーーーーーーー!」


 こうして何故か勉強会から雑魚蹴散らし会に名目が変更された俺の一日は、再び動き出すのであった。










 一方その頃、アリエスたちはというと。


「すっごくおいしいね、このパスタ!」


「ええ、上品なソースとしっかりと茹でられた麺が癖になりそう!」


「姉さん、口にソースついてますよ……」


「ですがこちらのパンもいつも食べているものと違い、味わい深いです……!」


「サシリちゃんはおいしい?」


「え?あ、ああ、うん………。あんまり食べたことないものだけど、おいしいと思うわ……」


 そう言いながらサシリはエリアが絶賛したパンを口に放りこんでいく。

 結局洋服店を出た後、アリエスたちはせっかくだから買った服を着よう、というながれになり、今は全員が新しい服装に身を包んでいる。

 それも全てが美女揃いなので、取りすぎる町の人達からはいろいろな目線が飛んできているのだが、アリエスたちはまったく気にせず、ショッピングを謳歌していた。

 偶にナンパを仕掛けてくる輩がいるのだが、そんなときはサシリが威圧を放って追い払っているので、それに関しても問題はなかった。

 というわけでハクとキラが激辛料理を食していると同時に、アリエスたちもお洒落なレストランに入り昼食を取っていた。

 そこはいかにも女子力が高そうな店で、ハクがいれば間違いなく入るのを拒みそうな店であった。パスタやパン、サラダにスープといったいかにも女子が好きそうな料理が並び、極めつけはデザートのマカロンという贅沢尽くしなコースとなっている。

 サシリは新しい服にも着替え、その空気に非常に満足していたのだが、ここであることに気がつく。




(………?戦いの匂い………。それも戦ってるのはハク?)


 ハクは今日一日宿で入試対策の勉強をしているはずだったのだが、土地を媒介に感じられた気配は間違いなくハクのものだった。

 だがおれは昨日のように殺気だっているのもではなかったのでサシリは気にしないようにいた。


(ハクもなにか事情があるんだろうし………今は気にしなくていいかな)


 その予想は見事に当たっており、ハクにもそれなりの事情があったのだが、そんなに大したことではなく、この一日はサシリたちとハクが町の中で会うことはなかったのだった。


次回はハクとキラの無双回です!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

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