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第百二十六話 解決

今回はシュエースト村の村人を全て治します!

では第百二十六話です!

「サシリ様!こちらもお願いします!!!」


「何言ってのよ!次は私よ!」


「いやいや次は僕だ!ああ、やっぱりお美しい………」


 シュエースト村、中央広場。

 この世界の村という住宅街は基本的に俺の想像よりかなり多きものだが、今俺の目の前で繰り広げられている光景は、一体どこにこれほどの人口を隠していたんだ?というくらい住民が大量に押し寄せていた。

 それは全てその中心にいる一人の美人吸血鬼が原因であるのだが、その吸血鬼を呼び寄せた俺が逆に申し訳なくなってきてしまっている。

 俺は頭を抱えながら、隣にいるパーティーメンバーに呆れ半分で問いかけた。


「…………。い、一応聞くが、ここはカリデラじゃないよな?」


「う、うん………。そうだよ………」


 アリエスが俺と同じような顔をしながら返答してくる。


「な、なら………。これは一体どういうことだ?」


「力と美貌を持ち合わせる者の周りには人が集まるということだ、マスター」


 キラは淡々と答えるが、その眉間には深々と皺が刻み込まれていた。

 俺はそのキラの言葉を聞きながら心の中で一人、呟く。


 どうしてこうなった………。







 時は少し遡り、ヒールの家にて。

 俺はサシリをヒールの母親の前に連れ出すとさっそく血晶病の治癒を頼んだ。


「頼んだぞ」


「頼まれた………」


 サシリは俺の言葉に大きく頷くと、そのままヒールの母親の前に右腕を差し出すと解呪の文言を唱える。


「血は砂となり、石は血海に帰る。円環は理をかき乱し、乱を静に正す。破滅せよ、血の絵画(ドローイングブラッド)


 瞬間、ヒールの母親をつつむように複数の魔方陣が展開されたかと思うと、それらは奇妙に動き形を変え、新たな魔方陣を書き描いていく。指し示す的にひとつの魔法陣として組みあがると、その現象は自然と消失した。


「もう動いていいわよ………」


 サシリは右手を下ろすと優しい表情でヒールの母親にそう呟いた。


「え!?あ、あの!こ、これは一体………」


「治ったんですよ。サシリは吸血鬼の長です。どうやら血晶を使わなくても血晶病を治せるんですよ。それで俺たちはサシリを連れてきたという次第です」


「え!?ほ、本当に?」


 するとヒールの母親は部屋の置くに置いてあった一つの鉱石を自分の胸の前に翳した。

 血晶病の感染確認方法はいたってシンプルである。

 検診石と呼ばれる白色の鉱石を自らの前にかざし、その色が赤色に変化すると血晶病と判断されるのだ。ちなみにこの検診石は後他に五つの病を判断できるようで、そのどれもが難病に指定されているものらしい。

 ヒールの母親がかざした検診石は一度白く光りだすと、再び何の色も宿っていない姿に戻っていった。この反応は何にも感染していないということだろう。


「ッ!?ほ、本当です!血晶病が治ってます!…………あ、あなた!私血晶病が治ったわよ!」


 ヒールの母親は、家の奥にいるであろう自分の旦那を呼び寄せその事実を話す。

 その後サシリはヒールの父親も瞬時に治し、無事に治癒は成功した。


「お母さんたち治ったの………?」


 ヒールはしがみついているシラを見上げるようにそう問いかけた。


「ええ。もう大丈夫ですよ」


 シラは柔らかい表情と言葉でヒールに応えると、一度腰を折りヒールと同じ目線まで高さを合わせると、その頭に手を置きさらにこう付け加えた。


「ですから、もう一人で村を出るなんてことはしないでね?それはお母さんやお父さん、それに私たちも悲しいことだから」


「うん!」


 ヒールはそう元気に頷くとシラの元を離れ両親に飛びついた。

 その姿を見守っていたシラはその二つの目に涙を浮かべている。俺はその隣にそっと移動すると一言呟いた。


「寂しいか?」


「い、いえ………。そ、そんなこと、ありません………。むしろ、嬉しいです……。何ごともなく命を救うことが出来たんですから……」


「そうか」


 俺は短くそう返答すると、そのまま踵を返しサシリを先頭に家の外に出る。


「よし、今日中に村人全員の治癒を終わらせるぞ!」


「「「「「「「おーーーーー!」」」」」」」


 俺の掛け声にパーティーメンバーとサシリは大きな声で答えると急いで解呪へと急いだのだった。







 で、今。

 中央広場にはたくさんの人がサシリを取り囲むように群がっていた。

 あのあと俺たちはとりあえず冒険者ギルドに向かいあの変わった竜人族の受付嬢に頼み、患者全てを中央広場に集めさせたのだ。

 初めは住民も半信半疑だったのだが、いざサシリが血晶病を治癒してしまうと、瞬く間にその噂は村中に広がり人をこの場所に集結させた。

 俺の予想では大体、数百人くらいだと思っていたのだが、実際この場にいる人間の数を気配探知で数えてみると二千人は軽く越えているようだ。

 正直言ってこの量を一日で捌ききるのは少々厳しいか?と思っていたのだが、それをサシリに聞くと、余裕………、という答えが返ってきたので、俺たちは黙って見ていることにしたのだった。

 ちなみに俺たちは何をしているかと言うと、血晶病で体力を失った人の回復作業だ。

 血晶病は感染者の体力をじわじわと奪い取っていく病だ。ゆえにサシリがどれだけ病を治そうが失った体力までは戻すことが出来ない。俺たちはそれを元に戻しているのだ。

 隣には冒険者ギルドの職員と、アリエスたちが必死に働いている。

 既存の手当てでどうにかなる者は冒険者ギルドの職員たちが治し、どうしようもない者は俺が言霊で直す、という算段だ。

 実際それほど深刻な病状のものは少なく、粗方片付いており俺はただひたすらサシリが治癒していく姿を眺めていた。


『どうやら血晶病は人間と世界の繋がりを大きく乱すもののようじゃな』


 リアがいきなり頭の中で呟いてくる。


「というと?」


『あの複数散らばっている魔法陣が血晶病によってかき乱されたあと、ということじゃ。あれを元あった一つの魔法陣に組み上げる事によって症状は回復する。あの魔法陣は世界と人間を繋ぐパスのようなものなのじゃろう』


「つまりサシリはそのぐちゃぐちゃに壊された道を修復しているってことか?」


『簡単に言えばそうじゃな。やろうと思えば主様でもできるぞ?とはいえあの吸血鬼の何倍もの力を消費するがな』


 あ、そうなの?

 原理さえ掴めばできちゃうのか………。

 おそるべし神妃の力。万能すぎるのも、少し考え物だな……。

 すると俺の隣にやってきた竜人族の受付嬢が不意に口を開いた。


「でも本当に驚きましたー。まさか血晶を取りに行ったと思ったら血神祖本人を連れてくるんですよ。これは誰も予想してません」


「ですが、あなたが言っていたように血神祖は血晶病を治す手立てを持っていたわけですから、万事解決です」


「まあ、そうなんですけどね。まったくSSSランク冒険者というのはとんてもないですねー。聞けば空の土地神(セラルタ)も倒したらしいじゃないですか」


 あー、いたねそういうやつ。もう影が薄すぎて今まで忘れてたけど。

 まあ、あの鳥が異世界に来て初めて出会っていれば、かなりも衝撃だっただろうけど、あいにく今の俺はクビロにも神核にもキラとも戦ってきている。今さらあの程度の敵にビビることはない。

 つまりあいつは登場するのが遅すぎたのだ、申し訳ないが。


「あれくらいはどうってことないですよ。その後の戦いのほうが激戦でしたし」


 俺がそう呟くと後ろに来ていたキラが言葉を俺に投げかける。


「まったくマスターは少し自重してほしいものだ。今回はあれだけの被害ですんだが、両者ともに一撃でも外していれば、地核ごと破壊しかねん威力だったぞ」


「ダンジョンにこの世の全ての精霊を集めた女王が何を言い出しますかね……」


「な!?あ、あれは仕方なかったんだ!私が移動すれば他の精霊たちがついてきたし……と、とにかくあれは別だ!」


「はいはい、そうですねー」


「………。マスター、一度殴られたいか?妾であればあの吸血鬼より刺激的な戦いが出来るぞ?」


 キラは頬骨をピクつかせながら、俺に拳を向けながらそう呟いた。


「あ、あはは………。い、今は、え、遠慮しておくよ……」


 こ、こえー。

 なんか今のキラなら俺の体を一瞬で灰に変えてしまいそうだ………。

 自分で招いたこととはいえ、今後は気をつけねば……。

 そのころサシリは大方の患者を治癒し終わり、最終グループの治癒に取り掛かっていた。さすがに人が多すぎたので、俺が最初に全五グループに振り分けたのだが、今はその五グループ目に突入しているようだ。

 一応、血晶病の治癒はまとめて実行できるらしいのだが、先程の戦いで少なからず消耗しているサシリには少々荷が重いようで十人単位で治癒を行っていた。

 だがサシリは今治癒しているのが最終グループだと知ると、いきなり大きな魔力を練り上げ、その場にいる全ての人間をまとめて治癒する。

 サシリの表情は間違いなく辛そうだったので、俺は神妃化を実行し事象の生成でサシリの魔力と体力を回復させた。

 俺には血晶病を治すことは出来なくてもそれくらいの手伝いは出来る。

 サシリの目が一瞬こちらに向くが、俺はそれに軽く頷き、先を促した。

 全快したサシリはそのまま魔力を大量に流し込むと、一つの大きな魔方陣を作り出し、全ての村人の血晶病を吹き飛ばした。


「これで、終わりか」


「そうみたいだねー。………あ、そうそう!これ三日前に言ってたやつ!」


「ん?なんですかこれは?」


 俺は差し出された一枚の紙を受け取ると、その紙がなんなのか問いかけた。


「褒賞金だよ。あんまり多くはないけど、少しは役に立つはずだから、貰ってね」


 そういえばなんか言ってたな。

 うーん、別に特段いらないんだけど、まあ筋を通すってことで貰っておくか……。

 この紙をギルドや換金所に持っていくことで褒賞金を受け取ることがえきるのだ。

 俺はその紙をローブの中にしまうと、サシリがこちらに戻ってくるのを待った。

 どうやら血晶病が治った村人たちにつめ寄られているようで、いまだに人だかりができている。

 だがそのサシリの表情はまんざらでもないようで、幸せそうな顔をしていた。

 おそらく長い間カリデラ城に閉じこもっていたサシリからすれば、こういった住民との関わりは新鮮なのだろう。

 見ればアリエスたちの手当てもそろそろ終わりが見えてきているようで、俺はその光景を一度眺めると次に空を見上げた。

 空は紫と橙色が混ざった様な色をしており、黄昏時というのに相応しい時間になっていた。その空の切れ目からは薄っすらと星が見え始めている。

 夏独特の空気が立ちこめ、周囲からは虫の羽音が聞こえだしている。

 その音に酔いしれ、少しだけ目を閉じる。

 気配探知も切り、耳に聞こえてくる音だけを脳内で反芻させる。それは次第に元の世界の記憶を呼び戻し、アリスと過ごした日々を思い出した。


 思えば俺とアリスは妙な関係だった。

 公園で意図されたように出会ってから、無我夢中で手を差し伸べ一緒に戦った。それは恋愛感情なんて抱く暇もなければ、その日々に安らぎという文字さえ介入できないほど濃密な時間だった。

 

 あいつはどう思っていたんだろうか……。


 俺は今はもう会えない少女に問いかけるように言葉を頭に並べる。

 少なくとも俺は嫌いな奴だとは思っていなかった。天真爛漫で動けばいつも事件を引き起こすトラブルメーカーのような存在だったけれども、アリスとの時間は間違いなく俺の人生の根幹を支えている。

 

 ではアリス自身は?


 その問いに回答が返ってくるわけでもないのに、俺の心の中はその疑問でいっぱいになった。


「………スタ……」


「マス……―」


「マスター!!!」


「おわああ!?」


「何をボーとしているのだ。ほれ、もう完全に終わったみたいだぞ」


 俺はキラの声で現実世界に戻ってくると、目の前に集まっていたパーティーメンバーに一言謝った。


「あ、ああ、悪い。で、もう大丈夫なのか?」


 サシリに向かってそう問いかけてみる。


「ええ………。最後のはさすがに厳しかったけど………。ハクが力を貸してくれたから問題ないわ………」


「そうか。うーん、ならどうするか。とりあえずサシリをカリデラに送り届けて、その後は………」


 するとアリエスが元気な声で俺に言葉を投げてきた。


「はい、はーい!私カリデラ城下町でお買い物したいでーす!!」


「いいですねアリエス!私もそう思っていました!」


 その言葉にエリアが続く。


「いや、ちょっと待て。そろそろ学園王国に向かわないとまずい気がするんだが……」


「でもそれはハク君が勉強しないといけないからでしょ?それならカリデラでも出来る出来る!」


 ルルンがさらに追い討ちをかけてくる。

 まあ確かにそうなんですけど………。そんな簡単に出来るものなのか?

 仮にも倍率最強の学園だぜ?


「それは私が教えてやるから心配するな。精霊の女王が直々に教授してやる」


 うわ、なにそれもの凄く怖いんだけど!?


「あ、サシリさんも私たちと一緒に行動だからね!」


「「え?」は?」


 俺とサシリの呆けた声が同時に木霊した。

 いやいやいやいや、さすがにサシリはきついだろ。これでもカリデラの君主だぞ?おいそれと俺たちみたいな平民と関わっていい存在じゃないはずだ。


「いや、アリエス、それはさすがに……」


「いい考えね!どうせなら完全な女子会ってことにしましょう!」


 シラが完全に乗り気になっている。

 あ、あの、少しは俺の話を聞いてくれても………。


「買い物、楽しみ………」


 ああ、もう!

 最後の砦だったシルまで折れちゃったよ!


「だってサシリさんは今までずっとおのお城に篭ってたんでしょ?だったらいい機会だから、私たちと一緒に行こうよ!」


 アリエスはそう言うとサシリに手を差し出す。


「い、いいの……?私はハクを傷つけたし、危険な力も持ってるし………」


「うーん、力でいったらハクにぃが一番危険だからね。全然大丈夫!」


 うわ、なにそれ。地味に傷つくんですけど………。

 するとサシリは目を大きく見開くと、顔を少しだけ赤くしながらアリエスの手をとった。





「そ、それじゃあ………。よ、よろしく………?」


「うん!よろしく!」


 その瞬間、サシリの心に一つの光が差し、大きな氷を溶かし始めた。

 黄昏の残り日は優しくサシリを照らしていたのだった。


次回からは比較的穏やかな話が続きます!

ですがこの第四章の終盤に繋がる一つの過程ですので暖かく見守っていただければ幸いです!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

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