第百十八話 吸血鬼の姉弟
今回はようやくあの二人の関係性を描けました!
では第百十八話です!
ここにきてシュエースト村の受付嬢の言っていた噂が事実となろうとしていた。
血神祖とはそもそも吸血鬼の始祖と同化した最強の吸血鬼だ。それはまだ吸血鬼が噛み付いた相手を吸血鬼に変えることができた時代の存在を取り込んでいるため、現代では唯一その力を継承し扱うことが出来るらしい。また同時に元のサシリという吸血鬼も破格中の破格の力を持っており、血晶病だろうが吸血鬼になった元人族だろうがお構いなしに治すことが可能なようだ。
「つまりあなた達はサシリ様の協力を仰ぐことさえ出来れば目的が達成されるはずよ。ただまあそれが簡単なら苦労はしないんだけどね」
冒険者ギルドの受付のお姉さんが俺たちに向かってそう呟く。
「それはどういうことですか?」
シラが若干喰い気味で質問を返す。シラからしてみればなんとしても治癒の方法を確立させたいのだろう。それは俺たちとて同じだが、それでもシラの真剣度は俺たちの数倍は越えていた。
「考えてもみなさい?このカリデラの頂点に君臨するお方が、そう簡単に話を聞いてくださると思う?王国で言い換えれば国王そのものなのよ?私たちのような平民が会えるような存在じゃないわ」
まあ普通はそうだな。
今まではなにかと問題が起きて貴族やら国王やらと話をする機会があったが、通常はいくらSSSランク冒険者といっても取り合ってくれるものではない。
やはりそれだけ頂点に立つものは尊いということだ。
だが俺のパーティーの連中はとんでもない思考を思い描いていた。
「それは我が王国の力でなんとか……」
「妾が脅してやろうか?」
「魔術の準備は万端だよハクにぃ!」
「力技ですハク様!」
「野蛮な発想はやめぃ!!!」
俺は口々にえげつないことを言い出す仲間たちを一喝すると、その流れに乗ってなかったシルとルルンに声をかける。
「だが、このままでは行き詰るな。シル、ルルン。なにかいいアイディアはないか?」
「うーん、これといってなにかあるわけじゃないかな………。なにせ相手が相手だからね。厳しい状況だよー」
「………正直いって私も姉さんたちと同じ考えにしか思い浮かびません。通常の手段では面会することも出来ないのであれば、強行手段も考えなければ前に進みませんし………」
むー、なかなか難しいな。
確かにキラたちが言うように力でねじ伏せるというのもありだが、それをやってしまうと間違いなく俺たちのイメージは地に落ちる。それだけでシュエーストを救えるのだったらそれでいいのだが、それは最終手段だ。
他の作戦を取れるのならそちらのほうがいいに決まっている。
「凄い物騒なことを呟いているけど、サシリ様に楯突くのは止めておいたほうがいいわ。そんなことしたら命が何個あっても足りないもの」
受付の姉さんが半ば苦笑しながら口をあけた。
「なに?」
キラが思いっきり不機嫌そうな顔で問いかける。
まあキラからすれば自分より強い存在など認めるほうが難しいのだろう。なにせ精霊の長なのだから、仕方ないといえば仕方ない。
「強いって次元にいないのよ、あのお方は。以前ここを立ち寄ったSSSランク冒険者、たしか序列は五位だったかしら?その人がサシリ様に無謀にも勝負を挑んだのだけれど、結果は瞬殺。相手にもならなかったわ。あなた達が弱いとは思わないけれど、それでもサシリ様に武力行使は止めておいたほうが無難よ」
おい、序列五位!
もっと慎重に動けよ!いきなり血神祖に挑むとかどういう神経してるんだ!?
……………。
あ、そういえば、イロアが他のSSSランクは変人だらけとか言っていたっけ。
なるほど………。少しだけ納得できた気がする。
するとなにやらアリエスたちから小さな声がぼそぼそと聞こえてきた。
『ハクにぃを普通の冒険者と一緒にしてもねえ……』
『そうね………』
『うん………』
『ハク様はどこを取っても規格外ですからね……』
『アスターに勝てる奴など絶対にいないからな……』
『なんか私、血神祖が哀れに感じてきちゃったよー』
そ、そんな過大評価されても困るんですけど……。
まあ、仲間に信頼されているというのは悪くはないので黙っておくが、これはさらにプレッシャーが掛かってしまう。
「まあこれからのことは俺たちで考えます。貴重な情報ありがとうございました」
俺はその吸血鬼のお姉さんに頭を下げると、座っていた椅子から立ち上がった。
「いいのよ。私が早とちりしてあなた達の話を聞かなかったのが悪いんだから。それにギルドの職員としては冒険者の助けになるのが仕事だから、当然よ」
俺たちはそのままもう一度頭を下げるとそのギルドから立ち去ろうとした。
正直言ってもうここにいたところで収穫はないだろう。
時間もないので依頼も受ける気はない。
というわけでこの場から足を洗おうとしていたのだが。
「あーーーーーーーー!!!!!お、お前はあのときの!!!」
俺たちの後ろからとてつもなく大きな声が投げつけられる。
その声の大きさに少々驚きながらも、なんなんだ?と思いながら俺たちは振り返る。
そこにはいつぞかの樹界で魔物を洗脳していた一人の吸血鬼が立っていたのだった。
その吸血鬼は俺たちを見つけるなり、ドカドカとギルドの床を踏みつけながら近づいてきた。
「なんだよ!ここに来てるなら声をかけてくれてもいいだろうに、それとも俺のこと忘れちまったか?」
そう声をかけてくる馴れ馴れしい男に俺は嫌悪の目線を送りながら口を開いた。
「あの、どちら様ですか?」
「本当に忘れてる!?俺だよ、俺!サスタ=マギナだよ!!ほら樹界で会ったろ!」
「あーはいはい。あのディスカノトスを洗脳しようとして失敗し、自分の実力も大して示せなかった雑魚吸血鬼さんね」
「酷い!!!事実だけど酷いぞ、それは!!」
もはや偽りようのない真実をさらっと告げた俺はそのままため息をついた。
そういえばこいつも吸血鬼だったんだな。忘れていた………。
だって登場回数殆どないんだぜ?覚えてるほうが難しいよ………。
「あ!」
すると俺の後ろにいたエリア
が突然なにかを思い出したかのように声をあげた。
「どうした、エリア?」
「思い出しました!マギナという家名は間違いなくこのカリデラを治める血神祖のものです!殆ど聞いたことがないので私も忘れていました!」
は?
と、ということは目の前にいるこいつは………。
「その通りだ!俺の姉ちゃんはここカリデラの長、血神祖サシリ=マギナだぜ!まあおっかなくて殆ど近づかないけどな………」
「「「「「「なにーーーーーー!?」」」」」」
ここにきてまさかの新事実だ………。
まさかあの洗脳失敗野郎が、最強と名高い血神祖の弟だったとは。
だ、だがこれはチャンスかもしれない。
血神祖の肉親、それも弟と知り合いだったというのはかなりのアドバンテージだ。これは利用できるかもしれない!
俺はその腹黒い発想を頭の中に瞬時に浮かべると、話の話題を切り替えた。
「で、お前はなんでこんなところにいるんだよ?」
「それは完全にこっちの台詞だけどな。まあ俺は一応冒険者だからな。依頼の確認に来たんだよ」
「プッ。冒険者なのに魔物を洗脳しようとして暴走させるとか………クスクス」
キラがその発現を聞いて口を押さえながら笑いをこらえている。
「ほ、本当だよね……クスクス。もうなんていうか面白すぎて……クスクス」
アリエスも腹を押さえながら笑っている。
まあ確かに、人々の助けをしている冒険者があろうことか魔物をテイムしようとして失敗し、暴走させて新たな被害を出しかけたなんて、もはや笑い話でしかないだろう。
「そこ!笑うな!俺だって必死だったんだ!だけど一応あの後ランクは上がったんだぜ!ほら、見事にAランクだ!」
と言いながら自慢げに冒険者カードを見せてきた。
そこには確かに大きな文字でAランクと描かれている。
とおいうわけで、嫌がらせのつもりはないのだが俺も自分の冒険者カードを見せることにした。
「ほらよ」
「ん?なんだお前も冒険者だったのか。えーと、なになに………?………ま、まじかよ!?お、お前SSSランク冒険者だったのか!?どうりでディスカノトスを倒せるはずだ……」
まああれは正確に言うと倒してはないけどな。
俺は心の中で一人、そう呟くと自分の冒険者カードをしまった。
「ちなみに、アリエスはAランク。ルルンはSSランクだ。だからAランクの冒険者カードを見せ付けられても特段驚かないぞ?」
「ぐがー!!またしてもお前たちに格好悪いところを見せてしまった!マギナの家系としてあるまじき行為!くそ、見てろよ!俺だっていつか絶対にSSSランクになってやるからな!!!」
「はいはい」
俺はそのサスタに左手をヒラヒラとなびかせながら適当に相槌を打っておいた。どうやらまたしてもアリエスたちはそのサスタを見て笑っているようだ。
「で、お前たちはなんでこんなところにいるんだよ?ちょっと前までエルヴィニアに向かってたんだろ?」
「ああ。もちろんエルヴィニアには行ったし目的も達成した。だが、その後少し問題が起きたんだよ」
「ん?なんだそれ?」
サスタと言っていることがわからない、というような仕草をしながら俺に問い返した。
俺はシラに目線を合わせ、話しても問題ないか確かめると、大きく頷き返してきたので、シュエースト村でのことを話すことにした。
俺たちは先程立ち上がったはずのテーブルにもう一度腰を下ろし話し出したのだった。
「というわけなんだ」
俺が話し終えるとサスタは真剣そうな表情でその話を聞き考えていた。
「なるほどな。そうなった以上、血晶を集めるより姉ちゃんに頼んだほうが早いな」
「そこでなんだが、できれば弟であるお前にそれを頼んでほしいんだが……」
ここからが俺たちの要求だ。正直言ってここで断られればこれ以上のカードを俺たちは用意することは出来ないだろう。
「うーん。樹界での借りもあるしそうしたのはやまやまなんだが、多分姉ちゃんはそういうのは聞かないと思うぜ?」
「ど、どうしてですか!?」
シラが身を乗り出しながらそう問いかける。
「というのも、姉ちゃんはどこまで行っても吸血鬼のことを大切にしているんだ。だから一人とはいえ同胞が死んでしまった以上、その原因であった人族には手を貸さないと思うぜ」
「で、でもそれは村の人達が悪いんじゃないよ!」
アリエスも必死に声をあげながら声をあげる。
「それはそうだ。だから一応言ってはみるが、ダメで元々ってくらいで考えておいてくれ」
まあそれだけでも十分な価値はある。
なにも得ることが出来ないよりは遥かにましだろう。
「それじゃあ、俺たちがその血神祖に会うことは出来な………」
俺がサスタにそう声をかけようとした瞬間、アリエスの頭の上に乗っていたクビロと俺の中にいるリアが同時に声をあげた。
『主!何か来るのじゃ!』
『相当大きな気配じゃ。気をつけるのじゃ主様!』
その声が轟いた瞬間、ギルド内に風が吹き荒れた。
その場に現れたのは赤く長い髪をなびかせキラに負けず劣らずの神格を滲ませた一人の少女で、腰には血が染み込んだような長剣をさしている。
少女は真っ直ぐ俺たちのほうに歩いてくると、俺の前で立ち止まりこう告げた。
「悪いけど………、少しだけ手を貸してくれる………?」
この瞬間が、俺たちパーティーと血神祖サシリ=マギナの初めての出会いになったのだった。
次回から久しぶりの大きな戦闘パートに突入します!
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