第百六話 これから
今回はハクたちの今後に関わるお話です!
では第百六話です!
「本当に申し訳ございませんでした!!!」
重い足を持ち上げなんとかパーティーメンバーとの関係を再確認した俺の前には金の鎧を着たイロアをはじめとする黄金の閃光のメンバーが揃いも揃って綺麗な土下座を作っていた。
「あ、いや、それは、俺もやりすぎたし………。お相子ってことで………」
俺は自分の行いをもう一度頭に思い浮かべ、声を小さくしながらそう答える。
というか今回の件はどちらかといえばこちらが悪いのだ。
確かに帝国軍と間違ってアリエスとエリアを傷つけたのはそう簡単に許せることではない。しかしそれにしても俺は自分の意志ではないとはいえ、たくさんの人に剣を向けた。キラがその後治癒してくれたおかげで死人は出なかったものの、話し合いの余地があったはずなのだ。
だが、イロアはそんな俺の言葉を遮るように顔をあげ呟く。
「それでも我々は本当に無関係だった君たちに剣を上げたのだ。ましてや君たちはすでに帝国軍を倒してくれていたというのに。これは我々パーティーにおける最大の失敗だろう」
イロアは真剣な表情を俺に向けながら、また頭を下げた。
「だがら、ここは我々のけじめとして謝らせてくれ。すまなかった」
…………。こ、こう言われては、こちらもそれを受け取らざるを得ないじゃないか……。
こちらも謝らなければいけないのに、なんだか先を越された気分だ。
すると俺の隣に立っていたキラが耳元に近づいてささやく。
「ここは認めておけ、マスター。時に引かなければ物事は進まんぞ?」
ぐっ………。キラまでそう言うか。
うーん、ならば仕方がない、こちらも何もしないというわけにはいかないしな。この方法でいこう。
「わかりました。その言葉は受け取ります。ですがこちらにも非はありますから、もし困ったことがあったら一度だけその相談に乗ります。これでどうですか?」
その言葉を聞いたイロアはそのまま顔を上げると目を丸くして、口を開く。
「な、なんというか、本当に三日前とは別人だな。………よし、ならばそれでいこう。今回の件は我々が悪かったということで、その代わり君たちは今後一度だけ我々の頼みを聞くということでいいか?」
「はい。問題ありません」
俺はそう力強くうなずくと、イロアに手を差し伸べて立たせる。
「では、改めて自己紹介といこう。私の名前はイロア=ハーイル。このパーティーのリーダーでありSSSランク冒険者だ。よろしく」
ま、まじかよ!?
ここでSSSランク冒険者が出てくるのか………。もしかして俺、本当に大変なことをしちゃったんじゃないか?
「えーと、ハク=リアスリオンです。一応SSSランク冒険者です……」
「ああ、話は聞いている。まさか君が朱の神だったとはね。正直意外だったよ」
「そ、それはどうも……」
俺はイロアの手をそのまま挨拶と同時に握っていたのだが、さすがにこのままだとまずいと思い、できるだけ優しくその手を離した。
実はそのイロアの手が冒険者とは思えないほど柔らかかったのは、口が裂けても言えない。
「それにしても、君がラオの認めた第三位か。実際のところSSSランク冒険者は言ってしまうと変人が多いから少しだけ心配していたのだが、それは杞憂だったな。私の目から見ても君は常識者らしい」
「い、いえ、そんなことは………」
自分でもコントロール出来ない人格を有している時点で常識者かはかなり微妙だろうな、と思いつつも一応謙遜しておく。
「それと、三日前見たときは黒髪だったような気がするのだが、染めたのか?」
「え?」
俺はそう言われて自分の髪を確認するとその色はリアの髪の毛と同じ金色になっていた。
奴が体を乗っ取っているときは、なぜかリアの能力が使えないらしく、三日前のあのときは神妃化は自動的に解かれていたようで黒髪になっていた。
対して今は事象の生成を使用したせいで神妃化を解除していなかったのだ。
「ああ、これはまあ能力のようなものです。ほら、解除すれば戻りますので……」
俺はそう言うと神妃化を解除し、元の黒髪に戻った。
「フッ、君は本当に不思議な奴だな。まあそうでもなければSSSランク冒険者になどなってはいないか」
すると俺の腰にピッタリとくっ付いていたアリエスが俺の服をぐいぐいと引っ張って話しかけてきた。
「ねえ、ハクにぃ。里の修復はハクにぃがやったの?」
「ん?ああ、そうだけど、どうかしたか?」
その答えはアリエスではなくシラが答える。
「どうかしたか?ではありませんよ。普通破壊されたものがいきなり元の姿に戻ってしまうなど、不思議に思わないはずがないじゃないですか。そしてそれを簡単にできる人間はハク様くらいし、私たちは思いつかないのですよ」
あー、まあ確かにそうかもしれない。
どれだけこの世界に不可思議な力が蔓延していようと、さすがに粉々に破壊されたものは簡単には修復できない。
しかし俺はそれをたやすく直してしまったのだ。
それは驚くのも無理はないかもしれない。
「そういえば、帝国のやつらはどうなったんだ?」
俺が記憶している限りでは、奴らは全員見事に気絶していたはずだ。あの力だけの勇者たちもそのはずである。
俺のその言葉にイロアは眉間にしわを寄せながら、表情を険しいものに変えた。
「奴らは、後からやってきた帝国のものに全て連れていかれたようなのだ。我々は動けなかったし、そもそもその動きすら捉えられなかった」
続けてシルも口をはさむ。
「私たちのところでもあの勇者たちは気が付いたらいなくなっていました………。できるだけ気配は見逃さないようにしていたのですが、エルフの方々の面倒を見ているうちに消えていました………」
うーん、正直言って今回の目的や帝国内部の動きなどを聞き出したかったのだが、いないのなら仕方がない。聞こうにも聞けないのだからあきらめるしかないのだ。
「そうか、まあまたいずれ出会ったときに色々聞き出せばいいか」
「一応我々はまた帝国の動きを観察するつもりだ。奴らは本当に無関係な人間も容赦なく戦場に引き釣り出す。それは断じて許されないことだからな。我々はそれを根絶できるように取り組んでいく予定だ」
「やりすぎるなよ?」
俺はイロアに笑いながら注意を呼び掛ける。
「無論だ。もう二度と今回のような過ちは犯さない」
その言葉に俺は軽く頷くともう一度神妃化を実行し、いまだに本調子ではないエルフたちに事象の生成を使用しその見えないダメージを一瞬で回復させる。
「さすがはマスターだな。こうも簡単に治されてしまうと妾たちのここ数日の努力が水の泡になってしまいそうだ」
「まったくだよ!ハクにぃさえいればこんなに早く回復でできたのに、なんだか馬鹿らしくなってきちゃった」
俺はそう不貞腐れる二人の頭を同時になでながら、優しく声をかけた。
「そう言うなよ。アリエスたちが頑張ってくれたおかげでエルフたちは助かったんだ。それは俺じゃ出来なかったことだ。自身を持っていいぞ」
すると二人はなにやら嬉しそうにほほを赤らめながら俯いた。
「あー!!!二人ともずるいですよ!ハク様!このエリアも頑張りました!ですので私も撫でてください!」
「で、できれば私も……」
「お願いします……」
エリアとシラとシルが口をそろえて俺に言い寄ってくる。
普通なら適当にあしらうのだが、今回はみんな本当に頑張ってくれた。それを俺が撫でるだけで喜んでくれるのならいくらでもやろう。
俺はそう思うと、三人を近くに寄せ順番にその綺麗な髪を撫でていった。
「ふむ、なかなかいい光景だな」
「そうですな」
「あのようなパーティーは最近なかなか見られませんしね」
俺たちの姿を見ていたイロア達、黄金の閃光は口々に感嘆の声を漏らし柔和な目でそれを眺めていた。
それは少しだけ恥ずかしかったが、悪い気はしなかった。
「それで、ハルカとルルンはどうした?」
俺はその場にいない知人の名前を出して、その存在の居場所を尋ねた。
「ああ、彼女らはすでに屋敷に戻っているはずだ。どうやら君と入れ違いになったらしい」
イロアが腕を組みながらそう答えた。
入れ違いか、ならば早めに向かったほうがいいかもしれないな。
「よし。だったら俺たちも一旦屋敷に戻ろう。そこでこれからのことも考えないといけないからな」
「ならば、そこに我々も同行してもいいがろうか?もちろん全員ではなく私と、副リーダーだけだが」
イロアはそう言うと隣に立っていた大柄の男を指さして俺に聞いてきた。
「ええ、かまいませんよ。どうせなら、SSSランク冒険者の話も聞きたいですしね。なにせ俺はまだルーキーですから」
「私よりも強い男がルーキーと語るか。まあ、いい。私も個人的に君には興味がある。では行こうか」
イロアはその他の仲間をエルヴィニアの警戒に当たらせると、そのまま俺たちを促しながらハルカの屋敷に足を向けた。
「ほら、俺たちも行くぞ?」
俺はいまだに俺の体にくっ付いている五人に声をかけた。
「「「「「うん!」はい!」はい……!」了解です!」ああ」
すると五人は元気のいい声で返事をし、俺たちはにこやかに屋敷へと向かうのだった。
俺たちはハルカの屋敷につくと、門を潜り応接間に足を向けた。そこには先程までは誰一人としていなかった屋敷の中にもすでに大勢のメイドと執事が待ち構えていた。
「お待ちしておりました、皆様」
執事らしい男性が俺たちの姿を確認すると、すぐさま腰を折り俺たちを出迎えた。そのままその執事に連れられるかのように部屋に通されたのだった。
そこにはすでにルルンとハルカが椅子に座っており、お茶を飲んでいた。
「よう、二人とも」
俺は部屋に入るなり、軽めの挨拶を二人に向けた。
すると二人は俺の姿を見るなり、両目に大きな涙を浮かべ俺のもとに駆け寄ってきた。
「ハク君――――!!!助けてくれてありがとうーーーーー!!!」
「ハクさん―――――!!!助けていただいてありがとうございますーーーーー!!!」
「おわああ!?」
俺はとびかかってきた二人をなんとか受け止めると、そのまま二人の頭を撫でて、なんとか二人を落ち着かせる。
その様子を見ていたアリエスたちはなにやらメラメラと熱い気配を出していたような気がするが、今は気にしていられなかった。
たっぷり十分ほどその二人をなだめると、ようやく俺たちパーティーとイロア達は椅子に腰を下ろし、話を始めた。
「で、一応今までの出来事を整理したいのだがいいか?」
俺がそう切り出すと、目元がまだ赤くはれているハルカが口を開いた。
「その前にもう一度お礼を言わせてください。ハクさん、このエルヴィニアを救っていただいてありがとうございます。イロア様方もわざわざ遠方から駆けつけてくださり感謝しています」
「いや、我々はここに来ただけでなにもできなかった。礼を言われるようなことはしていない」
「それでも気持ちだけ受け取ってください。私たちエルフ全ての気持ちですので」
そのハルカの言葉にイロアはまだ納得がいっていないようだったが、それでもしぶしぶ頷くと差し出されたお茶に手を付けた。
「それでこれからのことだよね?」
ハルカの隣にいたルルンが俺たち全員に問いかけるように言葉を発した。
「ああ。とりあえずこのエルヴィニアはまた帝国軍が攻め込んできてもいいように警備のレベルを上げたほうがいいだろうな」
「そうだな。我々も警戒はしておくが、それでも今回のような事態が起こりうる可能性もある。それに帝国の勇者とやらはかなりの手練れなのだろう?であればそれなりの、注意をしておくことは必要なはずだ」
今回は俺たちというかなりのイレギュラーな存在が集まっていたため撃退できたが、そうでなければ勇者たちは十分脅威となる力を持っていた。
それを踏まえてもより、強固な警備を敷くことは必須だろう。
「それは私たちの方で何とかしてみます。最悪王国に協力の申請も出すことも考えていますので」
「いいのか?ここはあくまでも秘境なんだろう?そんな簡単に人を招き入れて大丈夫なのか?」
「元々樹界を越えてきた方々は拒まず、という姿勢でしたから、いまさらなんですよ。ですから心配いりません」
まあ確かにこのエルヴィニアは秘境でありながら、かなり開放的であった。というより樹界という存在がここエルヴィニアを秘境たらしめていた、という感じなのだろう。
「で、ハク君たちはこれからどうするの?」
ルルンがなぜか興味津々、といった表情で俺に問いかけてきた。
「うん?ああ、俺たちはとりあえず次のダンジョンがある学園王国に向かう予定だ。そこに第四ダンジョンがあるらしいからな」
すると、ルルンがグイッと俺の目の前に顔を寄せてきて、その端整な顔についている艶やかな唇を動かした。
「その旅、私もついて行っていいかな?」
「「「「「「「「「は?」」」」」」」」」
その場にいた全員はルルンの言葉に凍り付き、口を開けるのだった。
次回はこの今回の話の続きになります!
またこの第三章は残り二話ほどで完結する予定です!
誤字、脱字がありましたらお教えください!




